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戦国小町苦労譚 作者:夾竹桃

元亀三年 決戦、三方ヶ原の戦い

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千五百七十二年 七月上旬

本願寺と武田が主導する包囲網は完成しつつあったが、包囲されているはずの織田領内には戦時特有の緊張感が存在していなかった。
織田領内に潜伏している本願寺の間者からは、織田家は武田の裏切りに気づいておらず、包囲の網が狭まりつつあるという事も認識していないという報告が(もたら)された。
その報告を耳にした顕如や彼の側近たちは策がなったことにほくそ笑む。後世において「大坂之左右之大将」と呼ばれる下間(しもつま) 頼廉(らいれん)などは、報告を聞くやいなや「勝った」と呟くほどだった。

「弱兵揃いの織田では、天下にその名を響かせる武田に勝つなど百に一つもありはせぬ。前回は朝倉の阿呆が足を引っ張り、織田の逃亡を許したが、此度は負け知らずの武田だ。討ち漏らすことなど万に一つもあろうはずがない」

この認識は本願寺だけではなく、反織田を掲げる国人や将軍義昭も同じだった。
事実として武田は三十年以上も他国から国土を侵されたことがなく、逆に他国を攻めては勝利を収め、最悪でも引き分けに持ち込んでいる。
逆に織田家が擁する尾張兵は弱卒として有名であり、武田が抱える甲斐兵一人は尾張兵五人に値すると揶揄される程の評価であった。

「此度は武田に任せよう。我らが出しゃばり武田の足並みを乱すのは得策ではない。武田からの要請に応じて動き、我らは諸侯の取りまとめや裏方仕事に徹することとしよう」

「はっ!」

顕如の下知を受け側近たちは各々のやるべきことに取り掛かる。
彼らの頭には武田が天下を統一した後、自分たちがどの様に立ち回るかということしかなく、不測の事態への備えなど脳裏を過ることすらなかった。
しかし彼らは油断していた。
いかに弱兵であろうとも死地に追い込まれれば『窮鼠猫を噛む』の諺が示すように、捕食者に対して牙を剥き、その喉笛を掻き切ることすらあるという事を。

更にもう一つの誤算がある。尾張兵は決して弱兵などではない。かつてはそうであったかも知れないが、今は確実に違う。
元々尾張には肥沃な土地が多く、日々の糧を得ることが容易であった。
一方険しい山岳部にある甲斐では糊口を凌ぐにも相応の実力を求められる。つまり生存競争で鍛えられているため、基礎となる地力が違うのである。
このことに起因する兵士一人辺りの実力差が、弱兵の尾張と精強なる武田という評価を得る一因となっていた。しかしこれは一般人を戦場に連れ出す、非常備軍を比較した場合に限る。

一般人であっても訓練次第ではアスリートに匹敵する身体能力を獲得し得るように、基礎能力とは鍛錬を積み重ねることで高めることが出来る。
しかし農民を徴兵して足軽とする戦国時代において、彼らを訓練するなどと言う考えは無きに等しい。
子飼いの配下や家臣の親族等、限られた将兵候補に限れば戦闘訓練も施されてはいた。
この常識を信長は打ち破った。豊富な財力を背景に兵農分離を行い、常備軍を抱えるようにしたのだ。
そして静子は更にそれを一歩推し進めた。新兵の損耗率を下げるため、大規模な兵士訓練所を設け、徹底した新兵訓練を施すように進言したのだ。
その結果、弱兵と嘲られた尾張兵は一変した。
苛烈を極める基礎訓練は、それを修了した新兵たちの間で「仏の一週間、修羅の三か月、地獄の半年、死を望む三か月」と恐れられるようになっていた。

ただし静子の兵士訓練所を潜り抜けた者には、過酷な経験に相応しい利益を享受することができる。
第一に、訓練修了者は仕官先に困らない。彼らの雇用主となる武将は、その訓練が如何に過酷であるかを知っているからだ。
肉親の情が入り込む親許から離し、嫡子を訓練所に放り込む者すら居た。

第二に基本的な受け答えができ、犯罪に手を染めていなければ一切の身分を問わない点だ。
長子相続が常識である戦国時代や江戸時代において、家督を継ぐ嫡男以外の扱いは有体に言って不遇であった。
嫡男にもしもの事があった場合の予備として、家の一室に留め置かれ『部屋住み』と呼ばれることになる。
自身の家を立てることはおろか、妻を娶ることも許されず、家長の顔色を窺う居候のような扱いを受けた。
代替わりをし、嫡男が家督を相続しても部屋住みは変わらない。当主となった嫡男に養われつつ、当主の万が一に備えるだけの人生を送ることになるのだ。

