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翔龍機神ゴーライガー  作者: 石田 昌行
第二話:宇宙刑事は女子校教師!
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宇宙刑事は女子校教師!2-6

 地表が割れ、悪夢にも似た存在が、裂け目の奥から大きくその身を乗り出した。

 それは、身の丈にして五十メートルはある、異形の「巨獣」の姿だった。

 人々が想像世界でしか目にすることのできなかった畏怖の象徴。

 その外見のディテールこそ、先に雷牙が倒したあのヘルアリーとかいう機界獣と酷似している。

 だが、圧倒的なスケールの差が、その類似点をまったく意味のないものとしていた。

 やがてその全身を衆目の前に現した「怪獣」が、地響きを立てて大地の上を踏み締めた。

 腹の底に響き渡る吠え声が、天に向かって叩き付けられる。

 恐ろしいほどの威圧感だった。

 そんな代物が灼熱の突風となって、少女たちの周囲を爆発的に吹き抜けていく。

「夢……よね」

 乾いた笑いを貼り付けながら、春香は自分の頬をつねって見せた。

「あたし、きっと悪い夢見てるのよね……」

「残念ながら夢なんかじゃないわ!」

 いつの間にか側に寄ってきていたシーラが、そんな春香を一喝した。

 歩けない七海に手を貸すことを促しつつ、毅然とした態度で背筋を伸ばす。

 彼女は言った。

「でもね。夢じゃないからこそ、自分の力で立ち向かう現実的手段ってものが見付けられるのよ。さァ、そんなところにぼけっと突っ立てないで、急いでここから離れるのッ!」

「でも……」

「いいからッ!」

 シーラはきっぱり言い放った。

「わたしたちがここでうろちょろしてたら、あそこで戦ってる『正義の味方』の邪魔になるでしょッ!」

 ヘルアリー=ギガンティック──ブンドール帝国の最先端技術、リザレクトプログラムによって拡大再生された機界獣ヘルアリーが右の拳を振り下ろしたのは、その瞬間の出来事だった。

 狙った先は、足元に立つ黄金の騎士そのひとだ。

 バックジャンプしてそれを回避した宇宙刑事のもといた大地を、魔獣の右手が轟音とともに痛打した。

 打点を中心に多量の土砂がまき散らされ、小規模ながらクレーターが現出する。

『さあさあどうした、宇宙刑事』

 魔獣の頭部に設けられたコックピットの奥で、その軍人風の威丈夫は目下の敵を挑発した。

『貴様の力はそれまでか? 先ほどまでの大言壮語をいったいどこに置き忘れた? このザンコックを、その手で討ち果たすのではなかったのか? それとも、しょせん敵わぬものと覚悟したか? ならば、この場で死ぬがいい!』

 頭上から降り注いでくる敵の言葉を、しかし雷牙は一歩も退かずに受け止めた。

 断固たる意思を込めた眼差しで、その悪意を真っ正面からはね除ける。

 裂帛の気合いとともに彼は叫んだ!

「ドラゴニックブラスターァァァァァァッッ!」


◆◆◆


 最初の変化が生じたのは、この地よりはるか離れた海の底でのことだった。

 いわゆる「七つの海」と呼ばれる大洋の深み。

 その深淵で、長きにわたって沈黙していた鋼鉄の意志が、それぞれ同時に目覚めの刻を迎えたのだ!

 それは、神話で語られし名を持つ合計七体の「巨人」たちであった。

 大西洋からは「ファフニール」が、

 地中海からは「レビヤタン」が、

 カリブ海からは「ケツアルクアトル」が、

 メキシコ湾からは「ウンセギラ」が、

 太平洋からは「オウリュウ」が、

 インド洋からは「ヴリトラ」が、

 北氷洋からは「ミドガルズオルム」が、

 波打つ海面を突き破り、秒速三十万キロの光の帯となって上空高く駆け登って行く!

 秒を経ずして、それらの「巨人」は、おのが主(轟雷牙)の膝下に集結。

 次々と合体変形を繰り返し、我が身をもってひとりの「巨神」を形作った!

 逞しい腕。

 太い脚。

 重厚な胸板と引き締まった腹部。

 その形容は、戦う「おとこ」、「戦士」のそれを模したものだと断言できる!

