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幽明の織 作者:時嵩いちか
13/32

4-5. 埼玉から千葉へ

 パソコンの画面で時間を確認すると、十二月二十四日の九時半だった。

 友達のことを思うと胸がチクリと痛んだ。
 一瞬、電話でも手紙でも入れようかと思ったが、電話じゃ声が違うし、手紙じゃ何時になるんだよと思い――とりあえず、電車を調べることにした。

「えっと、越谷……ん? 南越谷……北越谷……」

 なんかいっぱいあんぞ、駅が。最寄り駅どこだよ。

『そのアパートからだと、越谷駅が一番近いですね』
「お、おう。サンキュな」

 いえいえー、と軽い調子の声が聞こえた。ずいぶん詳しいな。
 手元に資料でもあるんだろうか。
 オレは千葉県在住だったから、越谷は名前だけ聞いたことがある。大きなショッピングモールがある所だったよな。

 続いて、電車を調べた。結構乗換(のりか)えがある。
 勝手が分からないので大目に見積もって、下手すると今日は向こうのアパートで泊まりになるかもしれない。
 が、できるだけそれは避けたかった。

 どんな死に方をしたか分からない以上、アパートに急に家宅捜査が入る可能性がある。そこに他人が、しかも一人で泊まっていたら。何だか事件性を感じられそうだ。

「っと、時間もったいないな……」

 ノートパソコンで自宅の住所を打ち込み、駅までの道を調べる。
 幸い、分かりやすい道だった。歩いて十分程度といったところか。
 路線は、七光台の駅から越谷まで三十分程度。ベッドの脇に、カバンが投げ出されていたので拾って見てみると、財布とスマホ、女の子らしいピンクのポーチが入っていた。財布の中身を確認すると、七千円程入っている。何かあった時のことを考えても、これだけあれば大丈夫だろう。

 ポーチの中には、自宅のであろう鍵も入っていた。

「よし」

 こうなったらさっさと出かけて、子猫だけでも回収しなければ。オレは椅子にかけられたままのコートを羽織って、アパートを出た。



 歩くのが遅ぇ。
 スニーカーを探したのだが見つからず、仕方なく玄関にあったブーツを履いているのだがものすごく歩きにくい。つれぇ。なんで(かかと)とんがってるんだよ。なんかぶっ刺すつもりなのかよ。

 あと、覚悟していたが体が重てぇ。七十キロだっけ。前のオレの身体より十キロ重いだけなのに、すげー重く感じる。米袋一個の重さじゃねぇぞコレ。筋肉が無いからか?

 呼吸が荒くなり、冬の夜空が吐息で白く染まる。

 さっきパソコンやら財布やらをいじっているときに今の自身の指を見たが、なんつーか、太いというより不健康な感じがした。血の流れというか、巡りというか、そういうものが(とどこお)っているような――なにか身体に悪いものが詰まっているような、そんな不安を(あお)る指先。

 暗くて道が分かりにくかったが、幸い越谷駅は明るく、ロータリーの前は車や人で賑わっていた。もたもたしながら電車に乗ったせいで、結構時間が過ぎてしまった。

 ちらほらカップルが見えたが、そういえば今日はクリスマスイブだった。なんかもう最悪だなオレ。フーフーいいながら乗り換えて、ようやくオレのアパートがある七光台まで来た。

「つっれ……」

 不慣れな身体で歩いているせいか、足首がすげぇ痛い。それでも、やっと地元というか、見知った土地に来て安心している自分がいた。こっちに引越(ひっこ)してぇな。

 どうも情緒不安定というか、ずっと落ち着かなくて嫌になる。浮き足立っていて、自分が何処にいるのか分からなくなってくる。ツバメが言ってたのはコレか。

 そんな中、見知った駅のつくりや見慣れたコンビニ、自動販売機にすら郷愁(きょうしゅう)を覚える。今日、何時間か前にも同じ道を通ったはずなのに。自分の身体が自分のものじゃないみたいだ――とか思いながら、本当に、今はまだそうなのだということを知る。

 戻りてぇな――と、強く思った。何で死んじゃったんだろう、オレ。そんな理由も分からないで、どうして此処にいるんだろう。

 そう考えてしまったときに、子猫と――友達の顔を思い出した。

 いかんいかん。不安定すぎる。首をぶんぶん振りながら、足元を見る。

「早く……」

 子猫を迎えに行きたい。それで、そのあとに。
 すぐに越谷のアパートに戻るかどうか、考えながら。急ぎ足で歩いた。
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