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どんぐりダンス(ブタのポルキーニョ②)

作者:れむあないむ
 ポルキーニョが背負うカゴの中で、バミットは居眠りをしていました。森に着いたら起こしてくれと言っていた、なんとも身勝手なリスです。ドングリを集めたいのはバミットなのに、全くやる気が感じられません。
 季節は秋になり、あちらこちらで木々の葉が色づいています。ポルキーニョがバミットの誘いに乗って森にやって来たのも、鮮やかな紅葉を楽しみにしていたからでした。
 そして、思った通り! ようやくたどり着いた森の紅葉は、とても鮮やかで、風が木々の枝を揺らせば、まるで色づいた葉がポルキーニョを踊りに誘うために招いているようでした。
「うわぁ、すごいよここ。なんて、綺麗なんだろ!」
 ポルキーニョは、思わず駆け出しました。カゴの中でバミットが大きく揺さぶられて慌てふためいてもお構いなしです。
挿絵(By みてみん)
 風景の色鮮やかさに、気持ちが浮き立ちます。なんて、綺麗なのでしょう。夏の緑が太陽の光を照らし返し輝いていたのに比べ、秋の葉は淡い空を背景に色を浮き立たせていました。
 ポルキーニョは、木々の間をあちらこちらへ走り抜け、手を広げて空を見上げ、踏みしめる落ち葉の感触を楽しみました。どこを向いても赤や黄色などの色たちが、ポルキーニョを包み込んでくるのです。思わず声を出して笑い、手で落ち葉をかき集めては、上に向かってまき散らします。木の根に足を引っかけて転んでも、そのままカゴを放り出して地面の落ち葉の上を転げ回ります。
 ああ、なんて素敵なんだろう。仰向けに寝転がり、秋晴れの空に透かされた葉を眺めながら、ポルキーニョは一人心地ます。
 しばらくそうしていると、ようやくドングリ集めのことを思い出し、バミットがいないことに気が付きました。
「あれ、バミットどこ言った?」
 カゴの中にはいませんでした。落ち葉が少し溜まっているだけです。
「ぶふぅ、また勝手にどこか行ったんだな。いつも、そうだ」
 大きく鼻からため息も漏れますが、バミットの気ままな性格には慣れていたので、ポルキーニョは呆れるだけでした。
「どうせ、ドングリもおいらに集めさせるつもりなんだ……」
 文句も言ってみましたが、ポルキーニョはわかっていました。バミットがいたとしても、ドングリを拾い集めるのは、ほとんどポルキーニョの役目になっていたでしょう。体の小さいバミットは、両方の頬に詰め込むのが精一杯なのですから。
 秋に集めたドングリは、冬場のバミットの食料になります。森に来るのも、毎年のことなのですが、それでも森の紅葉した景色には毎回感動させられます。
 ポルキーニョはどんぐりを集め始めました。どんぐりは、木の根本付近の落ち葉をかき分ければ、すぐに見つかりました。カゴをいっぱいにするのはさすがに無理でしたが、あちらこちらに移動して程々に集め終わった頃、バミットが現れました。
「疲れた、疲れた。探したんだぞ、ポル。俺が、カゴから落ちたことに気づかなかっただろ? ポルが急に走り出すから、カゴから落ちたんだ」
 口をもぐもぐさせながら言われても、言い訳にしか聞こえません。まあ、どこかでのんびりとドングリを食べていたのでしょう。
 ポルキーニョがじっと睨むと、バミットは気まずそうに地面からドングリを拾い、カゴに投げ込みました。ちらちらとポルキーニョの顔を見ながら繰り返し投げ込みますが、小さな体のバミットではどうにもはかどりません。
 ポルキーニョは、そんなバミットをよそに、紅葉した綺麗な葉を一枚見つけて、腰のポシェットから取り出した小さな宝箱にしましました。友人であるフィロへのおみやげです。
「そろそろ、帰る?」
「そうだね、へへへ」
 ポルキーニョの提案に、ようやくとばかりに疲れたことをアピールしながら、バミットはカゴに潜り込みました。ポルキーニョは、その上から落ち葉をたくさん被せました。

