異次元世界大戦 独立艦隊海戦記(23/67)PDFで表示縦書き表示RDF


異次元世界大戦 独立艦隊海戦記
作:山口多聞



前線へ


 ガダルカナル島を巡る戦いが始まったてから2日後の8月9日、独立機動艦隊はラバウル港に入港した。湾内には現在少数の小艦艇と輸送船がいるのみで、閑散としていた。ここを母港にしている第8艦隊は、現在損傷艦をトラック島にむけ出港させ、残存艦もショートランド泊地に進出しているためいなかった。

 独立機動艦隊は、やはりラバウルに基地をおく第11航空艦隊に現在のガ島の状況に関する資料を送ってもらうよう打診した。

 その求めに応じて、数時間後旗艦「天城」に資料が届いたが、それを見た首脳陣は大いに落胆する事となった。

 提供されたのは少数の不鮮明な写真と、わずかな資料のみだったからだ。現地に米艦艇がどれほど展開しているのか、現在ルンガ飛行場(ガ島飛行場の日本名)がどのような状況になっているのか具体的な情報はなく、その多くが推定値だった。

「これでは現在ガ島周辺がどうなっているのか、まったくわかりません。」

 資料を見せられた参謀の1人がそう言って嘆いた。

「うーん、せめて空母が何隻いるかがわかるだけでも助かるんだがな・・・」

 さすがに桑名司令もこれには頭を抱えてしまった。

「こうなると、我々は独力で情報把握に努めねばなりませんね。」

 近江参謀長の言葉に、複数の参謀が頷いた。

「そうだな。しかしそうなると、「阿蘇」の竣工が間に合わなかったのが悔やまれるな。」

「阿蘇」とは捕獲戦艦「ウォースパイト」の主砲などを再利用して建造されている打撃艦である。5月の中旬から建造に着手しているが、竣工予定は11月の初めであった。同艦には水上偵察機4機が搭載される予定だったから、それが使えれば艦隊の偵察能力が大幅にアップしていたことは間違いなかった。

「まあない物ねだりしてもしょうがないか・・・通信参謀、特試航空隊はどうした?」

 桑名は通信参謀に問い掛けた。

「特試航空隊は先ほどトラック島まで進出したという報告がありました。天候の不順などがなければ明後日にはラバウルに前進できるでしょう。」

 先日編成されたばかりの特試航空隊は、一応大本営直轄の飛行隊である。しかし、独立艦隊同様、その細かい方針は大本営の作戦方針にさえ従えば、あとは現地指揮官の裁量に任されていた。そこで今回のガ島支援任務では、独立艦隊との共同作戦を行なうために、一時的に独立艦隊司令官の桑名が命令権を持っていた。

 その特試航空隊は、編成後さらに陸軍や海軍が以前に捕獲していた航空機を複数編入し、現在はP40戦闘機36機、F2A「バッファロー」12機、A20「ハボック」16機、B25「ミッチェル」12機となっている。

 P40と「バッファロー」はそれぞれフィリピンや蘭印、マレー方面でも多数の機体が捕獲されていたので、用意に数を揃える事が出来た、また両機種ともそれぞれ落下増槽の懸架装置を増設し、変わりに重量軽減のために一部の武装や装甲板を撤去している。

 この2機種とも緒戦で一方的に撃破されたために日本軍内からはやられ役の2線級機というイメージが強い。確かに2機種とも旋回性能や航続力では日本機に大きく劣るが、その代わりに頑丈で取り回しが非常に楽という欧米機共通の特徴があった。また、使い方次第では充分な戦力となりえた。現実に「バッファロー」のフィンランドにおける奮戦は有名であるし、P40もしばしばビルマにおいて陸軍の「隼」戦闘機を翻弄していた。

 特試飛行隊司令の岩倉大佐(先日進級)は、これら欧米機の特徴を最大限に生かすために、機体の運用に付いては徹底的な編隊空戦と急降下一撃離脱戦法に徹するようパイロットたちを教育した。

 最初はこの方針を嫌がった者も多かったが、機体を操るうちにその機体が持つ特徴からそうした戦法が理に叶っている事を理解し、身に付けていった。

 今や特試飛行隊は帝国内でもっとも上手く敵機を操れる飛行隊となっていた。その特試飛行隊の全戦力約80機が戦列に加われば、独立艦隊の艦載機約150機と共に敵を圧倒できるはずだった。だから、桑名としては彼らの到着を待って攻撃をかけたかった。

 特試爆撃隊に刺激されたわけではないが、今回の作戦で用いられる独立艦隊の艦載機は前海戦の時とは違う。インド洋海戦で多数の被弾機を出した1式艦戦と1式艦爆はそれぞれ補充機の不足から降ろされてしまった。また木製99艦爆「明星」も急降下爆撃能力の欠如は致命的な弱点とされて、やはり降ろされてしまった。

 その代わり今回搭載されたのは新鋭の試製零戦33型と、試製「彗星」22型だった。

 試製零戦33型は、零戦の改良型である32型の機体に出力1500馬力の「金星」62型エンジンを搭載し、さらにカタパルト発艦に備えて機体強度を強化した機体である。試験段階では最高速度592kmを記録している。これは21型よりも60km近くも優速である。

 もっとも、試製であるとおり改善点を多く残しているのも事実だった。例えば32型に若干の強度強化を施したのみであったので、風防などの改良可能な場所はそのままにされている。また急降下速度の上昇も20ノットのみだった。そのため、後に同機を改良して量産された53型では風防や武装配置、さらに機体強度の大幅見直しが行なわれ、最後の零戦として大活躍する。

 一方試製「彗星」22型は現在開発が進められ、部分配備が始まっている「彗星」11型の改修型である。「彗星」のエンジンは独逸のベンツ社開発のDB601エンジンを参考にした「熱田」発動機であるが、独逸製エンジンの特徴であるデリケートな仕組みは、日本の技術力では手に余った。「熱田」エンジンは故障を頻発した。

 これを開発段階から危惧した横須賀の航空技術廠内では、早期から空冷エンジン搭載機体の開発を平行させて進めた。その結果、零戦33型にも積まれた「金星」エンジン搭載機として製作されたのがこの22型だった。

 性能面では11型に比べて最高速度などで劣る事が確認されていた。そのため、11型と22型の先行量産期50機ずつを機動部隊である第三艦隊と独立艦隊でそれぞれ運用し、性能比較がなされる事となった。

 今回はこの「彗星」22型と、以前捕獲したアメリカ軍のSBD艦爆であるS式艦爆の混成部隊が艦爆隊の主力であった。ちなみに艦攻隊は今までどおりに97式2号艦攻であった。

 これら新鋭機と捕獲機、さらに在来機を駆使して独立艦隊は戦闘に挑もうとしていた。


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