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第三十七話 内政③ ロマノフ領へ

 クレンコフ家に限らず、南方諸国の殆どの地域における軍制は日本の戦国時代のそれと似ている。 

 具体的には、戦時は本家から各領主に、凡そ人口四十人当たりに対して一名の兵士を動員するように、との命令が来る。


 そして各領主はこの命令を受け取ると、独自に兵を調達する。

 編成は各領主の自由であり、極端な話、全員が冒険者を傭兵として雇っても構わない。

 だがそのような事は金銭的に不可能なので、各領主は自身の一族や家臣である常備兵の一族を出来る限り動員し、その数を埋める。

 しかしそれだけでは確実に足りないので、不足分は農民兵を徴兵したり、傭兵を雇ったりする事になる。


 もちろん殆どの農民は戦には消極的だ。

 彼らにとっては領主からの徴兵は迷惑極まりない事である。

 一方、農民の中には戦衆と呼ばれる集団も存在する。

 

 戦衆は農民の中でも特に好戦的な者が集まった集団で、各村落に一定数は存在している。

 人員は血気盛んな若者が主体となっており、戦場での手柄を立て領主に取り立ててもらう為、単に戦場で奴隷を捕ったり、追い剥ぎを狙う為など、様々な目的を持つ者が混在している。 

 戦時に領主からの徴兵に応じるのは、ほぼ戦衆からだと言っても差し支えない。

 また時には暴れ足りないのか、中には他の地域の徴兵に応じると言う、傭兵的な活動を行う集団も存在する。

 

 俺は戦衆をそのまま発展させ、分業化を狙っている。

 最終的には戦衆を農業から切り離し、徹底的に鍛え上げて精鋭にするつもりでいる。

 

 しかしここで、先の戦で結構な数を殺してしまった事を思い出す。

 旧エロシン領北東部はクレンコフ領に近い為、他の地域に比して多くの兵員が駆り出された。

 その結果、各村落において兵の不足が顕著に見られている。


 恐る恐る確認してみた所、やはり戦衆の半数程が戻ってきていないらしい。

 数にして七十人程。

 キローフ村やスカラ村の場合は、ロマノフ家とアキモフ家の抑えに回っていたので殆ど無傷だったが、ヤコブーツク以東の村落は被害が大きい。

 

 だがまだ動員できる兵は百三十名程は居る。

 さらに後顧の憂いが無い今は、殆どの兵士を対エロシンへ向けられるので防衛の面は心配無いだろう。


 しかし今後エロシン領に攻め込む事を考えると、もう少し兵力を増強したい。

 嫌がる農民を徴兵するのも気が引けるので、傭兵を雇うか奴隷を買うくらいしか思い浮かばない。

 ただし、それも先立つ物が必要になって来るだろう。

 特に戦闘奴隷は一人当たり金貨二百枚以上はするから今の財力では到底無理だ。

 

 後はチカのつてを頼って、チャレスから格安で猫族傭兵を紹介してくれるようにお願いする位だ。

 だがそれは亜人差別があるだろうからリスクが大きい。

 軍の纏まりを乱す要因にもなり兼ねないから、最後の手段に取って置こう。 


 しかしそなると、軍が再編されるまで年単位の時間が掛かってしまいそうだ。 

 出来ればなるべく早い内に進軍を再開させたい。

 なぜなら、俺はいくら現代知識で領内を充実させたとしても、領土拡張による恩恵には全く敵わないと思っているからだ。


 その考えの主な理由は時間である。

 内政には芽が出るまで二年は最低かかる。

 だがその間は敵も戦をしていないので、同じように国力を回復させている。

 その為、再び戦となった時は大して差が開いていない事などザラにあると思う。

 逆に一年でエロシン家のさらに半分を切り取れば、少なく見積もっても現代知識で内政を行った効果と同等の国力の増強する事が出来るからである。

 そして占領地でも現代知識による内政を行なえば、三年後には単純計算でも国力は今の四倍だ。

 さらにその間にも領地を拡張すれば、国力はさらに膨れ上がる。

 この時点で、松永家は群雄と呼ばれても良い程の地力を備えているだろう。

 そうなれば後は美濃を取った後の織田家のように、国力に物を言わせて進軍を開始すれば良いだけの事だ。

 勿論同盟勢力を作りながらである。


 長くなってしまったが、とにかくエロシンが完全に整わない内に進軍を開始したい。


 その為には、松永家単独では厳しいかもしれない。

 だとすると、やはりアキモフ家とロマノフ家を利用するしかないだろう。


 恐らくアキモス家は先の借りがあるだろうから、さすがに援軍を断る訳には行かない筈だ。

 

