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第四十九話 論功行賞

 日が明けて今日はこれから論功行賞を執り行う予定である。

 昨晩はエゴールの可愛いところが見れたので、色を付けてやりたい気もするが、それは別問題である。

 しかしガチンスキー領を奪取できなかった分の補填はせねばならないだろう。 

 アキモフ家に関しては、その働き分はロマノフ家と同等なので相応の配慮はするべきだろう。

 後は松永家家臣団にどれ程の加増を行うか、といったところだな。

  

 もう皆は大広間でお待ちかねのようである。

 これ以上待たせるのも悪いので、少し急いで入場する。 

 皆は期待と不安が混じったような表情で俺を出迎えてくれた。

 そして俺は上座に座り、コンチンから羊皮紙を受け取り、そこに書かれている内容に目を通す。


「待たせてしまったようで申し訳ないな。朝早くより集まってもらいご苦労、これより論功行賞を始める」 

 

 一言述べて、居並ぶ面々をぐるりと見回してから、再び話を始める。


「まずは戦功第一。ツツーイ一族家長、アレクセイに告げる。そなたらはナコルル丘に於いて、敵の猛攻撃を己が腕を犠牲にして食い止めた。そして息子達は敵将を見事に討ち取った。そなたらの活躍が無ければ、中軍は瓦解し我が軍は分断されていただろう。俺はその奮闘に報い、ナコルル丘周辺の壱千石に加え、金貨五百枚を与える。今後も精進し当家を支えるように」


 松永家は急激に領土が増えた。

 そのため土地ごとに生産性が変化する。

 それを理由に、人口何人という計算ではなく、今後は石高方式を採用することにした。

 一石は年間の生産高が金貨換算で、人口一人当たりの年収を金貨七枚で当面は計算する。

 これは六人家族で計算すると金貨四十二枚となり、凡その一家庭の平均的な収入に値するからだ。

 まだ細かい調整が必要だが、その辺りは追々おこなうとしよう。


「あっ……、有難うご……ございます…………」


 ツツーイの面々は期待はしていたものの、想像以上の恩賞だったらしく、皆感激してその場で泣き崩れてしまった。

 先の戦いは当家での居場所を作るため、一族が悲壮な決意を持って戦ったのだろう。

 今それが報われ感極まったようだ。

 

 泣き崩れる彼等を、マルティナやバレスが声を掛けている。

 皆も心にくるものがあったのだろうな。


 時間が無いので彼等には悪いが次に行くとしよう。


「続いて戦功第二は、三太夫ら戸隠衆。皆の知るように、彼らは少人数でココフ砦を内から崩壊させた。その働きにより我が軍はあの要害を無傷で手に入れることができた。また長期間の包囲をする必要もなくなり、戦費の軽減と他家が付け入る隙を与えさせ無かったことも大きい。その貢献に報い三百石を加増する。また亜人達を育て上げるための支度金も兼ねて、金貨壱千枚を与える」


 三太夫らの感覚では忍が論功行賞に呼ばれること自体がありえないことなのに、戦功第二だと言われるのは微塵も思っていなかったようで、面食らっている。

 ただ何とか面持ちをなおして、頭を垂れ口上を述べる。


「謹んでお受けいたします。今後とも松永家に貢献できるよう微力を尽くす所存であります」


 と言ってから、十秒間ほど土下座をしてから立ち上がり、素早く後方へと戻って行った。


「うん、今後も宜しく頼む。さて戦功第三は、ナターリャさんにする。あなたもナコルル丘にて見事に迂回突破を成功させ、敵を背後から突いた。少し突出する嫌いはあるがここは大目にみます。今回は五百石の加増をさせてください」


 俺はちらりと横目でナターリャを見る。

 彼女は穏やかな笑みを浮かべながらこちらへと近づいてくる。

 

「秀雄ちゃん、私は別に領地とかはいらないのよー。ただあなたの力になりたかっただけなの。その思いが少し強すぎちゃって前に出ちゃったのよ。でも指揮はレフに任せてるから問題なかったはずよー。だからお願いします。今度も私を使って頂戴」


 なんか、色々な意味で受け取れそうだが、何時ものナターリャさんで安心した。

 彼女はバレスと同様に、領土欲はそれ程無いようである。

 しかし彼女ほどの能力を持った人物などそうそう居ない。

 領地も増えたので、いやでも統治をしてもらわなければならないだろう。

 

