【番外編】ノアと速水のいぶんかコミュ④(完) 速水の作戦 /おとうと。
今回は文字数の関係で二本入りです。
【番外編】ノアと速水のいぶんかコミュ④ 速水の作戦
速水朔は華麗な手さばきで抹茶を点てていた。
「すごい!」
ノアはそれを正面に座り、目を輝かせて眺めている。
和菓子もある。…栗きんとん。
これらの入手経路は内緒。――とても苦労した。そう言っておこう。
「ほらできた。結構苦いかも。あと、熱いから」
「サホーは?簡単で良いから教えてくれよ」
ノアはそれが気になるらしい。
「別に、色々足りないし…気にしなくて良いけど。ほら、こうやって…」
速水はいちいち教えた。
ノアは楽しそうに真似する。
「旨い」
ノアは楊枝を使い栗きんとんを切り分け、口にした。
「よし…」
速水はこっそり呟いた。よし、効いてる。
近ごろ、速水に心境の変化があり――速水は友達を募集することにした。
…だが、ここは地下。アンダー。中々友達候補は現れない。
唯一、友達になれそうなのは、やはり目の前の…。
以前、速水はノアの友達申し込みをなんだかんだで断ってしまって、最後にノアを大泣きさせた。そしてたくさん謝って、何とか許して貰った。
あれから…色々徹底し。きっと、ポイントも少しはたまってるはず…!
要するに、もうほとぼりは冷めた…と思う。
今ならリトライできる。
というか若干『俺達もう普通に友達じゃないのか?』という気もするが…。
一応、確認は必要だ。
片方だけが友達と思ってて、とか結構きついし。
「ノア」
速水は微笑んだ。
「うわ苦。何ー?」
ノアは抹茶を飲みながら答えた。苦かったので、また菓子を食べる。
「――、君は、友情ってどう言う物だと思う?」
「…」
ぽろ、とそれが口に入らず器に落ちた。
「何、急に」
ノアは呆然と言った。
「俺は、やっと気が付いたんだ。俺は今まで、きっと間違った考えを持っていた――」
速水はなめらかに、あくまで爽やかに語り出した。
自分にとって、友達はどう言う存在だったか。
あるいは期待しすぎていたのかもしれないと。事細かに。爽やかに。
もしかしたら、そこまで自分が頑張る必要は無いのではないか?それを教えてくれたのは――。
これから外に出た後自分がノアとどうしたいのか、立てたプランを爽やかに語る。
いずれは家族ぐるみで、海外に遊びに行ったり、たまに日本で、もてなしたり。そんな気の置けない間柄になりたい――。
「――だから、ノアとは真剣に、ここで友達として付き合いを始めたい。もちろんノアがやっぱり嫌ならあきらめるけど、どうかな?」
「…」
ノアは、奇妙な顔をしていた。
「えっと、考える」
「!…、分かった。返事、まってる」
速水はとてもとても爽やかに笑った。
「もう良いぞ、レオン、ベス、ありがとう。今、点てるから」
そして速水は個室のドアをノックした。
やれやれ、という感じで二人が出てきた。
そして、レオンとベスがテーブルに着き、もの珍しそうに抹茶を飲む。
すでに飲み終えたノアは、ベッドに移動し、足をブラブラさせている。
「ノアは?もう一杯飲むか」「いや、もういい」
「まだあるから、しばらくはいつでも飲める」
速水は微笑んだ。
「――ハヤミってさー」
ノアは、言った。
「ん?」
速水は振り返った。
「実は、俺の事、からかってるだろ」
■ ■ ■
「からかってないって」「からかってる!ほらまた笑った!」
「だからからかってない」「嘘付け!すごい笑ってる!」
「――あいつら、今日も仲良いな」
レオンが苦笑した。
「ほんと。ノアにやっと友達が出来て良かったわ」
ベスも、クスクス笑う。ふと目を伏せる。
アンダーではこんな彼等の何気ないやりとりが、一服の清涼剤だ。
(おわり)
--------------------------------
【番外編】おとうと。
