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第14話 MD ④レイ

…空港を出たレオンはひとり、アビー達から離れ十メートルほど歩いた。


そこには車が止まっていて、レオンを見つけて直ぐにアルヴァが下りて来た。

――アルヴァはレオンの運転交代要因としてベガスに来て、有事の時の為、車で待機していた。


……空港周辺には、レオン達以外はいない。

百メートルほど向こうに、通行禁止のバリケードがあって、今丁度、現地警察だがネットワークの連中だかが、無線片手に片付けを始めたところだ。

レオン達は、アビーがレオンも行くと連絡しておかげで問題無く通ることができたが…、ウルフレッドは検問をぶっちぎってきたのだろう。

車寄せのそばに、フロントが大破したキャンピングカーが放置されていた。

向こうのバリケードの一部が飛んでいて、植え込みの一部も壊れている。


出入り口右横ではアビーの止血が終わり、クリフが歌のジャックの鎖を解いている。

車から見える位置だった。


「……どうだった?」

レオンは確認した。


「いや。周囲も見たけど、何も。…中は?」

アルヴァが声を潜めて言った。


レオンは顔をしかめた。

「空振りだが……。いたのかもしれない。…泥臭い」


「ふー、やっと取れたぜ」

という声が聞こえた。歌のジャックが手の筋を伸ばしていた。

「アルヴァ。怪我人がいる。彼女を運んでくれ」

レオンはアルヴァに言って、アビー達の元へと戻った。アルヴァは車を移動する。


「アビー、大丈夫か?俺は業務再開を待って飛ぶが、君はどうする?」

レオンが言った。見るとおそるおそる、あるいは堂々と一般車両が入って来ている。同じく、観光客も見える。


「血が止まったら行くわ」

アビーが言った。

「ハァ。何言ってんだ。休んどけ」

歌のジャックが言う。

「でも」

アビーが何か言おうとする。

「駄目だ。ホラ乗った乗った。悪いな、アンタ。この人の仲間だろ?クイーンを頼む」

レイがアルヴァに言った。

「クリフ頼む。ちゃんと見張って休ませろ」「分かった。ジャック、後は頼んだ」

レイが言うと、クリフが携帯を歌のジャックに渡して言い、乗り込んだ。

「分かったわ…ダーリン、一緒に来て」「アビーちゃんっしっかりして!」

アビーは言って、大人しくウルフレッドと後部座席に乗り込んだ。


レオンは感心した。

――どうやらレイがいると話が早いようだ。


「おい犬。近くに宿を取ってある。そこで医者でも呼べ」

レオンは車中をのぞき込んで言った。


残ったのは、レオン、イアン、そして歌のジャックの三人だ。

レオンはデータを思い起こす。


確かツキミヤ…とか言ったな。


日本語では月宮レイ。

速水と同じ日本人。ただしレイは祖母がアメリカ人で、つまりクオーターという事になる。


速水と同い年だが、速水より大人びて年上に見える。

…目つきのきつい速水と比べたら、多少だが目元は柔らかい。むしろ誠実そうな印象を受ける。


薄茶色の髪は四方に跳ねている――これはセットしているようだ。うなじ辺りの髪を少し伸ばして三つ編みにしていて、耳にはシルバーのピアスがやたら付いている。右耳にはさらに黒い十字架のイヤリング。指には指輪を幾つも付けている。

