表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/167

第五十話 バラキン領侵攻準備

 さて論功行賞も終わり、さあ次はバラキンに攻めようといいたいところなのだが、もう少し待って欲しい。


 バラキンに攻め込む以上は領内の守りを固めておかねばならない。

 バロシュ家の領境には数々の砦群が既に建設されている。

 エロシン家とバロシュ家の歴史を考えれば当然といえるだろう。


 しかしマツナガグラードの少し先はエロシン領である。

 その領境には先のような強固な防衛施設は存在しない。


 そのためバラキン家に攻め込む前に、領境に幾つかの砦に加えて、ピアジンスキー家の騎馬隊対策として、空堀や馬防柵をマツナガグラードや領境周辺に作らなければならないだろう。

 それを終えなければ安心してバラキン家へ攻め込むことはできない。


 普請の資金はエロシン家の財産が大量にあるため問題はない。

 旧エロシングラードやママノフ館などに貯め込まれていた資産の総額は、金貨だけでも一万枚を超えた。

 さらに宝石類などを売り払えば一割二割は上乗せられるだろう。


 また対ナヴァール東部連合に備えて、先の論功行賞で家臣の領地を少しいじる事にした。

 詳細は以下の地図を見て欲しい。


挿絵(By みてみん)

 

 重要な部分だけ触れておこう。

 まずバレスを防衛責任者とし、マツナガグラードの南西を預けることにした。

 そこはバロシュ家とエロシン家の両方に接しているため、バレスしか適任者がいなかったからである。

 ナターリャは次のバラキン攻めの際は、先鋒を任せると約束したためバレスにお願いすることにした。


 旧バレス領はレフとセルゲイに五百石ずつ分配した。

 しかし旧バレス領は約二千石、分配しても余るので、バレス隊の面々や、旧シチョフ兵の中で手柄を挙げた者たちに分け与えることにした。

 コンチン、ナターリャなどの領地は地図で確認してくれ。


 前置きはこの辺にして、今は手の空いている家臣達が総出で普請作業に勤しんでいるところである。

 天守を備えた本格的な城を作るわけではなく、あくまで敵の侵入を邪魔する程度の設備なのでそれ程時間は掛からないとは思う。


 というのも、サーラが土魔法を得意としていることが判明したからである。


 俺がエロシングラードの周りに堀を造り、その土を積み上げ馬防柵を造るという作業を行っていた。

 苦手な土魔法を使い、あくせくしながらなんとか地面を掘り返していたのだが、俺の副官として付き従っていたセーラが申し訳なさそうに


「あのぉー、私がやりましょうか?」  


 と言ってきた。

 そういえばサーラは土魔法が少しだけできると言っていたなと思い出し、早速お願いした。

 すると彼女が魔法を使うと、サクサクと地面が掘り返されていき、数分後には俺が一時間掛けて掘ろうとしていた所を、綺麗さっぱり抉り取ったのである。


「これは、全然少しじゃないぞ……」


 呟くと、サーラは突然焦り出し、


「でっでも、秀雄様やリリさんに比べたら私なんか全然ですぅ」


 と謙遜してきたのだった。

 

 おそらく彼女はマルティナと同等か少し上くらいの、魔法の素養があるのだろう。

 松永家には土魔法を得意とする面子がいなかったので、サーラの加入は大変助かった。

 彼女は普請や行軍において今後多大な貢献をしてくれるだろう。


 

---



 サーラの貢献もあり二ヶ月程でなんとか防衛ラインを築くことができた。

 あとは少しずつ増強していけば大丈夫だろう。


 また旧エロシン領内における軍の整備も充実しつつある。

 今なら七百人程の兵力はすぐにでも動員できる。 

 

 であるのでそろそろバラキン領攻略の策を練るとするかな。

 

 俺は例の如く、主だった面子を呼び寄せる。


 今回はチカは三太夫の所に預けているため不在である。

 なんでも三太夫が言うには、鍛えたら一流の忍になる素養を秘めているとのことなのだ。

 確かに高い俊敏性や戦い方は、忍に近い部分があるとは思う。

 その話をチカに伝えたところ、「楽しそうだから行くにゃ!」と返ってきたので、そのまま忍の里に送った次第である。

 

 本人はおちゃらけていたが、ビアンカがチカがあまり俺の役に立てていないのではないのかと、気にしていたことを伝えてくれた。

 俺としては十分な働きをしてくれていると思うのだが、リリやマルティナの働きと比べて自分のふがいなさを感じていたらしい。

 俺は彼女がそんなことを思っていたなんて微塵も思っていなかったので、男としての気遣いが足りなかったと深く反省している。

 

