攻撃隊出撃!! 下
ミッチャ―中将は空母の上空までやってきたB17を双眼鏡で見ていた。彼は日本軍がB17やA20を使っていることに、そこまで驚くことはなかった。この時期太平洋艦隊の主だった将官や艦長には、日本軍が積極的にアメリカやイギリスから拿捕した艦艇や航空機を使用しているという通達を受けていたからだ。
余談ではあるが、捕獲兵器の使用やコピーは同盟国のドイツでも東部戦線を中心に広く行なわれていた。
「水平爆撃をする気か?」
彼は常識的にそう判断した。
海上を動き回る艦艇に対して水平爆撃をするのはあまり得策とはいえない。狙って投下しても、回避運動をされると簡単に交わされるからだ。そのため、編隊で多数の爆弾を投下する以外に方法はない。しかもたった1・2発を当てるために。
ミッチャ―はすぐに回避命令を下した。
「ただちに最大速力で回避運動を行なえ。水平爆撃なぞ簡単によけられる。しかし、B17の爆弾搭載量からして大型爆弾かもしれんから油断はするな!!」
「アイサー!!」
まもなく空母「エセックス」をはじめとする、各艦が一斉に舵を切った。また対空砲も仰角を上げてB17を砲撃しようとする。しかし、その時になって撃破した駆逐艦や軽巡の対空砲火の網を抜けた1式陸攻や99艦爆が空母に対して積極的な攻撃を開始した。
この1式陸攻と99艦爆の突入は絶妙なタイミングであったが、決して意図した物ではなかった。1式陸攻は敵戦闘機の妨害を受けたため、99艦爆は速度が遅かったために起きた偶然の産物だった。
これによって対空砲火が分散されてしまい、被弾こそ戦艦「サウス・ダコタ」に爆弾1であったが、B17こと「米山」は一機も撃墜されずに済んだ。
そしてその直後、彼らは自分たちの得物を米機動部隊に対して使用した。
最初、米機動部隊の誰もが敵は大型爆弾を投下したと思っていた。しかし、まもなくその認識が大きく間違っているのに気付かされた。
「敵爆弾、針路を変えて突っ込んできます!!」
見張りの兵士の1人が絶叫した。
「何だと!!」
それまで低高度で攻撃を仕掛けてくる艦爆や陸攻に気をとられていたミッチャ―は双眼鏡を再び上空に向けた。そして、敵機が落としたと思われる爆弾が降下してくるのが見えた。
落下ではない、降下である。これは誘導弾が急角度ではなく、安定翼のおかげで浅い確度で落ちていったからだ。
「対空砲、あの爆弾を狙え!!あいつはナチの「フリッツX」だ!!」
ドイツ軍の暗号を傍受した結果、連合軍は「フリッツX」の名を既に知っていた。そしてその誘導滑空爆弾が、最近になって大西洋や北海で連合国艦船に猛威を振るっているのも。つい1月ほど前には、船団護衛中の米戦艦「ニューヨーク」がHe277に搭載されていたこの爆弾を受けて大破、その後Uボートの雷撃で沈没という被害に遭っている。
そのため、「フリッツX」の名は連合国将兵にとって恐怖の爆弾の代名詞の1つとなっていた。
命令と共に、それまで撤退する日本機に追尾射撃を仕掛けていた各対空砲と対空機関砲は一斉に落下する「フリッツX」を狙い始めた。もしこの時ミッチャー中将が「米山」の撃墜を指示していればその後の歴史は変わったかもしれない。しかし、彼はナチスの新兵器を日本軍が使ったという事実に焦ってしまった。
各艦が打ち上げる無数の砲弾が上空で炸裂するが、既に半数の艦艇が被弾し対空火力を減じているうえ、さらに誘導弾は目標として小さすぎた。結局撃ち落せたのは14発中の1発のみであった。残る13発が米機動部隊に襲い掛かった。
ドグワ―ン!!
最初の命中弾が軽空母「ラングレー」の飛行甲板を突き破り、格納庫内で爆発した。これによって同艦は飛行甲板が使用不能となり、空母としての機能を失った。
続いて今度は旗艦である「エセックス」の後部に1発が命中した。この誘導弾も格納庫内に飛び込み、そこで爆発した。これによって「エセックス」の後部甲板は完全にめくれ上がってしまった。さらに1発が命中したが、これは一部の対空砲を破壊しただけであった。
2発の被弾によって「エセックス」も「ラングレー」同様空母としての機能を失い、事実上戦闘不能に追い込まれた。
被害はこの2艦だけにとどまらず、さらに空母「レキシントン」と軽空母「カウスペンス」にも及んだ。このうち「レキシントン」は命中箇所が艦橋後部の高角砲塔であったために、小破で済んでいる。
甚大だったのは「カウスペンス」で、艦橋の付け根部分に命中し、艦橋が完全に破壊され艦長以下艦橋にいたスタッフの全員が戦死した。さらに誘導弾は格納庫と飛行甲板にも被害を与え、同艦も戦闘不能となった。さらにもう1発が艦首に命中したが、こちらは不発に終わり、艦体に衝突して海中に落ちてしまった。
命中した誘導弾は不発弾も含めてこれら4艦に命中した計6発であった。発射された数が14発であったから、命中率は43%である。これは低いとまではいかないが決して高い数字ではなかった。
この報告を受けた「米山」隊指揮官の竹下大尉は舌打ちして言った。
「そうか・・・とりあえず上手く誘導できた弾があっただけ良しとするか。」
竹下は一言そういうと、すぐに無線で命令を出した。
「全機へ、長居は無用だ。引き上げるぞ。」
彼は残存する13機とともに、ラバウルへの帰途についた。こうして日本初の誘導弾による攻撃は終わった。
この航空攻撃によって、ミッチャー機動部隊は5隻の空母の内2隻が戦線離脱となり、さらに軽巡1隻と駆逐艦4隻を失った。また損傷した艦船も多数出た。そのためミッチャ―中将は残存する艦艇を上陸船団の護衛艦隊に編入して、機動部隊を撤退させた。彼自身は空母「エンタープライズ」に乗り移って指揮を継続した。
この攻撃は日米両軍にショックを与えた。まず日本側の場合は、誘導弾の命中率が思った以上に振るわなかったことだ。これは有視界での誘導に限界があったのが一番の要因であった。また誘導中の母機が脆弱であるのも後に指摘され、結局これ以後無線誘導弾は対艦攻撃には使われず、専ら対地攻撃に使われた。これ以後帝国海軍はその研究を熱線探知方式に切り換えた。
一方米軍は日本海軍が本格的な誘導弾を投入した事に驚愕し、その対策に乗り出していく。また自軍内でも遅ればせながらその研究に取り組むこととなる。
この攻撃で米機動部隊は艦艇の多くが沈没か戦線離脱を強いられたが、上陸船団と護衛艦隊は無事であったために、ガダルカナル島上陸作戦は続行されることとなった。しかし上陸日時を1日延期せざるを得なかった。この間に、ガダルカナル守備隊は防衛体制を整えることができた。また味方機動艦隊が来るまでの時間稼ぎにも成功することとなった。
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