◇◆◇

 フィロの家の玄関まで延びる小径には、淡いピンクから赤に至るまでの様々なコスモスが咲いていました。やわらく控えめな、森の紅葉した葉とは違う色使いの秋をポルキーニョに感じさせてくれました。
 ポルキーニョは、呼び鈴を鳴らしました。
「はーい」
 ドアが開き、エプロン姿のフィロが現れます。家の奥からは甘く香ばしい匂いがしてきて、ポルキーニョの鼻の穴をくすぐりました。
「こんにちは、フィロ」
「いらっしゃい、ポル。ちょうど、クッキーを焼いていたのよ。さあ、中へどうぞ」
「ありがとう」
 フィロは、若い魔法使いでした。一人で住んでいて、いつも魔法の研究とお菓子作りの研究をしています。ポルキーニョは、よくお茶に招かれて、お菓子をごちそうになっていました。
 そして、いつも「おいしい」と伝えると、フィロはかわいい笑顔でフリルの着いたスカートを少し持ち上げて「どういたしまして」とお礼をします。服装は地味で、フィロが言うには「魔法使いなんてこんなものよ」ということでしたが、赤毛を束ねて背中に垂らしたフィロの容姿は、庭のコスモスたちと同じようにかわいらしく思えました。
 テーブルの席でフィロが淹れた紅茶を飲みながらクッキーを頬張るポルキーニョの鼻を、フィロは優しく撫でました。
「どんぐり集めは、どうだったの? たくさん集まった?」
「聞いてよ、フィロ。バミットたらさーー」
 ポルキーニョは、森でのことを話しました。フィロはうなづきながら優しく微笑みます。いつでもフィロは、ポルキーニョの話をよく聞いてくれました。時には誉めてくれたり、励ましてくれたりしました。
 ポルキーニョは、そんなフィロが大好きでした。
「これ、あげる。プレゼントだよ」
 腰のポシェットから、小さな宝箱を取り出してフィロ差し出します。フィロがフタを開けると、中には一枚の赤い葉っぱが入っていました。森で見つけた紅葉です。宝箱に入れておいたことで、さらにすてきな贈り物になりました。フィロが大切な宝物にしてくれることをポルキーニョは願います。
「ありがとう。ポル。とても綺麗。この赤は、森の紅葉を見て感動したポルキーニョの色の記憶。大切にするわね」
 フィロは独特な言い回しを使うと、棚から本を取りだして間のページに赤い葉を挟みました。ポルキーニョが、その本をじっと見つめます。魔法使いの部屋にあるものは、どれも気になるものです。どこに不思議な魔法が紛れているかわからないのですから。
「紅茶のおかわりを淹れるわね。少し待っていてちょうだい」
 フィロはポルキーニョに宝箱を返すと、お湯を沸かす為にキッチンへ消えました。
 ポルキーニョは息を潜めて、フィロがすぐに戻ってこないことを確認すると、立ち上がって部屋の中をうろつき始めました。以前に、フィロから部屋の中の物を勝手に触ってはだめだと厳しく注意されていましたが、興味心には勝てません。
 窓際の小さな机の上に置かれた、しおりの挟まった本を見つけました。
「魔法の呪文書かも」
 小さな声でつぶやくと、ポルキーニョはしおりの挟まったページを開いて、ページの最初に書いてある文字を声を小さくして読んでみました。
 すると、不思議な感覚がしました。誰かが、ポルキーニョの耳元でささやいてくるような感じです。たった今、ポルキーニョが読み上げた言葉が、耳の中で何回も音楽のメロディーのように流れてくるのです。
 フィロが戻ってくる前に、ポルキーニョは席に戻りました。まだ、不思議な感覚が残っています。
「どうしたの、ポル? 紅茶を淹れるわよ」
「う、うん。ありがとう」
「変なポルね」
 フィロは、ポルキーニョの鼻を優しく撫でました。ポルキーニョは、どきどきしながら、その優しさに甘えるのでした。

