ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
奇襲ミッドウェイ
 攻撃隊を発艦させるためには、必要な合成風力を起こさなければいけない。「天城」の艦首が風上に向けられ、機関が最大戦速へと増速される。

「発進!!」

 甲板士官が旗を振り、攻撃隊の発進が開始される。天城は2段甲板の空母で、その両方の甲板から航空機が発進される。

 カタパルトのない第一甲板からは身軽な零戦が、カタパルト装備の第二甲板からは重い爆弾や魚雷を装備した艦爆、艦攻が発進して行く。

「がんばれ!!」

「しっかりやってこいよ!!」

「戦果を期待しているぞ!!」

 手空き乗員が思い思いの言葉を言い、そして帽子を振って攻撃隊を見送る。見送りの言葉の中に、「万歳」という言葉が聞かれないのが、精神教育を偏重していないこの艦隊らしい。

 発艦は順調に進み、最終的に1機の事故機もなく、攻撃隊60機全機が無事発進できた。

 80機の搭載機の内の60機であるから、これはほぼ全力出撃である。残る20機の内12機が戦闘機で、8機が偵察用の艦攻である。

 実験艦隊が使用できる偵察機は、この「天城」の8機と高速打撃艦2隻がそれぞれ3機ずつ積んでいる零式水偵しかない。だから、偵察能力は非常に限られた物になっている。

 桑名はその内の半分を既に出撃させて、付近海域の索敵を行わせていた。

 そして彼らは知らなかった。自分たちに遅れること30分後にハワイ真珠湾を強襲する南雲部隊が空母を撃ち漏らす事も、その撃ち漏らした空母の1隻である「レキシントン」が、航空機輸送の為にミッドウェイに向かっているのも。

 「天城」を発進した攻撃隊は一路、ミッドウェイに向かっていた。隊長機では、秋田が天測を行なって位置を確認し、さらに辺りを見回して攻撃隊から脱落した機や、エンジンなどに不調のある機がないかを調べる。

「俺から見える範囲じゃ、いないな。旭、脱落機はいないか?」

 後部の通信士である旭二飛曹に聞く。

「はい機長。脱落機ありません。」

「よし。脱落機なし、コース、ならびに通過時刻も予定通りだ。」

 秋田は旭の言葉を聞くと、満足そうに答えた。何分練度の低い部隊であるから、ちゃんと全機飛んでいけるか少し心配な所があったが、杞憂であったようだ。

 ちなみに時間に拘っているのは、今回の作戦ではタイミングが非常に重要であるため、あらかじめ航法の際は確認することを決めていたからである。

「まもなくミッドウェイ島です。」

 操縦士の渡辺一飛曹が伝えてくる。ちなみに、こうした会話は直接では聞こえにくいので、全て伝声管越しに行なわれている。

 秋田は双眼鏡を取り出し、機体の前方を眺める。この日の雲量は3、所々に雲が出ているものの、遠くを見るのに苦労するほどではない。

 すぐに、ミッドウェイ島が見えてきた。

「地図を見てわかってはいましたが、大分小さな島ですね。」

「ああ。ようし、時間通りだ。旭!全機へ打電、ト連送、全軍突撃せよだ!!」

「は!!」

 旭が通信機を操作して、モールス信号のトを連続打電する。全軍突撃を命令する暗号の、ト連送だ。

 さらに秋田は風防を開け、信号弾を発射した。すると、戦闘機隊が前に出る。敵迎撃機が出て来た場合に備えての動きだ。

 ちなみに、戦闘機は攻撃隊の前後方に分かれて飛行している。

「ミッドウェイ基地視認!上空に敵影、ならびに対空砲火なし!」

 渡辺が報告してくる。

「よっしゃ!奇襲成功だ!旭、打電。我奇襲に成功せり、トラトラトラだ!!」

 秋田は喜びながら叫んだ。

「は!!」

 奇襲成功を報せる暗号電文が打たれる。

「突撃!!」

 60機の攻撃隊は、ミッドウェイ基地に攻撃を開始した。この時点で、ミッドウェイ基地ではこの攻撃隊の姿を視認していた。ところが、彼らにとっての不幸は、真珠湾と同じ過ちを犯してしまったことだった。

 すなわち、敵味方の誤認である。真珠湾では、レーダーに映った日本機を、本土から飛んでくるB17爆撃機と誤認したために侵入を易々と許してしまった。

 一方、ミッドウェイ基地にはレーダーこそなかったが、一応日本との緊張もあって、監視兵が空を睨んでいた。しかし、その監視兵は空に現れた黒点を、補充機を持ってくるために近海を航行中の「レキシントン」が飛ばした艦載機と見誤ったのだ。

 もちろん、数も違うしこんな早朝に飛んでくる筈がなかったが、どうも監視兵には緊張が足りなかったようだ。

 その機影が日本機であると気付いたのは、滑走路に直撃弾を喰らった瞬間であった。

 攻撃に気付いたパイロットたちは慌てて宿舎から出ると、配備されていたF2A「バッファロー」に乗り込もうとした。しかし、その前にバッファローは機銃掃射を受けて全滅していた。もっとも、例え飛び立ったところで、性能で勝る1式艦戦に勝てた可能性は低いのだが。

 残る反撃手段の対空砲火も、基地に設置されている数自体が少なく、その内の半分も爆撃や機銃掃射で使用不能に陥った。残る砲が攻撃を開始したが、結局遅きに失し、撃墜できた機体はなかった。

 攻撃は戦闘機による機銃掃射、艦爆による急降下爆撃、艦攻による水平爆撃で、おもに戦闘機と急降下爆撃機が対空砲陣地や駐機中の機体、格納庫に加えられた。艦攻の方は、滑走路を集中的に爆撃した。

 1本しかない滑走路は穴だらけにされ、保有していたほぼ全ての機体が短時間でスクラップにされてしまった。

 もともと攻撃隊の機数自体がそれほど大規模でなかったことと、この攻撃自体が陽動であたために攻撃もそれほど激しく行われなかっために、被害は飛行場周辺に限られた。

 ただし飛行場と対空陣地意外では、偵察の主力であったPBY「カタリナ」飛行艇が配備されていた飛行艇基地も攻撃対象になり、こちらも保有機の全てが破壊されるか使用不能に追い込まれた。

 攻撃隊は約20分ほどで、全ての爆弾を投下して去っていった。ミッドウェイ基地が受けた被害は、保有機全滅、ならびに格納庫の半分が全壊、滑走路は最低1週間は使用が出来なくなった。

 ミッドウェイ島が攻撃を受けたと電文が発信されたのは、攻撃開始5分後であった。この報告でハワイ真珠湾は大騒ぎになり、全軍の呼集と艦艇に緊急出港のための機関始動が命じられた。

 だが、それが悲劇を生んだ。多くの乗員が慌てて乗り込んだところで、南雲機動部隊から発進した攻撃隊が襲い掛かったのである。

 こうして、太平洋戦争は始まった。
 御意見・御感想お待ちしています。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。