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戦国小町苦労譚 作者:夾竹桃

元亀四年 室町幕府の終焉

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千五百七十三年 八月中旬

八月十一日。秀吉から調略を受けていた焼尾砦を守る浅見対馬守が折れ、織田側へと寝返った。
その一報は即座に信長へと届けられ、山本山城に続く調略の成功に、静子を除いた織田家の主だった家臣間に動揺が広がった。
焼尾砦が落ちた以上、残すは大嶽城のみとなった。大嶽城すらも秀吉が落とした場合、今回の浅井・朝倉討伐における第一功は秀吉のものとなる。
そうなれば織田家内での秀吉の発言力は更に強くなり、それを面白く思わない人間は多かった。

一方、権力争いに興味がない静子には動揺もなく、淡々と柴田勝家や前田利家の陣へと物資搬入及び鉄砲衆の配置をこなしていた。
焼尾砦の報を受けた柴田勝家や前田利家にあれこれと話をきかされ、必要以上に足止めを食ったが概ね予定通りに仕事を終えていた。
翌十二日、史実では夜間に雷雨を伴う大雨が降ったとされるが、静子は昼間の雲の動きなどから、天気が崩れるのは翌日にずれ込むと予想した。
そして静子の読み通り、十二日の夜は風こそ強いものの、小雨すら降らずに過ぎていった。

「天気が崩れるのをただ待つ、ってのも割と暇を持て余すな」

慶次が夜空を見上げつつ呟く。

「ごめんね、こんな天気任せの作戦で」

「構わないさ。ようは天が俺たちに味方するか、それとも敵側につくか、そういう天命を占うのも乙なものさ。しかし、本当にやるのかい? 俺は一向に構わないが、失敗すれば如何に静っちと言えども大目玉じゃ済まないぜ?」

「だからこそ面白い、と思わない?」

静子の返しに意表を突かれ一瞬呆けた慶次だが、破顔すると腹を抱えて笑い出した。含むところの一切ない、愉快でたまらないと言う笑いだった。

「静っちもなかなかどうして傾奇者だな。確かに普通はやらないだろう。だからこそ面白い。俺の兵たちはやる気だぜ。こんな面白い話、乗らない手はないってな」

「下手をすれば寒さで死ぬかも知れないのに、そんなに乗り気な言葉が出るのは驚きだね」

「そうかもな。だが、策がぴったりと嵌った時の連中の顔は、さぞかし見ものだろうな」

そんな話をしていると、慶次隊の中でも猛者と呼ばれる連中がやってくる。
隊長の慶次に倣ってか、みなそれぞれに(かぶ)いていた。中には余程の武功を立てなければ持てない朱槍をあえて携えている者すら居た。

「さて、先に慶次さんへ話をしていたけれど、今回の策が承認されました。策の中身については、以前伝えた内容から変更はありません。ここ一番の傾きどころです、己の生き様を敵に見せつけてやりなさい」

静子の言葉に集まった傾奇者たちは太い笑みを浮かべた。意気込みは十分、後は時が来るのを待つだけだと静子は思った。

来たる十三日。朝から天は曇り、雨の気配が濃厚に漂っていた。早朝、静子は自陣にて雇い入れた中間(ちゅうげん)たちの名簿を眺めていた。

「ここと……ここの集団、結構長い期間雇っていると思うの。そろそろ慣れから意識が緩みそうだから、仕事ぶりが良ければ報酬に色を付けてあげなさい。熟練者なら、報酬が多くても問題ないでしょう」

「それでは、他の者と差がついてしまいますが……」

「己の命を賭け皿に載せている彼らに精神論や根性論は響きません。働きに応じた適切な評価と報酬を与えることで、彼らは十全に力を発揮します。激戦続きの我が軍で繰り返し雇っているのなら、歴戦の兵として扱うべきです。働きに応じた報酬を与えることで、他の者も触発されて奮起します。それに不貞腐れて働かないような輩は、何かにつけ理由を付けて働かなくなります。そういう者達は次回から雇わなくて結構です」

中間を雇っていれば、いつも同じ面子で参じる人間が出てくる。中間として十把一絡げに扱うのではなく、働きに応じて差を付けるべきだと静子は語った。

「はっ! 承知いたしました」

「道具類の整備は万全かな? 道具の良し悪しで効率が変わるからね」

「はい、問題ありません。職人たちが全量検査をして万全だと太鼓判を押しております」

「宜しい。労働の合間には休息を取らせているね? どんな人間でも、長時間働けば疲労がたまる。疲労が溜まれば判断を誤ったり、思わぬ失態を演じたりするからね」

「過不足なく休憩時間を設けております。お陰ですこぶる元気な中間が揃っております」

「ならば良し。君たちも適宜休憩を取るように。働けば疲れる。それは肉体労働だろうと頭脳労働だろうと変わらない。誰かが咎めるようなら私に報せなさい。臣下の保障をする(・・・・・・・・)のは私の役目ですから」