◇◆◇

 秋が深まり、紅葉していた葉も、その多くが散っていきます。
 箒で庭を掃くのが、ポルキーニョの役目でした。一カ所に秋を山積みにしていくことは楽しく、作業が嫌だとは思いませんでした。鼻歌を歌いながら、さらにがんばります。
「ブシュン!」
 吹いてきた秋風が落ち葉を散らし、ポルキーニョの鼻の穴もくすぐりました。日が暮れてきたので、空気も冷えてきたようです。
「さ、これを片づけたら終わり」
 家の中では、ペンウッドが夕食を作っています。暖かいスープを飲めば、体も温まることでしょう。
 ポルキーニョは、ちりとりに落ち葉を入れ始めました。鼻歌もテンポが上がり、同じせりふを繰り返しながら箒を動かします。
 ふと、気が付きました。
「あれ? この歌って……」
 無意識に口にしていたのは、フィロの家でこっそりと見た本に書いてあった文字でした。意味を感じない言葉の羅列でしたが、不思議とリズムがあり、気づかないうちに口ずさんでいました。
「ポル!」
 突然現れたバミットが、せっかく集めた落ち葉の山に、飛び込んで来ました。ポルキーニョは驚いたものの、いつものいたずらだろうと思いました。
「邪魔しないでよね。もうすぐ終わりなんだから」
 再び、鼻歌を歌いながら箒を動かします。バミットが箒の周りをうろついて邪魔をしても無視します。何回も落ち葉と一緒にちりとりに入っては、また出てきても知らんぷりです。
 やがて、全ての葉をちりとりに移すと、納屋の中にある大きな袋に移しました。これで作業終了です。
 夕日が沈み始めています。だいぶ薄暗くなってきていました。
「バミット、どこ行った?」
 思い出したようにポルキーニョは呟きました。ちりとりの中にも箒の陰にもいませんでした。周りを見回してもバミットはいません。
 ですが、ポルキーニョはそれ以上探すことはしませんでした。きっと、居心地のいい住処に帰ったのでしょう。バミットは、いつも気まぐれですから。
 森にどんぐり集めに行った後も、ポルキーニョの運んだカゴをそのまま自分の住処のそばに置かせ、ドングリを住処に移したらカゴを返すと言っておきながら、そのままカゴの中に住み着いているくらいです。ふかふかの枯れ葉のベッドで過ごし、おなかが空いたらカゴの中のドングリを食べているようでした。
 ポルキーニョは、箒とちりとりを納屋にしまいました。納屋には、もう一つカゴがありました。ペンウッドにも、カゴを一つバミットに貸してあると伝えてありますが、特に困ることはないようでした。 
 ポルキーニョは、納屋の戸をしっかり閉めると、家の中に入って手を洗いました。
「掃除終わりました、ペンウッドさん」
「ああ、お疲れさま。もうすぐ夕食だから座って待っててくれ」
「はい」
 ペンウッドとの生活は、少し堅苦しさもありましたが、フィロのところに行けば気楽におしゃべりもできました。そんな環境が、ポルキーニョにとっては良いバランスになっていました。

◇◆◇

「ドングリひとつあげる。わたしとダンスおどりましょ」
 四枚の羽根で木々の枝を陽気に飛び回る妖精が、バミットに声をかけてきました。背丈はちょうどバミットと同じくらいです。花びらや葉っぱでこしらえたドレスをまとい、銀白色の髪をなびかせながらくすくす笑っています。
 周りの枝にも、ほとんど同じ容姿の妖精たちがたくさんいました。彼女たちが言うには、今は妖精の森の祭りで、バミットは急に現れたお客様らしいのです。
 バミットは枝を張り巡らせる大きな木の上で、妖精の一人からドングリを受け取ると口に放り込みました。妖精がくれるドングリはとてもおいしいのですが、その度にダンスをすることが大変でした。
 最初は気軽に考えていたのですが、代わる代わるダンスを申し込んでくる妖精たちの数があまりにも多いものですから、だんだんと苦痛になってきていました。
挿絵(By みてみん)
 どうにか、ドングリだけもらってダンスをしない方法はないものか。もし、それが叶えばこの森は楽園です。
 バミットは、そのままのことを妖精に言ってみました。すると、妖精は不思議そうな表情をしながらくすくす笑いました。困っているとかではなく、無邪気に笑うだけなのです。
「変なの。さあ、ドングリをあげるからダンスをしましょ」
 どうにも、話が噛み合いません。
「ああ、どうしたらいいのだろう」
 バミットはフサフサの尻尾をかき回しながら、うめきました。

