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あぁ 闇よ。
作:不死花 憂助



10



 夜の闇にすっぽりと覆われた白い観音像が大船駅を守っているように見えた。帰りの電車を待つ中、僕は携帯電話の電源を切っていたことを思い出した。そしてひとつため息をついた後、夕子へのメールを作り始める。
 「今日はどうしたの?心配した。大丈夫?電話していい?」
 短い文章だったが、そんなに長い必要は無い気がした。本当に心から心配している。そして電車とメールが来るのを待つ。遠くの方で東海道線がこちらに光を送っている。夕子からの返事が少し遅いだけで焦りを覚えた。
 電車内は会社帰りのサラリーマンでずいぶん混んでいた。僕は身を細めて吊革に手を伸ばす。夕子からのメールが来た。
 「今日はごめんなさい。疲れていたのかもしれない。本当にごめんね。でももう平気だよ。多分。明日、学校で話そう。」
 夕子らしい、脈絡の無い文章。必要最低限の文字数だった。そして電話はしなくてもいい、しないでくれという事だった。ため息と同時に携帯をポケットに突っ込んだ。 
 また明日。また明日話せるだろうか?僕は電車の窓に映る自分が疲れているように見えた。疲れて当然だ。
 「ごめんなさい。」
 あの声が頭から離れない。離れなくて当然だ。考えすぎてしまう自分が憎らしい。何も考えずに自分の今だけを考えていたい。
 戸塚で電車を降りる。柏尾川から繁華街へ向けて流れる人の群れをホームから見下ろす。きらきらと輝く町の明かりが目にあわない、僕は空を見上げた。
 今日は満月だった。雲ひとつない完全な漆黒の中で青白く光る月にやっぱり夕子の影が重なった。月は闇に包まれそうになりながら必死に耐えているようにも見える。
 「今どうしている?話がしたい」
 そんな言葉を何も考えずに言えたならどんなに楽だろうか。僕は伊藤のような人間にはなれない。伊藤だったらこんな時、容赦なく電話して真相を確かめるんだろうな。頭の中で伊藤の小憎らしい顔が浮かんだ。
 僕は携帯をポケットから取り出した。そして何もすることなくそいつを再びポケットにしまう。初めから結果の見えた行動をする事で僕は贖罪しようとしているのかもしれない。
きっとこの時くらいからだろう、僕に纏わりつく闇が少し重くなり始めたのは。














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