「はっ! 静子様のお心遣い、痛み入ります」

配下の言葉に静子は満足げに頷くと、書類を置いて立ち上がる。

「常々言っていることですが、我々は織田軍における縁の下の力持ちです。決して華々しい活躍をすることはありません。しかし、織田軍が快進撃を続けていられるのは、我らの影働きがあってこそ。これを誇りとし、鉄の結束を以て揺るがぬ実績を積み上げ、これからも織田軍の兵站を担い続けていきます」

「ははっ!!」

後方支援部隊の隊長たちは静子に深々と頭を下げたあと本陣を去り、入れ替わるように慶次や才蔵達が静子の居る本陣へと戻ってきた。

「この空模様と雨の匂い……もう間もなく天気が崩れるでしょう。それが開始の合図……慶次さんと勝蔵君、よろしくお願いします」

「任せておけ、おもしろい結果を持って帰ってきてやる」

長可が力拳を作って気合をアピールするも、慶次は呆れ顔になっていた。仮に長可が暴走しても、慶次が一緒なら何とかしてくれるかな、と静子は考える。

静子は今回の作戦に一つ懸念を抱いていた。それは長可が暴走してしまうという可能性。
近頃、長可は信長の命令を受け、畿内各地の騒動鎮圧の任に就いた。しかし長可が着任すると同時に、ピタリと騒動が発生しなくなった。
長可の悪名は畿内にも届いており、武田の赤備えすら倒す悪逆非道の無頼漢だと思われていた。
それゆえ小さな騒動が発生しても、長可が駆けつける頃には解決しており、彼の不完全燃焼による欲求不満は溜まる一方であった。
ここに来て存分に敵と戦える機会に巡り合い、血気に(はや)る長可が暴走するのではと危惧していた。

「才蔵さんと与吉(高虎)君には本陣の守りをお願いします。鉄砲衆の大半を各地に派遣したから、本陣には僅かな鉄砲衆と竜騎兵しか残っていません。油断しないよう頼みます」

「ははっ!」

鉄砲衆は玄朗が大隊長を務め、その下に200名ほどを一部隊として率いる隊長が数名存在する。その隊長の中の一人が、浅井長政であった。
彼の出自から言えば、そのような地位に甘んじるものではないが、彼はただの一兵卒として再出発し、早くものし上がってきていた。
遠藤や三田村も今ではすっかり熟練の鉄砲衆になっていた。
その長政が率いる隊を、静子は知らずの内に秀吉のところへと配置したのは歴史の皮肉だったのかも知れない。

「そういえば、明智殿が竜騎兵50を使って朝倉の陣を揺さぶっていたな。あれは上様が挑発しろって命じたのかな?」

「多分そうでしょう。敵の消耗を狙っておられるからね。竜騎兵の機動力なら一当てして、即座に撤収する一撃離脱戦法が使えるから、うってつけなんでしょう」

竜騎兵は新式銃を装備した騎兵隊であり、騎乗したままの長距離狙撃を可能とする兵種だ。
精密射撃が求められる場合は下馬するが、それ以外では機動力を生かして接敵し、敵の射程外から一方的に射撃を繰り返したり、敵を引き込みつつ射撃を続けたりという従来には無かった攻撃が可能となる。
馬による機動力と新式銃の圧倒的性能によって、僅か50ばかりの竜騎兵でも10倍の敵を攪乱することが可能となる。
ただし騎兵である以上、視界が良好かつ足元が確かであるという制限は免れ得ない。

「遠巻きに眺めていたが、朝倉軍からすれば鬱陶しくて堪らんだろう。あれだけ一方的にやられても、義景が動こうとしないのも問題だ。今頃朝倉の家臣たちは義景に詰め寄っているだろう。今回ばかりは義景の考えが正しいのだがな」

足満が笑いながら静子の言葉を補足する。
現時点ではどこの陣へと攻撃しても、新式銃で武装した鉄砲衆が100名以上いる。白兵戦の距離まで近寄る頃には多くの将兵が命を落とすのは目に見えていた。
それを考えれば挑発に応じず守勢を貫く義景の戦法が理にかなっている。ただし、奇襲を受けて銃弾に晒されている側からすれば、長くは耐えられない。

「仕方ないよ。銃撃されても耐え続けろ、と言われても状況が好転する兆しがないんじゃ耐えられない。とはいえ、そろそろその苦行も終わるだろうね。例の人(・・・)が羽柴様と接触したようだし……数日の内には決着がつくんじゃないかな」

