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翔龍機神ゴーライガー  作者: 石田 昌行
第五話:サミット制圧五分前!
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サミット制圧五分前!5-2

 チャイムが鳴った。

 午前中最後の授業、いわゆる四時間目の終了を伝える決定的な合図である。

 「起立! 礼!」という号令とともに教師への挨拶を終えた生徒たちが、それぞれ勝手にグループを作りながら昼食の準備を始め出す。

 それはある意味、実に日常的なひとコマであった。

 ある者たちは別棟にある学生食堂へと向かい、またある者たちは取り出した弁当箱を机の上に広げ始める。

 雪姫シーラは、もっぱら後者の最右翼だ。

 彼女は、滅多に学食など利用しなかった。

 もともと人混みが嫌いな質だったこともあるが、それ以上に、色とりどりの手弁当を皆で見せ合って食べるほうがそもそもの性に合っていたから、というのがこの場合は正しい。

 ことに夏休み明けからは居候である轟雷牙がプロ顔負けの弁当を毎朝こしらえてくれていたのだから、その傾向は増しこそすれど減るようなことはまったくなかった──ただしそれも、ここ数日を除けば、の話である。

 この日もシーラは、目の前に置いた自分の弁当箱を見詰めながら、しばしの間その身を固め続けていた。

 その相好に浮かび上がっているのは、なんとも複雑な表情だ。

 綺麗に整った唇が、まるで軟体生物のごとくごにょごにょと蠢いている。

 そんな彼女を囲んでいる春香と三名の友人たち──美希、朋、えりか──が、こちらもまた件の弁当箱へと視線を落とす。

 明らかに、何かを期待している眼差しだった。

 面白がっている、と言い換えてもいいだろう。

 おそらくは、箱の中身がいかなるものかをある程度認識しているのだ。

 無言の圧力に膝を屈して、シーラは弁当箱の蓋を開けた。

 嫌々という風ではないが、それでも気合いを込めて一気に、といった感じではある。

 蓋の下から堂々と姿を現したもの──それは、見るも見事な「キャラ弁」だった。

 キャンパスとなっているのは、主食として収められた白いご飯だ。

 その純白の表面には、アニメ調の鎧をまとった美少女が、デデン、とド派手に描かれてある。

 彼女の輪郭を縁取っているのは細切りの海苔。

 どことなくブーストアーマーに似た雰囲気を持つ鎧は細かく刻んだ上干チリメンによって彩られ、流れるように美しい金髪を形作っているのは、素晴らしい手練で作りあげられた錦糸卵の群れだった。

 それは改めて言うまでもなく、シーラ自身をモデルとしているのが丸わかりとなるキャラだった。

 作成が素人の手によるものだと考えるなら、その再現性は明らかに及第点を越えている。

 もはや職人芸にすら近いだろう。

 無論、おかずの類いにも手抜きはない。

 基幹兵力たるご飯が詰められたものとは別の段に設けられていたもうひとつの箱の中で、それらは主人に仕える騎士のごとく整然と列を成し控えていた。

 あたかも匠の手で焼き上げられたかのような黄金色の出汁巻き卵に、黒ごまで両の眼までを再現されたタコさんウインナー。

 その竜虎とも言うべき存在にめかぶと胡瓜の酢の物が彩りを加え、トドメとばかりに添えられた赤かぶのぬか漬けと肉厚の蜂蜜梅干しとが高い栄養バランスをキープせんと自己主張を続けていた。

 そしてそんな彼らと一線を画すように隅っこでちょんとその座を占めているのが、デザートとしておのれの分を守っている一羽のウサギリンゴだ。

 轟雷牙という宇宙刑事は登校前という極めて限られた時間だけを利用して、これだけの代物を手ずから仕上げてみせたというのである。

 それはもはや感心を通り越し、少女たちに思わず呆れ顔を浮かべさせるほどの業績であった。

「ほ~、相変わらず今日のも派手でありますなァ」

 半ばからかうような口振りで春香が言った。

 言いながら、シーラの左肩越しからぬっと弁当箱を覗き込む。

「これじゃまるで、主夫が作った逆新婚さん弁当みたいじゃない。いやいやまさに、愛妻弁当ならぬ愛夫弁当ってところか」

「逆新婚さん弁当で悪かったわねッ!」

 くちばしを尖らせたシーラが、ぷいっと振り向き春香に応えた。

「ど~せ我が家の食卓事情は、あの宇宙人に完全支配されてますよ~だ。だって仕方ないじゃない! あいつのほうが何かとわたしより段取りよくって、料理のバリエーションだって豊富なんだからッ! そう、これは適材適所って奴よ! て・き・ざ・い・て・き・しょッ!」