それゆえ飼い殺しの人生を嫌い、奉公や養子に出る次男以降も多かった。予備はひとつあれば良く、三男以降は『部屋住み』にすらなれない。
とはいえ嫡男の立場には責任が付き纏う。
親からの財産を全て受け取る代わりに、自身の家族はもとより、兄弟姉妹の食い扶持を稼ぎ、兄弟の奉公先や養子先を探し、姉妹が嫁入りするとなれば持参金を持たせてやる責任があった。

世界的に見れば養子や奉公と言う選択肢がある分、日本はマシな部類であった。
世界、特に欧州では奉公や養子に出るという考えはドイツの一部にしかなく、基本的に家長に飼い殺しにされるか、僅かばかり手切れ金を渡され放逐されるのが常だった。
それゆえ身内での家督争いが起きやすく、家長が死亡した際に死を悼むどころか祝福することさえあった。
ただ財産を相続した者には、日本と同じく兄弟姉妹に対する責任が課せられた。
他にも聖職者になる道や、騎士として王に仕える道もあるのだが、特権は有力者が独占しており、自身の属する一族がどの程度実力を持っているかが大きく影響した。

話を戻して最後の利点は、訓練の期間中は食事と住処が保証される事だ。兵士としての適性がなく脱落するとしても、判断されるまでの見定め期間が存在する。
その間は三度の食事に温かい寝床が得られるのだ。しかし課せられる訓練は熾烈を極めるため、寝食のためだけに志願するのでは割に合わないこと甚だしい。

反織田筆頭の本願寺や朝倉、浅井が暗躍している頃、将軍義昭もまた陰で画策していた。
そりが合わず微妙な仲となってはいたが、表面上は信長とにこやかに付き合い、裏では対決の準備を進めていた。
千五百七十年の第一次織田包囲網が崩壊してから二年、第二次織田包囲網が着実に、そして静かに信長の足下に忍び寄っていた。






六月下旬、スクリュー船試運転のために静子は知多半島方面へ向かう。試運転ゆえ長良川でも問題なかったが、スクリュー船は外洋で活躍することを念頭に置いて設計されている。
よって海で試運転する方が理に叶っている。逆を言えば河川はスクリュー船に拘る必要はなく、現在の和船で十分賄えた。

「それでは始めて下さい」

信長より視察の全権を与えられた静子が、試運転開始の合図を下す。
今回試運転するスクリュー船は2タイプを用意している。一人乗りと二人乗りの2種類である。
一人乗りはその名が示す通り、乗員が一人のみで全てを操作する。
操舵装置とスクリューが一体化した現代のモーターボートのようになっており、操舵も出力調整も全て一人でこなす必要がある。
二人乗りは装置が分かれており、操舵手と出力調整手とが互いに連携しあい船を操作する。
三人乗り以上にしない理由は、装置が単純であり専任以外の乗員は邪魔になるためだ。そもそも操縦に厳しい訓練を要するため、余剰人員など割きようがない。

船の基本構造はどちらのタイプにも共通している。外燃機関であるスターリングエンジンの回転をクランク機構によって伝達し、樹脂製のスクリューを回転させる仕組みだ。
それぞれのタイプの違いはそのエンジン出力にある。専任の操縦手を用意する必要がある代わりに、装置を大型化することができ、大型化に伴って大きく出力が増強する。
搭載されるシステム及びパーツ類が共通しているにも関わらず開発期間が長期化したのは、ギアボックスとトルクコンバーターに原因があった。
スクリュー船を効率的に運用するには、スクリューの回転速度と回転力を動的に素早く変更する必要がある。
これを実現する為に変速機構であるギアボックスとトルクコンバーターが必要となった。

乗り物全般について言える事だが、停止状態から初動へと移行するにはスピードは遅くとも強いトルクが必要となる。
一方、スピードが乗っている状態では回転数が少ないとそれが抵抗となってしまうため、小さい力であっても高速で回転する必要が出てくる。
この状態を切り替えるためにギアボックスが必要となり、その切り替えをスムーズに行うためトルクコンバーターが望まれた。

ただしトルクコンバーターの開発は困難を極め、未だ開発のめどが立たない。そのためギアの切り替えはクラッチ方式で操作するようにしている。
油圧による倍力機構が無いためギアチェンジには力が必要であり、専門の人員を必要とした。

「イ型から初めて下さい」

タイプの名称が長いため、静子は一人タイプをイ型、二人タイプをロ型と開発コードネームを割り振った。それがそのまま名称に採用されて今に至る。

「イ型、試験始めぇ!」

合図係の足軽が太鼓を叩く。それに呼応してイ型の船は少しずつ動き出した。座学や模擬機で訓練していたとは言え、実機を触るのは初めてであったためか、船の動きはぎこちない。
中にはギアチェンジに手間取り、開始位置からほとんど進めていない船もある。それでも時間とともに加速が乗り始めた。