「栄枯盛衰は世の定め。名家の美名に胡坐をかき、精進を忘れた者に未来は訪れぬ」

「ま、未練が残らないようすっぱり介錯してやるのが武士の情け、ってな。任せておけ、俺が一刀両断してやるよ」

「こらこら勝蔵君、一刀両断したら駄目。今回の作戦は義景が肝なのよ」

「安心しな、静っち。勝蔵が馬鹿をやりそうになったら、ぶん殴ってでも止めるからさ」

慶次が殴って止めたら、その場で大乱闘が始まらないか不安になった静子だが、その場に静子は居合わせられないから信じる他なかった。

「勘弁してよ。敵の前で味方同士が争うなんて」

「失礼だな。俺にだって状況を弁える分別はある……はず?」

「なんで自分で言って自分で疑問に思うの。余計不安になるよ。まあ言っても始まらないか。しかし、今回は慶次さんと勝蔵君しか活躍の場がないから、他の二人は不満があったりする?」

才蔵と高虎は本陣の守り。慶次達が暴れている頃でも、静子の護衛という重大だが地味な仕事を担う。足満に至っては本陣を出る事すら許されない。
華々しいいくさ働きが期待できないから、不満はないかと静子は訊ねてみた。

「某は久々に馬廻衆らしい仕事が出来て満足しております」

「勿論、いくさ場での武功を立てたい思いもありますが、此度は大人しくしているのが吉と勘が囁くので、不満もありません」

「そう、良かった。希望があれば言ってね。できうる限りの事はするから」

「静子様のお心遣いに感謝致します」

静子の言葉に才蔵と高虎が深々と頭を下げる。

「迷うな。静子はただ命じれば良いのだ。わしはそれに応えるのみ」

足満はそれが至極当然と言わんばかりに淀みなく言い切る。彼らしい、と静子は苦笑した。

「よし、それじゃあ話は終わりね。さて、私はこれから奇妙様のご機嫌を取ってくる。近くにいるのに二日も放置とは何事だ、とおかんむりらしいからね」

「それは大役だな。頑張れ、静っち」

重いため息を吐く静子に、慶次が欠片も思っていない言葉を吐いて彼女を見送った。






信忠の陣は不穏な空気に包まれていた。不機嫌さを隠そうともしない信忠に当てられ、陣中が陰鬱な空気を発しているようだった。
信忠は既に信長の後継者として内外に知られ、いずれ天下人を継ぐことが決まっている。それを考えれば、家臣たちは信忠の機嫌を損ねるような言動を恐れるようになる。

「いい加減、ふくれっ面を引っ込めて欲しいな」

ただし静子から見れば茶丸(奇妙丸)時代の印象が強く、いつまで経とうと手の掛かる弟のように思えた。
元服して以来、信忠は信長の命により、各地で戦ってはいるが一度として静子と戦場を共にすることは無かった。
何しろ静子が戦ってきた戦場は、いつ誰が死んでもおかしくない危険極まりない場所ばかりだったからだ。豪胆で知られる信長も、流石に嫡男をそのような場所にはおいておけない。
しかし、此度の浅井・朝倉討伐ならば肩を並べて戦える。そう信忠は期待に胸を膨らませていたのだった。

しかし、蓋を開けてみれば静子は戦線から遥か離れた後方に留まっており、各陣営の支援や調整に徹している。あちこち動き回って忙しそうにしているが、前線に出る気配はない。
そんな信忠の不機嫌さは家臣を萎縮させ、結果的に彼の本陣は機能不全に陥っていた。

「静子が父上の命で動いているのは理解している。だが、つまらぬものはつまらぬ」

「そうは言ってもね、代わりの利かないお仕事だし、仕方ないじゃない。今回のいくさ如何で、浅井・朝倉の両方を滅ぼせるかもしれないからね」

「浅井は羽柴辺りが討ち取るだろう。こっちの出る幕はない。朝倉は父上が直々に策を練っておられる。万が一にも我らの出る場面はあるまい。このいくさならば静子との共闘が出来ると楽しみにしていたのだがな」

「我が儘を言われてもねえ……」

「判っている、判っているさ。これが俺の我が儘だということも、不用意に己の心情を晒すなということも、耳にタコができる程に聞かされた」

口では理解しているようだが、到底納得しているようには見えない信忠の態度に、静子は頭をかきつつも彼のご機嫌を取りにかかる。
ひとまず信忠の家臣を下がらせる。彼らが居ても状況は好転しないし、緊張を強いられた彼らにこそ休息は必要となる。
家臣を引き離したことで秘密の作戦っぽく演出できるし、信忠の本音も引き出しやすくなるという一石二鳥の策だった。

「それで、不機嫌なのは羽柴様と明智様の双方が関係しているのかな?」

本心を見抜かれ驚愕の表情を浮かべつつ、信忠は静子を見つめる。

「そんなに難しい推理じゃないよ。嫡男だけれど目立った武功がない君と、上様に従って各地で数々の武功を立てた重臣。どうしても比べてしまって焦るのは仕方ないよね」

「相変わらず鋭いのか、抜けているのか判断に苦しむな。そうだ、俺は焦っている。そもそも歳からして違うのだから比べても仕方ないのは判っている。しかし、俺が武功を立てられる戦場はこの先、存在しないかも知れぬのだ」

