第二次MO作戦 中
一方、エスピリット・サントを出撃した米機動部隊にも、陸軍航空隊が日本の機動部隊に打撃を与えたという情報が入ってきた。
「日本の空母1隻、大破確実か。反跳爆撃など子供だましと考えていたが、中々やるようだな。そう思うだろう?参謀長。」
空母「エンタープライズ」の艦橋で、司令官席に座ったレイモンド・A・スプルーアンス中将が報告電を読みながら、参謀長に向かって言う。
「確かに。あんな子供の遊びみたいな方法で空母を撃破してしまうとは、我々の出番がなくなってしまいます。」
少しばかり残念そうに言う参謀長に、スプルーアンスは言う。
「安心しろ参謀長。敵にはまだ空母が5隻もいる。獲物には苦労しないはずだ。もっとも、こちらは大いに不利な状況ではあるがな。」
この時スプルーアンスが指揮する新設の機動部隊は第18任務部隊である。「エンタープライズ」を旗艦とし、軽空母2、戦艦1、重巡3、軽巡2、駆逐艦11からなる。
「せめて「エセックス」が間に合えばよかったのだが。それに護衛艦の数も心許ない。航空機も雷撃機以外は相変わらずだ。それに対して情報によれば、敵は艦載機も新鋭機を揃えているようではないか。」
スプルーアンスの言う「エセックス」級ネームシップの「エセックス」は、予定を繰り上げて10月下旬に竣工したものの、乗員とパイロットの習熟が間に合わず、いまだカリブ海で訓練中である。護衛艦も最近独逸軍がフランス海軍を抱きこんで水上戦力を増強させたために、大西洋へと一部が引き抜かれてしまった。さらに艦載機も新鋭のF6F「ヘルキャット」の装備を急がせたが、結局間に合わなかった。
「ですがこちらには陸軍航空隊の支援もつきます。一方的に劣勢と言うわけではないかと思いますが?」
参謀長が悲観的な意見を言うスプルーアンスに向かって、窘めるように言う。だがスプルアーンスは慎重な姿勢を崩しはしない。
「それを言ったら敵も同じだ。特に日本海軍にはマレー沖海戦で使用された魚雷装備可能な中型攻撃機がある。以前は防弾装備がなかったそうだが、最近は強化しているとも報告されている。油断は出来ない。」
日本の1式陸攻は、ラバウル占領直後に起きた米機動部隊への爆撃作戦で大損害を負ってから、武装や防弾の増強が行なわれ、現在もっとも新しい32型は、若干の航続距離減を代償にして、自動消火装置と防弾ゴム、簡易銃塔の装備を行なっている。
「それにだ。例の艦隊も気になる。」
「例の艦隊?報告にあった独立艦隊ですか?」
開戦直後から、米海軍は未知の空母や、アメリカから拿捕したと思われる艦艇で編成された謎の機動部隊に辛酸を舐めさせられてきた。ガダルカナル沖海戦を通し、その艦隊に対する情報収集が活発化し、ようやく最近になって、それが大本営直属の独立艦隊であるのがわかった。
「そうだ。彼らが出撃しているのならば、戦力バランスはさらに大きく日本側に傾いてしまう。そうなると、我々に残された手段は一刻も早く日本軍に一撃を与え、それが終わったら一目散にオーストラリアに逃げ込むしかない。」
第18任務部隊の艦載機は3隻の空母あわせても180機しかない。彼らが採れる手段は自ずと限られてくる。
「とにかく、偵察と艦隊周囲の警戒を厳重にしてくれ。」
「アイアイ。」
この時点で第18任務部隊は、発見されている日本機動艦隊を攻撃圏内に捉えておらず、攻撃隊の出撃は明日になると思われた。
一方、スプルーアンスと同じく、偵察を強化するよう命令された独立艦隊からも多数の偵察機が発進し、出撃したであろう米機動部隊を探していた。
そして両軍の偵察機はほぼ同じ時刻にお互いを発見した。そして両方とも戦闘機によって撃墜された。
この時、時刻は既に午後4時を回ろうとしていた。そのため、近江もスプルーアンスも迷った。今出撃させれば、攻撃時刻はともかく、帰還時刻は確実に夜間となってしまう。そうなると、事故機が続出する可能性があった。しかも、夜間飛行能力がない戦闘機は随伴できない事になる。
決断はスプルーアンスの方が早かった。
「ここは一端日本艦隊とは距離を取る。」
彼は艦隊針路を変更させ、一端遁走に移った。これは万が一敵攻撃隊が飛んできても振り切れる可能性を高くするためと、砲撃戦力でも負けている状況では、不用意に距離をつめるのは得策ではないと彼は判断したからだ。
一方、近江の方も若干送れて決断した。
「攻撃隊発進は明日早朝とする。今から発進させて貴重な搭乗員を傷つけるわけにはいかない。」
彼もスプルアーンスと同じく攻撃隊の発進は見合わせた。代わりに、偵察機を常に敵機動部隊に張り付けておくよう指示した。敵の位置を常に把握するためだ。
こうして両艦隊は海戦1日目の夜を迎えた。
ところでこのお互いの発見電は、もちろん周囲の味方にも伝わっていた。大半の部隊は、薄暮攻撃になるのを嫌って動かなかったが、行動に移った部隊もあった。
まず日本側では、ニューギニア東側の基地に展開していた少数の陸攻が、航空魚雷を抱いて困難な夜間攻撃に出撃した。また米軍側でも、ソロモン海の諸島群に設けられた秘密飛行場からB24やB26といった機体が少数出撃している。そしてこの攻撃隊は、それぞれ大失態をしでかしてしまった。
まず日本の陸攻隊は、機位を誤ってモレスビー攻略部隊を攻撃してしまったのだ。幸い艦艇の方に被害は出なかったが、同士討ちで陸攻2機が撃墜されてしまった。また米軍攻撃隊は同様に味方の第18任務部隊を誤爆し、駆逐艦1隻を至近弾で小破させている。
この夜はお互いに混乱の連続だった。陸攻隊の誤爆が終わった直後、攻略部隊の護衛を行なっていた軽巡の「由良」が突然爆発した。誤爆の騒動に気付いて近づいてきた米潜水艦の魚雷攻撃だった。これによって攻略部隊は現場に2時間も足止めされた。
一方の米軍もこの数時間後大きな混乱を来たした。オーストラリアのクックタウンが日本艦隊による艦砲射撃を受けたという報告を受けたからだ。
「一体何がどうなっているのだ?」
就寝中を誤爆騒ぎによって叩き起こされ、さらにオーストラリアから届いた電文を見たスプルーアンスが首を捻った。
この艦砲射撃は、独立艦隊所属の2隻の潜水艦が行なった陽動目的の小規模な砲撃であった。潜水艦に積まれた砲での射撃であったから、その戦果はもちろん小さい物であったが、敵の攻撃をはじめて直接受けたのだから、オーストラリア軍と市民達はパニックに陥り、かなり過大な報告をしてしまった。
「どういうことだ?別の日本艦隊がいるというのか?」
もしそうなれば、第18任務部隊は挟撃される可能性があった。常に背後の見えない敵に怯えなければいけなくなる。
第18任務部隊はそのような状況で、独立艦隊との戦いに望まなければならなかった。
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