「続いてロ型を開始して下さい」

「ロ型、試験始めぇ!」

イ型が巡航速度に達したころ、二人乗りのロ型が試験を迎える。流石に専任の担当者がいるためスムーズに速度が上がっていく。

「順調かな?」

イ型、ロ型ともに順調に試験を行っていた。この分ならすぐに実戦投入出来るかな、と静子は楽観視していた。だが、技術試験には付き物の落とし穴にはまることになる。

「……ん? 警笛? 何かあったのかな?」

試験が半分ほど進んだ頃、突然異常を知らせる警笛が鳴り響いた。
すぐに伝令が駆け付け、異常の理由を静子に報告する。それは静子も、開発に関わっていた九鬼水軍も想像しなかった理由だった。

動力停止(エンスト)をした?」

「はっ。高速運転中に突然機関停止致しました。現在、技術者たちが原因を特定中です」

ギアを高速回転させての移動試験中、イ型とロ型ともにエンストを起こす不具合に見舞われた。それも一回や二回ではなく、何度も起こす状態だ。流石に異常事態だと静子も理解する。

(エンストを起こす? ギアの開発に不備があった? いや、そんなはずはない。ギアボックスの設計図を確認したけど、素人目にも異常と思える機構はなかった。それに低速状態では問題なく動作している、ギアが切り替わっている以上はギア比の違いによる異常が出るとは思えない)

開発者が一隻のギアボックスを分解して調査中ゆえ、その結果いかんで方針が決まる。もし、ギアボックスに不具合があれば、改修にどれだけ時間を要するか判らない。
緊迫した空気が漂う。みな、口にこそ出さないが報告を心待ちにしていた。重苦しい雰囲気が霧散したのは、それから一刻後の事だった。

「……つまり回転数が足りなくてエンストしていた、という事?」

報告を聞いて静子はホッと胸をなで下ろす。エンストを繰り返した理由は、スクリュープロペラの変形が想定よりも大きく、水の抵抗が大きくなったため高速ギアでのトルク不足から回転数が下がり、指定の回転数を維持出来なくなっていた事が原因だ。
他に原因はないかギアボックスを分解して調査したが、全てのパーツに故障部分はなく、連結部にも問題はなかった。

すぐに聞き取り調査を行う。日が沈む少し前に聞き取り調査を終えた静子たちは、結論を出すのは明日と決めてその日は解散した。
翌日、聞き取り調査結果を確認した一同は、今後の方針を議論する。

「今回の試験でスクリュー船の有用性が実証できました。イ型、ロ型ともに低速回転での試験しか行えていませんが、検証の結果(かい)で出せる速度を上回っていることが判明しました。今回発生した高速回転時の不具合は、ギア比を調整してトルク幅に余裕を持たせれば解決できます。以上をもって、スクリュー船は実用段階に入ったと結論づけます」

集まった一同に静子は宣言する。聞き取り調査や機構の調査報告書を確認した結果、スクリュープロペラの変形は素材を変えるしかなく、金属にすると重くなり加工も難しい。
ギアボックスの構造には問題点がないため、低速ギアと高速ギアの間に中間速のギアを挟むことで解決を図るという結論になった。
機構自体に大きな不具合が存在して発生したのではない、という事に一同は胸をなで下ろす。スクリュープロペラは外洋に出るために必要な機構だ。
それゆえ信長からの期待は大きい。数年の開発を経て行う試験で、無様な結果を晒せばどんな罰が下るか、みな戦々恐々としていたのだ。

その後、高速回転時の試験項目は全て除外し、低速回転時の試験のみを再開したが、小さな不具合や人員の習熟度に起因する誤操作などが発生したものの、致命的な問題は発生しなかった。
試運転の試験結果を信長に報告するため、静子は試験結果書を纏める。信長用ゆえビジネス報告書と同じく最初に結論を記載する。

河川での小規模運用に限定するのなら、現在の推進器である()を使う方が効率的である。
ただし、艪櫂船は大型化や一定の速度に達すると途端に効率が落ちるため、大型船を少ない人数で運用して大量輸送を実現する場合は原動機(エンジン)式スクリュー船に軍配が上がる、が結論となった。
なお艪もスクリュープロペラも水を押しのけて推進力を得るという原理は同じだが、艪や櫂は低速な小型船にこそ適性が高いのに対して、スクリュープロペラはレジャーボートから輸送タンカーまで幅広くカバー出来る。

「現在の河川輸送では利点は少ない。海運での大量かつ高速輸送を実現することで大きな利益が得られる……っと」

信長が考えつくであろう疑問の回答を、静子は可能な限り試験結果書に記載する。何しろ彼は少しでも疑問を感じれば嵐のように質問を投げつけてくる。
身体的にも精神的にも疲れるので、信長への報告書は敬遠されがちだ。
自分にも出来ると報告書を自分で提出した技術者も何人かいたが、報告書が突き返された上に質問で埋まった紙束も付いてきて、更に返答はまだかと矢の催促をされたという話が出回って以来、静子が書くのが暗黙の了解になってしまった。
だから技術者たちは意外と静子に頭が上がらない。
ある技術者は語る。信長の質問は単純に回答を口にすれば良いのではなく、本人を納得させる理論を組み立てて話さなければならない、と。
本人が技術を完璧に習得しても、それを他人が理解できるように説明できるかは別の才覚である。