信忠も静子相手に強がる必要がないためか心情を素直に吐露する。
静子の予想は正しかった。信忠の武功と言えば長島一向宗討伐であるが、あれは十分にお膳立てされた状況に乗っかっただけであり、素直に誇ることが出来ない。
いくさ働き自体が数年程度なのだから、生涯の半分以上を戦い続けている秀吉や光秀と自分を比べることが烏滸(おこ)がましい。
そう信忠自身も理解してはいるのだが、気ばかりが急いてしまう。
このまま大した武功もなく、信長の後釜に収まったとして、果たして部下たちは自分に従ってくれるのだろうかと。
せめて天下人の椅子に相応しい、武功を自らの手で勝ち取りたいと信忠は思っていた。

「これは持論なんだけどね、人生は登山に喩えられると私は思うの。山の高さは判らない、けれど誰しも頂上を目指して一歩ずつ進んでいく。その道は不如意で試練に満ちている。先行きの見えない道行に迷ってしまうかもしれない。だけど迷った理由を『他人のせい』にしたら、二度と歩き出せなくなると思う」

「……」

「茶丸君、君は焦っている。羽柴様、明智様、そして誰よりも上様の歩んでこられた山の高さと、その歩調を間近で見ていたからね。だけどね、目指す(いただき)も、山頂へ至る道も、歩み続ける歩調だって人それぞれだよ。他人の歩調を見て焦り、自分の歩調を狂わされて挫折する必要はないんじゃないかな? 君が今歩ける歩調で、一歩一歩進んでいく方が、立ち止まって焦っているよりも前に進めるよ」

静子の話を聞き終えた信忠は頬を掻いた。
静子がなにを言わんとしているのか、それは他人に嫉妬している暇があるのなら、己を高めるためにも今は我武者羅(がむしゃら)に前に進め、である。
静子らしい回りくどくも思いやりに満ちた言葉に、信忠は強張っていた力が(ゆる)むのを感じた。

「あーもう良い! 静子と話していると、己の小ささが嫌になる」

顔に手を当てて信忠は空を見る。

(これではいつまで経っても子ども扱いだ)

元服を迎え、社会的には大人になった。しかしそれは外側だけで、中身は依然として子供のままだと信忠は思い知らされた。
他人の武功に焦り、周囲に八つ当たりをするような者に人は付いてこない。
苦境にある時ほどふてぶてしく笑え、かつて静子が言っていた言葉を信忠は思い出した。

「それで、機嫌は直ったかな?」

「直った直った。で、だ。何か良い策はないか?」

切り替えが早いのは美点だな、と内心思いつつ静子は顎に手を当てて考える。少しして良い案が思いついた。

「耳を貸して。実はねーー」






八月十三日の夜、強風と雷雨を伴う激しい雨模様となった。後の世でも「この日の夜は暴風雨であった」と信長公記や朝倉家の記録に残されている。
屋外に居ようものなら一分と経たずに濡れ鼠となり、轟く雷と打ち付ける雨音で周囲の音もろくに聞こえない状態であった。
大嶽(おおずく)城を守る者たちは皆引き篭もり、僅かな物見だけが闇に目を凝らしていた。

「いざ、出陣!!」

鼻をつままれても判らない程の闇の中、信長は馬廻衆のみを率いて大嶽城へと出陣した。手前の焼尾砦は既に落ちているため、彼らは無傷で大嶽城へと迫る。
目指す大嶽城の明かりが見えようかと言うところで、信長は異変に気が付いた。敵側が夜襲に気付いて応戦してきたのかとも考えたが、すぐに思い違いと悟る。

「かかれぇ!! かかれぇ!!」

信忠が既に大嶽城を攻めていた。流石の信長にも予想外の事態だったが、こんな策を思いつきそうな人物に思い当たり笑みを浮かべる。
大声を上げている信忠の近くまで馬を寄せると、雷雨に負けない大声で呼びかけた。

「奇妙!! わしに断りなく攻め込むとはな!!」

信長の声に気付いた信忠が振り返る。彼は信長を見返してニヤリと笑った。

「何を仰います、父上!! 雷雨は織田家においては吉兆!! この機会を逃す手はありますまい!!」

「いっぱしの口を叩きおる!! 皆の者!! 奇妙に負けるでないぞ!! かかれぇ!!!」

信忠の馬廻衆に加え、信長の手勢も城攻めに加勢した。
この事態に対し、大嶽城の守備を任された斉藤刑部少輔(さいとうぎょうぶしょうゆう)や配下の兵は、終始後手に回ることを強いられた。
信忠の軍勢の接近に気付いた時には、既に城門に取りつかれ、刃を喉元に突き付けられた状態となっていた。
この雷雨では友軍が気付いて駆けつけてくれる可能性は低く、援軍を呼ぼうにも織田軍の包囲を抜けてどちらに走れば良いのかすら判らない。
血気盛んな織田軍を相手に、僅か数百名の疲れ切った兵のみで守り抜かねばならない。
暴風雨を受けつつも(はや)る織田軍とは対照的に、目前まで攻め込まれた朝倉兵の士気は下がり続けた。

