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  Dear... 作者:Donald
episode19:報われぬ心
蘭の葬式からしばらく経って、平次は新一に会いに行く前に、毛利探偵事務所を訪れる事にした。探偵事務所の前には記者と思われる連中が、中から人が出てくるのを待ち構えていた。平次が階段を上ろうとすると、記者たちは『亡くなった毛利さんのお知り合いですか?』と平次に詰め寄ってきた。平次は記者たちを睨みつけ、群れをかき分け階段を登りきった。

ピンポーン…

何度も押し掛けた事のある馴染みの場所だったが、さすがにいつものようにドスドスと入っていく様な無神経な事はできなかった。

ガチャ。

扉の向こうに現れたのは蘭の母親の英理だった。
何日も泣いたのだろうか。目は少し腫れていた。

『あなた…服部くんね?どうぞ、あがって?』

英理は優しく平次を迎え入れた。外の騒がしさが嘘のように中は静かだった。リビングの奥は電気が付けられておらず薄暗かったが蘭の写真と彼女の遺骨がひっそりと置かれているのが分かった。彼女が優しく微笑みかける遺影の前には、すっかり憔悴しきった小五郎が微動だにせず、座っていた。
平次がその光景から目を離せずにいると、英理が

『お茶を用意するから、座っててちょうだいね。』

と平次に声をかけ、台所へと消えていった。
平次は蘭に線香をあげようとリビングの隣の部屋へと向かった。小五郎の隣に座り、線香に火を付け、彼女の遺影に手を合わせると、彼女の死がじわじわと胸にこみあげて泣きそうになった。今までいろいろな人の死を目の当たりにしてきた平次だったが、こんな感情は初めてだった。

『お前、新一には会ったのか?』

『え・・・いや、まだや・・・』

急に小五郎に話しかけられ、平次は少し驚いたがなるべく冷静に話を続けようとした。

『蘭達がいなくなった日、コナンがコソコソ家から出ていくのを見た。その後、明け方近くに俺が現場に行った帰り道、阿笠博士の車とすれ違った。車の助手席に、新一がいた。』

小五郎が何を言おうとしているのか平次にはよくわかった。

『コナンの奴はあれから帰ってきやしねぇ。新一が帰ってきた途端にだ。お前はこのことを知ってたのか?』

『あぁ。今まで黙っといてすまんかった・・・』

小五郎は一度も平次の方を見なかった。

『そうか・・・。でも、そんなことはもうどうでもいいんだよ。』

しばらくの間、うつむいていた小五郎はもう一度、娘の遺影を見つめた。新一の帰りを誰よりも待っていた蘭が死んでしまった今、コナンが新一だったなんて事実は慰めにも、怒りの種にもならなかった。平次は思わず言葉をつぐんだ。

『こんなことになるんなら・・・あいつがずっとコナンのまま、蘭のそばにいてくれた方が良かったな・・・』

小五郎は、コナンが来てからの生活を思い出していた。文句ばっかり言ってたが充実はしていた。家族で過ごす時間も増えた。こういう生活も悪くないと思い始めていたところだった。

『俺、もう少し経ったら、工藤に会いに行くつもりや・・・あいつの口から全部を聞かせてもらわんと納得できん。』

新一のニュースは毎日のように報道されていた。彼の生い立ちや、今までの探偵としての輝かしい功績。サッカーの実力。そして、なぜ、彼が人を殺したのか。一部の報道では新一の行為を“幼馴染を守るための勇敢な行為”とし、彼を英雄の様に扱うものもあった。唯一の生きた証人である園子が事件のことを語ることを拒んだことが、余計に報道陣の好きなようにさせる原因になったのだ。

平次は、新一がどうして犯人を殺したのか知りたかった。彼は、犯人が自殺することだって許さないような男だったのに、どうして・・・?推理のときはいつだって冷静だったのに、自分の体を縮めた張本人には、やはり感情的になってしまうのだろうか?平次が尊敬する探偵の1人である彼が・・・

『そうか・・・1人で勝手に行け・・』

小五郎は小さく答えた。小五郎も、自分の力で蘭を助け出せなかったことを悔やんでいた。だからこそ、今は新一には会いたくなかった。すべてを新一のせいにして自己満足してしまいそうだったから。今は蘭の死に向かい合う時間がほしかった。

平次はリビングに戻ると、『いただきます』と英理がいれてくれたお茶を飲んだ。お茶はすっかり冷えきってしまっていたが、自分の頭が冴えていくような気がして、平次は湯呑みの中身を一気に飲み干した。


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