「うーん、こんなものかなぁ。なんだか最近、中間管理職のような立場な気がするけど、気のせいにしておいた方が良いよね」

書き終えた分厚い報告書を、静子は運搬用の木製書類ケースに入れる。後は信長に届けて貰うまでの処理を小間使いたちが行ってくれる。
書類ケースを蕭に渡して信長への発送を依頼すると、静子は背伸びをして身体をほぐす。

「ふぃ〜、次は改良型スターリングエンジンと高炉の確認だね。あっちは足満おじさんが色々と準備しているから、私は試験日までまったり出来る」

「お手すきでしたら、この書類を処理お願い致します」

背伸びしている静子の肩へ手を置くと同時に、いつの間にか真横に立っていた彩が山のような書類を差し出してきた。






一口に高炉と言っても、銑鉄をつくる「製鉄(せいてつ)」と、製鉄された鉄を鋼に精錬する「製鋼(せいこう)」の二段階の運用工程が存在する。
「製鉄」は基本的に細長いとっくり型の頂から、コークスと鉄鉱石を交互に投入し、炉内の熱で鉄鉱石を溶かす作業だ。

高炉に投入されたコークスは、炉下部より吹き込まれる熱風によって燃焼する。高炉によっては保管還元剤として微粉炭などを投入する事もある。
燃焼したコークスは還元ガスとなる一酸化炭素や水素を発生させる。この還元ガスが高炉内の上昇気流となって鉄鉱石を溶かすと同時に、鉄鉱石に含まれる不純物を除去(還元)する。
つまりコークスは鉄鉱石を溶かす温度を炉の中に作るのと、鉄鉱石にある不純物を除去する還元剤という2つの役割を担っている。

還元ガスによって不純物が除去された溶銑(ようせん)(溶けた鉄)は、そのまま重力に従って炉の底へ流れる。
そして炉下部にある燃焼中のコークスと接触し、コークスが発熱時に発生する炭素と反応して、炭素を数パーセント含む鉄となって炉底の湯溜まり部に溜まる。
この時、鉄鉱石に含まれる不純物は溶銑の上に層となって溜まる。これをスラグと呼び、溶けた鉄とは別に高炉から排出される。スラグは製鉄時の副生品として再利用される。

鉄鉱石に含まれる酸素などの不純物を除去し、溶解までのプロセスを一挙に行える高炉の原型は、十四〜五世紀にドイツのライン川支流で誕生した。
初期は水車でふいごを動かして送風量を増やし、熱源と還元剤に木炭を利用していた。
燃料としてコークスが利用されるのは十八世紀初頭なので、それまで多くの木が伐採され、結果森林が破壊されていった。
他にも田畑開墾などの理由はあるものの、高炉による鉄生産が欧州の森林減少に拍車をかけたとされている。

近代高炉が誕生して約三百年経つが、依然として高炉が近代的な科学プラントより優位性を保持している理由は、単純な設備で不純物の除去をしながら溶銑を一挙に行える点だ。
また高炉は他の化学プラントと違い寿命が長い。毎日高温環境に二十四時間晒される炉だが、炉内のレンガを十数年ごとに張り替えるだけで操業を続けられる。
二十四時間三百六十五日連続操業する高炉において、長寿命化は必須とも言える要求だ。
他の化学プラントの場合、破損箇所によっては作り直しになるため、この点でも高炉は優位性を保っている。

「割と心配だなぁ」

心配で胸が苦しい静子は、不安を隠さず口にする。高炉の試運転は一度に行うのではなく、幾つかの単体試験が行われた後、最後に結合試験が行われる予定だ。
本日は高炉において重要な設備である送風機、その動力となるスターリングエンジンの試運転日だ。
スケジュールに余裕を設けているとはいえ、試運転で不具合が発生すれば後の試験日がずれ込み、最後の試験工程である高炉の結合試験日が遅れてしまう。
一つでもスケジュールが遅れれば全体が遅れるクリティカルパスゆえ、今までと違って静子も心の余裕があまりなかった。

「大将が不安では下の者も落ち着かん。どっしりと構えておけ」

そわそわする静子を足満はたしなめる。彼は静子とは反対に、いつもの沈着冷静な表情をしていた。内心は誰にも分からないが、少なくとも足満の方が落ち着いているように見える。

