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幽明の織 作者:時嵩いちか
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4-8. プライベート

お読み下さった方々、投票下さった方々に心より感謝申し上げます。
 他人のプライベートなんて見たくない。

 ましてや、スマホや手帳なんて、もっと見たくない。
 何故なら自分が見られたくないから。

『だから、いいんですってば。許可を得てるんですから』

 ツバメがそう言ってくるが、相手が女だから尚更イヤなんだよなぁ。着替える時もためらったよ。実際着替えたらなんてことなかったけど。はじめは、下着が困ったな。洋服箪笥(たんす)あさったら、中から肌着に胸当てみたいなのが付いてる奴が入ってたから、それを着た。

 ツバメに聞いたら『カップ付きインナーって言うんですよ』って教えてくれた。

 そういうのも、「ふーん……」としか思わなかった。感性が女になるとか言ってたけど、もうなってるのかな。なんだかなぁ。やっぱり不気味な感覚だ。
 なんかもう洋服箪笥もファンシーで助けて欲しい。

 子猫の鳴き声で起きてから、オレは身辺整理をすることにした。当面の「子猫保護」は果たしたものの、里親探してじゃあ死にますってわけにも行かない。やっぱり自分で飼いたかった。生活しないといけないし、穢れを払う……アンコを取るっていう使命がある。

 一人がけにしては大きめのソファに座りながら、足元で子猫が食事してるのを眺めて――百円ショップで売っているような、小さな手帳を手に取った。

「とりあえず、十二月の予定だけ見ておくか……」

 あまり気が進まないが――他のページを()けて、十二月のページを探す。小さく可愛らしい字で、予定が書き込まれていた。しっかりしてるなぁ、オレこーゆうの面倒くさくてできねーわ。

「そっか、学生だから冬休みなんだな」

 じゃあ、しばらくは予定ナシか。良かった。これで環境づくりに専念できる。学生っていうのは聞いていたから、今日なんかは学校休んだつもりになってた。

 なんというか、オレはまだちゃんと『久々留』になっていないから、今までの学校での頑張りとかそういうのが気になってしまう。放棄したんだから、どうでもいいのかも知れないけれども。

「放棄、かぁ……」

 そういえば彼女は――『久々留』はどうやって身体を放棄したんだろう。そんなに簡単に、そんなことができるなら。思いつめた人間だったら、みんな手放してしまいそうだ。痛みもなく人生を手放せるというのは、人によっては魅力的な話だろう。

「要するに、自殺だよな。それって大丈夫なのか?」

 そこにいるわけでもないが、部屋の中を見回しながらツバメに話しかける。

『自ら命を絶つのは、罪が深いですからね』
「まあ……やっぱそうだよな」

 なんとも言えない気持ちになる。自ら命を絶つほど辛い思いをしているのに、罪が深くなってしまうことに。でも、良くないことだっていうのも分かる。だから複雑になってしまう。

『裏技を使ったんですよ』
「裏技?」

 そんなもんあるのか。

『前に、ずるっこしたって言いましたよね。そういう技があるんです。よく幽体離脱とか言うじゃないですか。あれを意識的にやって、そのまま天界に行っちゃうんです』

「え……ええ? なんだそりゃ、どういうことだ?」

 とんでもないことを言い出した。

『天界入りして、そのまま地上の肉体を操り人形みたいに』

「いや、怖いよそれ。どういう状態だよ」
『天界入りする条件を出すんですよ。あなたみたいな人に、身体を(ゆず)るっていう――』

「ああ……」

 なるほど、合点がいった。だからすんなりオレはこの身体に入れたのか。

『一応、彼女が拒否したら、あなたはこの身体に入れなかったんですけれどね。やっぱり譲りたくないタイプっているみたいで』

 あっぶねぇ……。そーだったのか。

『あなた、優しかったから。女性の感性にピッタリだったみたいで』
「女々しいって言いたいのか」
()めてるんじゃないですか、被害妄想(ひがいもうそう)ですよぉ』

 言いながら、ツバメはこう続けた。
 その状態の器って、規則正しいんですよ。簡単な動きを設定してるから。

「設定って……」

 いよいよ怖い。

『まぁ幽体離脱ができないとお話にならないし、あなたみたいに功徳を貯めてないと、できない裏技なんですけれど』
「そうなのか……」

 オレはいつ功徳を貯めてたんだろうか。身に覚えがない貯えというのは、良いことなのかもしれないけれど、何だか気味が悪いものなんだな。

 それに、久々留って功徳貯まってたんだな。
 それなのに、穢れがどうのこうのって話になってるのか。それはそれで複雑な話だ。

 ツバメの話を聞きながら、なんだか急に空腹を覚えたので――オレは一旦食事を取ることにした。
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