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幽明の織 作者:時嵩いちか
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4-9. 妹

『またコンビニですかぁ?』

 ツバメの声が耳元でする。
 しょーがねぇだろ、こんなもんだよ。一人暮らしなんて。

 貝殻のカフスからする声は、オレにしか聞こえないらしい。だから他人がいるときは、聞こえていないフリをしていた――が。

『一人暮らしって言ってもねぇ』

 時折こうやって返事が返ってくる。どうも、心の声というか、ツバメに話しかけた思念は聞こえているようだ。魂? が会話しているのかもしれない。良く分かんねぇけど。

 オレは近所のコンビニで、筋子のおにぎりと缶コーヒーを買った。


『足りるんですか、それ?』
 全然足りねぇよ。でも、一応ダイエットとか意識してるんだよ、オレは。

『それ一番ダメなパターンですよ久々留さん』
「なんでだよ」

 部屋に戻ってきたのて、オレはツバメに肉声で応えた。こちらのほうが話しやすい。
 心の声って、どこまで聞こえてるのか確認できないから、返事がないと不安になってしまう。

『ダイエットとか、その辺も勉強すると良いですよ。がんばってくださいね、久々留さん。アンコついてるけど、ダイエットすれば多少は効くはずですから』

「お、おう」

 久々留と呼ばれることにも慣れないといけないんだなぁ。

 オレはコーヒーを飲みながら、ノートパソコンを起動した。ちょっと調べてみよう。
「け が れ……と」

 ダイエットを調べようと思ったのだが、『アンコついてるけど多少効く』のくだりが気になった。先にアンコ取った方が良くね? 多少効いたところで、効率悪くね?

 穢れと打ち込むと、検索候補が数件出てきた。

「……汚 嫁……?」

 え? なに? 何で『穢れ』って調べて『汚れた嫁』って出てくるんだよ。怖ぇよ。

 ぬるくなったコーヒーが苦く感じる。ブラックだから尚更だ、こんなんだったらカフェオレにしとけば良かった。

 もう一個の検索候補は『肉 汚』だった。

 オレはノートパソコンを閉じた。

 何かもういいや忙しいし。後にしよう。それより先に、久々留として生きる為にやらないといけない事があるんだ。

 ――人間関係の整理。

 とりあえず、彼女の友人や知り合い関係とは縁を切ろうと思っていた。どういう付き合いがあったかは知らないが、回りは『久々留』が身体を放棄したことは知らないだろう。
 フツーにしたら意味分かんねぇしな。

 例えば、オレには恭介という友達がいた。もし恭介の中に知らん人間が入って、恭介のフリをしてオレに声をかけてきたら。そして、それに気づけなかったら。

 オレはショックを受ける。それも、相当の。

 それならせめて、別人なんだと知らせて欲しい。それをオレが信じるかどうかは別として。
 それに――友人が身体を放棄したことも知らないのも嫌だった。誰もがそんな気心の知れた関係じゃない、ということは分かっている。久々留には、身体に留まりたいと思える相手――頼れる相手がいなかったのだろう。

 だから、それとなくやんわりと人間関係を整理しようと思った。できれば新しい人間関係を築き上げたい。それか――。

 ピピピピッ♪
「わっ」

 突然の電子音に驚いた。はじめて久々留のスマホから、通知音らしき音を聞いた。

「やっべ、スマホ良く分かんねーよ……」

 オレはまだ携帯だったから、困惑する。生活環境整えたら、買い換えたいな。高そうだなこのスマホ。スマホってみんな高そうに見える。

「ライン……だ」

 誰かからメッセージが届いていた。読んでみる。

 ――お姉ちゃん、今からそっち行くね。

 ――今、ケーキ屋さんいるんだけど食べたいケーキとかある?

「おねえ……ちゃん?」

 オレが呆然としていると、耳元で声がした。

『久々留さんの妹さんですね~。名前は白瀬知早矢(ちはや)さん。久々留さんより四つ下で、中学校三年生です』

「い、いもうと?」

 妹なんていたのかよ! しかも今からこっち来るって――うぇ、どうしよう。来んなとも言えないし、なんかこのスマホの使い方が分からないから返信が出来ない。こんなんだったら先にスマホチェックしときゃ良かった。スマホ見るのに遠慮してる場合じゃなかった。

 オレが焦っていると、玄関のチャイムの音がした。もう来たのかよ! ケーキ屋じゃなかったのか俊敏(しゅんびん)な妹だな! どんなケーキ食いたいか、まだ答えてもねぇのに。

「おねえちゃーん」

 その呼び声が、ますます焦燥感を招いて――オレはスマホを床に落としてしまった。
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