不思議な検査<問題編>
八月も過ぎ、暑さもそろそろ和らぐだろうかという期待の中外へ出かけると、その期待を裏切るような熱風が体を襲う。
まだまだスーツは暑いな、と思いながらTは健康診断を受けるために病院へ向かった。
院内はクーラーが良く効いており、ともすると肌寒いほどである。Tは健康診断の待合室へ向かった。
「あれ、Tじゃないか。病院とは珍しいな」
待合室の先には、何故かUが座っていた。
「なんだ、U。お前も健康診断か?」
「いや、ちょっと風邪をひいてな。お前は健康診断か?」
「ああ、会社命令だからな。面倒だが、仕方が無い」
そういうと、TはUの隣に座った。
「相変わらず忙しいのか? 俺は気楽でいいんだが」
「あんまりのんびりしていると、後で大変なことになるぞ」
「それは金銭面でか? そうなったらお前に借りればいい」
「そうだな、倍返ししてくれるなら考えてやろう」
「出資法違反だぞ、それ」
ふっ、と笑いながらTはあたりを見渡す。空調の聞いた部屋の空気が汗を引かせ、時折人が動いて生じる風が肌をなでる。名前が呼ばれるたびに、一人、また一人と席を立っていった。
「そうだ、検査といえばこの前、こういう場面にあったんだが」
Tがふと、以前見た光景を語りだした。
「とある病院に行ったときのことだ。診察の順番を待っていると、その目の前に小さな女の子と小さな男の子が、同じ検査をしていたんだ。女の子のほうは何も言わず、静かに右手でいろんな方向を指差していたのだが、男のほうは元気良く『6!』とか『9!』とか数字を言っていたんだ」
「病院なのに、元気な男の子だな」
「まあ、そうだな。さて、クイズが得意なU君に問題なのだが、この二人のしていた検査とは一体何なのか、それを答えてもらいたい」
「はい?」
一体何を言い出すのか、とUはTを見返した。
「さっきも言った通りだ。小さな女の子と男の子、二人がしていた検査が何の検査なのかを答えてもらいたいのさ」
ほう、とUは腕を組む。
「二人がやっていた検査っていうのは、まったく同じものなんだよな」
「ああ、まったく同じだ」
「しかし、女の子は指を差し、男の子は数字をしゃべっていた、と」
「そういうことだ」
再び考え込むU。だが、まだ分からない様子だ。
「その検査っていうのは、誰でもやったことがあるものなのか?」
「ああ。小学校でも中学校でも、おそらく全員がやったことがあるはずだ」
「何か道具を使う?」
「そりゃまあ、そうだな。二人は同じものを使っていたな」
Tのヒントを聞いて、再び考え込む。
が、そのとき、Tの名前を呼ぶ声が聞こえた。
「おっと、俺の健康診断の番か。じゃ、戻ってくるまでの間に考えておくんだな」
「え、ちょっとまてよ!」
Uがとめるのもかまわず、、Tは立ち上がって診察室へと行ってしまった。
「一人は指を指して、一人は数字を……? 一体何だ?」
考えながら、Uは何かヒントが無いかと、当たりを見回した。
すると、Uの目にあるものがはいった。
「ああ、なるほど、これのことか。しかし、数字は一体何なんだろう」
何とか検査の正体は分かったものの、男の子のしゃべっていた数字の正体は、いまだに分かっていない様子だった。
同じ検査を行っている女の子と男の子。女の子は静かに指を差し、男の子は数字をしゃべっていた。さて、その検査とは一体何なのだろう。
読者の皆さんも、一度はやったことがあるだろう。その検査を色々思い出し、答えを導いて欲しい。
もう一つ、Uが分からなかった、男の子がしゃべっていた数字の意味。これも、併せて考えてもらいたい。
相手は小さな子供。大人視点だとなかなか思いつかないことでも、子供の先入観にとらわれないやわらかい頭ならば、何か思いつくかもしれない。
もちろん、それは検査に関係あることである。一瞬大人たちは何のことか戸惑うだろうが、検査の正体が分かれば、なんとなくその意味も見えてくるだろう。