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生命装兵器つるはし・セイクレイン 作者:dog
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5/9

不十分

 話が終わったのは、四分後。長くもなければ短くもない、立ち話程度なら平均的な時間だ。しかし待っているミチユキからすれば長く感じる。

「リマリさん、おはよう。ご機嫌はいかがです?」

「ミチユキ君……!? 起きて大丈夫なの? 疲れは?」

 驚いた表情をみせるリマリ。人間の体力を鑑みて、部屋のベッドで眠っているものと考えていた。

「大袈裟な……もう大丈夫。ちょい身体がだるいくらい。寝すぎたからかな。いたって健康だよ」

「……それなら、いいんだけど。≪生命装≫にプログレ・エナジーを始めて吸われたって言うのに、大した回復力ね。あの≪生命装≫が気を遣ってくれたのかな」

 ミチユキには回復力が凄いなんて自覚はなかった。風邪の症状は半日ほどで治ってしまうが、そのくらいだ。褒められるとは思ってなかった。
 というかまた出たプログレ・エナジーというワード、聴くタイミングを逃していたが、恐らくまた逃す。ミチユキにとって聴きたいことの重要度は上ではないからだ。

「で、ミチユキ君。何か用?」

「あー……色々聴きたいことがあるんだけど……とりあえず2ついい?」

「……どうぞ」

 廊下での立ち話。すぐ済むだろうとリマリは高を括っていた。壁にもたれかかってミチユキの疑問に答えようとする。

「ビリヴは俺と同じ、異世界人なのかってことと……この世界で俺が戦える才能があるんだとしたら、協力させてほしいってこと……だな、聴きたいのは、うん」

 ミチユキの言い切った感溢れる態度に、リマリは困惑する。

 一つ目の疑問はまだいい。その情報の出どころなどどうでもいいし、いずれ知られることだと思っているから、ここで教えてしまうのも構わないだろう。ビリヴは事後了承でも寛容な人間だから、安心して話せる事柄。

 問題は二つ目。戦いたいという奇天烈な要望。質問であるはずなのに、なぜか要望へとチェンジしていた。聴きたいことではなく、頼み事になっていた。
 昨日のあれは、冗談ではなかった。

「あー……まぁ、その……ね。ビリヴがあなたと同じってのは誰から聞いたの?」

「えっと……エスダって女の人から」

「ふーん……まぁいいや」

 リマリは少し考えるような素振りを見せて「そう」と答えた。

「……ビリヴはミチユキ君と同じ世界から来てる。ビリヴって名前も本当じゃない」

「やっぱり……どことなく日本人な感じだったから、ビリヴなんて名前はないなって思ってたんだけど……やっぱり一緒の世界からかぁ。本当の名前は?」

「私も聞いたことない。あんまり好きじゃないみたいだから、その話題はビリヴに振らないようにね」

 ――自分の名前が好きじゃないという事だろうか?
 そういうことならミチユキも気持ちが分からないでもない。ミチユキという名前、本人が一番気に入っていない。嫌いなまでに。

「んで次なんだけど……」

「あぁ、はい。俺にも戦わせてほしいんですよ。どうせコッチに来て生き延びてるのなら誰かの役に立ちたいなって」

 殊勝な心掛け……という前にリマリが思ったこと。
 ――まさか、この男は(クラニオ)に襲われる恐怖を忘れてるんじゃないか?

 骸に襲われる。大きな骸骨の化け物に異世界人がコンタクトした場合、大抵の異世界人はその場で惨殺。良くて精神ぶっ壊れで、レザ・ドゥースでまともな生活は送れなくなる。

 ビリヴがたったひとり、唯一の例外だと思っていた。
 リマリが出会った異世界人は二桁の序盤くらいだが、異世界人とはそういうものだと決めつけていた。
 だからそりゃもう、ビリヴには驚かされた。今でこそ戦友、本当の名前すら聞いたことがないが、結構なランクの友人であると思っている。
 初めてあった時はぶっちぎりで狂った変人だと思っていた。

