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生命装兵器つるはし・セイクレイン 作者:dog
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4/9

行動

「……失礼します」

 丁寧なノックの後、扉をゆっくりと開けて顔を出す。黒髪に日本人らしい可愛らしい顔つきの少女。

「あー……えっと、ビリヴさんでしたっけ。何か用でも?」

「いえ、特には。容体を確認しに来ただけです。あと、暇つぶしにでもと思って。転移してすぐはこの世界のことを知りたいでしょうし」

 ビリヴが持ってきたのは、レザ・ドゥースの歴史書数冊。そんなに分厚くはないライトな本だ。わかりやすさ重視の本なのだろう。

「言語は……読めるはずです。日本語じゃない、見たことない字だと思いますが……読めるはずです」

 ビリヴはミチユキに本を渡して、そそくさと部屋を出て行ってしまった。
 愛想の欠片もない態度。素っ気ないにもほどがあった。

「……まぁ、暇だし」

 ビリヴの持ってきてくれた本は数冊。薄めの本だからそんなに読むのに時間はかからないだろう。気楽に読むことにした。
 普段からそんなに読書に勤しむ方でもないので、気遣いではないだろうがありがたい。

 レザ・ドゥース世界について 要約。
 骸という未知の物体によって全ての国が滅ぼされているため、現在国家と呼べるものは存在しない。
 強いて言うならアルカーナ帝国。(元がつくような状態であるため、強いて言うならと付け加える) 
 今ミチユキがいる地域がアルカーナ帝国領だった場所。今も帝国人は主張している。
 アルカーナ帝国残存勢力は国の再興のために日々尽力している。国民だった者たちも生活を取り戻そうと頑張っている。
 そんな時にまた(クラニオ)が襲来してきた。レザ・ドゥースの歴史において、人類が発展するのを阻止するかのように出現する。
 アルカーナ帝国残存勢力は骸に対抗するべく前回の骸との戦争で使用された武器、生命装を使って戦いを挑んでいる。生命装使いは日々、骸との戦いに明け暮れているらしい。

「……だるい」

 ビリヴの言う通り、見たこともない文字だったがすらすらと読めた。なにもつまづくこともなくすらすらと。
 しかし、活字に触れるのは久しぶり。うっすい本でも熟読するとクタクタになってしまった。脳の整理に時間がかかりそうだとわかる。そもそも異世界の歴史書というものなど読んだことなどない。記憶をリセットして世界史を一からやり直している感じだ。

 骸という謎の物体が存在し、人類を襲う。それを迎撃するための超兵器、≪生命装≫。使うのは人間で、選ばれた人間のみ。
 そして、ミチユキは生命装に選ばれた。光栄かどうかはさておいて。

「……まぁ、いっか」

 レザ・ドゥースという世界への転移。あれだけ幸運だとリマリに言われたがミチユキの考えは変わらず不幸。転移するならもっと幸せになれるような世界が良かった。何なら天国直行でも構わなかった。

 しかし転移してしまったのは仕方なし。割り切るしかない。あまりに非日常で、きっとこれからもミチユキの常識をはるかに超えた出来事が起こり続けるだろうが、精神的にずっと抵抗していても疲れるだけ。楽に考えるには割り切ること。

「この世界で……俺にやれること、あるかもしれないし」

 ミチユキは本をベッドの近くにあるイスに置いて、また布団をかぶって横になる。
 今までの人生で一番、という言い方は正しいのかわからない。 (転移したと言っても、一度死んでいるわけだから、今までの人生はリセットされるのか?) 
 ……今までの経験で一番、絶好のチャンス。まさしく千載一遇。この機会を逃してしまえば後悔するかもしれないという、確信がある。

 自分という存在を変えられる。それがこの世界に来て、ミチユキが希望を持ったこと。

 なんの趣味も才能も、本当に何もない。持たざる者であったミチユキは、誰かに必要とされることを願っていた。ずっと、小さい頃からずっと。惨めに人に縋っていた。言い方はよくないかもしれないが、かまってちゃんというやつだった。

 だが、これからは違う。そんな惨めなシロクサ・ミチユキはもう捨てる。あんなのはまさに歴史の闇。人間じゃなかった。

 ミチユキは思考する。
 ≪生命装≫に選ばれたのだから、戦うのはここでは当然。生命装使いは必要不可欠で、誰からも認められるであろう。英雄といっても差し支えないのでは?

