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第7話 ベス

ここは地上ではない。

文字通り地下、アンダーグラウンドの、ダンスホール。


速水はそこにいた。

…こんなとこ、わざわざ作るなんて連中はアホだ。そう思う。



およそ十メートル四方、黒いダンス用の床には、地球を包む帯―GANの紋章が刻まれ、背後にはスクリーン。

周囲には観客席、そして目元を隠した観客達。


「ジャック!この===野郎!!====しろよ!」


(五月蠅い!お前死ね)

速水はソイツを指さし。地獄へ落ちろと素早くサインした。

周囲が余計嬉しそうに、大声でざわめく。


「ノア今度=====させろ!!」

「ベス、======、======!!」

「レオナルド様、超格好いい~!」


「げっ、あのゲイまたいる…」

速水の隣でレオンが言った。


『よう!!豚野郎共!!今日のクルーはお待ちかねの―』

ネットワークのMCが速水達を紹介する。

四分割されたモニターに、各自の顔写真、詳細なプロフィール、クイーンベスのスリーサイズ、グラビアまで──そして過去の戦績が表示され、その下に累計獲得金額がドル表記される。


その画面が一度消え、対戦者のデータが表示される。

対戦者は、スペード出身のダンサー達。交流戦で戦うはずだった相手だ。

画面は八分割になり、VSと画面中央に大人しい字体で表示される。


「…アンタか」

速水は少し見上げて言った。

「よう、ジャック」

知っている男だった。世界大会で、自分を抑え一位になった男。

大分、印象が変わったな。他人事なのでそう思った。


「物好きだな」

速水は笑った。


こいつはどうやら速水を蹴散らしたくて、ネットワークに入ったらしい。


―が、そんな敵意むき出しの相手に、速水は今まで何人も出会った。

「ああ。今はお前がジャックだからな」

「まあ、そうだけど」

速水はぶっきらぼうに言った。


MCが今日のダンスを発表する。

と言っても、ブレイク、クランプ。基本はこのどちらかだ。

一応事前に知らされる。今回はブレイク。

『今日は──』



■ ■ ■



「ふう…」

速水達は部屋に戻った。


「まあ、勝てて良かったな」

レオンは速水をねぎらった。

今回のダンスはまさかのC-walkだった。こういう事もたまにある。

ここに来てから速水は散々ゲテモノに仕込まれたので、何とか戦えた。

「ごめんなさい、私落としちゃって…」

ベスが言った。彼女は今回相手のクイーンに負けた。

「いいよ、俺も勝ったし」

ノアが言う。

「でも、もっと頑張らないと。戦績落ちて来てるし…」

ベスは悔しそうだ。

彼女は朝から、具合が悪そうだった。


「…心配するな。俺たちが何とかする。もう休め」

レオンも言った。


ベスは腹に、そっと手を当てた。

「皆…、私考えたんだけど。やっぱりこの子は、あきらめようと思うの…」


「ちょ、駄目だよ!」

ノアが言った。

「…運営だって、俺たちが勝てば良いって言ってるんだ」

速水も言った。


──それが分かったのは、ここへ来て一月が経った頃だった。


■ ■ ■


ここは問答無用の四人部屋で、間仕切りはカーテン。

しかし角のスペースだけは壁で区切られ、扉には鍵が掛かる。

そこはクイーン専用の部屋だ。


ノアとベスはそこに二人で居たのだが―。

「ハヤミ、レオン、どうしよう、ベスが…」

ある日、ノアが蒼白な顔で言った。

ベスが…もしかしたら妊娠しているかもしれない、と。


速水とレオンは、話を聞いて顔を見合わせた。

「って、親は…お前だよな?」

レオンが言った。

「多分、ここに来る前だと思うから…多分…どうしよう」

ノアは暗い顔でうなずいた。


「ベスの具合は、大丈夫か?」

速水が聞いた。

「分からない。医者呼ばないと…、エリックに聞いてみないと」

ノアは混乱しているようだ。

世話役としてついてきたエリックを呼び、診察して貰った。


「…専門外ですが、間違い無いかと」

エリックはそう言った。


速水はエリックに確認した。

「…ブレイクダンスとか、妊婦には最悪だよな」

聞かなくても分かっているが。

「ええ。もっと言えば、激しい運動は控えた方が良いのですが…」

「三人勝てば良いんだから、フォロー出来るか…?出産とか、サポートは貰えるのか?」

速水は聞いた。

「いえ…妊娠の前例はいくつかありますが…、その時は堕胎を」

「…そんな!!」

ノアが凄い悲鳴を上げた。


「…やむを得ずの選択だったようですが」

エリックが言った。


ノアは呆然とし…ベッドに座り込んだ。


「クソッ、なんで失敗したんだ…!俺、馬鹿だ…っ」

ノアは頭を抱えた。

「…」

速水は押し黙った。


代わりにレオンが口を開いた。

「エリック、とりあえず報告して、…サポート貰えるか聞いてくれ。ノアの子を堕ろすなんて馬鹿げてる」

「…分かりました」

エリックの表情は、冴えない。


「エリック!…ちょっと、そこで待っててくれ」

突然、速水が言った。

「?」

帰る準備をしていたエリックは、立ち止まった。


「ノア、お前、ベスが好きなのか?」

速水はベッドに座るノアの前に立ち言った。