メイクはしていないようだが、肌は白く、顔立ちはひどく整っている。睫毛はやたら長い。

目は青いが自然な青さでは無いので、カラーコンタクトだろう。

…つまり日本のビジュアル系、という感じだが…先程のやり取りを見るに、年相応の落ち着きがありそうだ。


「で??俺達はどうするんだ?ぶっちゃけ俺は何も聞いて無いぜ。何かする事があるのか?」

レイがクリフの携帯をもてあそびながら言った。

――携帯に指輪が当たってカチャカチャと音がする。

「イアン、説明頼む」

「何だと?」

イアンが舌打ちした。

「人手は多いに越したことは無い。運行再開まで時間もある」

レオンが言うと、イアンはさらに憮然とした。


「俺は腹が減った。朝からずっとスロットやってんだぜ?あいつら」

レイが言う。あまりに派手なレイは多少、目立っていた。


レオンはレイを横目で見た。


「あいつら?」

イアンが聞きとがめ、怪訝そうな顔をした。

「――中で適当な店にでも入ろう」

レオンは話題が続かないように遮った。


■ ■ ■


空港内ですぐに見つけられたのはバーガーショップ、ピザ屋くらいだった。

そちらの適当な方、バーガーショップにレオン達は入った。

スタッフは居なかったが、レオンがレジで誰か居ないか、と言ったら暫くして奥から出てきた。…今日はこれから通常営業するらしい。


レオンがレイに大まかな事情を説明する間に、若干だが人通りが増えて来た。

店内にも客が入って来たが、誰もこちらに注意を向けては居ない。

一般客は、フライトの予定、これからの予定、ベガスの感想。空港への愚痴。そういった会話をしている。


その後、『プロジェクト』に関するイアンの説明を、レオンとイアンはコーラを飲み適当に食べながら、レイはバーガーを頬張りながら聞いた。


グローバル・ネットワーク・プロジェクト。

目的はアカシックレコードの解明。


その目的は発足時にすでに掲げられていた。

発足現在のジョーカー、その父の時代。――ざっと六十年、つまり半世紀以上前になる。


現在のプロジェクトチームは、主任以下、二百五十名ほどの研究員からなる。

『ハウス』と呼ばれる施設で、彼等はひたすら研究に従事する。


研究員は『αアルファ』『βベータ』『θシータ』『Ωオメガ』『Δデルタ』の五つのチームに分かれ、それぞれが目的達成に必要な、別分野の研究を分担している。

その為チーム間での敵対意識は無く、協力関係にある。


プロジェクトを総轄する主任リーダーは一人だけ。

だがその正体は不明。サポート役は多いが、主任の素性を知る者はほぼ居ない。


副主任は一人だけで、それがエリック。

つまり、実質エリックがトップと言っていい組織。


「…エリックは本当にエリートだって話だ。噂だと飛び級した大学で博士号取りまくって、十代半ばでプロジェクトの副主任になったらしい。CIAに誘われたのを蹴ったとか――天才っていうのはああいうヤツの事を言うんだろうな」


イアンは続ける。


「……プロジェクトの連中はとにかくおかしい奴らで、まあ研究者というのはそうかもしれないな…、やたら口は硬い。指示はエリックが全て出して――主任はとにかく人前に出ない。俺も主任の名前は知らないし、見た事も無い。――俺が知っているのはこのくらいだ」