◇◆◇

「なんで、約束を破ったの! ちゃんと注意しておいたわよね、ポル!」
 ポルキーニョは、フィロに叱られていました。とても悲しい気分でした。ペンウッドに叱られるときよりも何倍も悲しくて仕方ありませんでした。涙と鼻水が止まりません。フィロが自分を嫌いになってしまうのではないかと、心配でたまらなかったのです。
 フィロが怒っているのは、ポルキーニョが勝手に呪文を唱えていたからでした。正確には、フィロの家で楽しく過ごしていたポルキーニョが無意識に歌った鼻歌が、フィロの本に載っていた呪文だったわけです。フィロの本をこっそり見てしまったことがばれてしまったのです。
 ポルキーニョは、フィロとのルールを破りました。叱られて当然です。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
 涙と鼻水でぐちゃぐちゃのポルキーニョが、繰り返し謝ります。
 そんなポルキーニョを見て、フィロは怒るのをやめました。相手が理解して反省しているのですから、必要以上に怒ることはしません。
「ポル、あなたが唱えたのは、唱えた相手を妖精の森に飛ばしてしまう呪文なの。ねえ、誰かの前で唱えていなわよね? 誰か、急に消えたりしてないわよね?」
 嗚咽するばかりで、ポルキーニョは答えません。仕方なく、フィロは洗面所に行って顔を洗うように言い、その間にホットミルクを用意しました。
 戻ってきたポルキーニョは、椅子に座ってホットミルクをすすりながら、なんども「ごめんなさい」と繰り返しました。
「もう、二度としてはだめよ。私のかわいいブタさん」
 フィロの優しい声と表情に、ポルキーニョは少しずつ落ち着いていきました。そして、ようやく話し始めました。
「もしかしたら、おいら、バミットに呪文をかけてしまったかもしれない」
 家の庭で落ち葉を掃いていた時のことをフィロに話します。そして、最近バミットの姿を見ていないことを伝えます。
「おそらく、バミットは妖精の森にいるわね。あそこへルールを持たずに行くと、帰るのが難しいのよ」
 フィロのせりふに、ポルキーニョの顔が青ざめます。自分のしてしまったことの重大さに気が付きました。いたずらばかりされたって、バミットは大切な友達です。戻ってこないなんて嫌です。
「大丈夫。私がなんとかする。ポルキーニョにも協力してもらうわよ」
 ポルキーニョがフィロを見つめると、そこにはいつもと違う魔法使いとしての凛とした表情がありました。魔法は、興味だけで扱って良いものではないのだと、ポルキーニョは改めて感じました。

◇◆◇

 砂時計を手にしたポルキーニョは、妖精の森にたたずんでいました。一瞬前にはフィロの家の庭にいたのですが、フィロが呪文を唱えた途端、ポルキーニョの体は別の場所に移動していました。
 ここは、妖精の森です。
 フィロの言葉を思い出します。
「妖精の森に入るには、ルールを持って行くことが必要よ。この砂時計を持って行って。この砂が全て無くなるまでしか妖精の森にいられないわ。それが、ルールよ」
 ふいに、ポルキーニョの前に妖精が現れました。早速、砂時計を見せながら、フィロから教わったルールを伝えます。
「おいらは、この砂時計の砂が全部なくなったら家に帰る」
「わかったわ、ブタさん。私たちとダンスしてくれる?」
「おいらは、バミットと合いたい!」
「バミットは踊ってくれた。あなたも、踊ってくれるのね」
「おいらは、バミットと会って話すだけ!」
 妖精の誘いに乗ってはいけないと、フィロが言っていました。下手に約束をすると、その約束が終わるまで妖精の森から出ることができなくなり、帰るのが難しくなるのです。ポルキーニョは、緊張しながらも堂々とした態度を続けました。
 一方、妖精のドングリのことばかり考えていたバミットは、ポルキーニョの姿を見つけた途端、紅葉した森でドングリを集めた時のことを思い出しました。
「そうだ、カゴだよ。あのカゴを利用しよう」
 バミットは、ポルキーニョが妖精たちに囲まれているところまで枝をつたって降りると、ポルキーニョのところへ駆け寄りました。
「バミット!」
 ポルキーニョは、バミットは抱きしめました。目に涙が浮かび、鼻水が垂れそうになってもバミットを離しません。本当に、会えてよかった。
 バミットは、もがいてどうにかポルキーニョの腕から抜け出しました。
「久しぶりだからって、そんなに感動する?」
「ちがうんだよ、バミット。ごめんなさい。おいらが悪いんだ」
 ポルキーニョは、今までの経緯をバミットに説明すると、何回もバミットに謝りました。周りの妖精たちが真似をして、妖精同士で抱き合ったり謝ったりしています。
「まあ、理由はわかったから、もう謝るなよ。俺は、この妖精たちの森を気に入ってるんだぜ」
 バミットは、ポルキーニョに抱きしめられないように距離を置きながら言いました。
「そうなの?」
 ポルキーニョは意外そうな顔をしながらも、バミットが無事だったことを喜びました。それから、砂時計を見て残り時間が少ないことを確認しました。
「バミット帰ろう。おいら、フィロから帰り方を聞いてるんだ」
「ちょっと待って。ポル、お願いがあるんだ」
「なに?」
「俺がこの森を気に入っているのは、妖精がくれるドングリが、とてもおいしいからなんだ。俺はドングリをたくさん持って帰りたい。だから、カゴを持ってきてくれないか?」
「カゴって、背負うカゴ?」
「そう。それそれ。それにドングリをたくさん入れる」
 周りの妖精たちが笑い出します。
「ドングリ、ダンス。ドングリ、ダンス」
 すぐに、妖精たちの合唱になります。
「ドングリを一個もらったら、一回妖精とダンスをすることになってるんだよ。まあ、とにかくポルは一度戻って、カゴを持ってきてくれ。よろしく」
 バミットが、妖精からドングリを一個もらってダンスを始めました。片方の頬をドングリで膨らませながら、器用に妖精のステップに合わせて踊ります。
 ポルキーニョは、何だか状況がよくわかりませんでしたが、バミットに帰る気持ちがあることはわかったので、砂時計の砂が無くなるまでバミットと妖精のダンスを眺めることにしました。