 運がいい。
 色々考えてみて、そしてその答えに辿りついた。ミチユキは間違っていて、リマリこそが正しかった。
 ミチユキにとっては最高の世界に転移できた。自分が必要とされる世界。転移しただけでも幸運。そして必要とされる条件である生命装すらも、使う事ができた。幸運。
 不運が連鎖するように、幸運も連鎖する。
 今、ミチユキは幸運の絶頂にいる。そのせいか思考回路もお花畑気味だ。

 幸せ。未来への希望があるという幸せを噛みしめている間に、ミチユキはまた眠ってしまう。幸せなまま、気分よく。

 そしてそのまま翌朝。熟睡していた。ミチユキ的前代未聞の恐怖に陥っていたというのに。疲れのほうが勝っていた。
 ミチユキは起きて時間を確認する。すでに7時を回っていたが、もう焦らなくても学校などない。二度寝してやろうという悪へのいざないが、ミチユキを責めてくる。
 しかし、規則正しく生活することを旨としているため、二度寝の誘惑を断ち切り起きる。

 近くのテーブルにたたんで置いてあった制服を義務感で着用して、靴もしっかりと履いた。部屋の外に出るのに寝間着では恥ずかしいと思ったからだ。

 やること、というよりも聞くべきこと、頼みたいことがある。だからミチユキは部屋をでた。
 でて廊下。まさに右も左もわからない。どっちにいけば、リマリやビリヴ等の知り合いに出会えるのかもわからない。
 しかしジッと突っ立っているのも時間の無駄と判断し、探してみることにした。この前線基地とされている施設見学も兼ねて。

 廊下を行きかう人は意外に多く、そのほとんどは軍服のようなものを男女区別なく着用していた。ミチユキは昨日と同じ、死んでからずっと着続けている学校指定の制服。
 あまりにも色合いというか、服の雰囲気が違い過ぎる。
 注目を集めるのはもう諦めた。そのくらいはもう気にするほどでもないこと。

 とにかく今は、リマリもしくはビリヴを探して、言いたいことを言う。それだけ。

「奇妙な恰好で、見ない顔だね……フゥー……。そこのお兄さんよ」

 女性の声。リマリともビリヴとも違う、ダウナーな感じの気だるげな声。
 ミチユキはそっと声のする方向、後ろを振り向く。
 黒髪だが、すこし白髪が混じったボサボサの長い髪。美人なのだが、どうにも清潔感
清涼感というか、そういうもののない人だった。

「……はじめまして。シロクサ・ミチユキです。昨日、異世界から転移してきたばかりなので、ちょっとじっとしてられなくて」

「異世界人てのはみんなそうなのかな? ビリヴはもっと酷かったけど……フゥー」

 気だるげな雰囲気の、どこか淫靡な雰囲気。初対面の、しかも女性にこんな印象を持つのは失礼だろうが、ミチユキにはそう見えてしまったのだ。

「ビリヴは酷かったって……どういうことですか? それじゃビリヴも俺と同じ異世界人ってことですか?」

「まくしたてるなよミチユキ君。喋りかけたのは私だけど……あんまり人と話すのは好きじゃないんだ、やることあるし。これ以上は……ふぅー、また誰かに聞くと言い。」

 そう言って女性はミチユキから去ろうと、来た方向を戻っていく。廊下の先にはどこもかしこも扉だけ。

「ちょっと……!」

「あー……エスダと呼んで。本名のエスダンブルグ・ロードウゴグは長たらしい。下に降りる階段だったら……ふぅー……この廊下をずっと進めばある。私の行く方向は逆だから」

 エスダはそれだけ言って、ミチユキの元から去る。心底人とのコミュニケーションを嫌がっている人の態度だったため、ミチユキも掘り下げて会話をするつもりがなくなった。
 今のはただの興味本位の挨拶。それだけなのだろう。
 エスダの言う通り廊下を歩いて、下へと降りられる階段を発見し降りていく。
 この建物は二階だと、窓を覗いてみたから知っている。

 まだ見ぬ一階。階段を降り切ってすぐに、リマリの声が聞こえてきた。見知らぬ男性の声と一緒、喋っているのは明白。
 ミチユキはゆっくりと近寄って、話を盗み聞きしようとしたが、障害物がないので断念。
 結局、二人の会話が終わるまで待つことにした。
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