「父上の手勢に負けるな、かかれぇ!!」

こうして、信長と信忠の電撃作戦により、大嶽城は僅か数時間で陥落した。大嶽城の落城は、雨の上がった翌日早朝まで誰にも気づかれることが無かった。

「もう大嶽城を落とされたと言うのか!」

大嶽城陥落の報に浅井・朝倉は恐慌状態に陥ったが、織田軍も少なからず動揺していた。何しろ焼尾砦を調略して僅か二日、これで浅井・朝倉は詰みの局面を迎える。
信長の電撃的な行動に、家臣たちとて状況把握が必要な状態だった。秀吉は秀長や竹中半兵衛、その他主だった家臣たちを集めて軍議を開く。

「まさか上様自ら攻め落とされるとは……奇妙様が先に攻め込まれたとある、我らは後れを取ってしもうた」

秀吉は嘆きつつも興奮冷めやらぬ様子で話す。地図を広げると、浅井と朝倉が完全に分断された状態を筆で書き加える。
伝令の齎した文には、信長はそのまま丁野城を攻めに向かい、信忠は大嶽城の守備を任された。
この時、通常であれば根切りにされる将兵を、何故か信長は朝倉本陣へと追いやったとあった。
信長の狙いが何処にあるのか、秀吉ではいくら考えても何も思い浮かばなかった。
秀吉だけが混乱している訳ではなかった。程度の差はあれど、他の武将たちも同様に信長の行動を理解できずにいた。

やがて信長は丁野城を調略によって取り込み、守りの敵兵を追い出した後、丁野城に油を撒いて火を放った。
それらを終えると、信長は丁野城付近で武将たちを招集した。

「今宵朝倉は必ずや撤退する。良いか、この機を逃すでないぞ! 必ず朝倉は撤退する。奴らの背後を突き、朝倉を殲滅するのじゃ」

再三にわたって信長は武将たちに言い聞かせた。彼の言葉には一切の迷いがなく、彼が今夜の朝倉撤退を確信している事を告げていた。
しかし、信長の予言とも言うべき発言を受けた武将たちは、根拠が示されない発言に戸惑っていた。
既に浅井・朝倉共に死に体であり、それを僅か数日で成し遂げた信長の手腕は見事と言う他なかった。
しかし、如何な信長とて神ならぬ人の身。敵が撤退する日取りすら言い当てられるものなのかと、俄かには信じられないでいた。
この時、信長の勘気に触れようとも朝倉撤退の根拠を聞き出せていれば、彼らの手痛い失敗は未然に防げたであろう。






「やっぱり、どの武将も動く気配がないね」

日が暮れてもいくさ支度が為されないことに、静子は嘆息する。
信長が繰り返し朝倉軍の撤収を予告したのだが、柴田や佐久間たち武将の陣は静まり返っていた。
地図と戦況を見れば一目瞭然なのだが、信長が説明しなかったのかなと彼女は考えていた。

朝倉本陣は田上山にある。本陣から大嶽城と丁野城が見える方角から煙が立ち上がれば、彼らが如何なる心境に陥るのか。
このいくさの勝敗は決し、浅井家は信長に滅ぼされるしかない。
今までに数々の失態を演じ、家臣たちの信頼を失いつつある状態にもかかわらず、義景は無理を押して出兵している。
朝倉家主力の重臣が出陣を拒否し、将兵の士気が低い状態での出陣だった。

そこに来て、大嶽城と丁野城の陥落である。もはや義景に将兵たちを留め置ける力は無かった。ここで徹底抗戦を叫んでも、誰一人付いては来ないだろう。
退路を断って無理やり戦う状況へと追い込んでも、将兵たちの心は撤退に傾いている。戦えばまず勝てず、ここで負ければ朝倉家は崩壊する。
戦いにならずとも、率先して織田家に内通する者が出るやもしれない。

「奇妙様は大嶽城から動けないから良いとして……そろそろ明智様ぐらいは、何か行動を起こしそうではあるかなー」

朝倉夜襲に関して静子は呼ばれておらず、浅井の抑え役として才蔵、高虎と共に本陣で待機していた。
静子は気楽な様子で夜空を眺め、星座と星の運行について思い出しつつ暇をつぶしていた。そののんびりした時間は、小姓が急ぎ足で近づいてくる音で終わりを告げる。