「そうはいってもねぇ。あ、そうだ。そっちの焼結(しょうけつ)試験は終わったの?」

「……あれはわしが居らずとも問題ない。それに鉄鉱石の粉砕から始めるから、結果が出るのはまだ先だ」

鉄鉱石はサイズが画一ではないため、そのまま高炉へ装入すると目づまりを起こす。
それを防ぐ為に、鉄鉱石を一度粉砕して粉末化し、同じく粉にしたコークスと十数パーセントの石灰石を混ぜ、焼いて形を統一する工程を焼結と言う。
焼結は行わないが形を整えるのは石炭コークスやバイオコークスも同じだ。これらの下準備を終えてようやく鉄鉱石やコークス類が炉へ投入される。

「バイオコークスの利用価値がどこまであるか、は早めに実証試験したい所だね」

還元剤にはならないが熱分解ガスの燃焼効果で炉内の温度を、石炭コークスだけより高く上げられ、結果的に溶解する時間を短く出来る利点がある。
ただしどれだけの割合で代替できるか、こればかりは実証試験を繰り返すしかない。幸いにも現代と違って実験用の高炉を製造する事はさして難しくない。

「それだけではなかろう。バイオコークスがあれば、スターリングエンジンの熱源にも出来る。作動ガスが空気で1kwの発電が出来るドイツ製ほど、高品質なものは望めないかもしれぬがな」

「ヘリウムガスが多い中、ドイツは空気でやっているから割と凄いと思うけどね」

「その分、我々は楽をさせて貰っている。この場でヘリウムガスを生成など面倒で叶わぬ」

最大出力1kwクラスで、作動ガスが空気のスターリングエンジンは実用化し始めている。無論、スペックそのままの数値を出せるわけはなく、幾分出力は落ちるだろう。
約二百年前の設計であるエンジンが現在、特に軍事用潜水艦で注目を浴びているのは、ディーゼル機関や原子炉より静音、かつそれらが出す廃熱で動作させられる点である。
実際、現代日本のそうりゅう型潜水艦には、AIP(非大気依存)推進機関と呼ばれるスターリングエンジンが搭載されている。
しかし、そうりゅう型潜水艦にスターリングエンジンが搭載された理由は、効率的な燃料電池がなく、水素の良い貯蔵方法がなかったため、万が一の事故を考慮して燃料電池の搭載が見送られたからなのだが。

「高炉が完成すれば、いよいよ鋼の生産に取りかかれる。工業品は鉄より硬い鋼が必須だから大変だよ。後、部品作るのは最初手作業って所も……ホブ盤とか」

ホブ盤とは歯車の歯切り加工に使われる歯切り盤の一種だ。歯切り加工とはホブと呼ばれる専用の切削工具を回転させ、歯車加工前(歯車ブランクとも言う)に歯を切っていく事だ。
古くから歯車は重要なパーツではあったが、ホブ盤を使った工業的な生産が行えるようになったのは十九世紀後半の事だ。それまで歯車の製造は手作業で行われていた。

「今は手作業だからな。均一なサイズの歯車を大量に求めるなら、どうしてもホブ盤は必要になる」

「歯車は重要な部品だからねぇ。鉄製のホブで真鍮削り用のホブ盤は成功しているけど、やっぱり鉄製の歯車は必要だよ。木製の歯車は……ホブ盤より糸鋸らしいけどね」

鉄製のホブで真鍮歯車を製造は可能だが、鉄製の歯車は鋼製のホブが必要になる。木製は強度が異なるため、ホブ盤を使うより糸鋸でカットする方が良い。

「今は手作業が多いから、お陰でギアボックスの量産時は割と負担をかけちゃったよ。ま、高炉が完成したら、鉄製のホブと同じものを鋼で作ってくれれば良いだけだから、まだ楽と言えば楽かな」

(その最初の手作業が一番苦労するのだが……まぁ静子が苦労しないのなら良いか)

どの業界でも先駆者は常に苦労する。しかしホブ盤がある事で歯車の量産が可能になり、職人が一つ一つ手作業で作るより桁違いに効率が上がるので、先を目指すのであれば必要不可欠な工作機械だ。

「工作機械は作るより仕様統一が面倒だけどね。さて、そろそろスターリングエンジンの準備が終わったかな?」

咳払いをした静子は強引に話題を変え、ホブ盤などを標準化や規格化していた時の忌まわしい記憶を頭の中から強引に追い出す。
後に続く人間が困らないように、静子は技術街で使われるものは全て標準化や規格化した。
これによって次の世代は技術の習得を効率よく行える。もっとも最後は五感や身体で覚えた事がものを言うが。
だが毎日、朝から晩まで机に向かって書類を書き上げるのは肉体的にも精神的にも疲れる。
重要とはいえ、静子にとってその手の作業は初めてに近い体験だというのも疲れる原因となっていた。
結局、標準化や規格化の書類を書いては職人と会議、フィードバックを反映してまた会議、と気の遠くなる作業の繰り返しだった。
そしてこの苦労が一つだけでなく幾つもあるのだから、静子の心労は計り知れない。彼女が大事だと思いながらも、もう嫌だというジレンマを抱えてしまうのも無理はなかった。

