異次元世界大戦 独立艦隊海戦記(17/67)PDFで表示縦書き表示RDF


異次元世界大戦 独立艦隊海戦記
作:山口多聞



伊301の快挙


 空母「フォーミダブル」の次に攻撃隊の目標となった戦艦「ウォースパイト」には、右舷側に巡洋艦「デリー」が随伴していた。

 巡洋艦「デリー」は旧式軽巡改造の対空巡洋艦で、複数の高角砲を主砲として搭載していた。日本でいえば、後に防空巡洋艦となった「五十鈴」が当てはまる。

 その「デリー」は「ウォースパイト」に敵機を近寄らせんとばかりに、高角砲と高射機関銃を空中の攻撃隊へ向けて乱射した。たちまち2機の艦攻が血祭りに上げられてしまった。

 これには隊長の秋田大尉も苦虫を潰したような表情をした。明らかに旧式の軽巡にしてやられたのであるから当然と言えば当然だ。

「全機へ、作戦変更だ。まずあの巡洋艦を攻撃して黙らせろ!!」

 無線を通じて伝えられた命令は、さっそく実行に移され、それまで「ウォースパイト」に向かおうとしていた各機は、「デリー」への攻撃を開始した。

 さすがに防空巡洋艦と言えど、同時複数攻撃はこたえた。数機に被弾させるまでは出来たが、20機全てを葬り去るなどいくらなんでも出来る筈がなかった。しかも、攻撃隊の搭乗員は撃墜された仲間の仇を討たんと燃えていたのだからなおさらだ。

 対空砲火を潜り抜けた艦爆、艦攻が次々と魚雷と爆弾を放つ。

「デリー」は必死にかわそうと舵を切ったが、偶然にもこの時雷爆同時攻撃になってしまったことが、「デリー」にとっての不幸となってしまった。魚雷はなんとか全てかわせたが、最終的に爆弾5発を受けた。その内2発が500kg爆弾であった。

 旧式巡洋艦にとって、この打撃は痛かった。あっというまに主砲の半分が使用不能となり、さらに速度も半減してしまった。そして、主砲塔弾薬庫がまもなく誘爆し、たちまち同艦は炎に包まれた。

 退艦命令が出されたのがそれから10分後、沈没したのはそれから40分後であった。

 だが「デリー」の犠牲は決して無駄ではなかった。この攻撃のために、残弾を有していた40機中30機が爆弾と魚雷を撃ち尽くしてしまったのである。そのため、「ウォースパイト」に攻撃できる機体はたったの10機となってしまった。

 厚い防御装甲で覆われた戦艦に対して、たった10機では撃沈はおろか、打撃を与えられるかさえ疑わしい。それでも搭乗員たちは果敢に攻撃を行った。

 だが、相手は腐っても歴戦の戦艦である。投下した爆弾は全て回避されてしまった。魚雷も命中はたったの1本だけ。これでは撃沈などとても無理だ。せいぜい小破である。

 最終的にその光景を見届けた秋田は、艦隊へ向けて戦果報告電を打った。

「敵東洋艦隊に与えたる打撃、空母「イラストリアス」級1、軽巡洋艦1、駆逐艦1撃沈確実。戦艦「ウォースパイト」に魚雷命中1。敵戦闘機約20機撃墜。」

 こうして攻撃開始後40分で、攻撃隊は引き上げた。彼らは「フォーミダブル」を沈めた高揚感と、「ウォースパイト」に致命傷を与えられなかった悔しさを胸に同居させながら帰還した。

 しかし、この時彼らは知らなかったが、「ウォースパイト」には深刻な事態が発生していた。それも、先ほどのたった1本の魚雷が起因となった物だった。

 実はこの魚雷、命中箇所が艦尾近くであったのだ。そして4軸のスクリュー軸の内、魚雷の命中した側の2軸が衝撃で湾曲してしまい、使用不能になった。加えて、スクリューを止めるまでの間に曲がった軸が隔壁や機関室を傷つけてしまった。

 艦尾への魚雷の命中は、即命取りとなる。これまでの戦訓が如実に示していた。ライン演習作戦で沈没した独逸戦艦「ビスマルク」、そしてマレー沖海戦で沈んだ「プリンス・オブ・ウェールズ」も、それぞれ艦尾に命中した魚雷によって、その後沈められる事となった。

 それを覚えていたサマービル提督は迷った。「ウォースパイト」の受けた被害は右舷側機関室の完全使用不能、さらに破壊された隔壁とスクリュー軸の間からの浸水であった。このため、出しえる速力は14ノットまで落ちてしまった。これではR級戦艦の21ノットよりも遅い。日本艦隊から逃げ切る事はほぼ絶望的であった。

 ここで艦を自沈処分する事も考慮しなければならなかった。だが、空母「フォーミダブル」を失った上、さらに戦艦1隻を失う事は許されざることだ。

 そこで、結局彼は旗艦を戦艦「リベンジ」に移し、「ウォースパイト」に駆逐艦と軽巡を1隻ずつつけて、別コースでマダガスカル島へ向かうよう命令した。

 しかし、これが「ウォースパイト」にとってはマイナスに働いた。実はこの光景を見ている者が海底にいたのだ。それは英東洋艦隊の追跡を行なっていた「伊301」潜であった。

 艦長の大月大尉は、その様子を確認すると、ただちにケーブルアンテナを使って、空母「天城」に報告電を打った。

「敵東洋艦隊分離す。我、損傷落伍た戦艦「ウォースパイト」を中心とする小部隊を追跡中。」

 その後位置に関してや、艦隊の陣容、針路を報告をしたが、その地点は空襲を行なった場所から西へ50km程しか移動していなかった。

 そこで桑名司令官は、第二次攻撃を考えた。しかし、第一次攻撃隊の機体の損耗が思ったより激しかった事。さらに搭乗員の疲労も蓄積も大きくなりつつあった事から、この攻撃は中止された。

 そこで、彼は4隻のR級戦艦が艦隊から分離したのことから、艦隊決戦を挑む事にした。

 こちらに戦艦はないが、主砲だけなら「長門」と同等の打撃艦「背振」級が2隻おり、さらに巡洋艦や駆逐艦の数では圧倒していた。負けるはずがなかった。

 桑名は空母2隻を艦隊の後方に下げると、打撃艦を先頭にして艦隊を進撃させた。向こうのスピードはジグザグ運動を行ないながらの14ノット、対しこちらは対潜哨戒を航空機に任せておけるので、直線コースでの22ノットが可能だった。これならなんとか追いつけるはずだった。

 そして、独立艦隊と英東洋艦隊の第2ラウンドが始まった。それは「伊301」の魚雷攻撃によって幕を開けた。

 同艦が狙ったのは、「ウォースパイト」の護衛を行なっていた軽巡洋艦「エンタープライズ」であった。大月大尉はまだ視界が聞く夕方、同艦に向けて4本の魚雷を発射した。

 相手はジグザグ航行を行なっていたが、速度は14ノットと低速であった。そして使用魚雷が酸素魚雷であったために、回避運動が遅れた。

 「エンタープライズ」に命中した魚雷は2本であったが、旧式軽巡にはそれで充分だった。同艦はあっと言う間に傾斜して沈没してしまった。

 魚雷を発射した「伊301」は駆逐艦の反撃を恐れて全速で逃げたが、当の駆逐艦は「エンタープライズ」の救助のために、「伊301」を追跡できなかった。

 こうして「伊301」は、敵巡洋艦撃沈と言う今海戦2回目の大手柄を上げたのであった。


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