「静子様、明智様が我が陣へお越しになりました」

「急ぎ、こちらへご案内して。おそらく時間的猶予はありませんから」

「は? ははっ」

まるで光秀の用件を知っているかのような静子の言に呆気にとられた小姓だが、すぐに踵を返し光秀と三名の家臣を伴って戻ってきた。

「不躾ながら時間がないゆえ、腹の探り合いはご容赦願いたい」

「ご用件は朝倉軍への夜襲についてですよね。上様が再三仰ったように、まず間違いなく今宵朝倉軍は撤退するでしょう」

「力不足が悔やまれるが、今一番上様のお心を理解しておられるのは静子殿だ。何故、そうお考えになるのかご教示願えまいか」

「私の考えも混じっていますが、それでも宜しければ」

静子の前置きに、光秀は頭を下げる。相手が誰であれ、教えを乞うのであれば(こうべ)を垂れる。他の者には出来ない芸当であった。
だからこそ、僅かな期間で織田家家中の筆頭にまで上り詰められたのであろう。

「各陣営の布陣状況についてはご承知だと思いますので省略します。まず、朝倉軍の視点でお考え下さい」

小さい机を挟んで光秀と静子が向かい合う。机の上には現状を示した地図が置かれていた。静子はその地図に筆で小さな線と矢印を書き加える。

「朝倉軍の将兵たちは、大嶽城と丁野城の方角から煙が上がるのを見たでしょう。二つの城が落とされた今、朝倉軍は小谷城近辺の守りを失った状態です。防衛施設も無い本陣で、徹底抗戦しようと考える人はいないでしょう」

「ふむ」

「次に朝倉家当主義景です。彼は過去の失態とこの戦況によって求心力を失っています。そもそも、このいくさにしても『体調が悪いから』と出陣を拒んだ家臣が居るほどです。浅井の命運が尽きたことが誰の目にも明らかな今、一乗谷で防衛する方が理に適っていますからね。そして撤退するなら早ければ早い程良い。時間が経つほどに、我々へ寝返る武将が出ますから」

「なるほど。そこまで読めれば朝倉軍が今宵撤退すると、上様が予告されるのも当然か」

義景に残された時間は少ない。今までのように優柔不断で機を逸すれば、今度こそ家臣たちに見限られ、首を手土産に織田家に寝返る者が出る可能性すらある。
今までと違うところを見せるためにも、義景は即座に決断した。無論、一乗谷へと撤退する決断を。

義景からすれば初めての英断。しかし信長は義景がそう決断することまで織り込み済みで動いていた。故にこそ信長は、今宵朝倉軍は撤退すると予告したのだ。

「そうです。そろそろ朝倉軍の撤退が始まる頃ではないかと」

2万もの軍を引き連れて撤退するには迅速な行動が求められる。しかし、朝倉軍は今まで迅速な行軍をした経験がない。更に先日の豪雨により、地面は泥濘化している状態である。
いつも以上に時間がかかるのは目に見えていた。

「明智様にこれをお渡しします」

静子は光秀に文を差し出す。光秀は首を傾げながらも、差し出された文を受け取る。

「これは何でしょうか?」

「我が陣に残っている鉄砲衆への命令書です。端的に言いますと『この文を持っている人の指示に従ってね』です」

「宜しいのでしょうか」

「我が身は後ろの二人に預けています。それに、朝倉軍を殲滅する事が上様の目的です。誰が武功を上げた、という事に拘って叩ける機会を逃せば、後世で笑われるのは上様ですからね」

「ならば、有り難く頂戴致します。この御恩はいずれお返しいたしましょう。この場はこれにて失礼仕る」

再度、光秀が深く頭を下げる。今度は後ろにいる家臣も続いた。静子も続く形で光秀に頭を下げる。
頭を上げると、光秀はすぐさま居住まいを正し、文を懐にしまうと素早く出て行った。彼らの足音が聞こえなくなった頃、静子は息を吐く。

「静子様、明智様に肩入れしすぎではないでしょうか」

話が終わるまで黙っていた高虎だが、光秀が立ち去ると疑問を口にした。
苦言と言うより、今まで満遍なく支援していた静子が、光秀のみに目に見える支援をしたのが彼には疑問だった。

「別に明智様でなくとも、最初に訪ねてきた人なら誰でも良かったんだよ。誰も来なければ、鉄砲衆を貸す事もなかった。今回の上様の発言を、家臣の中で一番信じようとしていたのが明智様だったってだけ」

「しかし、何も鉄砲衆を全て貸すほどではないかと」

「ちゃんと理由はあるよ。考えの糸口を示そうか、鉄砲は撃てば大きな音を立てる。これで答えが分かるよ」

「…………あっ!」

ヒントを与えられた高虎は困惑したが、やがてある答えに辿り着く。理解に至った高虎に静子は満足げに頷く。

「そう、夜襲の開始を告げる嚆矢(こうし)となる。私の支援は、一番槍と他の武将へ合図を送る権利を得たに過ぎない。もっとも、戦闘が始まったことに気付いても動かない人が出そうではあるけどね」

