【番外編】ノアと速水のいぶんかコミュニケーション② 速水の苦悩
「ベスー!」
ノアはクイーン専用の個室の扉を叩き、ベスに泣きついた。
「ノアどうしたの?」
何となく個室にいたベスが出て来た。赤いTシャツに、ジーンズ。イヤリング。大体いつもの格好だ。
ちなみにノアはセーラー襟の水色トップスにベージュの短パン。
白のハイソックスにブルーのラインと碇模様。どう見てもマリンルック。
エリックが持って来た物をそのまま着ている。…エリックはノアの服のコーディネートに困っているようで色々試している。
そして問題の速水はいつものように黒一色。ネックレス、ブレスなど装飾品が多いのは、順位が上がったからかもしれない。
「ハヤミが意地悪する!!俺と友達になるの嫌だっていった!超むかつく!」
ノアは恨めしげに速水を見た。
「あら、そうなの?」
「…ノア」
速水は立ち上がって、ノアの方へ歩く。
彼は内心、冷や汗をかいていた。
――誤解されてしまった。どうしよう。
募集してないって、確かにそうだけど。嫌われたかも。…やばい。
「ええと、違う。ポイントは結構たまってるし。ノアは悪くない」
「そもそもポイントって何だよ!?――じゃあハヤミが悪いの?」
ノアは言ってハヤミを睨んだ。
「…、」
速水は黙り込んで、黙り込んで、考えて、考えた。
速水の言うところの友人枠――。
速水にとっての友達とはつまり。
誕生日、クリスマス、お正月、その他記念日は必ず一緒に過ごす。
もちろんその際にはささやかなホームパーティ。あるいはサプライズ?
誕生日には真心込めたプレゼントまたは手作りケーキを送り、クリスマスにはお互いにプレゼントを用意し交換する。大晦日は速水の家で一緒にテレビを見て、お正月は一緒に初詣。
速水は料理やお菓子作りも好きなので、新しい料理や、お菓子を作ったら真っ先に味見してもらう。けどたまにはどこか予約して外食もしたい。
珈琲も出来れば一緒に飲みたい。
電話をしたら、なるべく出て貰えると嬉しい。
――これは親友枠の隼人に厳重注意されたので、友達枠は週一回、十分が限度。
代わりのメールは特に用が無いなら週に二回まで。毎日は禁止。
――これは親友枠の隼人に、友達枠で週二回は多いと指摘されたので、もう少し減らす事を検討中。
あと。これが重要。
遠くに住んでいると、いざ会えなくて困るので、家は近い方が良い。
徒歩三十分圏内なら言うことは無い…。
ちなみに友人枠は同性限定。女性は不可。
実際に速水は過去試験的に、何人かと友人付き合いをしたことがある。
…速水は別に一人でも良かったが、もっと仲良くなりたいという『知り合い』は結構いた。
そこで、まずはお友達から、というやつだ。
だが結局皆、一、二週で疎遠になってしまった…。
――『思ってた速水と違う。やっぱ知り合いが楽』って…一体何がいけないんだ。
……重いのか?やっぱり。
速水は溜息をついた。
「ノアが日本人だったらな」
日本人だったら、帰国してもすぐ会えるのに。
「――!!!っ?」
ノアは絶句した。ここに来て人種の壁!?
「ハヤミの馬鹿野郎!ベスー!!ハヤミが差別する!!」
「もう、ハヤミ、ノアを苛めないの」
「苛めてない…」
ベスにとがめられた速水は大いに反省した。ノアは何も悪くないし、ウザく無い。
…俺の言い方が悪いんだ。
「ノアが嫌いなの?」
ベスがノアをひとまずそこらに置いて、椅子を引き腰掛ける。
「いや」
速水も椅子を引いて座った。今から保護者面談か。
速水は居住まいを正した。
「友達枠は今、募集してない…、色々考え中」
「?つまり、どういうこと?」
ベスは首を傾げた。そこらに置かれたノアはベスの肩に隠れうー、と低く唸っている。
「つまり、昔色々失敗したから…、そう、あれは――」