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幽明の織 作者:時嵩いちか
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4-12. ブーツ

 おい、お前睦月か。今、どこにいるんだ。返信してくれ。頼む。

 ――恭介からのメールは、それだけだった。オレが子猫を迎えにいったときの、あのメールに返事をしている。

「……返信……しろって言われてもなぁ……」

 なんて罪悪感の残るメールなんだ。恭介。

「オレ、死んでるし……」

 死んだ人間からメールが返ってきたら、そんなんもうホラーだろ。

 ――でも……いいのかな。ホラーでも。
 一瞬、そんな考えが頭をよぎった。

 言ってみようかな。恭介に。信じてもらえなくても、別に問題はないよな。
 でも、死んだ友達のことで訳の分からんこと言われたら、不快だよなぁ。最悪殴られそうだわ。

 それでも――叶うなら、また話したい。昔みたいに。

 恭介は、それくらい得がたい友人だったんだよ。

 それに……最後の『頼む』が気になった。何かあったのだろうか? オレが死ぬ前に、何かが。オレはすっかり黒くなった紅茶を一気に飲み干すと、恭介に返信をすべくパソコンに向かった。


 メールのタイトルは、『恭介へ/睦月』。

 本文は、『ごめんな。なんかオレ、死んじゃってるだろ。迷惑かけてないか? それでな、オレ生まれ変わったんだわ。もし信じてくれるなら、会いたいんだけど。川間の駅前で待ち合わせでどうだ? 嫌だったら返事もしないでいいし、来なくてもいい。睦月』と打ち込んだ。

 そうして、しばらくすると、返信が返ってきた。

 早いな。いつもルーズなのに。

 流石にメールを開くときに緊張したが、件名を見て微妙な気持ちになった。
 件名は『わかった』だった。

 本文は、『川間の駅前だな。分かったよ。じゃあ、今から二時間後の十六時に待ってる』だけだった。

 ――うえぇ、なんだこれ。怖ぇ。

 あっさりしすぎて逆に怖ぇ。なんだこの温度。超クール。
 いや、そんな奴だって知ってたけどさ。 

 でも――いや、まぁこんなモンか。そーだよな、死んだ奴からメール来たら、先ず誰かがイタズラしてるって思うわな。この文章から感じる冷静さは、そんな風に思ってる恭介の警戒心が滲み出てるんだろう。

 大体コイツ、いつものメールは『了解』とか『無理』とか二文字が通常だったしな。
 いかんな、オレはまだ情緒不安定なんだろうか。恭介の気持ちだって、考えればすぐに分かるだろう。

 オレは『十六時だな。わかった/睦月』とだけメールした。そうすると、『了解』と返ってきた。

 どんな会話でも、最後は絶対『了解』なんだよなコイツ。やり取り終了のお知らせみたいなものだった。

 なんだか懐かしく感じる。つい昨日までオレは睦月だったのに、おかしなもんだよ。
 今から二時間後、か。川間駅まで一時間くらいだから、一時間したら出発しよう。
 川間駅というのは、オレのアパートがあった七光台のとなりの駅で、恭介のアパートの最寄り駅だ。よくそこで待ち合わせをしていた。

 そうだ、それまでにスニーカーでも探しておくか。もうあんな(かかと)とんがりブーツなんて()きたくねぇよ。痛ぇんだよ、アレ。女はあんなもん履いて良く平気だな。

『慣れちゃえば痛くないんですよ~』

 急にツバメの声がして驚いたが、どうもそれだけ言いたかったらしい。その後は静かだった。なんなんだよ、あいつ。どうも女の気持ちを代弁してくれているようだ。

 オレは踵のとんがったブーツを見て思う。

 ――慣れるまで履けそうにねぇや。
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