新式銃であれ、火縄銃であれ、火薬が爆発する以上は大きな音が周囲に鳴り響く。音が聞こえれば察しの良いものは気付くだろう。朝倉軍は撤退し、それを織田軍が追撃していると言うことに。

静子は肩の力を抜くと、その辺りに寝転がる。

「ま、明日には結果が出るよ」






朝倉義景は夜闇に乗じて撤退することを決めた。彼は僅かな兵を残し、声を上げるよう命じた。
士気を高める(とき)を上げれば、撤退しようとしているなどと織田軍は思わないと考えたからだ。
少数の兵ならば逃げるのもたやすい。夜が明ければ撤退に勘づかれるため、残す兵は周辺の地理に詳しい者を選んだ。

しかし、そのような小細工は確信を得ている信長には何の効果も及ぼさなかった。鬨の報告を聞いた織田家家臣は朝倉が撤退しないと思ったが、信長と光秀は撤退が始まったと確信した。
撤退する朝倉軍に、最初に襲いかかったのは光秀だった。彼と信長は他の武将たちの到着を待たなかった。味方がいない事は、光秀にとって非常に有利に働いた。

「撃てぇ!!」

朝倉軍の殿(しんがり)に追いつくやいなや、光秀はまず鉄砲衆で先制した。暗闇の向こうから轟音とともに弾が飛来する。さぞかし朝倉軍は魂消たであろう。
案の定、朝倉軍はパニックに陥った。次々と兵が倒れていく惨状に、誰もが我先に逃げようと考えた。
従者は主人を、主人は従者を押しのけて逃げようとする阿鼻叫喚の地獄絵図が、至る所で繰り広げられた。
他の武将たちが参戦していれば、こうも無遠慮に銃弾の雨を降らす事は出来なかったであろう。

鉄砲衆で存分に朝倉軍の恐怖を駆り立ててから、満を持して明智軍の主力が朝倉軍に襲いかかった。もはや戦う意思すらない朝倉兵たちだが、明智軍は容赦なく斬り捨てていく。
明智軍が進むたびに、泥まみれの朝倉兵の死体が転がり、屍山血河もかくやという光景が現れた。
辺りには血と臓物が立てる鉄と錆の匂いが充満し、あちらこちらに乗り捨てられた馬や、武具、軍旗などが転がっていた。
朝倉軍がどれほどに混乱しているかが容易に窺い知れる証拠であった。

明智軍は朝倉軍の背後を急襲した。突如として銃撃に晒された朝倉兵は、敵の規模も何処から攻撃されたのかも分からず、とにかく前へと逃げようとした。
しかし、道は前日の豪雨によりぬかるみ、思うようには進めない。やがて死は背後から迫っている事に気付いた兵が死に物狂いとなって逃げ始め、混乱に拍車が掛かった。
前を行く兵を踏みつけてでも、自分だけは助かりたいと遮二無二なった結果、味方を踏み潰してでも逃げようとする狂乱の渦へと飲み込まれた。

「なにぃ!! 上様と明智殿が朝倉軍へ夜討ちをかけただと!!」

明朝、朝倉軍への追撃を自身が命じた者たちの到着を待たず、信長が掃討戦を仕掛けた事に、織田家家中たちはようやく気付いた。
準備をしていながら鬨の声ですっかり油断してしまった彼らは、大慌てて信長を追いかける。彼らが信長に追いついたのは刀根坂(とねざか)手前だった。
道中の死体や武具の転がり具合から、激しい掃討戦が行われた事は明らかであり、織田家家臣たちは己の失態を理解した。

「許しがたき失態」

家臣たちにとっては朝倉兵の惨状より、信長の静かな怒りの方が恐ろしかった。信長が怒るのも当然だ。突然命じた訳ではなく、事前に先鋒武将まで決めていた状態での怠慢だ。
結果的に武功は光秀の独り占めとなったが、それに対する不満を顔にすら出せるはずもなく、失態を演じた武将たちは俯いて黙るしかなかった。

「先鋒を任された者、前に出よ」

信長に言われた通り、柴田や秀吉が前に出る。信長は全員に一発ずつ拳を振り下ろした。犯した失態に対して緩すぎる罰だった。本来なら打ち首を言い渡されても不思議ではない。

「二度は言わぬ。これを機に朝倉を殲滅する」

「ははっ!」

光秀(キンカン)! 貴様はこやつらを率い、朝倉を追撃せよ」

その瞬間、朝倉討伐の最大武功者は光秀に決定した。朝倉家を滅ぼした武功は光秀が得る事になる。他の者は何をしても朝倉家を滅亡させる助力をした、という立場に過ぎない。

「恐れながら上様、彼らは急ぎこの場に参じた様子。兵も疲労がたまっている状態ゆえ、いたずらに兵を消耗する可能性が高く存じます。ここは一番疲労がない静子殿の軍をお借りしとうございます」