「殿、先ほど報告がありまして、後四半刻(約三十分)で試験を行えるとの事です」

若干やさぐれていると、静子の疑問を聞いた玄朗が彼女に言われるまでもなく、各所へ確認を取りに行き、その結果を静子に報告してきた。
優秀な部下がいて幸せだ、と思いつつ静子は顔を引き締める。

「よろしい。では時間になったら移動しましょう」

四半刻後、静子たちは試験場へ移動する。
その頃には何処かへ行っていた慶次や才蔵も戻ってきていた。長可の服が若干血で汚れていたが、角力の時についたという理由に静子は納得し、それ以上尋ねなかった。
実際はあちこち隠れていた間者を見つけては、サンドバッグ打ちをしつつ尋問をしていただけなのだが。

試験場に到着すると、既にスターリングエンジンのシリンダが温められていた。
今回、試験で使われるスターリングエンジンは2ピストンエンジンだ。
2つのピストンとそれぞれに繋がっている加熱部と冷却部、そして一時的に作動流体を蓄える再生器の4つが主な部品だ。
作動流体とは別名動作ガスとも呼ばれる。外燃機関は外部から得た熱エネルギーを運動エネルギーに変換する必要があり、この変換時に使われる物質が作動流体と呼ばれるものだ。
スターリングエンジンにおいては基本が大気圧の空気、高性能になると圧縮したヘリウムガスや水素ガスが利用される。

今回はヘリウムガスや水素ガスではなく、空気ガスを利用したスターリングエンジンだ。
動作はまず加熱部で加熱された空気がクランク機構のうち、高温側にあるピストンとシリンダを動かし、続いて高温の空気が冷却部へ移動して冷却側にあるピストンとシリンダを動かす。
後は作動流体が加熱と冷却を繰り返す事で、高温側と冷却側それぞれにあるピストンの往復運動が、コネクティングロッドを介してクランクの回転運動へと変換される。

クランクの回転運動は、出力軸を通してギアボックスに伝えられる。
ギアボックスは速度を下げて(トルク)を上げるか、速度を上げて力を下げるか、用途によって使い分ける。今回は送風機のため、高速・低トルクのギアボックスが必要だ。
ギアボックスの歯車の組み合わせを送風機用に設定し、最後にギアボックスの出力軸で羽根車に回転運動を伝えて、高炉の中に熱風を送り込む。

これだけ大がかりな設備を投入して出来るのが、高炉に併設される熱風炉だ。熱風炉によって高炉内の温度は高まり、出銑量が飛躍的に増大する。
送風する温度が高ければ高いほど良いが、現代のような千度を超える熱風を送風する事は叶わない。
それでも一日に数トンの鉄を生産出来るのだから、戦国時代では破格の生産力だ。

高炉は高性能だが砂鉄が使えない欠点がある。
これは砂鉄に含まれるチタンが高炉内で燃えると酸化チタンになり、溶けた鉄の流れを阻害してしまうためだ。そのためチタンが少ない鉄鉱石しか高炉には使えない。
だが鉄鉱石は日本では産出量が少なく、海外の産出国を頼るしかない。一番身近な産出国は中国になるが、中国の鉄鉱石は鉄含有量が少ないためコストパフォーマンスが悪い。
よってインド、ベトナム、タイと複数の国から鉄鉱石を輸入した。
戦国時代に日本へ鉄鉱石および石炭の輸入が行えたのも、南蛮貿易に大きな権利を持っているイエズス会がいたからだ。もちろん、それに見合う銀の延べ棒が必要となったが。

「割と銀が飛んだなぁ。まぁ高炉が成功すれば彼らにも利益があるから、先行投資って事なのだろうけど」

一見、商売には関係ないイエズス会だが、きちんと南蛮貿易から利益を得ている。
インドや東南アジア諸国とヨーロッパ、もしくは日本との交易路はイエズス会、彼らの後ろにいるカトリック教会が握っている。
よって交易で船が出る度に、商人は彼らにお金を納めなければならない。よく言えば献金、悪く言えば交易路を使用するみかじめ料だ。
更に彼らはアジアに点在する港や、アジア地域最大の奴隷市場があるマカオなどで一定の権益を持っていた。
つまり静子が南蛮貿易を行えば行うほど、イエズス会は商人から献金を徴収する機会が生まれるのだ。
座しているだけで大金が懐に入るのだから、交易が盛んになるための投資なら気前よくやる。
実際、静子が輸出品を増やしたために交易が増え、結果イエズス会の財政は右肩上がりしたのだから。

「そんな事より、そろそろスターリングエンジンが動くぞ」

「おっといけない。今は目の前に集中っと」

足満の指摘で思考の淵から戻ってきた静子は、余計な雑念を頭から追い出す。視線をスターリングエンジンの方へ向けると、何人かが出力軸にあるハンドルを回していた。
スターリングエンジンは作動流体を温めるだけでは動かない。ピストンを動かして作動流体の流れを作る必要がある。
そして作動流体が一定の温度差に達さないと、スターリングエンジンは外燃機関として動かない。

