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戦国小町苦労譚 作者:夾竹桃

小話 其之弐

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倉掃除

静子が保有する倉は多い。税として得たもの、贈られてきたもの、静子自らが購入したものなど、多くの品々が保管されている。
種類の豊富さだけで言えば、堺の商人にも引けを取らないほどだ。しかし、酒などの消耗品以外は、基本的に減る事がない。
そうなると無限に倉を建てる必要に迫られるので、静子は半年に一回、使わないものを倉から運び出して販売していた。

販売の形は、江戸時代に大名が商業都市へ設置した蔵屋敷(くらやしき)に近かった。倉の中から長期間使用していないものを選別し、品質チェックをしてから蔵屋敷へ運び出す。

「毎度ながら人が多いね」

蔵屋敷開放の日、遠巻きに見ている静子は人でごった返す屋敷を見て感想を口にした。並べられた品々は特産品から衣類、食料に工芸品など多岐にわたる。
庶民からすれば見るだけでも楽しめるし、商人は安く仕入れて高く売る事が出来る日だ。必然的に人が集まるのも無理はない。

「じゃ、俺はこれにて失礼」

蔵屋敷に入ると同時、慶次が片手を上げて去ろうとする。しかし、その前に彼を掴む手が二つあった。才蔵と長可である。

「待て、仕事をしろ」

「酒の所へ行こうなど許さねぇぞ」

「離せ二人とも! 俺は酒をのむんだー!」

普段、遠慮なしに酒を飲んでいるのに、まだ飲み足りないのかと頭が痛くなった静子だった。
建前上、静子は多くの酒を所有している。購入したり献上されたり他の何かと交換したり、集まる理由はいくつかある。
だが静子は信長から禁酒令を頂いている身、酒を貰っても一滴も飲めない。それゆえ蔵屋敷にて格安の値段で売っていた。

「そこな飲んべえ三人、あれだけ飲んでてまだ足りないか」

「足りない!」

呆れつつ質問すると、とっくみあいでも始めそうな三人が揃って返答した。何も言う気がなくなった静子は、呆れるより他なかった。

「まぁ君らが飲みたいのは良く分かったけど、今は仕事をしなさい」

静子の一言に三人は盛大に落ち込む。酒の販売となれば、共に楽しむ肴も一緒に売られる。蔵屋敷から少し離れた場所で、宴会が行われるのは当然の結果だった。

暴れられても困るので、静子は飲む場所を提供した。無論無料ではなくお通しという場所代が必要になる。
同じく商売をする商人も税はあったが、それは場所代ではなく売上税というものだった。売上と商売した場所で税率が変動する仕組みだ。
良い場所で多く売り上げを得た者は税率が高くなり、逆に場所が悪かったり、売り上げがいまいちだった場合は税率が低くなった。

飲んべえたちの場所代と商人たちの売上税、そして売れた品々を合算し、そこから諸経費を引いた額が静子の利益となる。
年に数回しか催されないが、それなりの利益は出ていた。もっとも、利益が出てもすぐに別の事へ投資されるので、金子が貯まる様子はないのだが。

「妾の目に止まるものは少ないが、良き品々を揃えておる」

「……また何をしに参られたのですか、お市様」

蔵屋敷の視察をしていると、ふいに後ろから肩を叩かれた。振り返ると、そこには色々な布を侍女に持たせてご満悦な市がいた。
茶々や初がいない所を見るに、家で留守番をさせているのだろう、と静子は理解した。人でごった返している所もあるので、子どもを連れて歩くには不便だからだ。

「何をとは失礼な。良き品を求めての事。妾の目に適うものは少なかったがな」

「その割には結構買っておられますね」

「茶々や初にはちょうど良いものもあったまでの事じゃ。安心せよ、費用を出すのは兄上じゃ」

「何一つ安心出来る要素がないです。あまり買いすぎては、お館様も怒りますよ?」

着物の生地は目を剥くほど高いわけでも無いが、決して安いわけでもない。ぱっと見た限りでも、市は生地を十種類以上持っている。それなりの金子がかかっている事はすぐに分かる。

「何、兄上はこの程度で怒るような、器の小さい男ではない。困ったら義姉(濃姫の事)に助けを求めるまでよ」

「ああ…… そうですか」

お市の夫であった浅井長政と柴田勝家、どちらも天下人に対抗して滅亡した。そして市自身も最期は世を儚んで自害したため、その波瀾万丈な人生から薄幸の美女とも呼ばれている。
しかし、目の前の人物が薄幸の美女と言われても、静子は首を傾げるばかりだ。本当の意味で自由奔放な人物なのだから。
同じく自由奔放な人物に見られる信長だが、彼は自分独自の決まりを守り、時として頑固なまでに原則にこだわる面があった。

「ほどほどにして下さいよ」

最後に釘を刺して静子は視察を続けようとした。だが、その前にお市に肩を掴まれた。

「まぁ待て、静子。ここで会ったのも何かの縁じゃ。妾の買い物に付き合うが良いぞ」

「何をどうしたらその結論になるか、はなはだ不明なのですが、私はお仕事中です」

「そう固いことを申すな。今の世は荒れておる。今この時を楽しまねば損というものよ」

「お市様は少しは先の事を考えて下さい」

市と静子による一進一退の攻防が続く。視察は別に義務ではないが、静子からすれば市の相手より視察の方が気楽だ。
だが市は一度決めると中々意見を変えない。あの手この手を尽くして自分の思い通りにしようとする。
ある意味では相手を操れる才能があると言えるが、巻き込まれる方はたまったものではない。

「良いではないか」

「良くないです。そもそもーー」

二人の争いは続く。蔵屋敷に来ていた人々は、それを微笑ましく、しかし巻き込まれないように距離を取って見ていた。
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