「奴は小谷城で待機しておる。今から呼び寄せるには刻が必要ぞ」

光秀の言葉に信長は睨みながら疑問を口にする。冷え冷えとした眼光を前に、光秀はいつもの表情を崩さなかった。

「既にお呼びしております。もう間もなく、こちらへ参られます」

光秀の言葉が正しい事を証明するが如く、信長は少し遠くから馬群が迫る音が聞こえることに気付いた。あれだけ重なった蹄の音を立てる程に練度が高い軍は一つしかない。

「はっ! 手の早い奴じゃ! 良かろう。(さき)の武功に免じて、勝手に静子を呼び寄せた事は不問とする」

「寛大な処置、有り難く思います」

「ではここにいる者は、兵を休ませた後、小谷城へ戻れ! 手早く準備せよ!」

他の武将たちはやられた、と歯ぎしりした。挽回するには静子軍の鉄砲衆が必要になる。なくても良いと言えば良いが、自軍が被る損害が桁違いだ。
静子本人が来たという以上、鉄砲衆も率いてきているのは確実だと武将たちは考えた。光秀の狡猾さと計算高さに、武将たちは今さらながら怒りを覚えた。

「お待たせ致しました、上様」

四半刻後、静子が信長のいる陣に到着する。信長は静子を一瞥した後、光秀の方へ顔を向ける。

「キンカン、鉄砲衆は幾人連れて行く」

「出来れば突破力が欲しいですが、300もいれば問題ないと思います」

「静子、鉄砲衆は何人連れてきた」

「小谷城前の陣には玄朗を筆頭に予備兵含めて700。こちらには600連れてきております」

瞬間、武将たちがざわつく。静子の鉄砲衆は1000名という大部隊だ。だが先ほど彼女の言を信じれば、少しだが鉄砲衆の総数が増えている事になる。
だが同時に鉄砲衆がいるという事は、挽回する機会が多く得られるということでもある。各自、様々な思惑を腹に秘めながら、次に取る行動を考える。

「600か……400にし、残り200は小谷城への配置とする。貴様は400の鉄砲衆を率いて、キンカンとともに朝倉家を滅ぼせ」

「はっ!」

信長に礼をすると静子はすぐさま準備に取りかかる。今までは幾分ゆっくりした行軍をしていたが、これからは逃げる敵を追いかける速度が必要となる。
光秀がどういう配置をするかは不明だが、鉄砲衆と護衛役の兵が最前列、その後ろに光秀の主力部隊、後方に静子の軍という配置だろうと当たりをつけた。

「羽柴様、今、お時間は宜しいでしょうか?」

「あん? なんじゃ、静子」

織田家家臣たちがいくさ支度を行っている合間を縫って、静子は秀吉に近づく。一挙一動が他の武将から見られていると理解している静子は、にこやかな表情を崩さず封書を差し出した。

「ねね様から文を預かっております。内容は恥ずかしいから陣で読んで(・・・・・)欲しいと仰せでした」

「は? え……ああ、すまぬな。全くねねの奴」

一瞬呆けた顔をした秀吉だが、すぐにだらしない表情を浮かべる。遠巻きに見ていた武将は気付かなかったが、秀吉の目は笑っていなかった。端的に言えば作り笑いである。
秀吉は、静子が何か他人には知られたくないものを渡してきたと瞬時に察した。

「羽柴小一郎様に渡そうとしましたが、そのような文は兄上に直接渡して下さい、と言われました」

「仕方ない奴じゃのぅ。ありがとう、静子。後で読む」

そこで聞き耳を立てていた武将たちも、静子たちから意識を外した。問題ないが、油断はしないようにと静子は気を引き締めた。
秀吉に渡したものが何か、他の面子が知れば確実に争奪戦になる。それを避けるためにも、中身は興味をひかれないものに偽る必要があった。

(別に秀吉と手を組む気はないけど、夜叉(浅井長政)さんがどうしても小谷城攻めに参加したいと必死だから)

身内か知り合いでもいるのかな、と静子は呑気に考えていた。実際は元小谷城の城主で、浅井家の当主である長政が、今一度父と話しをする機会を得たいが為であるが。
静子の思惑と長政の思惑、そして秀吉の思惑は別々の方向を向いているが、小谷城という点では一致していた。それが後に秀吉の大躍進に繋がる武功の元となる。

「それでは失礼します」

「おう、またな」

軽い挨拶で二人は別れた。
自陣が近くなると秀吉は全力疾走に近い早さで竹中半兵衛の許へ駆け寄る。余りの剣幕に竹中半兵衛は目を回す。しかし、肩で息をする秀吉は笑みを浮かべつつ言った。

「急いで戻るぞ。小谷城を落とすのはわしじゃ」
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