「なあ、ハヤミって。いつも話してくれてる、あの変な兄貴がいるんだよな」
夜、風呂上がりでパジャマ姿のノアがぼつりと呟いた。タオルを肩にかけている。
「?兄貴がどうした」
先に風呂に入り、寝支度を終え、のんびり爪を切ったりしていた速水は、首を傾げた。
「いや。となると、ハヤミは『弟』って事だよね?」
「まあ、そうだな」
日本語で弟、と言われて速水は自覚した。そういえばそうだ。
「それが?」
速水は首を傾げた。
「俺もあんな『お兄さん』がほしかった」
ノアは真面目に言った。
「――」
速水は固まった。
まずい。ノアが…、ノアは『兄』という物を誤解している。
日本語、一般常識、勉強、その他色々。
速水はベスに頼まれ、暇な時は教師役に勤めている。
ベスもレオンも、常識はイマイチ。
ベスは、常識的に見えるが…スクール生活が長くどこか浮き世離れしている…。
実家がマフィアなレオンは論外。
なので、速水は普段からできる限り、ノアに外の事を正確に教えようとしていた。
「兄貴が欲しいのか」
速水は、爪切りを置いて、テーブルに移動し。注意深くノアに尋ねた。
「っと、なんでそんな。俺に兄貴が居たらいいな…ってくらいだけど」
ノアは少し戸惑った。
「あ。そこに座ってくれ」「うん…」
ノアは言われるままに座った。
「髪を拭きながらでもいいから、適当に。聞いて欲しい」
適当に、そう言って、速水は真面目に切り出した。
「うん、それは拭くけど…」
ガシガシ、とノアはタオルで頭を拭いた。
「そうだな…ノアは、理想の家族構成って考えた事あるか?」
「…?」
ノアは首を傾げた。
そして、速水は話し始める。
「…俺は将来、いつか好きな誰かと結婚して、幸せな家庭を築きたい。今じゃ自由にできるかはわからないけど、夢の一つだ」
「へえ。それで?」
「ノアにはベスとエリーがいる」
速水は言った。
ノアが少しむくれた。
「――つまり、俺に兄貴とか、無理だから、…欲しがるなってこと?」
速水は首を振った。
「いや、そうじゃない。本題は、これからだ」
「本題」
ノアは繰り返した。
「ノアが、どうしてもって言うなら、考えてもいい」
「―は?」
「うちは母さんがいないから、その場合は…?それより国籍が問題か?――いや方法はいくらでもあるな」
速水はつぶやいた。
「??どういうこと?」
「だから、俺の兄貴が気に入ったなら、良かったら俺の――」
ぱこん!
速水は何かで頭を叩かれ、振り返った。
「レオン」
「おい、ハヤミ。ノアに変な事吹き込むな」
呆れた様子でレオンが言った。丸めた雑誌を持っている。
叩かれた速水は頭をさすった。
「別に悪く無いが、面倒だ。やめとけよ」
レオンは速水に言った。
「何でだ?そんなの本人の意志が――」
ノアは首をひねっていたが、ぽん、と手を打った。
「あっ、ハヤミが俺の兄貴になってくれるって事!?嘘!?できるの?」
「でき」「できない。っとに、オラ寝ろ」
レオンが呆れて言った。また丸めた雑誌で速水の顔をつつく。
「――」
これに珍しく、速水が憮然とした。無言の抗議と言うヤツだ。
「何だ?そんな顔して」
「俺は弟か、妹が欲しかったんだ。……いや。やっぱり、いい」
速水は言って、その後、溜息をついて立ち上がった。
「ノア、ゴメン、やっぱり無理みたいだ…」
「いや、いいよ別に。サンキュー。おやすみ」
ノアは苦笑した。やれやれ、と言う感じで速水に手を振った。
「おやすみ」
速水は言って、スペースに入りカーテンを閉めた。
…速水はベッドに横になり、まどろみながら考えた。
…ノアが弟?
ノアは孤児だし、上手くすれば出来るかも。
――やっぱり、あきらめ切れない。
速水の描く、夢の家族構成。
―お嫁さんを貰って。子供はできれば三人くらい…。
弟はノアで、兄貴は隼人、犬は二匹――。
(おわり)