「まあ、その点はどーでもいいんだけどさァ」

 言いながら、春香はシーラの対面席にどかっと陣取る。

「そこまでキャラ弁に抵抗あるんならさァ、自分の分は自分で作ってきたらいいんじゃないの? あんたもともと独り暮らしで自炊してたんだから、いまさらお弁当(べんと)のひとつやふたつ自分で準備するのなんてわけないでしょ?」

「そりゃそうなんだけどさァ……」

「何よ、歯切れ悪いわねェ」

 いつもと違ってどこか奥歯に物が挟まったようなシーラの言い様に、さりげなく自分の座席を確保した桜井朋が突っ込んだ。

「言いたいことがあるのなら、おねーさんに言ってみ? ホレホレ」

 促された金髪娘が口にしたのは「だって……美味しいんだもの……」という小さな小さなひと言だった。

 聞きそびれた一同が思わず「えッ?」と声を上げるのに合わせ、彼女はもう一度、今度はもっと大きな声で発言する。

「だって、美味しいんだものッッ!」

 そうシーラは凄んで、続けざまに箸を取った。

 神に対する祈りの言葉も割愛し、口腔内に遮二無二ご飯を運び込む。

 咀嚼と嚥下がそれに続き、少女は半分泣きそうになりながら自分の思いを激しく説いた。

「何よ、何よ、何よ、何よ、何よッ! なんで冷たいご飯がこんなに美味しいのよッ! これってどこにでも売ってるただのブレンド米よッ! それをさッ、ウチにあるふつーの炊飯器でふつーに炊いただけなのよ、これッ! なのになんでなんで、わたしのやった時より、ぜんっぜん美味しく炊けるのよッ!

 きーッ、悔しい、悔しい、悔しい、く・や・し・いィィィッ!!!

 いっくらオトコの割に女子力高いって言ったってさッ、ほどってものがあるでしょうがッ!、ほどってものがッ!

 しかもキャラ弁よッ!? キャラ弁ッ!

 週末ちょっとテレビで見ただけだってのに、なんでこんな簡単に適応してくるのよ、あのふざけた宇宙人はッ!

 あーッ、ホンキで腹立つゥゥゥッ!!!

 食べるたびにさッ、オンナのプライド木っ端微塵じゃないッ!

 でも、止まんないッ! ホンキで止まんないのよッ!

 もうッ! これホントに麻薬か何か入ってんじゃないのッ!?

 この出汁巻き卵、めっちゃ美味しいッ! 美味しすぎるゥゥゥッ!!!」

「ふーん。まあ、つまり、要約しちゃうと、だ」

 そんなシーラをいわば別次元から眺めていた此路春香が、他の少女たちにもわかりやすくその心情を分析した。

 親友の弁当箱から話に出てきた出汁巻き卵をひょいとひと切れ拝借しつつ、直球勝負で彼女は論じる。

「今週入ってあんたがず~っと昼飯時に不機嫌だったのは、作ってもらったキャラ弁に理由があったからってわけじゃなく、轟先生相手に女子力で完敗しちゃったあんた自身のポンコツぶりに自分で腹を立ててたからってのが真相だったわけだ。な~るほどなるほど。そりゃあ歯痒いわ」

