挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
戦国小町苦労譚 作者:夾竹桃

小話 其之壱

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

56/134

信長堤

尾張と美濃を手中に収めた信長だが、広大な土地を支配した事である問題が浮上した。
それは洪水である。木曽三川(木曽川、長良川、揖斐川)は、昔から洪水による水害が酷く、大洪水によってたびたび被害を受けていた。
徳川家康の命令で木曽川左岸に御囲堤おかこいつつみが築かれたほど、古くから水害に悩まされている。
過去の信長であれば水害を気にも留めないが、今の彼は水路の支配は重要と考えていた。

ただ単に強権をもって水利を独占すれば大きな反発を受ける。
人が反論し難く、それでいてもっともらしい大義を掲げて、その裏で水利の実権を握る。
水は最重要のライフラインであり、水利を握れば領民の生殺与奪は思うがままだ。
更に水害を防ぎ、領民に感謝されながらに実権を独占できる堤の構築は最上の策だと信長は結論付ける。

だが堤(この場合は貯水池を指す)及び堤防を築くには膨大な資金と時間が必要になる。更に資材も問題だった。
一発で解決する方法はないか、信長は数日かけて考えるがなかなか旨い手立ては思いつかない。
いっその事、重要なポイントだけに絞って対応するかと彼が諦めかけた時、神の啓示ともいうべき閃きが頭の中に浮かんだ。

「そうじゃ……それなら資材も時間も金も解決する」

彼が浮かんだ答え、それはコンクリートを使う事だ。
正確には骨組みにコンクリートを使用し、その上に土や小石を被せて堤防を築く方法だ。

まず最初に上流域で幾つかの貯水池を作る。
貯水池を作る事で雨季と乾季に関係なく、常に安定した水を供給する事が出来る。
それが終われば次は護岸工事を行う。堤防は全て河川の最大流量に耐え得る強度が必要だ。

ここで信長は堤防にコンクリートを使う計画を立てた。
まず堤防を設置する付近で長方形のコンクリートブロックを作る。ブロックと言っても重さが百キロ近くあり岩の塊に近い。
これで堤防の土台兼作業エリアの明示化を行う。後はブロックを積んでいき、河川の水がかぶらない高さまで積み上げられれば、直接コンクリートを流し込んで形を形成していく。
必要な高さまでコンクリートの壁を作り、その上に緑化コンクリート、パーライトを混ぜた混合土、最後に雑草や景観の為の木を植えれば完成だ。

コンクリートであれば河川堤防を作る為の岩を使うより安くすむ。緑化コンクリートで覆えば、周囲の景観に溶け込めるように堤防を築けられる。
人は自身の兵士を使えば良いし、工兵として教育されている静子の部隊を陣頭指揮として派遣して貰えば良い。

信長は河川堤防計画で更に木曽三川により形成された沖積平野、つまり濃尾平野のうびへいやの大規模な開発も組み込んだ。
効率的な土地の開発を行って、尾張・美濃でも有数の生産地帯へと改造する。物資運搬は木曽三川の水路を利用し、陸路に関しては駅馬車を設置して必要地点に運び込む。

上流域で貯水池や堤防、濃尾平野の開発が終われば、残りは下流域のみになる。
木曽三川の下流域は、まさに洪水との戦いの歴史だった。
下流域は長良川、木曽川、揖斐川が網目状に流れ、洪水のたびに形を変える有り様だ。
御囲堤は木曽川の左岸に約50キロにも渡る大堤防だが、信長は舟運路の権益独占、洪水の防御、西国勢力の侵入を防ぐという軍事的な目的を主とし、木曽三川の完全分流を考えた。

信長の計画で描かれた完成図は、奇しくも現代の木曽三川の下流域と同じ形だった。
それが信長の意図なのか、静子から得た地図を真似たかは不明だが、ともあれ彼の計画は木曽三川の下流域の河川改修工事完了を持って工事終了となる。

完成するのに百年は必要と思われる戦国時代最大の治水工事だが、この地に住む人々にとって治水は悲願であり、また尾張は主だった集落や市が西側に集中していたため、多くの人々が信長の政策を支持した。
だが彼らは信長の真の目的に気付いていない。
彼の本当の狙いは、伊勢湾の制海権を得る事、伊勢長島などの輪中地帯を支配下に置く事、そして本願寺勢力の駆逐だった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