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戦国小町苦労譚 作者:夾竹桃

小話 其之壱

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米+麻=バイオプラスチック

翌年から尾張・美濃全土で岐阜米の生産を行う事が決定された。
その事で静子はようやく、麻を使ったバイオプラスチック研究に入れる。
麻だけでもバイオプラスチックの原料になる。
だが静子の知っている製法の中で最も安全、かつ戦国時代でも原材料が揃うのが、米と麻幹(オガラ)を混合したバイオプラスチック樹脂だ。

この製法で一番の問題点に挙げられるのが、軍需品である米が絡んでいる事だ。
現代日本なら備蓄米の古々米が定期的に大量発生し、麻製のバイオプラスチック樹脂を製造するのに米を利用しても何の問題も無い。むしろ好都合とさえ言える。
しかし戦国時代では米の量が、そのまま維持出来る軍隊の規模に直結する為、中々開発に回す余裕が持てなかった。
だがそれも岐阜米の登場で終わる。
今までの技法から少し手間を加えるだけで、農薬散布した米と同等の収穫量が手に入る岐阜米なら、バイオプラスチック樹脂の開発に回す余裕が持てる。

麻に関しては簡単だった。尾張・美濃全土で栽培すれば十分な量の麻幹(オガラ)が手に入る。
専用の土地は一年を通して栽培するが、百姓が使う土地は冬に栽培を集中させれば農繁期と重ならない。その事を考えていた静子は、ふと全国民栄養改善計画を思い出す。
少し考えて彼女は閃いた。麻幹(オガラ)を安定して入手し、更に麻の実を百姓たちに常食させ、双方にとって利益になる方法を。

まず静子は麻の栽培を全土に推奨する。当然、それだけでは百姓たちに利益はない。
そこで彼女は麻の茎部分だけにターゲットを絞った。静子は百姓たちに「麻の茎を織田家へ持ち込めば、無料で線維に加工する」と話を持ちかける。
麻から線維を取る作業はシュリヒテン剥皮機のお陰で簡素化している。しかし一般の百姓たちがこれを使う事は出来ず、古くから伝わる方法で線維を採取する必要がある。
取り分は六が百姓、四が織田家で、更に織田家四の内一が神社に奉納される。つまり百姓側は、麻の茎を届けさえすれば、後は待っていれば線維が届く仕組みだ。
静子は線維ではなく麻幹(オガラ)が必要の為、線維自体は余り必要としない。何より彼女は広大な直営麻畑を所持しているので、麻の線維は有り余っていたのだ。

更に神社に麻糸を奉納するという点から、静子は百姓たちにこう言った。

「麻の実は神仏からの贈り物、感謝し残さず食べる事です。大人は一日二粒、子供は一日一粒食べると良いですよ」

麻の実は天然のサプリメントと言われるほど、バランス良く栄養が含まれている。
これを常食するだけでも身体機能の向上が見込める。
低圧圧搾法で麻の実を絞ると麻の実油が取れる。そして麻の実は油を絞り出すとタンパク質が増える。これを粉末にした麻の実パウダーは天然のプロテインとなる。
この事に着目した信長は勿論、濃姫、奇妙丸、森可成、秀吉、滝川、丹羽、柴田、佐々、竹中兄弟、慶次、才蔵、長可に彩など、静子の周りにいる人間は、麻の実ナッツ、麻の実油、麻の実パウダーを常食化していた。
勿論、静子も麻の実ナッツを常食化し、必要な栄養素が足りなくならないよう気をつけている。
女性限定だが麻の実油は食用以外にスキンケアとしても活用されていた。

八穀に麻の実が含まれているとはいえ、それはたまに摂取しているだけで百姓たちは常食化していない。
だがいきなり常食化しろと百姓に言っても受け入れられないと考えた静子は、麻の実を「神仏からの贈り物」と偽り、食べる事が神仏への感謝になると百姓たちを諭した。
信仰心が現代と比較にならないほど篤い戦国時代での説得方法だった。

案の定、この話をすんなり受け入れた百姓たちは、一日に二粒、子供には一粒与え始めた。
これで数年も経てば、全国民栄養改善計画の第二段階である「栄養失調の改善」が完了する。
麻幹(オガラ)も安定して入手出来、米も大増産が見込める事でようやく全ての問題が片付いた。

「さて……バイオプラスチックが本当にこの時代でも再現出来るか。こればかりは神のみぞ知るだね」

麻製のバイオプラスチックが完成すれば、日々の生活用品に樹脂製品を用いる事ができ、生活レベルの底上げを図ることができる。
特に顕著な効果が見込める運輸分野では、物資を運ぶ際に主に使用されている木箱をリプレイス(置き換える)することが挙げられる。
木箱を作るにはまず強度のある木材が必要になる。だが木材の原料となる伐採された原木を運搬するには莫大なコストがかかり、また原木から材木へ加工するには長期間の乾燥作業が必須になる。
一度材木へ製材(加工)した後は修正が効かない。木箱を作るには幾人もの職人による手作業が必要、と完成するまでにかかる人件費と期間は馬鹿にならない。
期間が長く、多くの人件費がかかれば木箱の値段はそれ相応になり、安易に使える代物ではなくなる。

対してプラスチックは所謂合成樹脂であり、木型や金型を用いて丈夫で軽量、かつ木より容易に様々な形への形成が可能だ。
現代では当たり前に利用されるポリ袋も石油から生成される合成樹脂だ。
透けて見える程の薄さでありながら厚布に匹敵する引っ張り強度を持ち、水や薬品に強く、液体を浸透させない特性がある。
分厚く形成する事でポリバケツに代表されるような液体を簡単に搬送可能な容器を作成する事も出来る。
これらを組み合わせて蓋付き密閉容器を作成できれば、火薬の運搬や生鮮食品の運搬など、従来では不可能または特別処置を講じる事に拠る割高だった輸送が可能となる。

戦国時代の陸上輸送における主役である荷駄は木製の車輪を使用している。木製車輪は重く硬いため路面の凹凸をダイレクトに揺れとして伝え、また摩擦も大きいため牽引する牛馬の負担も大きい。
この問題を解決するゴムタイヤの代用品を合成樹脂とファクチスを使用することで作成可能となる。ファクチスを用いてゴムチューブの代用品を作成し、その外部を覆うように樹脂製の外皮を用いることで現代のゴムタイヤに比較的近い物を作成できるのだ。
タイヤの外側部分が出来ればリムやスポーク部分は竹になるものの、自転車やリヤカーが製造可能になる。
自転車は様々な課題があるものの、比較的単純な構造のリヤカーが出来れば、運搬コストは大八車や駅馬車を使うより更に下げる事が出来る。

麻製のバイオプラスチックは石油系のプラスチックより強度は劣るものの、不要になったら粉砕して土に埋めれば、後は微生物が分解してくれる利点がある。
麻が持つ抗菌性を維持し、曲げ強度はポリプロピレンに勝り、耐熱性はポリプロピレン(およそ百度)と同等と、戦国時代においては夢の素材だ。
そして技術が盗まれても問題ない。何しろ素材は麻幹(オガラ)と米だ。特に米を消費するのが他国にとって痛手となる。

「半年で成果を出せば……伊勢侵攻には間に合うかな」
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