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生命装兵器つるはし・セイクレイン 作者:dog
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意思

 リマリが、すぐ終わらせる、そのようなニュアンスの言葉を発した途端に、ビリヴは安堵したような表情をみせる。ほんのちょっぴり、ふっくらとした唇の端っこが上がっただけの変化だが。リマリもビリヴをちらりと見て、同じように安堵する。
 ビリヴの変化が嬉しい。ただそれだけの喜び。戦いの時というのが少し不満だが、ビリヴが感情豊かになってくれるのなら、とりあえず今は戦場の中の感情変化でも良しとすることにする。

「ミチユキさん、ここから離れましょう」

「えっ、いいの? もしこの狙撃が外れたりしたら、ここに骸が来るわけでしょ?」
「後で説明します」
「いいや。ミチユキ君はここにいて。≪生命装≫の威力たるものを直と見せつけてやらなきゃいけないでしょう?」

 リマリは前言を撤回するつもりはないらしい。
 ビリヴは苦虫をかみつぶしたような顔をしてみせるが、「わかりました」と一言を残してその場を飛び去って行った。
 ビリヴも、他にもいた男たちも全力で走って行った。退避という言葉がちらほらと聞こえるのが、ミチユキを不安にさせた。しかしリマリの近くにいるため、逃げられない。逃げたりしたら、後でどうしようもなくなる予感がした。
 人間関係を修復するのは至難の業。修復の段取りはしっかりと丁寧に、タイミングやチャンスを逃した時点で修復は望めなくなる。
 リマリはミチユキに対して怒っているから、ミチユキはここに残るのだ。

「ミチユキ君、≪生命装≫の助けを借りてるときはどんな気持ちだった?」

 リマリは長弓の弦を引き絞り、矢の発車準備に取り掛かりながらミチユキに問う。

「どんな気持ちって……」

 ――よくわからないけど、気分が良かった。そう言うのかな?

 ミチユキの言おうとしていたセリフをぴしゃりと当ててのけるリマリ。まるでそう言うとわかっていたかのように、ミチユキのセリフを遮って代弁してみせた。

「そうだよね。≪生命装≫は優しくて、勇気と力を与えてくれるから……そういう気分にもなるし、そういう気分になったら気持ちいいよね。私もそうだったから、ミチユキ君のことは何となくわかる。力を得た気になってしまうのも、よくわかる」

 でも、とリマリは付け足す。

「≪生命装≫の言葉は、全てが使用者を狂わせる誘惑の黒魔術。従っては身を滅ぼすことになる。本来の力は何も変わっていないのに、≪生命装≫はその気にさせてくれる。自分は強くなった、これで戦うことができる……なんて思っちゃう」

 リマリの使っている長弓も、≪生命装≫。当たり前のように特別な力を持っている、異常な武器。
 矢が、淡い光を発しだす。まるで太陽のような、暖かい光。

「何故か、≪生命装≫は使用者を骸との戦いの場へと引き摺りこもうとする。だから使用者をハイにさせる。使用者がどうなろうと、≪生命装≫にとってはどうでもいいことだから、次の使い手を見つけるだけだから」

 狙いを定める。普段のリマリは弓道に精通しているような人間には見えなかった。武人染みた人間には見えないというか、戦いの場には似合わない、明るい女の子だった。
 でも、今は違う。
 リマリの弓の弦を引き絞るその姿は素晴らしく様になっていた。

「≪生命装≫は危険な代物。だから使うには練習が必須。ミチユキ君みたいに昨日今日使い手になったような人間が、何度も偶然を起こせっこない武器なの。危険だって伝えてなかった私の不手際もあるけど、まさか飛び出していくとは思ってなかった……言い訳だね」

 リマリは、遠くにみえる骸を睨み続ける。狙っているのは頭部のみ。そこを砕いて終わらせる。

「伝え損ねてごめんなさい……もう勝手に飛び出したりなんかしないで」

 ――人が骸に喰われたりするのは、嫌いなの。

 矢が、発射される。ただそれだけ、ありふれてはいないが、普通のアーチェリーでは騒ぐほどではない。
 だが、これはミチユキには大騒ぎ案件であった。凄まじい突風が吹いて、ミチユキの身体が浮いて、そのまま吹き飛ばされた。
 尻を思い切り打ち、痛みを我慢しつつ立ち上がり、矢が飛んでいった方向を注視する。

 矢が、まるでロケットミサイルを模したような光を帯び、もはや光るミサイルとなった。

「これか……ッ……これが!」

 ミチユキを救った矢の正体。まさにこれだった。

 ミサイル化した矢は、リマリの狙い通りに、真っ直ぐ飛んで命中。骸の頭部を粉砕し、行動不能にしてみせた。

 ガラガラガラッと、少し遠い位置にいるミチユキ達にも聞こえる、骸の身体が崩壊する音。

 すごい、その一言に尽きる。これが、これこそが本当の≪生命装≫であると心から理解できる。ミチユキはまだ辿りついていない領域だ。

「これが私の≪生命装≫……。≪生命装≫はみんな、名前がある。使用者に屈服した時に教えてくれる、服従の証。ミチユキ君、戦いたいのならまずは≪生命装≫を従わせることから始めるべき。名前を知れば、振り回されることはなくなる」