「少し時間がかかりそうね」

顎に手を当てて職人たちを見守る。若干、プレッシャーになったのか、職人たちは小声で何か話し合いながらハンドルを回していた。
そして三十回ほどハンドルを回した頃、ようやくスターリングエンジンが始動した。

「おおっ」

長可が感嘆の声を上げる。慶次や才蔵も声こそ上げなかったが、スターリングエンジンに釘付けだった。少しして出力が必要数に達した頃、ギアボックスを介して送風機が始動する。
最初はゆっくりだった風力だが、すぐに地面の土埃を吹き飛ばすほどのパワーになった。実際に熱風をおくる試験は別の日だが、現状を見る限りとくに問題はないだろうと確信した。
そして彼女の確信は正しかった。高炉の温度を高くする熱風炉の試験は、最終試験まで大きな問題なく成功を収めた。






高炉に関する試運転を行ったが、どれも大きな不具合が起きず順調に進んだ。小さな不具合が積み重なって数日試験の予定がズレたが、巻き返し可能な範囲だった。
スクリュー船のトラブルと比べて、恐ろしい程に問題らしい問題が起きなかった高炉の試験は最終試験まで終わった。
関係者たちに労いの言葉をかけ、盛大な打ち上げを行い、全ての報告書を信長に提出した静子は、つかの間の休息を満喫していた。

「ふいー、一時はどうなることかと思った」

「良く頑張ったな、静子」

自室の机にぐったり突っ伏して休憩している静子に、足満は労いの言葉をかける。
高炉の試験が終われば、奇妙丸の初陣式まで特にやる事はない。
彼は爺からスパルタ式の特訓を受けているのでこの場にいないが、風の噂ではそれなりに見られる様になっているとの事。
織田家の嫡男として立派につとめを果たして欲しい、と静子は心の中でエールを送った。

「足満おじさんもお疲れー。色々と手が回らないところを手伝ってくれてありがとー」

静子も足満へ労いの言葉をかける。

「気にするな。わしが好きでやっている事だ」

何でもないという態度だが、彼の口元には小さな笑みが浮かんでいた。再び机に突っ伏した静子は頭をごろごろさせつつ、高炉のこれからの事を考える。

製鉄が出来れば次は製鋼を、と行きたい所だが、静子にはそれが出来ない理由があった。それは製鋼を行うための転炉は耐火レンガと同じくジレンマを抱えている。
つまり鋼を作る転炉のために鋼が必要となるのだ。正確には転炉を支える支柱と動かすための横棒が、鋼でなければ強度が足りず割れてしまうからだ。

このジレンマのために静子は一工夫しなくてはならない。高炉で出来た鉄を一旦成型し、日本刀のように叩いて必要な炭素量を含む鋼に変える。
だが溶銑をそのまま成型することは出来ない。リンや硫黄が混じっていて、鋼にしても脆くなってしまう。これを防ぐには溶銑予備処理と呼ばれる工程を行う必要がある。
簡単に言えば溶銑に含まれる不純物を取り除く作業だ。基本的に脱珪、脱リン、脱硫黄の三つを行う。その為に投入する材料は石灰、酸化鉄、蛍石などだ。
これらを溶銑に投入して攪拌する。この時、酸素は送り込まない。酸素を送り込むと溶銑が高温になり、結果脱リン反応が鈍くなってしまうからだ。
石灰や酸化鉄の入手は容易で、蛍石も日本で産出(岐阜県平岩鉱山など)するために苦労する事はない。

溶銑予備処理を行った鉄を、日本刀の技術で精錬して鋼にする。それらで転炉を作り上げてようやく鋼の大量生産が行えるのだ。
更に高品質な鋼を求めるなら転炉で精錬後、鋼に含まれる成分の濃度を調整する二次精錬の工程を行う必要がある。
二次精錬は製鋼の最終工程にあたり、そして鋼材の品質を決める重要な工程である。
現代では高炉で精錬、溶銑予備処理、転炉で精錬、二次精錬の四プロセスが高級鋼を製造する標準的な工程となっている。

「高炉で製造した鉄を精錬して作った鋼かぁ」

高炉の試験は問題なく終了した。スラグがかなり出たが、最初からスラグを少なくする事は不可能だ。
問題なく鉄を溶かし、転炉ではないものの精錬して鋼が出来た事だけでも奇跡と言える。
石炭をコークスに変更するコークス炉や、高炉から出るスラグも副産物として再利用される。
特にコークス炉は様々な副産品が手に入る。燃焼排ガスをそのまま外へはき出せば公害を引き起こすゆえ、排出されたガスは精錬してクリーンな排ガスにする必要がある。

