東洋艦隊の誤算
翌日、独立艦隊は早朝から1式水偵と97艦攻による索敵を開始した。昨年の第一次ミッドウェイ海戦時は偵察機不足に苦労させられたが、今回は新たに空母1隻と、巡洋艦2隻が加わっているため、1回の偵察に投入できる機体が4機から6機へと増えている。
偵察機各機は艦隊乗員の機体を背負って、黎明のインド洋へと出撃していった。
対する英艦隊はどうしていたかというと、実はこの時マダガスカル方面へ向けて遁走を図っていた。戦わずして敵に背を向けるなど、言語道断と言いたい所ではあるが、航空戦力に大きな隔たりがある以上、無茶な行動は出来ない。
もっとも、当初は彼らもセイロン島救援のため東に針路を取っていた。ところが、セイロン島の基地機能が予想以上に早く壊滅してしまい、陸上基地からの支援が見込めなくなった。そのため、東洋艦隊司令官のサマービル提督は上のような決断を下したのである。
しかし、艦隊速力は20ノットが精一杯であり、かつ日本の艦載偵察機のスピードが彼らの予想より大きく勝っていた。大西洋や地中海では空母を保有していない独伊海軍に対して終始優位に立っていた英海軍であったが、その空母運用戦術や艦載航空機に対する考えは、日米に比べて大きく時代遅れな物となっていた。
英東洋艦隊首脳部は、大西洋やマレー沖海戦の戦訓から航空機の脅威については一応認識していた。しかし、そのスピードや集中運用戦術を完全に理解しているとは言い難かった。
そして偵察機発進から2時間後、ついに英艦隊が発見された。
「敵艦隊見ユ、空母1、戦艦3以上見ユ。速力18ノット、針路西、艦隊よりの距離450km。」
450kmなら航空機の行動半径に入っている距離だ。
「ようし、攻撃隊を全機発進させろ!!」
桑名司令官は間髪を入れず攻撃隊に発進命令を出した。既に格納庫と飛行甲板には爆雷装を済ませた攻撃機が並んでいた。搭乗員たちも、飛行機内で待機しいつでも発進できる態勢に入っていた。
発進命令が出ると、直ちに各機のエンジンが発動され、艦は合成風力を起こすために風上へと走り出す。今回発進する攻撃隊は全部で135機だ。故障機、偵察機と直掩用の12機を残しての全力出撃だ。
「発進!!」
甲板士官が旗を振ると同時に、先頭の1式艦戦が走り始める。その姿を、司令の桑名から1等兵に至るまで、手空きの乗員が手を振って、または万歳三唱をして見送る。
攻撃隊は15分掛けて発進を終えると、上空で大編隊を組んで一路西へと向かった。
その姿を、艦隊直掩の戦闘機隊は嬉しさ半分、悔しさ半分の表情で見送った。
「私たちも行きたかったな。」
そうボヤクのは、女子義勇兵の宇都宮特殊一飛曹だ。今回の攻撃隊編成に彼女らは1人も含まれていなかった。やはり女子をより厳しい戦闘に投入するのには艦隊司令部は躊躇してしまったらしい。
「そう言うな。お前達はまだ初陣なんだ。それに司令官たちも始めての女性兵士の扱いに四苦八苦しているらしいしな。」
小隊長の松阪少尉が無線を通してたしなめる。
「それが嫌なんです。私たちだって男と同じように戦える所を示したかったのに。」
「次があるさ、次が。今は命令されたことをするだけさ。それに、もしかしたら敵機が現れるかもしれん。警戒を怠るな!」
「了解!!」
だが結局、この後艦隊上空に敵機が現れることはなかった。
独立艦隊を発進した攻撃隊は、1時間半後に英艦隊を視認した。攻撃隊隊長の秋田少佐は、まず目標を空母「フォーミダブル」に定めた。敵の航空戦力を先に叩き潰す事にしたのだ。
一方、「フォーミダブル」からはアメリカより購入したF4F「ワイルドキャット」である「マートレット」戦闘機18機と「フルマー」6機が発進して、攻撃隊の護衛戦闘機と戦闘に入った。
この戦闘は数でも性能でも勝る日本側の圧勝で終わった。日本側が96式艦戦改1機の損失であったのに対し、英軍側は20機を失うというセイロン島上空での空戦と同じく一方的な戦闘で終わった。
戦闘機の妨害を受けることなく、攻撃隊は英東洋艦隊に襲い掛かった。この時英東洋艦隊主力である戦艦部隊は、周りに数少ない巡洋艦と駆逐艦を配して単縦陣で進んでおり、目標となった「フォーミダブル」はその最後尾に位置していた。しかも戦艦からは若干距離を離していた。
ここでもソマーヴィル提督の誤算があった。彼は1列に並んだ戦艦の対空砲火で日本軍攻撃隊に打撃を与えようと考えていた。そのため、戦艦に比べ防御力が低い「フォーミダブル」を最後尾に下げていたのだ。これが仇となってしまった。
彼自身は目標になるのは戦艦であると信じていた。しかし日本軍の攻撃隊は予想を裏切って最初に「フォーミダブル」に集中攻撃を加えた。
この時「フォーミダブル」に護衛としてついていたのは2隻の駆逐艦のみで、しかもその2隻とも対空砲火が貧弱なタイプであった。そのため、日本機の攻撃を止めることなど出来なかった。
少し離れた戦艦部隊も対空砲や主砲の榴弾を撃って、なんとか支援しようとしたが、最終的にこれも有効な支援とはならなかった。
結局、爆弾5発、魚雷4本を喰らった。爆弾の内「明星」の250kg爆弾3発はその分厚い装甲でなんとか止められたが、1式艦爆の500kg爆弾2発のうち1発は装甲を貫いて格納庫で爆発して、「フォーミダブル」に大打撃を与えた。さらに、魚雷も片舷に集中的に3本受けことが沈没を早めてしまった。
駆逐艦の1隻が魚雷に体当たりしてなんとか「フォーミダブル」を守ろうとしたが、結局それも徒労となってしまった。
片舷への魚雷の集中攻撃によって、「フォーミダブル」は攻撃開始40分後に浸水過多で横転、沈没した。こうして、英東洋艦隊最後の航空母艦は失われ、これが地中海戦線へ与えた影響は計り知れない物となるのである。
そしてまだ爆弾、魚雷を投下していなかった機体の矛先は戦艦と巡洋艦に向けられた。この時点で残弾を有していた攻撃機は約40機であった。戦艦を沈めるには心もとない数であったが、打撃を与えるだけなら充分であった。
「全機へ、目標変更。一番先頭を進んでいる「クイーン・エリザベス」級戦艦へ攻撃を集中しろ!沈めようとは思うな、とにかく行き足を少しでも下げるんだ。」
秋田隊長機が選んだ目標は、先頭を行く東洋艦隊旗艦の「ウォースパイト」だった。
|