「そう言われても、ナターリャさんクラスの人は滅多に居ないんですから嫌でもお願いしますよ。変わりに次の戦は先鋒を任せますので、これで落ち着いてください」


 すると彼女は、満面の笑みを浮かべた。

 先鋒を任せると言われたことが余程嬉しかったのだろうか。

 これまでは彼女の特性上、留守を任せることが多かったからな。

 バレスの話など聞いては、羨ましがっていたたのかもしれない。


「分かったわー。秀雄ちゃんも大変だから、私も領地運営を頑張らないとねー。でも勿論さっきの言葉は覚えたからねー。では失礼します」


 最後は俺を立てるために、一礼してから彼女は戻っていった。

 なぜかナターリャさんと話すと汗が出てくるぜ。

 もしかして本能的に何かも求めているのだろうか……。

 まあいい、次だ次。


「では続いては戦功とは関係なく、ロマノフ家のエゴール殿とアキモフ家のボリス殿にお話したいと思います。両家はこの度もココフ砦へと兵を出していただき、有難うございました。お陰で我々はナコルル丘にて勝利を収めることができました。その恩義に報いるため、今回は暫定的ですが五百石ずつを隣接する領地から割譲したいと思います」


 ただ兵を出しただけで領地をやるのは癪だが、今二家に離れられると非常に困る。

 なので今回は美味しい思いをさせてやることにした。

 次回からは二家にもしっかり戦ってもらうような戦略を立てることにしよう。


「秀雄殿、領地を頂けるのは嬉しいが、ナターリャ殿より加増が少ないのはどうかと思うがの。わざわざ大軍を引き連れてきたのだ。これだけで戦費もかさむのよ。なんとかならないかのう」


 ボリスは相変わらずぶれないな。

 アキモフ家のごね具合は最早、伝統芸能の域にまで達しているのではなかろうか。

 

 すると横からエゴールが口を挟んできた。


「ロマノフ家としては、今回はただ兵を出したのみでなので、領土も要らぬ。幾許かの戦費を頂けたらそれで構わない」

 

 と最高の援護射撃を入れてくれた。

 なんか俺エゴールのことが好きになってきちゃった。

 勿論変な意味ではないがな。


 実は昨晩の晩餐会の後、非公式にエゴールから打診があったのだ。マリアを受け入れたいと。

 あんた、マリアさんとはどもりっぱなしで全然話せていなかっただろうに、と突っ込みたくなった。

 マリアは美人だから一目惚れでもしたのだろう。

 なんか未亡人に岡惚れした高校生みたいで憎めなくなったので、マリアの気持ち次第だが前向きに考えることにした。

 それをエゴール側に伝えたため、彼は今とても気分が良いのだろう。

 充実感が漂う雰囲気を醸し出しながら、俺を庇ってくれている。


「ボリス殿、エゴール殿はそう言ってくれているのだが、気持ちは変わりませんか。もちろん二家には先の発言通り五百石と、さらに戦費として金貨百枚をお支払いしたします」

 

 俺は止めとばかりに戦費の上乗せを認める。

 流石にボリスも観念したようだ。


「わかり申した。この条件で構いませぬ……」


 彼は肩をがっくりと落としては、椅子にぺたりと座り込んでしまった。

 この人はどれだけ強欲なのだろうか。

  

「我々は本当に領土は要らぬ。金だけ頂戴させて貰う」


 エゴールは本当に拝領を辞退した。

 ガチンスキーという密約があるにせよ、目の前の餌にがつがつしないのは好感が持てる。

 これもマリア効果なのかと勘ぐってしまうが、エゴールなりに俺との信頼関係を築こうとしていると、好意的に受け止めることにした。

 

「わかった。ではエゴール殿の申し入れを受け入れることとする。無論俺もその思いに報いなければならないので、将来ガチンスキー領を取った暁には、御家にそこを丸々差し上げることを約束しよう」


 このタイミングならば不自然ではないと思い、エゴールへの礼の意味も込めて密約を公表することにした。

 満足気な表情のエゴールの隣で、見事なブーメランを食らったボリスが口をあんぐりとしている。


「勿論ボリス殿には、将来バロシュ領への国替えを考えているので、安心してください」

 

 とフォローを付け加える。

 

 今二家に離れらては死活問題になる。

 特にアキモフ家は風見鶏なのでニンジンを与えておく必要があるのだ。

 正しこちらもただでやる訳にはいかないので、バロシュ領を将来的に与え、嫌でもピアジンスキー家と相対してもらうことにしたのだ。

 

 それにアキモフ領が直轄地になることで、亜人との交易を行うことができる。

 むしろそれが俺の一番の狙いである。


「そっ、そうであったのか。秀雄殿ならば勿論その位のことは考えていると思っていたのだ。ハハハハハ」


 ボリスは僻地からおさらばし、国力が倍増するという、ばら色の未来が浮かんでいるのであろう。

 その分頑張ってもらうのだから、今のうちに喜んでおくがいいさ。

 

 これで両家に関しては終わりだ。


 後はバレスら譜代騎士に続いて、手柄を挙げた兵たちにも報いなけらばならないな。

 まだまだ時間は掛かりそうである。

 

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