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【番外編】 〃 ③ &JACK+怪談(出張版)

この話の続きの『怪談』雪降る山②がJACK+怪談に出てます。

いぶんかコミュは次回で終わりです。

【簡易キャラ紹介】

挿絵(By みてみん)

如月隼人きさらぎはやと…速水の親友枠。バリスタ目指しているイケメン。友達少ない速水に兄のごとく慕われている。速水より5歳年上。中学時代(高校入学前)は黒髪かもしれない?


挿絵(By みてみん)

【注!】イラストは適当です。

速水出雲はやみいずも…速水の兄。赤モヒカン。数年後、少し落ち着いて茶髪長髪のゆるふわっとしたパーマの持ち主になる。もちろん美形。落ち着いてからは普段着は着物。左は子速水。髪の毛の赤いのはおそろいなのかも。

――雪景色だった。

雪の降る、雪山。

子供用携帯は圏外。



「兄貴ー?…いないのか。完璧はぐれたな…」

小五の俺は、周囲を見回した。兄は松茸探しに行ってしまって、姿が見えない。

残されたのは、微妙に詳細な等高線付きの地図。


「僕のもダメだね」

隼人が自分の携帯を見て言った。



そもそも――。

『春休み、あとまだ三日あるし…隼人と親睦旅行に行こうかな』と言ったのは俺だった。


『あ、おに…兄貴も暇ならついてきて。いきなり二人きりはハードル高い』

そう言ってしまったのも俺だった。


俺は単純に、出来れば隼人とそろそろ友人になりたい、親睦を深めたい。そう思って…、なら旅行がいい、と考えた。


…まあ、実は、丁度テレビで旅番組がやってて。

何となく、旅行したいなと思った。


春休み、俺と受験を終えた隼人は散々遊んだ。けど、俺はまだ小学生。

けど…隼人は新学期から高校生になる…。

隼人が高校に通い始めたら、年下の俺は絶対忘れられる。それは避けたい。


『年も近い兄貴が、先に隼人と友達になって、その後俺が隼人と友達になる――うん、自然だ。どうかな?』

悪く無い計画だったと思う。

だが、それを聞いた兄貴はテンションを上げまくった。

『合点承知!いこ!いこイッッコーーーーーーー!!ぴよーん!最高!!あ、岡本?~俺!明日から泊まりにイッパツフツカ!三人!よろぴこ~!』

舎弟が宿をやっているらしく、兄貴はあっと言う間に部屋を押さえた。そのまま俺の携帯を勝手に使い、隼人に電話をした。


『隼人くーん?ヘイ元気?あ、俺、メモリ消されて超ショックな朔の兄ちゃんでえ~す!で、明日からさー』

『あっ、おい!』

そして俺は、『ゴメン!兄貴馬鹿なんだ!!…、…その、急だけど良かったら…』と控えめに隼人を誘った。

隼人は受験も終わったしいいよ、ちょうどどこかに出掛けたいと思ってたし、と快く了承してくれた。俺は感動した。なんて心の広い男だ。


翌日、俺達は出発した。

…そして。その結果が。


■ ■ ■



「…朔。今は四月だよね」

隼人が言った。


「…ああ」

俺は言った。ここは一応関東だ。

宿は山奥だったが、…こんなに雪がある訳無い。


確か…駅から皆で話しながら、少し山道を歩いて…それが、どうしてこうなった?