一気に語り、イアンは溜息を付いた。


「そう言うわけだ。ハヤミとノアの救出が急務。これから各地のハウスを当たる所だ」

レオンがまとめた。

イアンが話す間に、レイは食事を終えていた。

「…レシピエントか。それは相当大変だな。なら俺も協力するぜ」


「ああ。手を貸してくれ」

――人手は多いに越したことは無い。レオンは歓迎した。


…速水を見習うかという気持ちも、少しあった。



■ ■ ■



空港が開放され、レオン達はハウスを当たる事にした。


結局の所、速水とノアを奪還するには居場所を突き止め、襲撃するしか無い。

――襲撃しておいて居ませんでした、では仕方がないし犯罪なので、偵察は慎重に行う必要がある。

逆に、人質を取り戻しさえしてしまえばこちらの勝ちだ。

…極力目立たないようにする、速やかに退却する、公的機関に通報するなど対処の必要はあるが。


ハウスの場所は、ケンタッキー州レキシントン、ルイジアナ州シュリーブポート。

テキサス州ダラス、同テキサス州、オースティン。

そしてオハイオ州、エリー湖付近。

ちなみにアンダーはミズーリ州がメインだった。


レキシントンのハウスは、イアン曰く、大学と隣接していて、しかも分室、という規模で設備もさほど充実していない為、速水が運ばれる可能性は低いとのことだった。

ベイジルの報告でも外れ。


自由の身となった歌のジャック、レイは、レオンの仲間達と共にテキサス州のハウス当たっている。

だが先ほど、『だめだ。こっちはもぬけの殻だ』とレオンにメールが入った。


日付は、四月四日。

その日はよく晴れた日だった。


「…全く。ベイジルとレイはとんでもないな」

飛行機の中でレオンは言った。もっと時間が掛かるかと思ったが、アビーチームの機動性には驚くばかりだ。

アビーは早々に復活して、今は窓の外を眺めている。


残るハウスは二カ所、ルイジアナ州シュリーブポート、オハイオ州、エリー湖付近。

イアンはレオンの仲間達と共に、先んじて『本命』のハウスへ行っている。


「あの二人はおかしいから。特にレイとか、ほとんど超人だよな」

レオンの右隣で、クリフが控えめに苦笑した。


「ええ『ジャパニーズに任せておけば大抵なんとかなる』とマットも言っていたわ。ジャパンは本当に凄い国ね」

アビーが感心したように言った。


「……」

レオンは、それは誤解だと言うべきか迷った。



■ ■ ■



…エリー湖の畔のこの施設には、速水はいないようだ。


しゃれ好きなジョーカーの事だ。

速水はここだろう、とレオンは踏んだが、ここも空振りだ。


この建物は巨大な雪の結晶のような形をしていて、レオンがいるのは、施設の中心にある六角形の棟だった。


――捨てたのか、隠蔽なのか、機材の至る所に、ハンマーか何かで物理的に壊した跡がある。棚からは物が全て持ち出されている…。

現在、アビー、クリフ、イアン、それにベイジルが合流し、レオンの仲間達と共にこの施設の探索に当たっている。

こちらへ来かけていたレイとテリーには、別件の調査を頼んであった。

レオンは破壊された部屋を出て、廊下を歩き、奥まった場所にある扉を開けた。


そこはがらんとした広い部屋だった。


位置的にはこの部屋がこの建物のほぼ中心なのだが…休憩室、カフェテリアと言った様子だ。


部屋の右端に白いカウンターテーブルがあり、近くに空っぽの背の低い本棚。カウンターテーブル以外にも、まばらにテーブルセットがある。左端はただの壁。

天井近くには他の小部屋と同じように、白いブラインドの閉められた窓がある。

多少開放感のある部屋には背の高い観葉植物もいくつか置かれていた。


……部屋の中央に、天井まで届く円錐形の白い柱があった。

太さは直径で四・五メートルほど。ただの柱にしてはかなり存在感がある…。

――白い扉があって、中に入れる構造になっている。

柱ではなく、何かの機械か?


「Hof A/SL-CL…?」

と扉上部のプレートに書かれているが、何の略かはサッパリ分からない。

鍵はかかっていない。

レオンが扉を開けると、中はただの空洞だった。


入ってみても、丸い筒。真っ白で何も無い。

天井も真っ白で、どこまでも上へと……空間が続いていると錯覚してしまう。


…速水とノア。


レオンは二人を取り戻すなら、今が最後のチャンスだと思っていた。


確かに日本政府を頼った方が、荒っぽい方法で、金や人を使い探すよりも確実だ。

だがネットワークと米政府は裏でつながっている。

「見つかりません」とシラを切られる可能性が大いにある。


…数年で済めば良いが、五年、十年と掛かったら?

長期化は避けたい。


その長期の間。――速水には犬以下の、モルモットとしての生活が待っているだろう。


アメリカでも、外国でも。日本でも。

人一人、二人を隠す場所はいくらでもある。

ホテル、研究室、アパートの一室、それこそ小さな物置にでも。丈夫な鍵を掛けて監禁してしまえば良いのだ。移動は大きなトランクケースがあれば十分。

トランクに入らなかったら、逃げようとするなら、手でも足でも切り落とせば良い。

反抗するなら、適当に痛めつけ、薬漬けにでもして、縛り付けておけば良い。


…レオンはその点だけは、エリックに感謝していた。

速水の厚遇は、速水がジョーカーのお気に入りであるせいだろうが、エリックに依るところも大きい。


そして、ふと気が付いた。

――ああ、だからいつも、あんなに速水はキレるのか。

――そりゃ、怒るよな。

レオンにとって、速水はたまによく分からないヤツだったが、そういうことか。

速水は『自分の命の保証が無い』と、そう思って行動していたのか。

だからエリックを信頼していたのか。


レオンは舌打ちした。

レオンは、速水に関しては後悔が山ほどある。

これ以上増やしてたまるか、と言う気分だった。


ノアに至っては、どうなるか見当も付かない。そもそも。なぜ誘拐されたのかも不明だ。ノアは次代のジョーカー候補だから、ゼロワンから守ったということか?

ノアは今後、一応まともな扱いをされる可能性もあるが……アビーのように、父に支配され生きる事になるだろう。

…アビーは父と決別することを許されたが、ノアにはその選択肢が与えられるか?


