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北大西洋の嵐 6
 米独戦艦の一騎打ちは、命中弾こそ先に「テルピッツ」が受けたが、その後はやはり練度の差が表れた。竣工して既に2年近く経過している「テルピッツ」の乗員は、竣工して1年も経っていない「アラバマ」の乗員に比べて劣っていた。

 米戦艦「アラバマ」は、最初の命中弾を「テルピッツ」より先に出したことで自信を深めたが、その後は挟叉弾は出るものの、命中弾は中々出なかった。

 一方被弾した「テルピッツ」は、乗員たちが素早く被害復旧作業に入り、大した影響は出なかった。それどころか、被弾に憤慨した乗員たちは、全身全霊を尽くして反撃に移った。結果、1分後には倍返しとばかりに2発の38cm砲弾をアラバマに命中させた。

 この命中弾は1発が「アラバマ」の錨鎖庫を破壊して錨を吹き飛ばし、もう1発が艦橋左舷側の両用砲と機関砲を数基破壊した。

 その後の展開は一方的だった。「アラバマ」が「テルピッツ」に命中弾を1発出す間に、「テルピッツ」は「アラバマ」に6発の命中弾を叩きこんだ。

「アラバマ」の装甲は対40cm砲。そのため「テルピッツ」の38cm砲弾は余程運がよくなければ「アラバマ」の主要装甲区画を撃ちぬくことは出来ない。だが、それ以外の場所だったら十分打撃を与えられた。そのため、砲撃開始20分後には「アラバマ」は甲板各所が炎上していた。

 一方、ビスマルクの方は数こそ「アラバマ」より少なかったが、命中弾を受けた。ただ幸運なことに、3番砲塔が全壊するという大損害を受けたが、幸い弾火薬庫に引火することもなく、その他の命中弾も致命的な損害を与えることはなかった。

 そして砲撃戦開始25分後、「アラバマ」は機関室付近に命中した38cm砲弾の影響で、機関出力が半減してしまった。これは即ち電力供給量の低下につながり、結果砲撃速度がガクンと落ち、さらに被害復旧もままならくなった。

 結局、「アラバマ」はアメリカ戦艦の設計の良さを発揮し、実に30発近い38cm砲弾を受けながらも浮いていたが、戦闘不能となり、さらにいくつかの破口からの浸水で左に大きく傾き、最終的に数時間後に転覆沈没してしまう。

 「アラバマ」が戦闘不能になったのを見届けると、「テルピッツ」は目標を巡洋艦に変更した。この時米英の巡洋艦にはポケット戦艦と巡洋艦群が相手していたが、敵の方が数多いこと、さらに米艦艇の中には「クリーブランド」級など速射能力に長けている艦がいるために、ドイツ艦側の分が悪かった。

 そのため「テルピッツ」が介入することとなった。なお、英戦艦「アンソン」と「シャルンホルスト」級2隻の対決は続いていたのだが、手出しする必要なしと見て、「テルピッツ」はより苦戦していた巡洋艦を助けた。

 この結果、「シャルンホルスト」が撃沈されることとにったのだが、巡洋艦の方が苦戦していたので、「テルピッツ」ばかりに責任があるわけではない。

 巡洋艦同士の戦いに「テルピッツ」が介入したことで、戦いの流れは一気に変わった。28cm砲では一撃で撃破といかなかった重巡も、38cm砲の場合は1発、どんなにがんばっても2発受ければ沈黙した。

 最終的に、巡洋艦の紛失はドイツ側1隻に対して、米英側は7隻を失い、米英軍の敗北となった。

 また駆逐艦同士の戦いは、酸素魚雷を保有し、さらには戦艦部隊の活躍で士気を上げたドイツ側が米英側を押し、最終的にドイツ側の紛失2に対して、米英側の紛失7で終わった。

 こうしてドイツ艦隊対米英連合艦隊の砲撃によるガチンコ対決は、ドイツ側の勝利で終わった。

 ドイツ艦隊司令のシュツットガルト提督は、これ以上の戦闘が不可能な艦艇に交代するよう命じると、自身は残存艦艇を率いて北上した。彼らの行く手には、既に敵輸送船団を撃滅することを阻む壁は一切存在しなかった。

 一方、艦隊の敗北を無電で知った輸送船団は、ドイツ艦隊の襲撃近しと判断し、ついに最終手段に出た。それは輸送船団の分散だった。もっとも、各船がバラバラに逃げるのではなく、いくつかの小船団に別れて逃走に入った。

 これは1942年7月、今回と同様援ソ物資を満載したPQ17船団がドイツ艦隊現るという誤報によってバラバラに遁走した結果、潜水艦によって一隻ずつ討ち取られるという悲劇が発生したからだ。

 そのため今回は残存する輸送船3〜4隻と、同じく未だ残存している護衛艦2〜3隻で小規模ながら船団を作って逃げることとなった。

 もっとも、PQ17船団の時はドイツ艦隊が結局出撃することはなかったが、今回はそのドイツ艦隊が向かってきているので、この策が有効だったかは疑問が残る。

 現に、この小船団への分散はUボートに対しては威力を発揮したであろうが、相手が水上艦艇、しかもレーダーを搭載しているのでは逆に探知しやすくしてしまった。

 そのため、ドイツ艦隊は次々と分散した輸送船団をレーダーで探知し、各個撃破していった。輸送船団も護衛艦艇も、全力で勇敢にもドイツ艦隊に立ち向かったが、やはり小口径砲が最大武器では、38cmという大口径砲を持つ戦艦を中心とする艦隊を撃退するにはあまりにも貧弱だった。

 これらの戦闘はもはや海戦ではなく、一方的な殺戮となり、ドイツ艦隊の将兵が気の毒だと思った程であった。

 最終的に護衛艦7隻と輸送船12隻が追いついた水上艦隊によって撃沈され、護衛艦1隻と輸送船4隻が降伏した。また、Uボートによって輸送船5隻が沈没している。そして、目的地であるアルハンゲリスクに着けたのは、たったの7隻の輸送船と10隻の護衛艦だけだった。

 出発時には60隻いたにも関わらず、任務を無事達成できたのはこれだけであった。運び込めた物資は航空機150機、戦車40両、車両100両、その他鉄道用レールや高品質ガソリンなど、どれも今のソ連には必要不可欠なものだった。だが、当初運びこもうとした量の9分の1で、とてもではないが、ソ連を助けられる量ではなかった。特に兵器の増産に不可欠な工業機械の海没が致命的と言えた。

 一方、戦略的勝利を収めたドイツ艦隊も、艦艇の多くが損傷してしまい、しばらくは再出撃不能へと追い込まれた。だが、空母戦力はほぼ健在であるため、北大西洋の制海権はドイツ海軍が握ったと言っても差し支えはなかった。

 この海戦でソ連は短期間での戦力向上の望みを絶たれ、また米英は大西洋を守る艦艇の多くを失ったことにより、太平洋、地中海方面での反攻を大幅に延期せざるを得なくなった。

 そしてその戦略的影響は、太平洋戦線で戦う日本軍にも大きな影響を与えることになる。特に艦艇の多くを大西洋に回さなくてはいけないことは、米軍の太平洋の防衛戦略を根本から揺さぶることともなる。
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