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ラブカクテルス その9
作:風 雷人


いらっしゃいませ。
どうぞこちらへ。
本日はいかがなさいますか?
甘い香りのバイオレットフィズ?
それとも、危険な香りのテキーラサンライズ?
はたまた、大人の香りのマティーニ?

わかりました。本日のスペシャルですね。
少々お待ちください。
本日のカクテルの名前は特子さんでございます。

ごゆっくりどうぞ。



私は平凡な女だ。自分でも嫌になるほどの平凡さだ。
しかし、この頃の私はどこへ行っても有名人。しかも特子なんてあだ名まで付けられて、何か恥ずかしい。でも有名になってみてわかったが、それほど悪いものでもないかも。

でも私には、これと言ってとりえなどあるわけではないのである。

子供のときから成績も中の上。5段階でいえば3とか4。10段階でいえば6とか7くらい。
好きな科目もこれといってなかったし、今だって興味があることは周りの人とあまり変わらない。
流行りの服だったり、お洒落なカフェやレストラン。素敵な旅行に、テレビのドラマ。町でよく聞く音楽。そして恋愛。

自慢じゃないけど、見た目は平均よりも上か、下かってところ。だと思う。本当に自慢じゃない。っていうか自慢の対象外か。
性格だって、女神様みたいに慈悲にあふれる優しさの持ち主ってほどでもないし、悪魔のように人を騙してばかりいる訳でもない、まぁどちらかというと、正直と素直さ、それと前向きさは取り柄かも。

スポーツだって人並みだ。
どっちかと言えば陸上や、体操のような個人でやる方が得意。
球技は全然、自分でもセンスを感じないし、やっていてあまり楽しいと思ったことがない。
水泳や、スキーなんかの季節のスポーツにしても、大人になっても時期的なものでやり続けていると言えばそうだが、泳ぎはプールへ行ったとしても、25メーターなんてきっと無理だし、スキーだってコースを滑るには問題はないが、山の中など恐ろしくて入れない。
それなら私は文化人なのかと言えば、
そうでもない。

特に字が綺麗でも、漢字に詳しい訳でも、外国語が得意なのでもない。
絵画?見るのはまぁまぁ好きだが、詳しい訳ではないし、描くなんてもってのほかである。
それならば、音楽?

歌は好きである。でもカラオケで歌うくらいで、声のトレーニングなんてしたことがない。というか、そんなことは私には縁のない話。
楽器だって、縦笛とかハーモニカ、木琴、あっ、猫ふんじゃったならピアノで弾いた記憶がある。でも忘れた。まぁ、その程度である。

他に何かあるかと言われれば、強いて言うならマンガかな?
家で一人の時に楽しみにしている時間。たぶん普通の人よりは多くのマンガを知っているし、持っていると思う。でも、オタクの域には行っていないか。

仕事はしているけど、アルバイトだ。なんかわからない事務みたいなことをしているが、言っては悪いが暇つぶしである。
大きな声では言えないが、これと言って役に立っている訳ではないけれど、一応公務員扱い。でも辞めても文句はいわれないし、やっても邪魔にされない。
周りの人はいい人が多い。初めは気を使ってくれているのかと思ったが、皆やはりいい人なのである。
だから、一応仕事は適当にはしない。やるときはやるのだ。
でも、やっぱり体には人一倍気を使っている。風邪をひくだけでも迷惑を掛ける人が大勢いるのだから。そう、誰かの命に関わったりもする恐れだってある。

まぁ、かといってその辺はあまり真剣に考えないようにしてはいる。精神的に私もそんなに強くないのだ。女の子だしね。とは言っても私も、もう20代後半。そろそろ彼からのプロポーズを期待してはいるのだが。

その私の彼はなかなか優しい人でよく気が付くというか、よく周りのことを見てうまく理解するというか。
きっと、人の面倒を観るのがきらいではないのだろう。それでいてプラス思考で、なるべく良い方へ良い方へと流れていくように考えて行動するタイプで、私もその性格に随分助けられた。
とはいっても、その性格は楽天家と言えばその通りで、たまにはそれが原因で喧嘩なんかもするが。
しかしながら、あの私が有名になる前のひどかった時期に彼がいなければ乗り越えられなかったかもしれないのは確かだ。口にはなかなかしないが感謝している。
でも、やはり一番の理由は私は彼といると楽なのである。自然なのである。
おこがましく、でしゃばる訳もなく、私は彼に寄りかかり、包まれ、頼られ、支えあっている。強すぎずに弱すぎずに。

親も彼を気に入っているらしく、たまに実家に彼を連れて帰ると、父と仲良くお酒を交して酔っ払ている。
そういうところは男の人はうらやましい。そんな調子で誰ともすぐに仲良くなれるのだから。あまり飾ることもしないで。
その点、女というのは不便だ。
付き合いという事はどれだけ相手とうまくやっていくかを演じる仮面の世界である。
でも、親友とよべる人がいなかった訳ではない。
やはり上辺だけの世界にも、仮面の下にはちゃんとした顔もある訳で、似た考え方や、同じセンス、匂い、音なんかを共感できるものもいて、数は多くはないが、そういう存在が私にもいたのである。

彼女とは高校時代に知り合い、今もたまに連絡を取り合い、くだらない話しや恋愛の相談なんかもできたりする仲だ。
勿論、お酒の席も。
彼女とは学生のときは一緒にアルバイトをしたり、恋を励まし、支えられ、泣かれ、祝福し、そんな関係で、と考えると、女の子の関係は恋愛をしている事が共通の趣味であり、一番の楽しみなのかもしれない。
しかし、彼女との関係はそんな事に納まらない深い友情と呼べるものが確かにある。
それが私を有名にし、私の全て、いや、彼女の全ても、そしていろいろな人の人生さえ変えたものだった。

