インド洋作戦開始
昭和17年4月10日、独立機動艦隊に新たな命令が下された。それはセイロン島方面における残敵掃討だった。
4月5日から4月9日まで行なわれたセイロン島沖海戦で、南雲機動艦隊は空母「ハーミース」、巡洋艦「コンウォール」、「ドンセットシャー」を撃沈した。しかし、主力艦である戦艦や空母「フォーミダブル」、さらにセイロン島軍港機能にはたいした打撃を与えられず、攻撃は徹底を欠いていた。
そこで、独立機動艦隊はこれら残存艦艇ならびにセイロン島基地機能の完全破壊を行なう事となった。
艦隊は4月11日にブルネイを出港し、途中ペナン島で補給を受けた後インド洋へと入った。作戦決行予定日は4月21日であった。
「日本海軍の教師たる英国海軍との勝負ですか、腕がなりますね。」
空母「天城」艦橋で、近江参謀長が司令官席の桑名にそう言った。実際、帝国海軍は黎明期から最近に至るまで、英国海軍から大いに学んでいた。かの東郷平八郎元帥もイギリスに留学した人間である。
「そうだな。しかも、空母戦艦を含む大艦隊だ。前回はこちらの奇襲が成り立ったから良かったが、今回はそうもいかんだろう。気を引き締めていかにゃならん。」
この時点において、英東洋艦隊は壊滅したも同然と考える者が多かった。前年開戦直後に新鋭戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」、巡洋戦艦「レパルス」が陸攻隊に撃沈され、空母「インドミダブル」が捕獲されていた。
そして、今回の南雲部隊の空襲でさらに巡洋艦と軽空母を失っているから、そう思えなくもない。しかし、実際には旧式とはいえ戦艦5、正規空母1が残存しており強力な艦隊といえる。
日本軍は南方攻略を一通り終え、今後の作戦の主軸は対米戦となると予測されていた。だから、南方から主戦力が引き上げられることとなる。そうなれば、弱体化したとはいえ砲戦能力では強力な英艦隊がどこかを攻める可能性も捨て切れなかった。
そこで独立機動艦隊を持って完全に英東洋艦隊を封じ込めるのが作戦の主旨であった。しかも、さらにマダガスカル方面への遠征も考慮され、連合艦隊から高速タンカー2隻がつけられている。
このタンカーを守るために、伊豆の基地防衛用に残されていた4隻の海防艦と潜水艦「伊301」も呼び寄せられている。
つまりこの作戦は、独立機動艦隊の総力を上げた作戦であった。
4月20日、順調に進んでいるかに見えた作戦は一気に緊迫の度を高める事となった。この日夕方、英国の飛行艇「ショート・サンダーランド」が艦隊に接触した。ただし、見つかったのは機動部隊本体ではなく、その後方50kmを走る給油艦隊であった。
(日本艦隊見ユ。位置セイロン島の南東600km地点。仮装巡洋艦2、フリゲート4、速力18ノット。針路北西。)
この時英軍機は2隻のタンカーを仮装巡洋艦と見誤った。この時期インド洋で日本海軍の仮装巡洋艦戦隊が活動しているという情報が、乗員に誤った判断をさせたのだ。
ただ、もしこの時タンカーを空母としていたならば、その後の戦いは大きく変わっていただろう。なぜなら、この報告に英軍司令部は、インド洋を航行中の商船に警告を発しただけだったからだ。空襲が行なわれるなど全く予想していなかった。
翌日早朝、セイロン島南東400km地点に達した独立機動艦隊はセイロン島への攻撃隊を発進させた。戦爆連合の84機である。さらに30分遅れで、やはり戦爆連合の48機を発艦させている。
手空きの乗員達は万歳や、帽子を振って攻撃隊を見送った。
その30分後、独立艦隊上空に1機の航空機が接近してきた。
「電探室より報告、セイロン島方面より機影1、接近中。速力130ノット。艦隊上空まで15分!」
「敵機か!?それとも落伍機かな?」
桑名がつぶやくように言った。攻撃隊の中からエンジン不調などで落伍機が出るのは、この時代珍しい事ではなかった。
「とにかく、上空の直掩戦闘機隊に確認を取らせましょう。」
近江参謀長の進言は早速受け入れられ、上空の戦闘機隊に無線通信で連絡が行われた。
「艦隊北西方向より接近する不明機あり。敵機であるならば直ちに迎撃せよ。」
「了解!」
命令を受けた「翠鶴」戦闘機隊の松坂少尉はさっそく部下の一部を率いて確認に向かう。
「宇都宮、滝口、付いて来い!!」
「「了解!!」」
帰ってきたのは、高い済んだ声だった。彼が今回率いているのは、いずれも初陣の女子飛行兵たちだった。彼女らは松坂の動きにしっかり付いて来た。
「いいぞ。訓練の成果がしっかり出ているな。」
松坂は2週間の猛訓練で、練度が大いに上達した彼女らに満足しながら不明機を探す。この日の雲量は約4。晴れてはいるが、そこまで快晴というわけではない。
彼は目を凝らして辺りを探すが、中々見つからない。
「どこにいる?」
すると、滝口正美特殊三飛曹が声を上げた。
「いました!11時下方です!!」
松坂は直ぐにその方向に視線を向けた。すると、双発機が1機自分たちより500m程下方を飛行しているのが見えた。
「敵機だ!!英軍の「ブレニム」だ!!」
「ブリストル・ブレニム。」かつては米軍のB10やドイツのHe111とともに戦闘機より早い高速爆撃機として一世を風靡した機体であった。現在は流石に旧式化していたが、侮れる相手ではなかった。
「単機だと偵察だな。ようし、撃墜する!2人とも機銃の装填を確認しろ!訓練どおりの順番で攻撃しろ!それと敵機との距離に注意しろ!」
「「了解!!」」
「よし、突撃だ!!」
3機は一斉に「ブレニム」へ向けて突撃を開始した。
最初敵機は直線飛行を続けていたが、松坂が距離200程まで接近した所で、気づいた。上部にある銃座から発砲がなされ、一気に急旋回した。
「くそ!気付かれた。」
松坂は悪態を付くと、機銃を発射した。7,7mmと、12,7mm機銃の曳光弾が空中に弾道を鮮やかに残す。
この攻撃は1発も当らなかった。しかし、ブレニムは攻撃に驚いて動きを乱した。そこへすかさず2番機の宇都宮特殊一飛曹が攻撃をくわえてた。この攻撃でエンジンに被弾した「ブレニム」は急激に速度を落とした。
それでも落ちない。
「滝口、留めを指せ!いいか、接近して撃て!!」
「了解!!」
松坂は戦果を部下に譲ることにした。ちなみに接近しろといったのは、間合いを詰めないと命中を得にくいからだ。
ダダダ・・・・
滝口機が10秒ほど攻撃を行うと、残っていたエンジンも発火した。そして、ついに耐え切れなくなったらしく、乗員が脱出した。撃墜である。
「ようし、1機撃墜だ。よくやったぞ2人とも!!」
これが女子義勇兵の初戦果であった。しかし、残念ながら「ブレニム」は撃墜前に無電を発進していた。
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