「―、何言って、―好きに決まってる!!」

ノアはそう言った。

「子供、欲しいか?外に出たら、ベスと結婚したいか?」

「当然だろ!!何だよ!急に!!」

ノアは怒って真っ赤になった。


「いや。ちょっと…。待ってろ。ベス?入っていいか?」

速水は個室のドアを叩いた。

そして、中に入り、少しして出て来た。


「何なんだ?」

レオンが聞いた。


速水はエリックを見上げた。


「…エリック。赤ん坊の父親は、俺だって伝えてくれ」

速水はそう言った。


「!!」「な―」

エリックが驚き、ノアが絶句した。

「何言って!」

ノアは当然くってかかったが、レオンの反応は違った。

「―、お前、…そうか…、なるほど…!!」

「俺とじゃ計算早いなら、少し報告を遅らせよう。余り詳しく無いけど、三ヶ月??くらいで分かるのか?」

「…ええ!ですが兆候はもっと早いですから──」

エリックが頷き、速水と話し始めた。


「ハヤミ…、そうか…!」

ノアにも分かったらしい。驚いている。


速水には、ネットワークに介入できるほどの、強力なスポンサーがついている。

その彼の子供と言う事なら、便宜が計られるかも知れない―。


「無理だったら、俺がナイフ振り回して運営全員殺して俺も死ぬって叫んでもいいし、とにかく連中を…」

速水はそう言った。が、それは途中で遮られる。

ノアが、横から速水に抱きついたのだ。

「ハヤミ!サンキュー…っ!!」

ノアは泣いていた。

そしてベスの部屋へ飛び込んで行った。


「おめでとう、ノア―」

速水はその背中に呟いた。


速水は何でもするつもりだった。

実際にナイフを振り回しても良いし、恋人のふりだって、疑われるなら外でベタベタしてキスとか、同室で休むとか、いっそ偽装結婚してみるとかか?…早速考えよう。


「…お前、なんか、変わったな」

レオンが言った。

「そうかな…」

速水は溜息と共に、ベッドに腰を下ろす。


──変わったのだろうか。

「別に、いつも通りだと思うけど」

速水はそう言った。



「ハヤミ!!」

そしてエリックが、特別に許可が下りたと嬉しそうに報告した。

「渾身の演技で、騙してやりました!」

エリックらしくも無く、興奮した様子でそう言っていた。

「さすがエリック!俺も負けてられないな…!」

速水はエリックに駆け寄り、飛びはね、うれしそうにそう言った。



──それからと言う物の、速水の演技は徹底していた。

「クイーン」

ベスを信じられない程の笑顔でそう呼び。


ベスが勝てば彼女を抱きしめ。手を握り──。


「やりすぎ!!」

ノアは部屋でカンカンに怒っていた。

「いいだろ、多分、だれも疑ってないし」

速水は苦笑した。

そのおかげで、と言うかついでに『ジャック』のオッズは右肩上がりだ。

…誰かが盛大に金を使っているらしい。女性だとか聞いたが。

そして速水の男性受けはとても悪い。やたらむさい男にキレられて絡まれる。


「それはそうだけど!!」

外では、ノアは必死で我慢しているのだ。

『全く、いつもラブラブなんだから、程々にね』とか言って。


内心では…速水の行動に、いちいち頰を赤らめたりする、純粋でうぶなベスが心配で仕方無い。

サラの事もあるし…。速水は天性の女誑しかも知れない。


「とにかく、もう皆じゅうぶん分かったから!ちょっと控えろ!」

「そうだノア。名前だけど、フランス風もいいんじゃないか?」

「えっ、うん…」

ノアが途端に大人しくなる。


「くっ」

レオンは、いつもの事なので笑いを堪えながらの見物だ。

笑い声もでかすぎると怪しまれる、と速水が言ったので、レオンは控えているのだ。


レオンの外での演技力は、さすが映画にも出てたらしいだけはある。

―本当は笑えて仕方無いだろう。

速水はそう思っていた。


「レオンは多分、俳優になった方が良いな」

速水はそう言った。


そしてお前もなと言われ、髪をかき混ぜられた。



■ ■ ■


そして時は戻り―。


「だから順位とか、それは時間がかかるだけだから。ハヤミのスポンサーのおかげで休む許可は出てるんだし」

ノアが個室で、いつも通りにベスを説得する。

「でも、ここで産んだらどうなるの?出る時は…、それに産んだら髪の毛とかでばれるわ!そしたらハヤミも──」

近頃、ベスは少し不安定だ。


「…ノア。ゴメンね」

「なんだよ、急に」

ノアが眉を潜めた。


「それより名前!もう全然決まらなくって…」

この時、ノアは忘れていた。


そして個室の外で速水とカードをしているレオンも。

「…ハヤミ、これって何が楽しいんだ?」

速水とレオンは部屋の中心のテーブルで向かい合っていた。


ゲームは日本式のジジ抜き。

これは隠されたジョーカー…ワイルドカードを探すゲームだ。


「さあ…。けど、何がジジか推測するのが楽しい、…と思う。俺はもう分かったけど」


「げっ。いつも思うが、お前、カード強すぎだろ!」

レオンは負けが込んでいる。

「それはレオンがよわ―」


速水は振り返った。

「…どうした?」

「いや。何でも無い…」


彼は穏やかに笑った。



〈おわり〉

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