 リマリは長弓を車の後部座席に置いて、離れた者達が戻ってくるのを待った。ミチユキは何も言葉を発せずに、立ち尽くしていた。謝罪するべきと思ったが、リマリはそれを望んでいるように見えなかったため、何となく言えなかった。

 数分もしないうちに、リマリとともに駆け付けていた者達が戻ってくる。
 事が終わったことを皆は理解しているようで、撤収までとても迅速。全員が車に乗り込み、運転手の男もすぐに車を走らせた。
 乗って来たのは計四人、帰りはミチユキを含めて五人。少し小さめの車であったため、五人だと少し狭苦しい。

「ねぇ……ビリヴさん」
「はい」

 ≪生命装≫を保有している者は全員、後部座席に乗り込んでいた。ミチユキが真ん中で、リマリとビリヴが挟んで座っている。

「……俺に、≪生命装≫の使い方を教えてほしい」

「……リマリさんに聞いてもらえますか?」

 そうビリヴは言うが、リマリは眠ってしまっている。≪生命装≫を抱えて、ぐっすりと寝息を立てている。熟睡みたいで、起こすのは悪い気がしてビリヴに話したのだ

「じゃあ……向こうに着いてから改めて」

 ミチユキのその台詞から、ずっと無言。周り全てが荒野であるために、車の走る音だけが世界の全てだった。


 ミチユキは平凡な男子高校生だった。何のとりえもなく、ただ惰性に身を任せて日々を無駄に過ごしているだけだった。
 なんにも興味を持たず、夢中にならず、本当に意味のない人生を送ってきたと思っている。強いて言うなら暇つぶしは得意。筋トレとか無意味にやっていた。

 ヒーローに憧れて、小さい頃はテレビにかじりついていた。他にやる事も、遊ぶ相手もいなかったので、それしかなかった。
 超能力を持ったヒーローが悪と戦う。羨ましかった。何の力もない小僧にとっては夢、憧れだった。
 そしてその憧れは、妬みになった。ズルい、とか思ってしまうようになった。自分には何もないのに、ヒーローはなんでこんなに恵まれているのだろう、と思ってしまった。ヒーローには辛い過去がある、そういうのも分かっていたが、それを差し引いても恵まれている、そう感じていた。高校生になってもずっと。

 俺になくて、他人にはある。そんなのズルい、不公平。そういう特別が欲しい。
 そういう思考になってしまったから、テレビのヒーローにも興味が失せた。小さい頃のほんのわずかな時間の趣味だった。

 高校生になって何かが変わるかと思ったが、結局は変わることはない。周囲の環境が変わろうと、自分は何も変わっていない。変わらない
 変わろうとも思ったが、それでどうなるか、容易に想像できた。きっと楽しいことなんかない、本質が変わらない、変えられないのなら外見とかが変わったとしても同じだと、そう決めつけた。

 劇的な何かを求めていた。具体的には何もしていないが、そういう運命を求めた。

 幸か不幸か、レザ・ドゥースにやってこれたのは、劇的な運命だろう。

 このチャンスは逃しちゃいけない、そう思ったから戦いたがった。≪生命装≫の言うがままに、骸へと挑みに行った。恐怖に勝てず仕舞いだったが。

 ――どう変わりたい? 
 そう問われても、きっとミチユキは答えられない。具体的なイメージは何一つとしてない。言葉にはできない。
 漠然と、小さい頃に憧れたヒーローになりたいな、そう答えるほか考えはない。
 サンタクロースにおもちゃをお願いする子供のように、無垢に願う。


 前線基地、その敷地内にある建物の一室。ミチユキがいた病室のような部屋ではなく、警察のドラマとかでよく見るような、取調室みたいな部屋。
 そこにミチユキとリマリが、机を挟んで椅子に座っていた。

 ミチユキの独断専行から一日が経過している。あれからミチユキはずっと病室で軟禁状態になって、つい先ほどリマリに連れてこられた。軟禁状態にされたのは、一種の刑罰だったのだろう。