俺は溜息を付いた。

「ハァ…いつものか?…兄貴の捜索は、もうあきらめよう」

「あっ、ライチョウだ!!!!?どうしてここに!?――うわ可愛いね!見てご覧!」

俺の呟きを隼人は聞いていなかった。


「――――そうだ、朔、出雲さんはいいのか」

鳥を撮影していた隼人は、連写後に振り返った。


「兄貴はしぶといから平気。場所も知ってるだろ。隼人、宿、地図だとこっちだよな…?」

俺は兄貴の書いた、詳細な地図を見て隼人に言った。

地図は習ったので読めるけど。友達になるには、こういう小さなコミュニケーションが大切だと思う。


「ああ、見せて」「はい」

俺は隼人に地図を渡した。

「詳しい地図だね」「うん」

意外と兄貴はこういう所が細かいんだ。だから俺は兄貴がす…ゴホ!き、じゃない。


「なあ隼人、こっちの道…、だよな」

そして俺は言った。

道は雪に埋もれ、とても分かりにくかった。


「そうだね。こっちの道…だ。合ってる。じゃあよし、とりあえず行こう。――寒くない?」

「…もちろん寒い。死にそう」

フードをかぶりながら、俺は震えた。

山なので、パーカの上にちゃんとジャンパーは着て来た。いつもの帽子もかぶってる。

インナーも長袖だし、長ズボンだし、薄着はしてない。


けど、こんなに雪が降るなんて聞いてない。


「じゃあ、これを着て。丁度厚着してたんだ。山は寒いかなと思って」

隼人がジャケットを差し出した。

「いいのか?あ、シャツで良い」

「じゃあ…、セーターをあげる。実は窮屈だったんだ」「いいのか?」

俺は隼人から、余分そうな厚手のセーターを一枚服を借りて、大きかったので一番上に着て袖を曲げた。

これだけで大分違う。

(ありがとう、隼人…)

俺は柄シャツonベストonトレーナーonセーターon上着という謎のレイヤードをしていた隼人に感謝しつつ、雪道を進んだ。


途中、結構な難所がいくつもあった。


橋の壊れた川があったので、水に落ちないように、その辺にあった木で足がかりを作ったり、岩を渡って通ったり。

片側が崖のように切り立った、幅の狭い道を踏み外して落ちそうになって、間一髪で隼人に助けられたり。

積もった雪が深くなってきたので、即席のかんじきを作って履いてみたり。


とにかくそんな感じで、地図を頼りに、俺達はひたすら宿を目指す。


途中、少し吹雪が強くなったのでビバークした。

「…なあ、隼人」

ビバーク中、俺は年上の知り合い、隼人を見た。

「なんだい?」

「この親睦旅行、かなり失敗ぎみだよな…ごめん」

俺は言った。突然の雪山。数々の難所。だからどうしてこうなった?

