【番外編】スクール編おまけ ペナルティ
「裸でナッツクラッカー!!」
サラが高らかに読み上げた。
「…!!!!」
速水は固まった。
裸でナッツクラッカー!!!!!!!!!
終わった。
俺の人生は終わった…!!
視界が暗転し速水はふらりとよろめいた。膝を床につきそうになった。
思わずレオンにつかまった。半笑いのレオンを殴り殺したいと思った。
…ここは、懲罰室。
その中心に目元マスクの運営二名を従えたサラ。
それに対峙し速水、レオン。
周囲には紙袋を被った『ペナルティトレーナー』―野次馬がうじゃうじゃ居る。
「マジか?」
速水は顔を上げて一応聞いた。リアリー?
「マジです」
サラがうなずき言った。
「──といっても今回は、残念ながら下着の着用が認められます」
「!っ、本当か?」
速水はその言葉に食いついた。「ですから、ほぼ裸になります」そこは何となく聞いた。
「こちらからお選び下さい」
サラが真顔で懐から何枚か下着を取り出す。
──この女はもうダメだ。
速水はそう思った。
「くそ―俺の推薦者は誰だ、契約書見せろ!!」
そいつに復讐してやる!と叫び、速水はサラが方手で持つ契約書に手を伸ばした。
「教えるのは禁止されています」
代わりに下着を渡された。
「ぶ!がぁははははは!!おいサラ!!あはははははは!!ゲホっが」
ソレを見たレオンは笑っている。咳き込む程の爆笑だ。
「っ…Tバック、紐パンTバック…お、オーバック…!!?」
速水はこんなもの、もちろん履いたことが無い。
黄色T、白レース、ピンクスケスケ。クロッチオープン…etc
「ぶっ。ハー、まあ、良かったじゃないか、ヤられるよりかなりマシだ」
「レオン」
速水はにこっと笑い、一拍後に強烈な右ストレートを食らわせた。
綺麗に吹っ飛んだ。
…ナッツクラッカー。
ブレイクダンスの技の一つで、要するに股間に両手を当てて大開脚し、逆さま状態で背中を使い、床で回転する技だ。
きちんと服を着ていれば、まあそれほど違和感は無いのだが…決してほぼ全裸でする物では無い。
「…何回転だ?」
レオンを殴った後、速水は震えながら聞いた。
「五十回転です」
サラが答えた。
イェエエエエ────────────────ー!!と周りが喜び。
ぬーげ!ぬーげ!ぬーげ!ぬーげ!ジャック!という手拍子コールが響く。
黄色、白、ピンク…。手の中の下着を見つめる。
「こ、ここで脱ぐのか…?」
いえぇえええええええ────す!!とギャラリーが拍手し口笛を吹きはやし立てる。
ぬーげ!ぬーげ!ぬーげ!ぬーげ!ジャック!というコールが響く。
「──くっそ、」
面積的に、少々まともな物を速水は選んだ。色は知らない。
さっさと終わらせる!!
速水は脱いだ。思いっきり良く。
Tシャツ、靴、ボトム。──下着。すぐに履き替える。
「数えろ!!!」
大声で叫び、勢いをつけ、一気に回転。
もう知らないとばかりに大股を開く。いつも通りだ。完璧な技を見せてやる!!
そして死ね──!!
ナッツクラッカーをしながら、速水は宇宙の真理を悟った。
ああそうか、ここに居る奴らを全員始末すれば良いんだ──。
気に入らないヤツはぶっ殺す。それで良いんだな。ただ回るだけでは攻撃も何も無い。回数のコールが聞こえる。大合唱だ。気の毒そうなレオンの顔が見えた。殺す。
ああ、そうだ俺は格闘殺戮ダンスの先駆者になろう。カポエイラ習うのも良いな。
…っ、五十。
「「「…フィフティー!!」」」
速水は崩れるように回転を止めた。床に右手を突く。頭がくらくらする。
──なんて言ってる暇は無い。
「…もう良いのか?帰っても」
若干静かな声で速水は言った。
「ええ。お疲れ様です。本日のペナルティは以上です、その下着は差し上げます。では」
サラはあっと言う間にカツカツと立ち去った。
レオンがホッとする。何にホッとしたのか──?ある種の予兆だったのかも知れない。
そして気遣わしげに速水を見るが、速水は顔を伏せていた。
速水がさっさと服を拾う。着替えを始める。先に下着を替える。
「なあ」「どうした?」
速水は下着姿のまま、手近なヤツにバキッと殴りかかった。
「黙って見てんじゃねえよ!!」
二撃目に股間を蹴り上げる。カ──ン!と音が響く。
「ふぐ!!?」
もちろんそれは不幸なレオンだった。
「ぜんいん殺すぶっ殺す!!お前等グルゾ×メ×チ××ストにしてやる!!」
大音声で叫びつつ、殴る蹴るぶっ飛ばす―散らかし頭突き。うぎゃぁあと紙袋が叫んだ。
あ、こいつ喧嘩強ぇ。
…かすれゆく意識の中、レオンは意外な発見をした…。
■ ■ ■
「==ゲス!==野郎!!」
バタン!!と扉が閉められた。むしろ追い出された。
ハーハー、と速水が獣のように息をして、さらに未だ低く雄々しく唸っている。
Tシャツを扉に勢いよくぶつける。靴を投げつける。
「===く=ば=====!=の=!!」
日本語の悪態を続けている。扉を蹴る、蹴る。蹴る。
「おい、帰るぞ」
「…まだ足りない!あいつら全員ぶっコロす!!」
「っとに、帰るぞ!オラ、ズボン履け!!」
一緒に投げ出されたボトムをレオンは速水にぶつけた。
「ちっ!……フー…、フー…」
殺る気のおさまらない速水はボトムを履いて、靴を履いて立ち上がった。
「やめとけ!」
レオンは速水のベルトを後ろから引っ張って、扉に喰い付く彼を引き留めた。
速水は部屋に戻る羽目になった。歯ぎしりをしながら。
…薄暗い廊下には、無数の下着が残された。
──そして翌日。
「あー…」
速水は壊れた部屋の椅子を見て反省した。
〈おわり〉