出撃へ向けて
昭和17年11月、あらたに独逸から譲渡された戦艦「土佐」と竣工したばかりの打撃艦「阿蘇」を加えた独立機動艦隊は、再び燃料が豊富な南方資源地帯のブルネイに移動し、訓練を行なっていた。
独立機動艦隊は次なる作戦であるポート・モレスビー攻略作戦に駆り出される可能性が高かった。開戦以来百戦錬磨と言えるこの艦隊は、何時の間にか帝国海軍の中でも非常に高い練度を持った艦隊へと変貌していた。特に艦隊の要である航空隊は第一次ミッドウェイ沖、インド洋、そしてガダルカナル島の戦いでも最低限の消耗率で済んでいた。そのため、第一機動艦隊に次ぐ有力な機動部隊となっていた。
もっとも、艦艇については前記した新規艦の配備に加えて、10月に行なわれた艦隊再編によって大きく入れ替わっている部隊もあった。この再編は新たに創設された海上護衛総隊への艦艇移動が原因だった。
開戦以前、日本海軍は対潜技術の研究と対潜部隊の創設をほとんど行っていなかった。これは日本海軍が日露戦争以来の艦隊決戦主義に凝り固まっていたのがその大元の原因である。海軍軍人の仕事は敵艦隊主力との決戦であって、それ以外は片手間仕事にすぎないというものである。
さらにアメリカ人は狭い場所が苦手であるから潜水艦を扱う事など出来ないという根も葉もない噂が、アメリカ潜水艦は恐れるに足りずという風潮を蔓延させていった。そしこれが大きく間違っていたということを、開戦数ヶ月の内に特型駆逐艦が相次いで米潜水艦に撃沈されたことでようやく海軍は悟る事となった。
そして今年中盤からオーストラリアを基地として出撃したと思われる米潜水艦の活動が活発になってきた。これら潜水艦は日本の生命線である輸送航路に度々出没し攻撃を行った。しかも魚雷の性能が不十分な物であったために、大胆にも浮上後砲撃する潜水艦が後を絶たなかった。
これには海軍も大いに頭を悩ませた。なにせ商船の会社や船長には散々無敵帝国海軍と宣伝して来たのに、よりにもよって帝国の内海とも言える地域で敵潜水艦の跳梁を許してしまったのである。
結局帝国海軍はしかたなく英国に倣って船団護衛部隊を新設した。それが海上護衛総隊である。この部隊は戦艦や大型空母を持たず、小型の護衛艦や基地航空隊、そしてカタパルトの設置でようやく使えるようになった商船改造空母を中心に編成された。
独立艦隊には試験的に建造された4隻の「Z」級コルベットが存在したが、今回護衛総隊に転属している。また、「梅」級駆逐艦も全艦海上護衛総隊に回されている。
「梅」級が抜けて駆逐艦が減ってしまったために、その穴埋めとして配置されたのが「雪嵐」型駆逐艦である。この艦は「土佐」とともに独逸から譲渡されたフランス製の「モガドル」型駆逐艦である。排水量は3000t近くあり、速力は39ノットを叩き出す高速駆逐艦だ。ただし日本海軍編入時に航続力を上げるために燃料タンクを増設したために、若干速力を落としている。それでも36ノットは出るが。
また独立機動艦隊本隊とは関係ないが、新たに潜水艦も増備されている。それが「伊606」である。この船も日本で建造された物ではなく、外国製である。
帝国海軍では、一応自国製潜水艦の番号は400までで充分とされ、それ以上の番号は外国製の艦に付けられる事となった。500番代が独逸から購入されたUボートに付与され、600番代以降は拿捕した潜水艦につけられる事となった。「伊606」も元はトラック島近海で、航空機の攻撃を受けて戦闘不能になり降伏した「ガトー」級潜水艦の1隻だ。
ちなみに、それ以前の0から5までの6隻は、いずれも拿捕し番号を付与したものの、結局損傷が酷かったために再利用が出来なかった艦だ、
こうして艦隊の方が新しい艦艇を迎えている一方で、独立艦隊の基地航空隊とも言うべき特試航空隊も最近になって強化されている。先日行なわれたガダルカナル戦で大活躍した彼らであったが、さすがに機体のいくらかは損耗している。その穴を埋めるべく、新たに独逸から供与された機体が配置されている。
そのドイツ製の機体とはJu88双発爆撃機であった。決して最新型ではないが、日本の爆撃機に比べれば小ぶりでありながら爆弾搭載量が大きい使いやすい機体であった。本来はフィンランド空軍に売却される予定であったが、当のフィンランドがパイロット不足を理由に購入を中止したため、急遽日本に売却した機体であった。
スエズ運河を奪取し、マダガスカル島をも手中に治めたナチス・独逸はこの時期それまで枯渇していたアジア産の資源を手に入れんと、様々な方法を用いていた。戦艦「土佐」の譲渡や、航空機の売却もそうだった。
ちなみにこの手段はその他の国にも行なわれている。例えばタイにはフランスで捕獲した「モホーク」戦闘機や「ドヴァティ−ヌ」戦闘機を格安で売却し、イタリアに発注していた巡洋艦「タクシン」級の回航に協力している。
またチャンドラ・ボース率いるインド国民軍には、北アフリカ戦線で捕獲した英国製装備を、中華民国南京政府には中古ながら3号戦車やMe109戦闘機をやはり格安値で売却している。
こうした独逸の施策によって、アジア各国の兵器や科学技術は大幅に進歩しつつあった。しかしそれはいずれ語るべき別の話である。
とにかくそういうわけで特試航空隊も戦力を回復し、やはり南方へと進出して訓練中であった。特試航空隊は独立艦隊系の組織の中では新兵の率が高く、この時期は月月火水木金金の毎日であった。
新たに独立艦隊司令官となった近江中将は、各部隊を連日視察し、その練度を確認していた。この日も彼の姿はブルネイ郊外の飛行場にあった。
「うーん、爆撃隊の腕も大分上達したね。」
今正に上昇していくJu88、日本名「天狼」を眺めながら、彼は隣に立つ副官に言った。
「はい。ほぼ毎日にわたる飛行訓練の賜物です。」
「そうか、大いに結構。だが、搭乗員にしっかり休みも取らせなければいけないな。本番で疲労困憊で飛べないとなったら末代までの恥さらしだからな。」
「わかっております。」
「陛下からお預かりし、桑名大将から託された我が艦隊の将兵一兵たりとも無駄に死なせるわけにはいかんからね。これまでは勝利してこれたが、明日も勝てるという保障はどこにもない。万全の準備を持って次の作戦に望み、我々は勝利する。それが我々に課せられた義務だ。」
「仰る通りであります。」
副官も頷いた。その後2人とも無言で滑走路から飛び立つ飛行機を見ていたが、最後の機体が離陸するのを見て、近江はボソッと呟いた。
「将兵たちが頑張っている以上、俺たちもしっかりしなきゃな。」
独立艦隊新装備 「雪嵐」級駆逐艦
全長137,5m 排水量2900t 速力36ノット
武装 12,7cm両用砲連装4基
40mm連装機関砲2基
25mm連装機銃4基
61cm4連装魚雷発射管2基
爆雷投射機、対潜砲他
独逸から譲渡されたフランス製の「モガドル」型駆逐艦。兵装は全て日本式に改められた。原型時代は39ノットの高速駆逐艦であったが、改装で燃料タンクが追加されたために速力は減じている。排水量は「天龍」級軽巡に匹敵する。主砲である12,7cm両用砲はアメリカ製の砲を元にコピーされた新型砲。
同型艦「春嵐」「晴嵐」「秋嵐」
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