 雄々しい表情を湛える「巨神」の頭部。

 その額には、エメラルドカラーのクリスタルが燦然とした輝きを放っていた。

 それを認めた宇宙刑事が、掛け声一閃、大地を蹴る!

 軌跡を残して飛び込む先は、煌めく宝珠の中心だ!

 クリスタルから伸びる導きの帯が、彼の身体を胎内に誘う!

 融合が完了!

 透明感ある緑の光がルビーの赤へと一変した!

 上部に伸びた一本角が扇のごとく左右に展開!

 フェイスガードが勢いよくクローズ!

 後頭部に燃え上がった紅蓮の炎が、深紅のたてがみとなって風にそよいだ!

 両の拳を腰の高さで不敵に震わせ、はがねの武神が天に向かって轟吼する!


『翔龍機神ッ! ゴゥッ! ラィッ! ガァァァァァァッッ!!!』


 ◆◆◆


「ロボット……ですってェェェッ!」

 校庭にいた者たちのみならず、校舎の窓などから外界の状況を見詰めていた少女たちもまた、大きくその目を見開いた。

 それは、文字どおりの「巨神」だった!

 誰の目にもそれとわかる、身長数十メートルに達する鋼鉄の「武神」だった!

『カーネル=ザンコック!』

 鋼の指先を魔獣に突き付け、()()()()は大音量で宣言する。

『たとえおまえたちがどれほど邪悪な企みを目論もうとも、このゴーライガーがいる限り必ずそれを阻んでみせるッ! もはやこの地より、征くことも退くことも叶わぬものと覚悟しろッッ!!』

『大きく出たな、宇宙刑事』

 それを聞いた威丈夫《カーネル=ザンコック》が、不敵な笑いを口元に浮かべる。

『ならば、このヘルアリー=ギガンティックを見事止めてみせるがいいッ!』

 命令一下、|魁偉な巨獣《ヘルアリー=ギガンティック》は眼前の巨神ゴーライガーに向かってまっしぐらに突撃した。

 図太い両足が地面を踏み締めるたび、周囲を揺るがす地響きが発生する。

 重々しい左右のパンチが、ブロックの上から鋼の武神を打ち据えた。

 立て続けに鐘の音にも似た轟音が発生し、聞く者の鼓膜を破らんばかりに振動させる。

 女学生たちの学舎まなびやを背に防戦一方となるゴーライガー。

 その姿を見たカーネル=ザンコックがコックピットの中で嘲笑する。

『どうしたどうした、口先だけか?』

 彼は言った。

『ヘルアリー=ギガンティックの拳速ファントムブローは再生前の二倍以上。この音速の六倍を越える鉄拳を捉えられる者など、この銀河広しといえども滅多にはおらぬッ! おとなしく観念し、このまま鉄屑になってしまうがいいッ!』

 大きなモーションで振り下ろされたヘルアリー=ギガンティックの右ストレート。

 その渾身の一撃がゴーライガーの左手によって受け止められたのは、次の刹那の出来事だった!

『効かないな、そんなパンチは』

 巨神の眼光が魔獣を射貫いた。

『守るべき何物をも背負っていないそんな軽い拳では、このゴーライガーを倒せはしないッ!』

 彼は告げる。

『見せてやるッ! これがッ、戦う理由を持った男の、本当の拳って奴だッッ!!』

 弓を引くように力を込めた巨神の拳が、その内側より目映い光を放ちだした。

 それはたちまち右前腕を覆い尽くし、直進する打突に沿って彗星のごとき尾を描く。

 雄叫びとともに巨神が叫んだ!

『ストライクテェェェリオォォォッス!』

 輝く拳がヘルアリー=ギガンティックを直撃した!

 咄嗟にガードしようとした左腕を肩口に至るまで粉砕し、深々とその顔面を抉り込む!

 ヘルアリー=ギガンティックのコックピット内部におびただしい量のスパークが走り、それを受けたカーネル=ザンコックの口腔から『ぶゥゥゥるゥあァァァッ!』という絶叫が迸った!

『とどめだッ!』

 だが、ゴーライガーは追撃の手を緩めない!