きっと、隼人もうんざりしているはずだ…。


「そうかな?結構楽しいよ」

隼人は楽しそうだった。

俺は、隼人の心の広さに感動した。

隼人にボーイスカウトの経験があって良かった。隼人は鳥を探してよく登山するらしい。


ビバーク中に登山の心得とか、必要な装備とか色々教えて貰った。

このタープも、隼人がたまたま持っていた、というかリュックにいつも入っている物らしい。

「そんなに鳥が好きなのか?」

俺は聞いた。

「うん。――だって、空を飛べるんだ。凄いだろ?あと可愛いし!驚くほど賢い鳥もいる」

「ふーん。…なあ。さっきの、ライチョウ?結構可愛いよなあれ」

「ああ。じゃあまた今度CD貸すよ。鳥の鳴き声集」

「!?…いや、別にいい」「DVDもあるけど」「…それは借りようかな…」


雪は止んだ。さくさく、と進む。

「危ない!!」「っ!?」

途中雪崩が起き、俺は危うく巻き込まれる所だった。

間一髪、隼人に命を救われた。

「怪我は無い?」「ありがとう、…!お前、怪我」「かすり傷さ」

隼人は命の恩人だ…。隼人は手早く二の腕にハンカチを巻き付けた。


そして。

「あ、あれだ――」

隼人がついに宿を見つけた。


「やった…!死ぬかと思った!」「ふう。少し時間がかかったね」

俺と隼人は喜びを分かち合った。



■ ■ ■



で、着いた宿はコレだ。

小さくは無いが、どう見てもボロボロ。


「築何年だ?まあ、もう泊まれればどこでもいい…」

俺はぐったりと言った。

「お兄さんは居るかな」

隼人がガラガラ、と扉を開けた。


「あ、来た来た~!遅い~~!」

兄は先に到着していて、俺はむかついた。


「っとに。兄貴が勝手に松茸探しなんかするから…」

「でも、ほら見つけたっぴー」「凄いですね」

俺は愚痴り、兄貴は戦利品の松茸を見せ、隼人は感心した。


「およ?何か雪っぽいね?あ、そうだっぴ。実はまたツチノコを捕まえて――」

「うん、途中で降ってきて大変だったんだ…先風呂入りたい。ツチノコは後でいい。ちゃんと逃がしてやれよ」

俺はパタパタと雪を払う。


そう言えばずいぶん暖かいような。

「まあいいや…」

俺は疲れていたので特に気にしなかった。


そしてその夜、俺は存分に、隼人と親交を深めた。

料理に舌鼓を打ち。

「また負けた!隼人強すぎ!手加減しろ」「真剣勝負」「朔~俺と」「兄貴は後」

「また負けた!隼人、お前…卓球やってるのか?」「いや、これは君が弱い」「朔ー」

一緒にトランプしたり、笑いつつ温泉卓球したり。



そして、帰る頃になって。

「なあ、…いま、友達、何人いる?」

ようやく俺はその話題を切り出せた――。


■ ■ ■


「そして、俺と隼人はついに友達になった」


「――、で?」

ノアはうろんな目で速水を見た。それがどうしたの?という呆れ顔だ。


「まあ、ここからだ」

速水は目を細めた。


速水はさらにその先を思い出す――。


帰り道、速水達は道に迷い見事に遭難した。


まず兄が倒れ、隼人が兄を担ぎ。

猛吹雪の中、色々な幻覚その他を見ながら、途中山小屋で妙齢の女性に出会って、そこで一泊。翌朝、装備を充実させ。死ぬ思いで下山。

タフな隼人は茨城に戻りすぐに着替え入学式へ出席、新入生代表としてスピーチ。

速水は熱を出して欠席。あの兄が生まれて初めて風邪を引いた…。


口をつぐんでしまった速水を見て、ベスが首を傾げた。

「ハヤミ?どうしたの急に止まって?」

速水は頭を抱えている。


「ダメだ…ノアをそんな目には遭わせられない。隼人は特別なんだ…」

速水は日本語で呟いた。

ぶつぶつと何か言っているが、ノアとベスには聞き取れない。


思い起こせば、…友人ができる度にというか普段からそんな風だった。


原因は今なら分かる。


旅館で、隼人に指摘され。速水は初めてて気が付いた。

昔からずっとおいしく食べていたアレはウナギじゃなくて――。


速水は身震いし、ノアを見た。


「?」

幼気なノアは首を傾げている。――!!…どうみても、ダメだ…。

外の危険さを全く知らない幼気なノアは、ツチノコの呪いに勝てそうにない…!

せめて、隼人くらい図太い神経と強靱な肉体が無いと…!


速水は頭を抱えた。

「ダメだ…ノアをそんな危険な目には…!―まず兄貴を始末して…ツチノコ達にお詫びをしてそれから」


「?ハヤミ。おーい?」

ノアは速水の顔の前で手を振った。


速水はとても怪訝そうな顔をしているノアを見た。

ノアはベスと顔を見合わせ、『??、速水はどうしたんだ?』という動作をしている。


速水はノアをじっと見た。

…このチャンスを逃してはいけない。

付き合いこそ短いが…ノアとは、お互い、友人的な相性は悪く無い気がする。


どうすれば――?


「――そうだ!」

速水は、閃いた。


「ノア、そうだ弟子枠ならある!」

速水は言った。とても嬉しそうに。


「…」

ノアは、ふにゃ、という微妙な感じに顔を引きつらせた。

「それで良ければ、今すぐにでもいける!弟子にしてそこから鍛えて!」


「ハヤミ、…お前」

成り行きを見ていたレオンが、おもむろに立ち上がり、速水の肩に手を置いた。


「レオン。なんだ?」

「お前…残念な奴だな」


「――!!」

速水はもう立ち直れない、という顔をした。


「残念?おれが…」

そうじゃないかな、と思っていただけに、ショックだ。


「どうしてこんなにこじらせたのかしら。もう、友達でいいんじゃないの?」

ベスが言った。

「――ダメだ…ごめん」

速水は項垂れた。


「もういい。そんなヤツ知らない!」

ノアがついにヘソを曲げた。そっぽを向いた。


――決別の時か。

換気ダクトからひゅう、と風が吹き込む。


「…弟子じゃだめか?」

最後に、速水はノアを見て言った。


「何で俺が下なんだよ!友達がいい。だって…俺。チッ――ベスがいるしもういいや」

ノアが忌々しげに首を振り、そして溜息を付いた。


「――っ」

ノア…!!

速水は手を伸ばしかけやめた。

そして速水は言ってしまった。

絶対禁句の、その言葉をシリアスに。



「そういえば、ノアも友達居ないんだよな…」



速水は全員にコテンパンにされた。


〈おわり〉

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