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幽明の織 作者:時嵩いちか
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4-2. 子猫

「――はぁ、アパートでこっそりと飼ってたんですか」

「こっそりというか、本当はダメなのを許可してもらってたんだよ。大家さんに」


 猫の話だ。

 オレが死んだってことは、アパートにある家具や荷物なんかは遺族が引き取りに来るんだろう。そしたら、その時に見つけたら。

 あいつら絶対に捨てる。猫、すげー嫌いだもん。
 猫なんかどこでも生きていけるとか言って捨てる。
 まだ子猫なのに。やっと(なつ)いてくれたのに。

「捨てるなんてイヤだ、オレを生き返らせてくれ!駄目なら誰かに憑依(ひょうい)させてくれ!一時的でいいから、里親見つかるまででいいから!」

「それなら大丈夫ですよ~」

 受付嬢はニッコリと笑った。

「あなたなら、すぐに生まれ変われますから」
「生まれ変わる、って――」

 赤子からやり直してる場合じゃねぇから必死に懇願(こんがん)してるんだよ。

「そーゆうことを言ってるんじゃなくて……」

 自分でも情けない声を出していると思う。

「それか、あいつに引き取ってもらいたいけど……あいつのアパートも猫、駄目なんだよなぁ」

 さっきのでいっぺんに思い出したんだが、今日は友達の所に行く予定だったんだ。
 クリスマスに男二人でケーキかよ、とか言って笑ってたのは、つい昨日のことだったか。行けなくなっちまって、悪いことしたな。

「いえいえ、生まれ変わるっていっても赤ちゃんからじゃありません。あなたは、死ぬ前にいっぱい功徳(くどく)を貯めたので、特別に『からっぽの身体』に入る許可が出たんです」


「え……からっぽの……? なに?」


 なんかさらっと怖いこと言ってんぞこの女。

「ただし特例なので、条件は厳しくなっております。どうしますか?」

 事務的なその口調に、逡巡(しゅんじゅん)したが――オレはぐっと拳をにぎりしめて、呟いた。

「――分かった、じゃあそれで、生き返らせてくれ」

「え? どんな条件か聞かなくていいんですか?」

「何でもいいよ、生き返れるなら……アンタもありがとうな。無理な頼み、聞いてくれて」

 オレがそう言うと、受付嬢は微笑んだ。
 人差し指を立て、くるりと一回転させる。


「それじゃ、条件の説明をしますね~」

 オレは固唾(かたず)をのんだ。さすがに、怖くないといえば嘘になった。

「あなたが生まれ変わるのは、体重九十キロになる予定の女性です」

「――……え?」

 きゅう……じゅっ……キロ?

「しかも、『不健康』と『太る穢れ(けがれ)』がかけられています」


「ふとる……けがれ?」
 なに言ってんだコイツ。


「その穢れを解かない限り、太り続ける身となります。現在は七十キロ。どうぞ、穢れを解いて下さい」
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