決戦前夜
翌日未明、ガダルカナル島沖合いに到達した砲戦部隊は、ヘンダ−ソン飛行場ならびに周辺にある陸上部隊の基地へ向けて砲撃を開始した。
「撃ち方始め!!」
砲戦部隊旗艦である「背振」の艦橋内に、艦長である大内大佐の号令が響く。それと同時に2基の主砲が砲撃を開始した。
ドドーン!!
「長門」級が降ろした40cm45口径砲が闇夜に鮮やかな発砲炎と、凄まじい轟音を出現させる。それに数秒遅れる形で同型艦の「多良」も砲撃を開始した。
2隻に積まれた40cm砲は合計4基8門。いずれも「長門」級戦艦が改装時に降ろしたものや、八八艦隊計画の戦艦用に準備されたものなので、現在「長門」級が使用しているものよりワンランク性能は低い。それでも相手が陸上基地なら、悪魔的な威力を発揮する。しかも今回使われているのは三式改対地砲弾である。
艦艇の主砲用に開発された3式弾は、砲弾内に多数の弾子が詰められている構造で、空中で弾子が飛び散って、目標とする敵航空機に大きな被害を与えるという原理であった。これまで使われてきた榴弾よりも発火性の高いこの砲弾は対空攻撃に効果を発揮する物と思われていた。
一方で、広範囲の敵を攻撃できることから、これまで効果が疑問視されていた対地攻撃でも大きな効果を発揮する物と予想され、そのため信管を調整した対地用砲弾としての開発も進められていた。
その対地用3式弾が今回2隻の打撃艦に先行試験の目的で搭載されていた。
発射された砲弾は、射出された水偵が投下した照明弾に照らされた飛行場やその周りの基地陣地に降り注いだ。それによる打撃は米軍陣地に大きな被害を与えた。なにせ陣地の多くは天蓋や屋根のない吹きさらし状態である。そこに燃える弾子が降って来るのだからたまらない。
機銃陣地や、砲座、駐車されていた車両が次々と燃え上がった。さらに走り回る兵士の中にも、弾子が直撃する不運な者が出た。アクション映画のように燃え上がる兵士が地面に突っ伏してのた打ち回るのを、他の兵士たちが消火器を持って消しに掛かる。
まるであらゆる者を焼き尽くすように降り注ぐ砲弾に対して、兵士達はただ塹壕に篭って砲撃が終わるのを待つしかなかった。
砲撃は30分ほどで終了し、砲戦部隊は引き上げた。本来ならもう少し続けて徹底的な攻撃を加えたいところであった。しかしガダルカナル島には艦艇に対して攻撃できる武器など全く無かったが、ルンガ泊地やツラギには魚雷艇や駆逐艦が停泊しているのが確認されているので、対地砲撃ばかりも行なっていられなかった。現にツラギからは複数の魚雷艇が出現している。幸い発射された魚雷は命中しなかったが、狭いソロモン海では小型艦艇の脅威は大きい。
大内大佐は水偵の報告から砲撃は充分と判断した。実際ガ島米軍基地は陣地の多くに打撃を受けていた。人員の被害こそ最小限で済んだが、やはり吹きさらし状態だった砲や機銃陣地の被害が甚大だった。
こうしてガダルカナル島の米軍基地は昼間の空襲と併せて相当な打撃を被ったのであった。
砲撃を終えた砲戦部隊は全速でガ島近海を離脱し、航空戦隊との合流を急いだ。
砲戦部隊によってガダルカナルの米軍基地が大打撃を被った事は、日本軍のみならず、すぐにやられた側の身内である米軍機動部隊にも届いた。
「やってくれたなジャップ!!」
空母「エンタープライズ」の艦橋で、米17任務部隊司令官のハルゼー中将は電文を見るなりそう吐き捨てた。
昼間の空襲に引き続いて味方は一方的にやられっ放しで、戦いの流れは完全に日本側の物となっていた。彼にとっては歯がゆい事この上ない。
「ツラギから出撃した魚雷艇部隊からの報告では、この部隊に空母は確認されなかったとのことです。」
参謀長であるブローニング大佐が情報を付け加える。
「大方戦艦とは分離しているんだろう。昨日からの索敵報告では、空襲した日本艦隊以外に敵を確認した報告はない。それに空母を動きが制限される狭いソロモン海にいれるのは常識的に見ても不適格だ。」
後先考えず猪突猛進するとよく思われるハルゼー中将だが、さすがに開戦前から空母に乗っているので、それなりに空母の扱い方をわかっていた。
ちなみに、ハルゼー中将が戦艦と言ったのは、米軍は打撃艦の存在を知らないためであった。
「おそらく連中は夜明け前後に合流して艦隊を組みなおす筈だ。その時が攻撃するには好都合だが、内の搭乗員の腕では夜間に敵を発見する事は出来まい。」
レーダー技術では日本の一歩先を行っていると自負している米海軍にしても、この時点ではまだ優秀な機上レーダーは発明されていなかった。目だけでは夜間灯火管制して進む海上の目標を見つけるのは難しい。
「となるとどちらが先に敵を見つけるかにかかっているな。ブローニング、偵察機の数を増やして、発進も少し早めてくれ!!」
ブローニングはピシッと敬礼して答えた。
「わかっております。」
米機動部隊は独立艦隊への牙を研ぎつつあった。
一方米機動部隊が出港している事を確認していないものの、独立艦隊は常に敵の動きに警戒していた。
「砲戦部隊は予定通り砲撃を終えたな。合流も予定通り出来そうか?」
桑名司令官が近江参謀長に尋ねる。
「不測の事態さえなければ、日の出30分前には合流できるはずです。」
「そうか。合流中に敵の攻撃を受けるようなことになったら大事だからな。」
既にガダルカナル島の基地は壊滅しているので、攻撃してくるとすれば潜水艦か敵機動部隊である。そして最大の脅威が敵機動部隊だった。
「もし敵機動部隊との戦いになったら時間の勝負になる。杞憂でなら良いが、万が一本当に居たら先日の第二次ミッドウェイ海戦の二の舞となってしまう。早くその存在を確かめたいのだがな。」
敵機動部隊が基地としているエスピリット・サント島は日本の偵察機の偵察圏外だった。そのため、敵機動部隊の出撃に関する情報は潜水艦と艦隊の偵察機のみが頼りだった。
「搭乗員たちには悪いが、偵察機の出撃は出来うるだけ早くに始めてくれ。一分でも1秒でも良い。」
「わかりました。ところで、司令官も朝からずっと艦橋に詰めっぱなしです。少しお休みになっては如何です?」
参謀長が気遣いの言葉を掛けて来た。
「そうか。では悪いが仮眠を取らせてもらう。」
「は!」
桑名は他のスタッフにその場を任せて、仮眠を取るため司令官室へと向かった。戦いは目前に迫っていたが、体調を整えるのも軍人の仕事だった。 |