 チカのことは気になるが、心配し過ぎるのもどうかと思うので、気持ちを切り替えることにしよう。


「ええと、サーラのお陰もあり予定よりも早く普請を終えることができた。旧エロシン領においてもそれなりの兵力を動員できるまでには領内を掌握しつつある。そろそろ東ナヴァール連合の足並みが揃う前に、バラキン家に攻め入るべきではないかと思う」


 皆は俺の問いかけに一様に頷く。


「それでだ、話は陣立てなんだが、バラキンの動員兵力は目一杯でも百五十程度だろう。それにピアジンスキー家のことも考える必要がある。まだ俺の考えも固まっていないので、一先ず皆の意見を聞きたい」


 すると早速バレスが息をまく。


「既に我らは大国。バラキンなど大軍で攻めればすぐに白旗を揚げるでしょうな。守りはわしにお任せあれ」


 さらにナターリャも戦闘モードだ。


「私の魔法でお城ごと流してあげるから百人もいれば十分よー」


 半分は冗談だろうが、本当にやりそうな気がして怖い。

 サーラがいつもと違うナターリャの様子にびくびくしているじゃないか。


「まあまあ、お二人のご意見ごもっともです。ここは少し冷静に考えましょう」


 コンチンが地図を開き説明を始める。


「現在我々が出兵に動員できる兵力は七百人程です。さらにアキモフ家とロマノフ家の二百を使えますので、最大で九百人程の兵力をバラキンへと送ることはできます」


 ここでいつものように、バレスとセルゲイの表情を観察する。

 

「しかし、旧シチョフ領からバラキン領へと繋がる道は非常に狭く、大軍の運用はあまりお勧めできません」

「ではどうするのだ。ナターリャ様の言うように少人数で攻め込むのか?」


 セルゲイが困惑気味に問いかける。

 

「はい。しかし百では少なすぎますので、バラキンには三百の兵で攻め込みます。それ同時に当家の四百でエロシン領へと攻め込みます。これは敵の目をエロシン領側へと向けさせるためです」


 今回の作戦は少し手が込んでいる。

 セルゲイは付いて行くのがやっとだろうか。

 

「じゃー、ナヴァールから援軍がきたら、そこで足止めするのー?」


 良い質問ですね。

 リリが毎回作戦会議に参加しているため、俺達の考えを読むようになってきた。

 

「その通りです。もしかしたらピアジンスキー軍と一戦交えることになるかもしれません。ですがまともには遣り合わないで、のらりくらりと凌ぎましょう。バラキン家を撃破すれば上手く挟み込むことができるので、それまで我慢です」

「ふーん、じゃあなるべくバラキンを早く落とす必要があるんだねー」


 鋭いな。リリの学習能力の高さをバレスらに分けてやりたいくらいだ。


「ええ、そのためバラキン方面軍にはナターリャ様の他にマルティナ様、レフ殿、セルゲイ殿、ツツーイ家に加え旧バレス隊の精鋭達を参加させる予定です」


 母子の高火力魔法で敵を押し切ったあとは、白兵戦の精鋭が一気に雪崩れ込むという考えだ。

 

「これならレフに指揮を任せて私は好き勝手できるわねー。良い人選よ、コンちゃん」 


 ナターリャはコンチンにウインクを送る。

 しかし彼女の隣に居るレフは、またかといった感じでため息をついている。

 ごめん、ちゃんと指揮できる人って、俺とバレスとコンチンにレフしかいなんだよ。

 今度フェニックスの間に連れて行くから頑張ってくれ……。

 

「あっ、ありがとうございます。それとエロシン方面軍は秀雄様、リリ様、ビアンカ様、サーラ殿となります。私はバレス殿の参謀として留守を預かりますのでご安心を。私からは以上です」


 バレスは少し渋面を作るが、コンチンに視線を向けられるとシュンとしてしまった。

 彼はコンチンに頼み込んで軍学を習っているのだが、如何せん知力不足のようで飲み込みが悪いらしい。

 しかし、兵の指揮と武力に関しては右に出る者がいないので、コンチンと組ませれば鉄壁となることは間違いないだろう。


「俺から話すべきことは無い。コンチンの言ったとおりだ。後は各員領地へと戻り兵を集めよ。合流地点と日時は追って伝える。では本日はこれで解散とする」


 ひとまず会議は終わりにする。

 しかし俺とコンチンは居残り組みと共に数時間の延長戦を強いられたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