◇◆◇

 妖精の森から戻ったポルキーニョは、バミットから頼まれたものを用意して、再びフィロに呪文を頼みました。
「なんで、カゴなんかいるのかしら?」
「妖精の森のドングリをたくさん入れるって言ってた」
「この前、森で集めたばかりなのに、よくばりなバミットね。さあ、また行ってらっしゃい。砂時計の時間に気を付けるのよ」
 フィロが呪文を唱えると、次の瞬間には再び妖精の森にいました。
 砂時計を手にして、前回と同じように妖精たちにルールを伝えると、バミットと合流します。
「バミット、カゴを持ってきたよ。さあ、早くドングリを入れて帰ろ」
「ポル、ちょっと待ってくれ。実は、妖精たちと約束したゲームがあって、そのルールを守ることで、俺はドングリを持って帰れるんだ」
 バミットが、妖精たちに向かって手を振りました。妖精たちも、クスクス笑いながら手を振り返します。ゲームをすることは、妖精たちも了解済みです。
「どんな、ゲーム? 時間かかるの?」
 砂時計のことは、バミットもわかっているはずです。あまり、時間がかかるゲームはできません。
「ポルにも、簡単なお願いがあるんだ。あそこに大きな木が見えるだろ。ここからそこまでカゴを背負ったまま走って欲しいんだ。なっ、少し遠いけど簡単だろ」
 ポルキーニョが頷くと、バミットは、間をあけずに説明を続けました。
「枝にいる妖精たちが、走っているポルのカゴにドングリを投げ入れる。見事にドングリをカゴに入れることができた妖精だけ、俺とダンスができる。俺は、ダンスが終わったら、カゴの中のドングリと一緒にポルに運んで帰ってもらう」
 簡単なゲームのようです。ポルキーニョは、バミットの提案を受け入れることにしました。砂時計の時間内にも済みそうです。
「いいよ、わかった」
「じゃあ、ここで待機してて。俺が合図したら走り出すんだぜ」
 バミットはすばやく木に登ると、今度は妖精たちに声をかけました。
「いいかい、君たち。俺が合図したら、みんなでドングリを投げ始めるんだぜ。もう一度言うけど、走るブタのカゴにドングリが入ったら俺とダンスができる。カゴに入らなかったら残念だけどダンスはできない。地面に落ちたドングリは、もったいないからゲームが終わった後にきちんと拾ってカゴに入れること。そして、ダンスが終わったら、俺は家に帰る」
「わかったよ、リス!」
 妖精たちがおかしげに笑います。
「カゴにドングリを入れた妖精さんとダンスが終わったら、俺は家に帰ります。いいですね」
 バミットは、念のため繰り返します。
「いいとも、ドングリダンス!」
 妖精たちが声を合わせて叫びました。妖精たちはやる気満々のようです。
 バミットは、ポルキーニョと妖精たちの両方に声が届くところまで枝を移動すると、大きな声を出しました。
「みんな、準備はいいかい? それじゃ、スタート!」
 ポルキーニョが駆け出すのと同時に、妖精たちもドングリを投げ始めました。
 バミットの計画は、成功しそうでした。走るポルキーニョのカゴに、簡単にはドングリは入らないでしょう。おのずとカゴの中のドングリは少なくなり、ダンスをする回数も減る。ゲームの後は、すぐに地面に落ちたドングリを妖精たちに集めさせて、カゴがいっぱいになったら、ポルキーニョにカゴごと持って帰ってもらう。
 バミットは、誰かに自慢したくなるほどのすばらしい計画だと感じ、にんまり笑いました。
「ぶっぎゃあああ」
 突然、ポルキーニョが悲鳴をあげました。慌ててバミットが様子を見に行くと、予想していなかったことがポルキーニョの身に起こっていました。
「痛い、痛い、助けて!」
 思いのほか妖精がドングリを投げる力が強かったらしく、カゴに入らずに体へ当たるドングリを、ポルキーニョが痛がっていたのです。
 しまいには、ポルキーニョはあまりの痛さにカゴを降ろして逃げ出してしまいました。やがて、砂時計の時間が来て、ポルキーニョの姿は森から消えました。
 残されたカゴには、妖精たちが投げるドングリがどんどん溜まっていきます。妖精たちの楽しげな笑い声が、バミットには恐ろしく聞こえました。バミットの計画は失敗したのです。

