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幽明の織 作者:時嵩いちか
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4-11. ケーキと紅茶

 モンブランとショートケーキとフルーツタルト、そしてチーズケーキ。
 見目も鮮やかで、まぁ美味しそうである。

『美味しそうですね~』

 ツバメの能天気な声が腹立たしい。

 オレは元々、甘いものが嫌いではない。どちらかというと好きな方だ。
 それでも四つは多いと思う。だからって捨てられないし、あげる人もいない。

 そういや今日って十二月の二十五日だったっけ。クリスマスの約束だったのかな。
 自分だけでなく、妹にまで最悪クリスマス状態にさせてしまって申し訳ない。

随分(ずいぶん)いきなり言っちゃいましたねぇ、妹さんなのに』

「……妹だからだよ」

 オレはフォークを探しながら答えた。

 薄っぺらい友人関係だったら、その場で(しの)いでぼんやり切っていけばいい。学生時代の友人なんて、(ほとん)どがそんなもんだ。

 でも、妹はそうは行かないだろう。見た感じ、仲も良さそうだったし。疎遠(そえん)な姉妹だったら良かったんだけれども。

『うふふ』
 ツバメが笑っている。気味が悪い。

『なんですか気味が悪いって。ひどいなぁ』

「いやフツー気持ち悪いよ、一人でうふふとか笑ってたら」

『もう、せっかく褒めてあげようと思ったのに。いいです。ケーキ四個食べて太っちゃってくださーい』

「おい! お前のほうがよっぽどヒドイだろ!」

 さっきまで『ダイエットがんばってくださいね~』とか言ってたのは何処のどいつだ。
 それきりツバメの声がしなくなったので、オレは舌打ちした。そうして一人でモンブランをつつき始めた。

 モンブランを平らげたあと、ショートケーキにも手を出した。太りそうだな。普通に。
 喉が渇いたので、やかんに火をかける。しばらく手持ち無沙汰になった。

「今日はこの後どーしよっかな……」

 やるべきことはたくさんあった。妹のことは気がかりだが、オレの方から伝えたいことは言ったので、後は相手の出方を待つことにした。

 気になるのは生活のほうだ。貯金とか、バイトしてるのか、専門学校はいつ卒業なのか、とか。そういうのはツバメに聞けば分かるんだろうか。

『貯金は二十万円、バイトはしていません。専門学校は今年卒業ですよ~』

「おうっ……あ、ありがとう」

 いえいえ~、とか軽やかな声を残して、また何も聞こえなくなった。どうもオレの意識がツバメに向かうと、こうやって答えてくれるようだ。

「二十万円あるのか。それだったらしばらくは困らないけど、親の世話になりたくないんだよなぁ」

 できれば専門学校を卒業したら、すぐに自立したい。バイトをしていないのなら、親の仕送りで生活しているクチだろう。
 今年卒業ということは、あと三ヶ月もない。このままこのアパートに住めば敷金や礼金などは問題ないが、ちょっと家賃が高そうだよなぁ、ここ。駅の近くだし。

「どーしよっかなぁ……」

 やっとやかんがシュンシュン言い出したので、オレはなにか飲むことにした。 

「そうだ。オレの貯金……」

 台所にティーパックがあったので、それを入れながら気が付いた。
 自分の貯金を久々留の口座に振り込もうかと思ったが、怪しすぎるので諦めた。なんか事件性が生じてしまう。

 そういえば、自分のアカウントは、このノートパソコンでもログインできるんだよな。

 ふと思い立ち、ヤッホーイのフリーメールにログインしてみた。
 ヤッホーイオークションで買い物もしていたので、使い慣れていたからだ。

「――あ」

 ドキッとした。恭介からメールが来ていたのだ。

 件名は、『どこにいるんだ』だった。

 額にじんわりと汗をかいた。なんかこの身体になってから汗をかきやすい。
 手元のコップが、ティーパックつけ込み過ぎて色が黒っぽくなってる。黒ウーロン茶みたいになってる。紅茶なのに。

 一瞬、見ないという選択肢も考えたが――それは出来なかった。
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