『雷神剣ッッッ!!!』

 真上に向かって突き上げられた鋼鉄の拳から、光の球が天空高く放たれた。

 時を経ずして上空に濃密な黒雲が巻き起こる。

 黒雲はすぐさま重厚な雷雲へと変化。

 地上にいる巨神めがけて目も眩まんばかりの轟雷を降らせた。

 そのいかづちを受け止めたゴーライガーの手中に、一本の長剣が現れ出でた!

 剣というにはあまりに分厚く大雑把すぎる、見てのとおりのはがねの塊!

 そんな鉄塊を肩口に構え、魔獣めがけてゴーライガーは突進したッ!

『おおおおおおおおおおおおォォォォォォッ!』

 雄叫びを轟かせ、鉄の巨神がおのれの剣を振り下ろす!

『ファイナルッ! エクスプロージョンッッッ!!!』

 斬ッッッッッッ!!!

 すれ違いざまに落下した雷神剣の切っ先が、勢い余って地表を穿った!

 ヘルアリー=ギガンティックの体表に、輝くひと筋の線が走る!

 次の瞬間、超新星の光が煌めき、小山のような機界獣の巨体が跡形もなく消し飛んだ!

 面積を急速に増した光の筋が、内側から噴出するエネルギーの奔流をいざなったのだ!

 轟音とともに真っ赤な火柱がそそり立つ!

 熱風がッ!

 圧力がッ!

 閃光がッ!

 それらすべてがあたり一面を鳴動させ、同心円状の衝撃波を大地の上に出現させた!

 ヘルアリー=ギガンティックの最期だ!

 その凄まじいばかりの衝撃波を、鉄の巨神(ゴーライガー)は、おのが背中で受け止めた!

 紅いたてがみが激しくなびき、風切り音が容赦なく鳴り響く!

 だが、逆手に持った雷神剣を地に突き立てたまま仁王立ちするゴーライガーは、その勇姿を微動だにすらさせない!

 それはまさしく勝利を掴んだ武神の偉容ッ!

 この惑星ほしの守護神たるに相応しい、堂々たる風格そのものであったッッ!