◇◆◇

 季節は冬になりましたが、バミットは帰ってきません。心配です。
 ポルキーニョは、ゲームの途中でカゴを置いて逃げてきてしまったことを後悔していました。そのことをフィロに相談しましたが、「ダンスをしたら帰ってくるのなら、しばらく待ちましょう。それに、魔法というものは、あまり何回も安易に使うものではないわ」という答えだけでした。
 ポルキーニョは、寒さでかじかむ手で斧を振り上げました。暖炉用の薪を準備するのが、家での役目です。
「ブシュン」
 北風がポルキーニョの鼻をくすぐると、どこからかドングリが落ちてきました。上を見上げても寒々しく木々の枝が風に揺れているだけでした。
「えっ」
 ポルキーニョは、周りを見回しました。何だかかすかな笑い声が聞こえた気がしたのです。クスクス笑う、大勢の小さな声。
「もう、ポルったらひどいよな」
 バミットです! いつの間にか薪の山の上に座っています。
「バミット! 帰ってこれたんだね。よかった!」
 ポルキーニョは斧を放り出してバミットを抱き抱えました。この小さな友達は、妖精との約束を果たして帰ってきたのです。でも、いったい何人の妖精と踊ったことでしょう。
「ああ、どんぐりダンスね」
 ポルキーニョの気持ちを察したように、バミットが話し出します。
「ポルがカゴを置き去りにしたから、確かにドングリはすごい数溜まってた。でもね、俺はひらめいたんだ。なにも一人ずつと踊ることはないじゃないか。全員で輪になって踊ることを提案したら、妖精たちもよろこんでさ。あいつらは、結局楽しければそれでいいんだ」
 バミットはその時の様子を真似て、踊り出しました。簡単なステップだったので、バミットに誘われたポルキーニョも一緒に踊りました。体が温まります。
「それじゃ、今まで何してたのさ。おいらも、フィロもみんな心配してたんだからね」
「約束のダンスはしたから、いつでも帰ることはできたんだけど……。どんぐり食べてた。だって、もったいないだろ。俺の小さな体じゃ、カゴのドングリを持って帰ることはできないしな。しばらく待ってても、ポルは来なかったし、俺もいつまでも妖精たちと一緒にいるつもりもなかったし。あいつら、陽気すぎるんだよ。疲れる」
 バミットらしいなと思いながら、ポルキーニョは地面に落ちたドングリを拾いました。後で小さな宝箱にしまっておくことにします。
 後で誰かに贈ろう、妖精のどんぐり。

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