コークス炉の構造は基本的に燃焼室、レンガ壁で出来た炭化室が交互に配置された炉だ。
燃焼室での熱が炭化室にある石炭を蒸し焼きにする。出来たコークスは高温のため、高炉で使用出来るように冷却される。
冷却に水を使用すると品質が下がるため、乾式消火設備と呼ばれる場所で、不活性ガス(窒素など化学反応が起きにくい気体)を使って冷却する。
この時発生する高温ガスを使用し、発電用のタービンを回す蒸気を生成するシステムもある。

石炭を蒸し焼きにすると揮発分がガスとなって放出される。ガスには粗軽油や硫酸、アンモニアなどの有効成分を含んでいるため、そのまま外へ放出するのは危険だ。
まず高温のガスをアンモニア水で冷却する。コークス炉ガスに含まれる硫化水素や塩素ガスを効率的に除去するには希薄アンモニア水がもっとも良い。
後は劇薬を除去されたガスからタールや粗軽油、硫酸、アンモニアに精錬し、残ったガスはコークス炉の燃料として再利用する。
なお硫酸とアンモニアを使って窒素肥料の硫酸アンモニウム(別名硫安(りゅうあん))を生成するか、それらを材料にして硝酸アンモニウム(別名硝安(しょうあん))を生成する事が出来る。

硫安は肥料として重要だが、硝安は肥料の他に色々な使い道がある。
硝安は水と混ぜると吸熱反応を起こすため、純度をわざと落とした硝安と水を混ぜて凍らせれば、携帯保冷剤が出来上がる。
ただし硝安は取り扱いを一歩間違えれば爆発し、周囲に甚大な被害を引き起こす。そのため静子は極力純度を悪くした硝安を、携帯保冷剤として取り扱うだけに限定しようと考えた。

「出来は良い感じね。これなら転炉の支柱も半年ぐらいで出来そうかな?」

「さてな。少量ならうまくいっても、大量生産となると成功しなくなるケースは良くある」

「ま、そこは少しずつ生産量を増やして、問題が出ないか確認しないとね」

高炉の試験は成功を収めた。だがこれで完了という訳ではない。むしろここから始まるのだ。
技術は日々進歩する。今の高炉では鉄の品質が低い。これから何十年、下手すれば百年以上かけて、じっくり研究しつつ高品質な鉄や鋼を生産していく。
鉄や鋼の品質があがれば、今は木造の船もやがて鉄に変わる。鉄に変われば今より更に大型の船が建造出来、物流は大きく変わる。
だが高品質な鋼は同時に強力な大砲を製造する事も可能にする。更に高炉や転炉の技術を応用して爆薬を製造する事も可能になる。
だが技術とは所詮道具であり、平和の為に使われるか、それとも人類の歴史の中で危険なものとなるのか、それは使う側の意思で左右される。

例を挙げるならハーバー・ボッシュ法であろう。
ハーバー・ボッシュ法誕生前まで、人類は『マルサスの限界(土地の生産力にあった人口に抑制しなければ、等差数列(とうさすうれつ)的に増加する生活資源が必ず不足する考え)』による貧困に悩まされてきた。
しかし、ハーバー・ボッシュ法によってアンモニアの合成が可能になると多くの化学肥料が誕生し、農作物の収穫量など生活資源は飛躍的に増加する事となった。
これによって人類は初めて『マルサスの限界』を超え、人口は歴史上例を見ないほど飛躍的に増加した。
もしも現代、ハーバー・ボッシュ法によるアンモニア合成が出来なくなった場合、およそ30億人が餓死するであろう、と言われている。

人類の繁栄に大きく貢献したハーバー・ボッシュ法だが、アンモニアの合成は同時に爆薬の原料となる硝酸の大量生産をも可能とした。
現代では「オストワルト法(アンモニア酸化法とも言う)」による工業的製法が行われているが、この時アンモニアが重要な役割を果たす。
オストワルト法とはアンモニアを酸素との混合気体にし、プラチナとプラチナ鉱石に含まれる不純物の一つロジウムを一割程度まぜたものを触媒にして加熱する。
すると一酸化窒素が発生し、これが空気中の酸素と結合して二酸化窒素に変わる。この二酸化窒素を温水と反応させ、硝酸と一酸化窒素を発生させる。
最後の工程で発生した一酸化窒素は再度利用され、再び二酸化窒素となって硝酸と一酸化窒素になる。

このようにオストワルト法を用いればアンモニアと空気(純粋な酸素の方が生産量は増える)、温水があれば爆薬が製造出来る。
硝酸が他国の情勢に影響されず自国内で大量生産が可能となったため、今まで資源が尽きれば終わった戦争が長期化する事となった。
このためハーバー・ボッシュ法は「平時には肥料を、戦時には火薬を空気から作る」と形容される事となった。

「とりあえず品質を向上させるのは当然として、しばらくは民間で使用して検証、後に軍事利用が良いかなー」

それで問題ないと言わんばかりに、足満は静子の言葉に頷いた。
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