「……ミチユキ君、話って何? 話があるって言っておきながら、ここに入ってずっと黙り込んでるのはどうして?」

 ミチユキがビリヴにせがんで、リマリとの話し合いの場を提供してもらったのだ。病室に食事を運んできたビリヴに土下座をする勢いで頼んだかいがあった。

「……頼みにくいからに決まってるじゃないですか」

「頼みにくいこと? まぁ察しは点くけど」

「俺に、≪生命装≫での戦い方を教えてほしいんです」

 それしか言う事はない。他に頼みようがない、頼み方がわからないから直球勝負。

「……やっぱりね」

 わかりきっていたこと。ミチユキの性格などまださっぱり掴めてはいないが、何となくわかっていた。ビリヴと同じようなオーラを、リマリはミチユキから感じていた。

 あれだけ骸に対してビビっていたのに、帰ってきて一日でコレ。懲りていないとしか言いようがない。恐怖に怯えて逃げ出すのが普通。誰も笑ったりしない、臆病者とも罵らない。当たり前。

 ビリヴも同じだった。骸に襲われても、結局は戦いたがっていた。だから≪生命装≫での戦い方を教えたのだ。戦い方を教えなかったら、素手でもビリヴは立ち向かっていただろう。それほど意気込んでいたのだ。
 ミチユキもきっと同じ。ビリヴの二番煎じ。戦い方を教えなかったら喰われて死ぬ。

 どうしてそこまで骸との戦いにこだわるのか。リマリにはわからない。

「……ちょっと前に聞いたかもしれないけど、どうしてそんなに骸と戦いたいの?」

 わからないことは、はっきりと聞く。それがリマリの方針。ぼかして聞くよりもはっきりと聞いたほうが、鮮明な答えが返ってくると思っているからだ。

「……俺は、何もないんです」

「何もない?」

「今まで生きてきて、さっぱりとし過ぎてたなって思ってるくらいです。親も、友達も、なーんにもない。ある意味では綺麗で潔白な人生を送ってきました」

 普通。
 そう思っていたのはきっと、ミチユキだけだった。

「俺には何にもない。スーパーヒーローみたいな超パワーもないし、何なら友達と遊びに行く気もちっともない。ただ生きてるだけだったんです。何にもなく、ただ息をしているだけでした」

 小さい頃から持たざる者。それがミチユキという男子高校生。今は高校生ですらない、ただの一般人、ここではお客様で邪魔者。そう自負している。

「なんにもないけど、何かあってほしい。そう思っているだけでした。何の努力もせず、苦労もしたくない。だけど劇的な何かが欲しかった。人間の屑でしたよ、甘えに甘えて」

「そんなこと……」

 リマリはミチユキと知り合ってまだ日が浅いが、ミチユキが言うほどに何も持っていないとは思っていなかった。≪生命装≫で骸と戦おうとする無謀ともいえる意思くらいは持っていると思っていた。

「あるんですよ。俺が戦いたがってるのは、それを返したいからなんです。今までの自分を払拭できるチャンスなんです。何もしてこなかった、努力も苦労もしてこなかった自分に、偶然降りかかってきたチャンスなんです」

「チャンスって……」

「努力も苦労もせずに、力を得るなんて最低だって思うでしょうけど、それでも俺は最低でもいい。今まで俺は最低以下だったから、マイナスに少しプラスさえされればそれでいいんです。とにかく、俺は俺を何とかしたい。どんなことでもいい、どんな力でもいい」

 ――自分を変える、きっかけが欲しかった。

「ここで初めてリマリさんにあった時、俺は不幸だとか思ってましたけど、違いました。これは、ここに来れたのは幸福でした。たぶん、全人類に恨まれるくらいにラッキーだったと思います。最底辺の俺が、変わるチャンスを手に入れたなんて」

 幸福。骸に襲われて死にかけて、悪魔のような武器に魅入られて、また死にかけてなお自分を幸福であると断じていた。
 ミチユキの考えは、リマリが理解できる範疇にない。だからリマリは呆然としてしまった。相槌の言葉を失うほどに。
 だからリマリも、ミチユキの考えを理解するのはやめた。

 李真理が思った、ミチユキが生き急いでいる気がしたという予感は、的中していた。
 だから、せめて長く生き延びて、ミチユキが幸福になれるように手伝おうと思った。善意のみで、悪意なんて一片もない。

 リマリは数秒考えて、ミチユキのことを聞いての思いを口に出した。

「……わかった。ミチユキ君、思いを聞かせてくれてありがとう。その考えはきっと立派だと思う。でも、そんなに自分を卑下するものじゃないよ」

「卑下なんてしてない。俺はただ……」

「してるから、そう言ったんだよ。君は戦えるから、それだけでも偉大なのにどうして、自分を追い詰めるのか、残念だけど私にはわからない」

 リマリはミチユキがわからない。それはとても当たり前で、他人のことなど完全に理解できるはずもない。ミチユキの背負っているもの、賭けようとしているものがよくわからない。

 だが、リマリはミチユキのその言い分に、少しだけカッコよさを感じた。覚悟とは言えない、駄々のようなミチユキの言葉に。

「わからないけど、ミチユキ君の思いはわかった。教えてあげる。≪生命装≫の使い方」

 レザ・ドゥースは人の世界。それを骸骨の化け物に知らしめるために戦う。

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