ノアを次期トップにして、ネットワークを中から変える。


速水はあっさり言ったが、巨大な組織の変革。それは並大抵のことではない。

それに。ノアはあれで頭の良いヤツだが、どこか押し切れないと言うか、優しいところがある。それはノアの長所で、その分スター性、ダンサーとしての適正はある。

だが、はっきり言って……心配だ。

これから成長するにしても…世間知らずなノアが、家族想いのジョーカー相手に立ち回れるのか?

いつかを目指し、戦い続けることができるのか?


いや。ノアはそんなにヤワじゃない。

ベスの死がある限りノアはジョーカーを憎むだろうし、エリーもいる。


『外に出たら、ダンスパーティーしようぜ!』

アンダーで、ノアが言った言葉を思い出す。


もうすぐ出られると分かった時。

レオンはノアに、自由を見せてやると言った。


――だがベスが死んで、速水は地獄。

もう、手遅れにしてたまるか……!


レオンの携帯が振動した。

「…どうした?」

通話の相手はクリフだ。

『レオンさん!ちょっとこっち来てくれ』

クリフに呼ばれ、レオンは別棟へと向かった。


クリフのいる棟に入る。

…そこは精神病棟の様な造りだった。

レオンは途中、扉の開いた一室を見たが、その部屋にはベッドが一つ。簡易的なトイレがあるだけ。反対の一室のトイレは個室になっていて少しマシだったが、どこももぬけの殻。

「おい、クリフどこだ?」

レオンは携帯に向かって言った。


『病室がある廊下の正面突き当たり、一つ手前の右の部屋だ』

クリフが言ってレオンはその部屋に入った。


…この棟の他の部屋と同じ造りだ。

室内にクリフ、ベイジル、イアン、レオンの仲間のディーがいる。

全員が入っても若干の余裕がある。

先にいた彼等は部屋の片隅を見ている。


そこにいたのは、少年だった。


白い入院着。白い肌。

金色の目に、赤い、長い、ボサボサの髪。


「……」

その少年は、うつろな瞳でどこかを見ていた。


■ ■ ■


「…おい?君は?」

レオンが言ったが、反応は無い。


突然ベイジルが、その赤い髪の子供の肩を掴んだ。

「君は――まさかジャックJrか!?」


「!」「?!」

その言葉にレオンとイアンが反応した。



――ジャックJr?


レオンはまさかと思った。


シカゴのダンスマフィア、『JACK』達が探していたファミリーの一員。

シカゴ近くの、別のファミリーへ顔見せに行った時に、プロジェクトに攫われたと言う話を聞いたが…。


――この子供が?


「…ジュニア…?あの、シカゴの?」

イアンが訝しげに呟いた。

――イアンもシカゴの話を知っていたらしい。


「だが、まだチャイルドと…、いや、そのくらいか…?」

イアンが言った。

「俺も聞いたが、赤い髪。十代半ば。背は低い。細い。子供。純粋なアメリカ人では無い?…最後は分からないが、確かに特徴はあってるな」

レオンが言う。

「ベイジル?」

クリフがベイジルを見た。


「クリフ。この子は…、レイの弟かもしれない」

確信のある声だった。

「っ…!」

ベイジルの言葉に、アビーが口元を押さえた。

クリフも目を丸くした。


「大丈夫か」

ベイジルが声を掛けるが、子供は答えない。


「……」

レオンは、苦い表情になった。

シカゴのJACK、ジュニア?

それがレイの弟……?

どちらにせよ…この子供は。ここで何かの実験をされていたのだろう。



「…とにかく、まずは保護だ」

「ああ」

レオンが言って、ベイジルが子供を抱き上げた。

「ジャックに確認するわ」

アビーが携帯を取り出した。手が震えていた。


子供がレオンの方を向いた。その目に見られたレオンはぞっとした。

レオンがくっきり映りそうな瞳だったが、その目には意志がない。


少し後ろでイアンが思わず目をそらした。その拍子に、少年の丸められた手に気がついた。

「―おい、君は何を持ってる?」

イアンが言った。


「ん…?」

レオンが少年を見た。


……何か握っている?

紙切れのような――…封筒?


それからも、子供は何も言わず、だた紙切れを持っていた。



〈おわり〉

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