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生命装兵器つるはし・セイクレイン 作者:dog
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退治

 ミチユキがいるのは骸迎撃のための前線基地とされている。その一角にある宿舎は今、ミチユキでも簡単に抜け出せるくらいにもぬけの殻と化していた。
 普段なら警備の者がそこらじゅうにいて、宿舎でない建物にも出入りするたびに身分証明を行うのだが、今は非常事態ということで警備の者も戦闘配置についていた。
 それがミチユキにとって、知らぬラッキーだった。どこもかしこも人手がないからこそのラッキー。

 まだ朝。時間にして8時ほど。天気は雨がぱらついていて、ジメジメと蒸し暑い。
 服は向こうの世界から来た時に着てきた高校の制服。靴は普通の運動靴。慣れ親しんだ恰好が一番動きやすい。雨と汗で濡れるのは気持ち悪いが、我慢する。

「……おっと」

 駆け巡っている兵隊らしき人々。全員が同じ服装だから間違いないだろう。
 見つかるのは不味いと思い、ミチユキは近くの物陰に身を隠す。
 場違いながらもスパイのようで少しだけワクワクする心を、ミチユキは抑え込む。
 これから大事なことを、人生を変える戦いをしなければならないのだから、楽しいなんて感情は不必要、捨て去るべきと考える。

 ≪生命装≫と呼ばれたツルハシ。当然持ってきている。
 何故かこれを持っていると勇気と言うか、闘志がわいてくる。これさえあればと。

 ミチユキは人が過ぎるのを待って、さらに移動する。
 どこにいけばいいのか、どちらに行けば戦場なのかわからない。むやみやたらに走っていても体力の浪費でしかない。
 だが、ミチユキはむやみに走ってなどいない。無駄に体力を使っていない。戦場まで最速のルートを駆け足で走って行く。

 ≪生命装≫。この奇妙なツルハシが、ミチユキに語り掛けてくるのだ。何故か、場所がわかる。奇妙な匂いや音、視界がほんわりと和らぐような方向に進んでいけと、このツルハシは教えてくれる。

 ツルハシが示してくれる方向に、あの骸骨の化け物がいる。そう確信している。
 まさかツルハシの言う事というか、教えてくれることを信じることになろうとは、ミチユキも思いもよらなかった。異世界でないと、こんな珍妙な経験はできないだろう。

 方角は北。走って行っても間に合うかどうかという距離。どうしようか判断に迷った末に、ミチユキは走ることを選択した。そこら中に車のようなものを見つけてはいたが、盗むということをしたくないのと、そもそも運転できないから使えない。
 結局は走るしかない。選択肢なんてなかった。

 こっそりと他の者が運転しているところに乗車するにも、軍人の人たちは他の準備に忙しそうで、出発にはかかりそうな雰囲気。
 というか、まだリマリに許可を貰っていないのだから、誰かと一緒に骸の元へと行くのはよくない気がした。

 ミチユキは土くれの大地を走る。メロスよろしく、全力で大地をかける。
 朝日を身体に浴びながら、黒い靄のみえる南へと。

 ――妙に体が軽い。
 ミチユキがそう感じたのは、しばらく走ってからだった。夢中で走っていて気が付かなかった。こんなに走ってられるほどに体力はないはずなのに。
 何故だか走っていられる。息切れも全くしない。

 そして何より、こんなに速く走れた憶えはない。
 まるで自動車のように速く走れている。まるで、ではないかもしれない。まさに、と言ったほうが正しいスピードで走っている。

 人間の限界を超えている速さ走って、しかも息切れしない。

 この身体機能の異常なまでの向上が何によるものなのか、今のミチユキにはよくわからなかったが、なんとなくこのツルハシのおかげであるということはわかっていた。
 この≪生命装≫が、あの骸骨に会いたがっているような、そんな意思を感じる。

「もう……!?」

 ミチユキは骸のいる方へと走っていた。≪生命装≫の導く通りに走っていたのだから、きっといずれは骸と出会える。そのはずだから、安心してというか、確信していた。

 まさか、こんなにはやくに骸のもとへ到着するとは思っていなかったから驚いたのだ。

 本人が驚いているのだから、当たり前に周囲に先客らしき人影はない。誰よりも早くここに来れた。一番槍というやつだ。

 初めて見た骸と何も変わらない骸、カタケタと骨のこすれる音をまき散らしながら、リマリ達がいる基地の方向へと、手足をフルに使った四足歩行で向かっている。
 人間そのものな骸骨のくせに、二本足で歩く気配はない。初めから四足歩行の生き物でしたと言わんばかりに、器用に移動している。

 前回と違うのは、一体だけでないということ。
 二体いる。ミチユキの目の前にいるのと、離れた場所にもう一体。一体目を追いかけるかのように迫ってきている。

「速攻で倒して、もう同じことをするだけ……」

 ミチユキはツルハシを構える。構えると言っても、そもそもツルハシは武器ではないため正式な構え方などないのだが、とにかく剣を持つかのように構えて見せた。
 剣道には少し心得がある。得物は全く違うが、要領は同じようなモノと思い込む。

 カタカタ……ケタ……カッカケタタ……

 骸と呼ばれる骨の怪物は、人を襲って捕食する。ミチユキはそのくらいの知識しか持ち合わせていない。何故に人を襲うのか、そこは知らない。

 だが、捕食するという事は敵意が少なからずある。害意と言ってもいい。それを獲物にぶつけるのが、捕食者というものだ。
 隠密を得意とする捕食者なら少しは違うだろうが、食ってやろうというという気持ちは、対象にしてみれば明確に害意である。故にどんな生命にも必ずある。

 この骸は生命体として認められていないようだが、ミチユキにはそんな害意を確かに感じ取った。捕食者という絶対な位置。その圧。

 人間。レザ・ドゥースでは骸の捕食対象なのかもしれない。だから、レザ・ドゥース生まれの人間には今のミチユキの気持ちはわからないだろう。
 慣れているからというか、生まれ育った環境が違い過ぎるから。

 ――恐い。

 そんな当たり前の感情。人間なら誰だって持っている感情だが、ミチユキのそれはまだ二度目の、圧倒的な恐怖なのだから。
 場数を踏んでいない、故の圧倒的恐怖だ。
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