異次元世界大戦 独立艦隊海戦記(27/67)PDFで表示縦書き表示RDF


異次元世界大戦 独立艦隊海戦記
作:山口多聞



米機動部隊出撃


 ヘンダ−ソン飛行場壊滅の報は、米軍に大きなショックを与えた。同島の航空機が使用不能になったとあれば、いつでも日本軍による上陸を許したも同然となったからだ。

 もっとも、この時点で日本側が用意していた上陸兵力はラバウルに集結中の一木支隊第一悌団916名のみで、その装備は数門の歩兵砲などの小型砲と機関銃、そして通常の歩兵用装備のみに限られていた。

 この部隊は6月のミッドウェイ攻略作戦ではミッドウェイ島へ上陸する予定だった。だが結局同島攻略が中止されたために、グアムで待機していた部隊だ。

 対するガダルカナル島を占領する米海兵隊は総兵力1万2千と12倍以上である。その装備も戦車を含み、一木支隊を圧倒していた。ただし海兵隊側にも弾薬や食料が心細いという事情はあった。

 これはラバウル航空隊のしつこい空襲で揚陸がままならない日が数日間あったからだ。また輸送船団を守る護衛艦艇の不足という事情もそれに追い討ちをかけていた。

 米軍としては一刻も早くガダルカナルへ増援を送る必要に迫られていた。そこで取りあえず3隻あった空母の中で、航空機の損害が少なかった2隻を選んで出撃させ、日本機動艦隊を追い払う事にした。

 こうして臨時編成されて出撃したのが、ハルゼー中将率いる第17任務部隊であった。編成は損失した航空機の穴埋めの機体と執り合えず一回分の出撃に必要な物資を積み込んだ空母「エンタープライズ」、「ワスプ」に重巡2、軽巡1、駆逐艦6という貧弱な物だった。それでも、この時期宝石よりも貴重と例えられた空母を2隻も出す事は大判振る舞いだった。

 アフリカ方面では、英国海軍の空母不足の隙をついてアフリカ軍団への補給を行なった独逸軍が最反攻に転じ、エジプトの英軍は窮地に追い込まれていた。そのため英国のチャーチル首相は空母「ワスプ」、「レンジャー」の太平洋への引抜きを渋った。

 アメリカのルーズベルト大統領としても、欧州戦線が第一で、太平洋方面は第二であったが、予想以上の日本軍の強さにその考えを改めねばならなかった。

 第二次ミッドウェイ海戦で日本軍の侵攻を一時的に頓挫させはしたが、それでも日本軍の進撃が止まったわけではなく、さらに米太平洋艦隊と日本連合艦隊の戦力差はあと1年は埋まりそうになかった。

 だから、大西洋からはどうしても戦力を引き抜く必要があった。特に海軍力は最もたる物であった。

 結局、英国本土へ派遣している第8航空軍の戦力増強、ならびに貸与武器の割増を条件に、「ワスプ」と「レンジャー」をパナマ運河経由で太平洋へと派遣した。

 その貴重な空母までも投入して行なったガダルカナル反攻作戦は、日本側の素早い反撃によって、暗雲が垂れ込めつつあった。

 その状況を打破すべく出撃した第17任務部隊も日本側に比べて戦力が圧倒的に劣っていた。だが艦隊司令長官のハルゼー中将は強気だった。

 ハルゼー中将は日本側の山口多聞中将とよく比較される猛将である。「キルジャップ!キルジャップ!!キルモアジャップ!!」(日本人を殺せ!日本人を殺せ!もっと殺せ!!)という言葉で将兵を鼓舞したのは歴史上でも有名な事である。

 前回日米の空母が激突して行なわれた第二次ミッドウェイ海戦では原因不明の皮膚病を患って出撃できず、代わりにスプルアーンス中将が機動部隊の指揮を執っている。

 だから今回がハルゼー中将にとっての初めての本格的な海戦だった。

 さて、緊急出撃した米機動艦隊に対して、ガダルカナル空襲を成功させた独立艦隊は砲戦部隊と航空戦隊を分離した。これは多島海であるソロモン諸島では、動きが制限されて空母を有効利用出来ない上に、魚雷艇や駆逐艦などの奇襲を受けやすいために対する処置であった。

 砲戦部隊は2隻の打撃艦に巡洋艦「普賢」、そして「松」型駆逐艦であった。航空戦隊はその他の艦艇である。砲戦部隊の指揮はインド洋海戦で英戦艦「ウォースパイト」の拿捕という戦功を上げた打撃艦「背振」の艦長である大内大佐が執る。

 同戦隊はガダルカナル島近海まで接近し、上陸部隊の上陸支援としてその戦艦級の主砲で残存する基地施設を粉砕する予定であった。一方分離した航空戦隊は、追いついてきた補給艦から航空機用の燃料と弾薬を受け取って再攻撃に供えることとなった。













「近海に米艦隊の存在は確認できたかね?」

 航空隊が戻り、砲戦部隊を分離した後の会議で桑名司令官が幕僚たちに聞く。

「現在の所、ツラギ方面に若干の小艦艇の存在が確認されている以外ありません。連合艦隊の潜水艦、ラバウルを始めとする基地航空隊からも通報はありません。」

 通信参謀が持っている紙情報を読み上げる。

「米機動部隊がエスピリット・サント島へ撤退したのは確認されています。それ以後の動きは不明です。ラバウルの零戦隊が多数の撃墜を報告していますから、恐らく航空機の補充を行っているものと思われます。ただし、だからと言って出撃していないという確証はありません。」

 第二次ミッドウェイ海戦では米機動部隊が出てこないという先入観が大きな被害を受ける要因の一つとなった。そのため、桑名はあらかじめ「思い込みで判断せぬように。」という言葉を徹底させていた。

 その成果がここで現れていた。

「万が一出てきた場合、米機動部隊の空母の数は多くて3、少なくて2と思われます。」

 航空参謀が言う。

「その根拠は?」

「最大数はガダルカナル島近海で目撃された空母数と、現在太平洋方面に回航されている米空母の数から推定しています。最低数は敵がこちらの艦隊構成を把握しているという前提から判断しました。」

「良い判断だ。」

 そう言って桑名は時計を確認した。間もなく日が沈む時間である。この日は第一次攻撃の戦果確認で追加攻撃の要なしと判断されて、偵察隊以外の航空隊は出撃していない。

「まもなく日暮れだ。敵機動部隊が出てきているにしても、今日の勝負はありえない。だから脅威となるのは潜水艦と水上艦艇だ。対潜、対水上警戒を厳にして明日の攻撃に備えよ!」

「は!!」

 幕僚たちが一斉に敬礼した。

 独立機動艦隊はとりあえずガダルカナル北洋上で待機しつつ、翌日の攻撃に備えた。ちなみに敵機動艦隊が出てこない場合は、ツラギ方面に残存する敵基地施設や艦艇を空爆する予定になっていた。

 一方ハルゼー中将率いる第17任務部隊は日本機動部隊を求めて、30ノット近い高速でガダルカナルへ一路向かっていた。

 2つの機動部隊が、今まさに南太平洋で激突しようとしていた。


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