 となるとロマノフ家が問題だ。

 ロマノフ家当主マルクは老齢と言う事もあり、その影響力は家内でも弱まって来ているらしい。

 既に家中の大事は長男エゴールが仕切っていると、コンチンから聞いている。

 だが一方で、回復魔法士として有能なコンチンを後継者として推す勢力も、少数いるらしい。

 

 その為、以前から有能なコンチンに危機感を覚えているエゴールは、父マルクから実権を譲り受けてから、禍は断つべしと考え、隙あらばコンチン派の粛清を企んでいるらしいのだ。

 既にコンチン派の面々は身の危険を感じ、彼の所領へと逃げ込んでいるみたいだ。

 何時エゴールに攻め込まれてもおかしくない状況となったので、コンチンは俺の所に身を寄せているのである。


 ロマノフ家の状況はこのような感じだ。

 正直まだ相手の出方すら見ていないので、戦略すら立てる事も出来ていない。

 何にせよ、一度話をするべきだな。

 コンチン経由だと握りつぶされる可能性があるので、マルティナから会談の申し入れをしてもらおう。

 まだ対外的にも婚約を発表していないので、松永家はクレンコフ家の寄騎だと思われている節があるから、その方が確実だろう。


 そして翌日、さあ早速ロマノフ家に使者を送ろうかと思っていたら、逆にロマノフ家から使者が来た。

 差出人はマルクからだ。

 内容は、早急に会談の席を設けたいと言う事だ。

 流石に一大勢力になったクレンコフ家、松永家を無視する事は出来ない、と言う事なのだろう。

 

 しかし俺が使者に会談場所を尋ねた所、彼はロマノフ家の本拠地であるロマノヴォを指定してきた。

 完全に新参者として格下に見られているな。

 さすがに同盟勢力の使者を無礼討ちする訳にも行かないので、彼にはしばらく待ってもらい、コンチンと皆に相談する事にしよう。


 使者に姿を見せると面倒になると思い、部屋で待機していたコンチンに事情を説明する。

 

すると彼は、


「恐らくエゴールの仕業でしょうな。奴は能力はあるのですが、自負心が高い嫌いがあります。国力で上回る松永家と親交を深めないといけない、と本音では解っているのでしょうが、奴のプライドがそれを許さないのでしょうな」


 成る程、エゴールはそう言うタイプの人間なのか。

 さてどうするか、ここで喧嘩をしても意味が無いのは確かだ。

 ならばアレクという老当主が死ぬまでは、へりくだってっておいて、協力関係を維持しよう。

 コンチンを後継者に推すかどうかは、アレクが死んだ時に改めて考えた方が無難かもしれない。

 その時に松永家の国力で、取るべき行動は変わってくるからな。

 

 俺の中では粗方考えはまとまったが、コンチンの意見も聞いてみる事にしよう。


「俺はしばらくエゴールを泳がせておいて、上手く対エロシン戦の駒にしようとい思うのだが、内部の者としてコンチンの意見を聞きたい」

「私も秀雄様に賛成です。エゴールはおだててやれば木に登る性格です。援軍に関しても、戦後の取り分をちらつかせれば恐らく乗ってくるでしょう」


 と即答してきた。

 やはりコンチンは頭が切れる男だ。

 既に答えは用意していた感じだな。

 彼が半兵衛か官兵衛かはまだ分からないが、今のうちから一蓮托生になっておく事にしよう。

 下手に遠ざけるよりは、将来は良い譜代になってくれる事を期待したい。

 

「ロマノフ家に精通しているお前が言うのだから間違えないな。では早速出発の用意をしよう」


『はい』


 俺はマルティナ、コンチン、リリ、ビアンカ、チカの五人と護衛の兵を伴い、エゴールの待つロマノヴォへと出立した。 

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