その事件は決していい話題で始まるものではなかった。

あれは私たちが大学生の時に起こった。
彼女はある時風邪を引いた。初めはただの風邪だと言って医者に行かなかったが、その風邪はなかなか治らずに、しまいにはひどくなって倒れて入院してしまったのだった。
それから、彼女は面会もできない状態になり、彼女のお母さんに様子を聞いたところ、なんと、彼女の病名は白血病だと泣きながら教えてくれたのだった。
私はそのことを聞いて愕然とした。あんなに元気だったのになぜ?私もその場で泣き崩れた。
それから私は、大学に戻り、知っている全ての友人、教授、食堂のおばさんにまで声を掛けて、血液型を聞き、同じA型の人であれば骨髄の提供の協力を一緒にしてもらえないか聞いて回ったがなかなか条件に合う人はいなかった。
私はO型だった。だが、この頃、同じ病気で困っている人が他人事に思えなくなり、何も彼女のために出来ない自分に、せめての気持ちから、骨髄バンクに登録をしたのだった。
そして私は検査を受けた。そして次の日にまた連絡があって、その機関の研究をしている大学に来てもらえないかと電話で言われた。
私は検査がうまくいかなかったのかと思い、出向くことにした。

そして、やはり前の日と同じ検査をされて、少し待つように言われ、なんだか落ち着きのある部屋へと案内された。
しばらくすると、そこの大学の名誉教授とやらが現れ、私をまじまじと見ながら挨拶をしてきた。
私は訳がわからずに、その教授の顔を覗き込むと、教授は声を荒げて私に落ち着いて聞いてほしいと言ってきたが、落ち着いてほしいのは教授の方のようだった。
しかし、話を聞くと難しい話はさておき、その重大さが、声の荒ぶる訳がわかったのである。

教授の話によると、考えにくいことだが、私の骨髄は検査の結果、どんな骨髄にも移植が可能な物なのだ、と言うのでだった。
さすがの私も驚いて開いた口がふさがらないという体験を初めてした気がした。
しかし、驚いてはみたものの、それがどういう事かはまだそれほどわかってなかったのであった。
しかし私は単純にそれが友人を助けられるのだとを聞き、大喜びをした。そして、その教授に研究の協力を頼まれ、何の迷いもなくそれを引き受けたのであった。
その当時から付き合っていた彼にそのことをいうと、彼は驚き喜んでくれた半面、研究については心配そうな顔をして話を聞いていた。
彼は友人のことがあるから止めはしないが、気をつけるようにと言った。
そしてその心配は的中したのである。

教授をはじめとして研究チームが組まれ、私はそれに加わった。しかし、それは決して楽なものではなかったのだ。
私は何回も背中に注射器を刺されて上を向いて寝ることなど到底できなかったし、束縛される時間が長く、その内、少しコチラで待っていてほしいと言われたまま、忘れられたかのようにほったらかしにされたかと思うと、また注射をされる、そんな毎日が幾日も続いたりもした。
初めは苦しむ人のためだと我慢していたが、そのうち精神的にも肉体的にもかなりの負担が架り、私は倒れたのだった。医学チームはその時、やっと夢中になっていた研究の手を止めて私に対しての管理のずさんさに気が付いた。
だが、その時にはもう、私は耐えきれなくなっていたのであった。

しかし、目の前にいる友人の事が頭から離れなかったのが私を苦しめていた。
そんな私を見た彼は、研究チームの中心である教授と話しをして、この研究が本当に成果をあげているものなら、国の元で管理をさせて、私の安全を第一としたスケジュールプランを作り、それに沿った無理のないペースで研究を続けるようにと、かなり強引にこちらの好き勝手な条件を押し付けてきてくれたそうだ。
その結果、入院している私のところには、研究チームとは別な国の機関を立ち上げたと、そこの所長と名乗る男の人がやって来て、挨拶をしていった。
しかし、私はあまり乗る気ではなかったが、彼や家族に励まされ、支えられ、守られて研究にまた参加する事となったのだった。

そして、友人の承諾を受けて初めての人体実験を行い、見事それは成功したのであった。
彼女はみるみる良くなり、今では何の副作用も残さずに元気だ。
その後、彼女からはしつこいくらいに礼を言われたが、私も彼女に礼を言った。なにしろ私はこのことで、多く人の役に立つことができ、新しい自分を見つけられたのだから。
その先は、新聞やテレビで取り上げられて、いろいろなところで感謝の言葉をいただくことになったり、教授と一緒に表彰されたりと、忙しい日々が続いてこの頃はやっと落ち着いてきたところだ。
あれからの私は、国の監視機関でアルバイトをさせてもらうようになったし、彼が付けてくれた条件のおかげで、国から給与というか、なんというか、お金をいただき、税金も免除され、交通機関もタダで使用出来るようになり、住むところまで用意してもらって、いたれり尽くせりの生活である。
その代わりに月に一度の健康診断と、週に一度の注射は義務になったが、それくらいは仕方ないかな、と諦めている。
しかし、条件つきとはいえ、平凡な生活?

それでもまぁ、いい人生を送っていると思うのである。

おしまい。


いかがでしたか?
今日のオススメのカクテルの味は。
またのご来店、心よりお待ち申し上げております。では。














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