「う゛~……まさか短期間でこれほど差を付けられるだなんて、先週までは思ってもみなかったんだよォ。なぁんでこんなことになったんだろ」

「実力差でしょ」

あのひと(轟先生)、なんか万能っぽいもんね。結婚したら、喜んでイクメンやってくれそ。ちなみに掃除とか洗濯とかはいつもどうしてんの?」

「いまのところ、全部あいつに任せてる」

「やってもらってんだ! でも、さすがにパンツは自分で洗ってるよね」

「……」

「嘘でしょッ!? そこまで浸食されちゃってるわけッ!?」

「あんた、オンナの矜恃どこ投げ捨てちゃったのよッ!?」

「うわァ、信じらんない……」

「やっぱポンコツじゃん!」

「あうう~」

 身も蓋もない総ツッコミに半分泣きそうな顔で呻くシーラ。

 その一連の遣り取りは、もはや漫才としか思えないような代物だった。

 遠巻きにそれを眺めていたクラスメートたちの表情に、自然と笑顔が発生する。

 だが当事者の一角たるシーラは、箸先を咥えたまま身じろぎひとつしなかった。

 あえてその様子を紙上に表そうとするならば、それはまさしく「滝涙」というコミカルな表現こそが相応しかろうと思われた。

 和んだ空気に身を任すには、彼女の性根は滅法真面目にすぎたのだ。

 そして数秒後、改めて口に運んだ漬け物をぽりぽりと音を立ててかじりながら、この金髪の美少女は囁くようにぼやいてみせた。

「いいもん……このかぶのぬか漬けだけは、わたしの手作りなんだもん。ふんッ!」

「楽しくお食事中のところ悪いんだけど」

 そんなシーラたちのところへ学級委員長の白城しらき葉子ようこが声を掛けてきたのは、それから少し経ってからのことだ。

 葉子は、長い黒髪をオールバックにした、見るからに真面目そうな麗人である。

 「セントジョージの金髪姫」こと雪姫シーラを別格にすれば、その美貌は学園でも一、二を争うことだろう。

 彼女はひょいと顔を上げた別人種のクラスメートに向かって、どこか上から目線で頼み言葉を口にする。

「この出席簿、轟先生の忘れ物なんですけど、雪姫さん、あなた食事が終わったらこれを職員室に届けてきて下さらないかしら?」

「別に構わないけど」

 訝しげにシーラは応えた。

「でもそれってさ、委員長が直接持ってってもいいんじゃないの?」

「わ、私が殿方を苦手としているのはご存じでしょうに!」

 眉根を吊り上げ葉子は言った。

 どうやらそれは自分でも気にしていた性質のようだ。

 ことさらに怒りというものを前面に押し立て、彼女はシーラに詰め寄った。

「雪姫さんがそれをわかっていてなおそのようなことを仰る方だったとは、いまのいままで知りませんでしたわ! 失望ですッ! 失望させていただきましたッ!」

「わ、わ、わかった、わかった、わかったからッ! 確かにいまのはわたしが悪かった! だから、とりあえず落ち着いてッ! 落ち着いてッ! ねッ、委員長ッ!」

 勢いに押されたシーラが、思わずその上体を逸らした。

 両手をそろえて前に出し、謝罪の言葉を口にする。

 それは、図らずとも彼女の逆鱗に触れてしまったことを速やかに察したがゆえだ。

 知らぬ間に、愛想笑いが顔に浮かぶ。

 怒濤の迫力に冷や汗を噴き出しながら、金髪の少女は葉子に告げた。

「あなたが男性恐怖症なのは頭でわかってたつもりだったけど、まだ全然理解が足りなかったわ。ごめんなさいッ! これからはもっと気を付けるようにするから、今回は勘弁してッ!」

「いえ、私はわかってさえくださればそれでいいのです」

 葉子の寛容もまた、負けず劣らず迅速だった。

 下手をすれば変節にすら見える。

 薄い笑顔でシーラの謝罪を受け入れた葉子は、「では雪姫さん。出席簿のほう、よろしくお願いしますわね」と黒表紙の綴じ込みを手交し、そのままくるりと踵を返した。

 それは不自然なほどけろっとした態度であったが、不思議なことにそれを違和感だと思わせないだけの雰囲気が彼女にはあった。

 唐突に台風一過の静けさが訪れ、この場にいる者たち、特にシーラは大きく胸をなで下ろした。

 途切れた緊張が、深いひと息となって長々と吐き出される。

 決して悪いひとじゃないんだけど、ああいうところがいまいち受け入れがたいのよね。

 それが、葉子に対する彼女たち同級生の偽らざる評価だった。

 ただ、そんな学級委員長を好意的に捉えるクラスメートもわずかだが存在する。

 志摩えりかがそのひとりだった。

 大きな瞳をきらきらと輝かせつつ、贔屓の引き倒しとも思える自論を彼女は嬉々として述べ始める。

「さすがッ! 委員長はわかってるよねェ」

 興奮気味にえりかは言った。

「あのひと、轟先生がシーラのいいひとだってことちゃあんと理解してて、その上でそのミッション依頼してきたんだよねッ。さっすがはエリートッ! 大企業・白城コンツェルン会長のお嬢さまなだけはあるよねッ!」

「えりか。もし今度そんなこと言ったら、そん時はマジでぶつから」

 にこりと笑ってシーラは応えた。

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