 そして例外の二番手。
 骸に襲われながらも、戦うなどと宣う異世界人。異世界人は平和を謳歌しているとビリヴから聞いていたから、驚きはビリヴの時以上だ。

「あのツルハシがあれば、俺も戦えるんですよね? なんかすごい武器なんでしょ?」

「いやいや……待って。嬉しい宣言なんだけどさ。戦うってそんな簡単に言わないほうがいいよ。骸の怖さを忘れちゃったの? あんなのと戦えるの?」

「戦ってみせますよ、俺は」

 軽く言ってのけるミチユキは、大物なのか……それとも愚か者か。
 恐怖を押さえつけて、強がりで言っているようには、リマリには見えない。ミチユキは本心で喋っている。

「誰だって、あんな怖い骸骨と戦えるなら戦います。逃げるのは嫌なんです、こっちじゃない世界で嫌って程、屈してきたから……」

 ミチユキにも思い出がある。きっとこの言動は辛い思いでが後押しになっているのだろう。過去の記憶は今の行動にも影響を与えてしまう。

「……覚悟ができてるのなら、すぐにでも力になってほしいけど」

 リマリは低い声で、ミチユキを脅すように言う。

「恐怖に打ち勝つのって、人間だったらたぶん無理だよ。せっかく骸と鉢合わせして生き延びられたのに、捨てるようなことをしなくても、レザ・ドゥースで生活できるように、義勇軍は手配してくれるよ」

「恐怖に打ち勝つのが難しいなんて百も承知です。ただただ生きてるみたいな生活は……そんなんじゃダメなんです。俺は戦いたいんです」

 戦闘狂かよ、と言いたくなるリマリだが、決してそうではないというミチユキの言葉に隠された意図を、少しだけ理解する。完全ではない。不完全な理解。

「……どうしてそこまで戦うことにこだわるの? 世のため人のためって仕事なら、このレザ・ドゥースにはいくらでもある。義勇軍に頼めばボランティアだって色々紹介してくれるし」

 ミチユキの戦う理由は、リマリには不明瞭。まったく全容がみえない。とにかく戦いたいという意思は伝わっているが、それだけで戦場に行かせるのは気が引けるというか、行かせてはならないような気がした。
 覚悟。
 個々によって違うが、それは聴けば確かにわかる。それを聴いておかねば、戦場へいかせるわけにはいかない。

「俺が戦うこと……もしかして迷惑だったりしますか?」

「いいや全然、むしろ歓迎したいくらいだけど……ミチユキ君は何というかその……」

 ――生き急いでいるような感じがあって

 ポツンとリマリが呟いた言葉。ミチユキも当然聞こえている。
 ミチユキは首を横に振って、その意見を否定してみせる。

「俺は生き急いでなんかいません。そんな勿体ない生き方は嫌ですから。俺はただ……今までの自分を変えたいだけ……」

 ミチユキが意見を言い終わる直前に、施設内に警報が鳴り響く。
 ミチユキは聴いた事の無い、だがこの恐怖を煽ってくるような音は間違いなくサイレンの音、あまり好ましくない音。できることなら聞くことの無いようにしたい音。

「……ミチユキ君は部屋に戻って。骸が出たみたいだから、安全なとこにいて頂戴。話はこの騒動が終わったらゆっくり!」

 ミチユキが呼び止めるのも聞かずに、リマリは廊下を走って行ってしまった。
 取り残されたミチユキはリマリに言われた通りに元の部屋へと戻る。
 部屋に入ってすぐ目に入るは、ツルハシ。

 ≪生命装≫という大層な種類の武器。
 名前の割には、そんなに厳重に扱われていないようで。

 ここに置いておいてくれているとは思っていなかったから、手間が省けた。
 もし義勇軍が管理するといって取り上げられていたら、盗みを働かなければと考えていた。最悪のケースは免れた。

 戻ってきたのは、この部屋で大人しくしているためじゃない。リマリの指示を聞くつもりはない。

 戦いに参加する。骸を倒すために、このツルハシが必要だったから戻ってきただけの事だ。それだけのためにここに来た。それ以外の用事などない。

「俺は……変わってやる。クソったれから真っ当に……!」

 その覚悟は本物のつもり。
 ≪生命装≫が勇気を与えてくれている気がする。戦いに行こうと、背中を押してくれている気がする。
 ミチユキは迷うことをしなかった。
 部屋を出て廊下を突っ走り、出口を探し当てて施設から飛び出した。
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