 ◆◆◆


 そんな巨神の背後に太く濛々と立ち上る黒煙の柱。

 その只中から一機の飛行物体が飛び出していったのは、爆発による衝撃がひと段落したと思われた、まさにその瞬間の出来事だった。

 それは、ヘルアリー=ギガンティックに搭載されていた小型の脱出機であった。

 戦いの敗北を悟ったカーネル=ザンコックは、おのが身の安全をその小さな航空機に委ねていたのである。

「見事だ、宇宙刑事」

 軍人風の威丈夫は手前の操縦桿を巧みに操りながら、その場で敵手を賞賛した。

 だがしかし、その表情は明らかな敗者のそれに見える。

 溢れ出る屈辱を必死になって噛み殺しながら、吐き捨てるように彼は言った。

「だがおぼえておけッ! 断じてこのままではすまさんぞッ! この次に会った時こそ、我が新しき作戦で貴様に煮え湯を飲ませてやるッ!」


 ◆◆◆


 ブンドール帝国め。

 三人いる大幹部のうち、ふたりまでも投入してくるなんて、いったいこの惑星ほしには、奴らが求める何があるというんだ。

 爆発跡に立ちこめる濃霧のような煙の中、カーネル=ザンコックが飛び去っていった方角を仰ぎ見ながら雷牙は思った。

 ブーストアーマーを解除することであらわとなった素肌の上に、熱気を孕んだ微粒子がちりちりとした刺激を運ぶ。

 痛みともかゆみともつかないその感触。

 されど、青年がそれに気を回すようなことは一度もなかった。

 疑問は晴れない。

 それは、いまこの地を覆う煙のようだ。

 だが、だからといって、そのことにいつまでも固執しているわけにはいかなかった。

 やがて踵を返した宇宙刑事は、生徒たちの待つ校舎の側へ足先を向けた。

 その行く手には、背丈ほどもある鉛色のヴェールが視界を遮り立ちはだかっている。

 数秒後、校庭に吹き込んだ風が、重々しい黒煙の塊を音もなく散らしていった。

 視野が開けたことで雷牙は、こちらに向かってやって来る女生徒たちをその目に捉えることができた。

 一団の先頭に立つのは、輝くような金髪を持った美少女だ。

 紛れもなく雪姫シーラそのひとである。

 軽く手を挙げ、彼は言った。

「やあ、シーラさん! お怪我などはありませんでし──」

 それは、薄れていく煙の幕がその高さを胸元ほどにまで下げた時のことだった。

 青年は、シーラを初めとする少女たちの表情が一気に硬直したのを見て取った。

 いや、硬直したのはその顔付きだけではない。

 まるで、近寄ってはならない禁断の何かに直面したかのごとく、彼女たちは、はた、とその足取りまでもを止めてしまう。

「???」

 怪訝な面相を浮かべ、小首をかしげる轟雷牙。

 流れる風がその強さを増し、地を覆う煙霧の幕を膝の高さにまで払拭したのは、まさにその瞬間の出来事だった。

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 爆発的に発生した悲鳴が、青年の鼓膜を直撃した。

 文字どおり、大音響の鉄槌だ。

 それは雷牙にとって、ヘルアリー=ギガンティックのパンチが生温く感じられてしまうほどの衝撃だった。

 彼は、改めて少女らの素振りに注視した。

 彼女らのうち、ある者は、たじろぐように上半身を仰け反らせ、ある者は、全力でその顔を背けている。

 そしてまたある者は、両手で顔を覆いつつ、わずかに開けた指の間からこちらに視線を送っている。

 まるでそれは、「見てはならないものを見てしまった! どうしよう!」とでも言いたげな態度であった。

 宇宙刑事がそんな少女たちの視線の先に着目したのは、それから数秒後のことだ。

 彼女らの眼差しは、どういうわけか自分の下腹部、いわゆるへその下あたりに集中しているかのようにうかがえる。

 あれ、変だな。

 雷牙は思った。

 視点を下げて、まじまじとおのれの身体を観察する。

 僕の身体に何か変な物でも付いてるのかな?

 そして次の瞬間、彼は少し前に聞いたシーラの言葉を思い出した。

『この国の女の子にとって、好きでもない男の人に身体を見られるってことは、それはもうとってもとっても恥ずかしいことなの。もちろん、その逆もそうよ。好きじゃない男の人の身体を見ることも、女の子にとってはすっごくすっごく恥ずかしいことなの』

 冷たい汗が、青年の背筋を滝のごとく流れ落ちていった。

 凄まじい殺気が、そのこめかみを左右に撃ち抜く。

 恐る恐る顔を上げた雷牙の目がまず真っ先に捉えたもの。

 それは、わなわなと両肩を怒らせる雪姫シーラの姿だった。

 彼女はその丹精な顔を真紅に染め上げ、あたかも脈動する活火山のように全身を震わせている。

「るぁいぐぁぁぁ……」

 怪しい発音で青年の名を呼んだ美少女が、ゆるりと一歩を踏み出した。

 片方の靴を脱ぎ、それを利き手で握り締める。

「あなたってひとは……あなたってひとは……一度ならず二度までも……ッ!」

「ま、待ってください、シーラさんッ!」

 両手を広げて雷牙が言った。

「こ、これは、いわゆる不可抗力という奴で──」

「うるさぁぁぁーいッ!!!」

 その弁明を、シーラはまさしく一刀両断した。

 続けざま、彼女は大きく振りかぶり、手に持った靴を目標めがけて渾身の力で投げ付ける。

「問答無用ッ! 死ィねェェェッ!!!」

 内履きのシューズが、レーザービームのように雷牙へと向かう。

「ふぎゃァッ!」

 飛来したそれを鼻っ面に被弾した宇宙刑事が仰け反りながら転倒したのは、次の刹那の出来事だった。


 ◆◆◆


「ついに運命の扉は開かれた──そんなところでしょうか?」

 そんな校庭で繰り広げられる漫才を三階の理事長室から見下ろしつつ、セントジョージ女学院の校長・米内光子は、隣にいる理事長(松乃)に向かってそう言った。

 だが松乃は、その疑問符に答えを返そうとはしなかった。

 代わりに短く頼み事をする。

「校長先生」

 努めて機械的な口振りで彼女は言った。

「内閣総理大臣あてにホットラインを繋いでください。薔薇十字団ローゼンクロイツから大切なお話がある──と」

「はい。ただちに」

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