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第11羽 速水 ③エリック /3月24日

一月後。

速水のデータとサンプルを取り終えたエリックは、それを持ってハウスへ戻った。

ここはプロジェクトの中枢機関だ。


「副主任、お疲れ様です。留守中には――」

部下がエリックに報告する。


報告をエリックは歩きながら聞いた。


「主任は?」

エリックは部下に尋ねた。

「お変わりはないです」

「そうですか。私は彼女に報告があります。下がってよろしい」

「…はい」

部下は下がった。何か言いたげなのは、今ここにサラが居るからだろう。


エリックは小さな部屋が並ぶ廊下を歩き、先程報告されたサラの病室を通り過ぎ、一番奥の部屋に入った。


そこはやはり病室で、サラの病室よりも広い。

「…」

エリックは、そこで眠る人物を見下ろした。


「主任。こちらが採取したサンプルです」

ドクターバッグを見せる。


…返事が無いのは仕方無い。


「主任。…全く、貴方がたは…」

エリックは溜息を付いた。そして部屋を出た。



先程通り過ぎた病室の扉を開ける。

「サラ、ただいま」

「…!エリック」


サラと会うのは、彼女が再教育行きになって以来だ。

エリックはずっと速水に掛かりきりだった。どれほど心配したか…。


エリックはサラを抱きしめた。長い黒髪を撫でる。

「サラ、会いたかった。具合はどう?」

「…大分良くなったわ」

サラは苦笑した。


「じゃあ、行こうか。サンプルはこれだけだから、向こうで処分しよう」

「ええ」

サラは笑った。


エリックとサラは、そのまま誰にも会わずにハウスを出た。



■ ■ ■



「――そうか」

ジョーカーは執務室で報告を聞いた。


「あら、やっぱり逃げたのね…」

側には興味なさげなスーツ姿のルイーズと、もう一人。アランがいる。

アランは濃いブラウンの髪で、顔立ちの酷く整った男だった。

だらしないルイーズと違い、彼の装いには隙が無い。


「喜べアラン、お前が次の副主任だ」

ジョーカーはアランに笑いかけた。


「はい。ジョーカー。嬉しいです」


アランは感情の無い声で言って喜んだ。

…彼は俳優だから、普段は感情豊かな自分を演じている。


「ねえ、ウィル」

ルイーズが言った。

「何だ?」

「ルークはともかく、あの女が役に立つの?」

ルイーズは不快そうだった。

「…さあな」

ジョーカーは笑った。



そしてアランは副主任として研究所に赴任した。

アランは淡々と施設の見学をする。


もちろん彼は俳優で、研究員では無い。

要するに、ジョーカーとのつなぎ役だ。…研究員は自分のするべき事を分かっているので問題無い。これからも、ハウスでは相変わらずの運営が続く。


主任の部屋に続く長い廊下で、アランはある部屋を確認した。

場所としてはサラがいた部屋の近くだ。


「…」

部屋の中にはルークが居て、ベッドの縁に座っている。彼は拘束衣を着ていたが、不自由は無さそうだった。

アランはそれだけで部屋を出た。二人は特に会話もしなかった。


一応他の部屋も見る。

「こちらは…」

部下が複雑な説明をする。

最後にアランは、主任の部屋に行った。


「主任、アランです。…私が世界平和の為に、プロジェクトの副主任になります」

アランは微笑んでいた。


主任は相変わらずの意識不明。


――アランが去った後。


「…」

彼女はゆっくりと目を開けた。



〈おわり〉

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