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生命装兵器つるはし・セイクレイン 作者:dog
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3/9

状況

 ミチユキは普通の高校生をやっていた、本当に何の才もなく、特にイジメられたりもイジメてもいない。そもそもカースト制度があるような学校に通ってすらいない。
 髪も天然パーマで、アフロに片足突っ込んでるような髪型。オシャレさの欠片もない。
 イケてない、モテない、勉強だけはまぁまぁという、そこらにいる普通の学生だった。

 凡人も凡人。何もないけど、いるだけの人間。ミチユキの自己評価はそんなもんだ。

「あー……異世界人って俺のこと? アンタが俺を異世界人って呼ぶってことは、そういうことでいいの? そう理解していい?」

 ミチユキは自身の身なりを確認する。いつの間にか着替えさせられていて、ぶかぶかのパジャマのようなものを着せられている。着ていた制服は近くのテーブルにたたまれていた。

「だから、あなたの住んでる世界とは異なる世界へようこそって、そう言ったでしょ。あなたはこのレザ・ドゥースに転移してきた人間。正真正銘間違いなく」

「レザ・ドゥース……、異世界って」

 荒唐無稽な話に、ミチユキは一時的に言葉を失う。
 ファンタジー小説に疎いミチユキだが、人並みに読書はするためそれなりには知っている。古来からのファンタジーの伝統的なイベント。まさしくファンタジー。

「なんで……俺死んだはずなのに、生きてんのか? これがマジじゃないとしたら夢?」

 周りを見回しても、異世界的なそんな感覚はない。日本の病室と同じような部屋だから、入院させられているだけなのかもと思えてしまう。
 しかし、決定的に違うのが窓からの景色。

 石畳の道路に、いくつものテントのようなもの。いくつかある建物はまるで兵隊の使う基地のような雰囲気。妙に古めかしい。
 さらに遠くには……何もない。土くれしか見えない。
 少なくともここが日本でないと確信してしまうような風景。

「異世界の人間は死んで、運が良ければレザ・ドゥース世界に転移する。魂と肉体が再構築されて、この世界に現れる。決して夢とか幻とかじゃない。そもそも死んでんなら夢とか幻もないでしょ」

 すでに生物的恐怖なことを体感している。あのリアリティは夢や幻で再現できるものではない。間違いなく素面。生きていることを実感していた、そして今もしまっている。

「運が良ければって……ここに来て幸先は悪かったけどな」

 大きな骸骨の怪物に襲われる。今までの人生ではありえない経験だった。あれ以上の不幸は滅多に経験できないだろうと思った。

「……案外、レザ・ドゥース世界に転移してくる人って多くてね。この世界に転移した瞬間にあのデカい骸骨……(クラニオ)に襲われて死んじゃうってことが多いの。むしろミチユキ君は幸先良好な分類」

「……あれで幸先が良いだと? 冗談を言ってんじゃないか? あのツルハシがなかったら俺は訳も分からず二度目の死を迎えてたんだぞ」

「だから運が良いって言ってるの、話はまだ最後じゃない。あのツルハシは≪生命装≫っていう、骸を効率よく倒せる唯一の武器なんだから」

 生命装。リマリは、壁に立てかけて置いてあるツルハシを指さしてそう呼んだ。ミチユキには、やたら派手なツルハシにしかみえない品物。≪生命装≫などと特別感溢れる呼び名があるとは思っていなかった。

「あの骸骨の化け物、骸は通常の武器じゃ倒すのに大量の武器がいる、そんでもって苦戦は必至。だけどその≪生命装≫っていうのを使えば、楽勝とまではいかなくても善戦できるようになる。ただのツルハシだったら、今頃食べられてたでしょうね」

「食べられてた……骸骨の化け物が人を喰うだって? どっからどうみても、骨しかなかったぞ。生物として何もかもがおかしいのに、人は喰うのか?」

 ミチユキの問いに、リマリはどう答えたものか、と少し悩む。
 どう答えても、きっとミチユキはすっきりとはしないだろうと諦めて、返答する。

「現在、レザ・ドゥースに生きる人類は骸を生命体として認めていないの。奴らは突風とか落雷とかそういう、意思無き存在ってやつ。現象で人が死んでるだけってことになってる。事件ではなく、事故」

 リマリの思った通り、ミチユキは何もすっきりしていない。疑問の回答になっていない。
 しかしミチユキもそれ以上の言及はやめておいた。リマリも答えにくそうにしているのを見て、あまり踏み込んでも結果は今と大して変わらないと踏んだのだ。

「レザ・ドゥースの人類……異世界に転移たってこんな不幸を幸福にすり替えなくちゃやってられないような世界に転移するなんてなぁ……」

 レザ・ドゥースという異世界に転移したこと。骸と呼ばれる亡骸の怪物。偶然拾って大活躍した≪生命装≫と呼ばれるツルハシ。

 情報が一気に来て、ミチユキは少し眼を閉じて考える。
 すでに異世界に来たという事は実感している。というか、体感している。
 この部屋にかすかに漂う、火薬のような香り。リマリの軍服のような姿。そんでもって日本人離れした髪色、空色のツーサイドアップの髪型。染めているような不自然な感じがない。おそらく地毛。地毛が空色の人間など、元の世界にいるとは聞き覚えがない。

 想像していたファンタジーな異世界とは毛色が違うようだが、確かに異世界。
 その異世界で、ミチユキは成り行きというのもおかしい気がするが、幸か不幸か骸を≪生命装≫で粉砕してしまった。生きているという点では間違いなく幸であるが。
 その粉砕した時の感覚が、胸の中から全身に溢れてくる。
 生きているという、ただそれだけで快感。刺激。転移する前では決して味わうことの出来なかった高揚感。
 辛くつまらない、ただひとつの生きがいすらもない人生を歩んできたミチユキにとって、この転移は……。

「リマリさん……だっけ? 君は見たところ軍人?」

 深い緑色の、堅苦しい印象を与える服。これぞ軍服といった服装。
 ミチユキには、好き好んで女性が着用するような服には見えなかった。

「ちょっと前まではね。今は義勇軍に所属してる。街を骸から守るのと、ぼちぼち治安維持やってる」

「そりゃあ、俺にもできる仕事か? 俺も何か、できることがあったならでいい。やらせてくれ」

 リマリはミチユキの言葉をあくまでも冗談として聞き流す。そう言う事が言える男の子なのだと、笑って判断する。真意など知る由もない。そこまでの仲ではない。

 ――大体、骸に襲われてそんなことを本気で言える人間なんて

「じゃあ、休息を命じます。ミチユキ君はまだまだ休んでないとだめなの。体内のプログレ・エナジーが回復しきるまで、寝てなさい」

 プログレ・エナジーってなんだよ……という疑問を道行がぶつける前に、リマリは部屋を後にした。一人になったミチユキはまた身体を横にして、布団をかぶってここに来てからのことを振り返りながら、これからを考えることにする。

 レザ・ドゥース世界には幾度も別世界から来訪者がやってくる。運が悪ければ、やってきた瞬間に二度目の死を迎える。ミチユキはその運を乗り越え生き延びた。

 そしてここに来て、リマリとビリヴという少女に出会って少し事情を聴いた。まだまだ分からないことのほうが沢山ある、しかし得た情報から推理していくのも楽しいとミチユキにしては珍しくポジティブシンキング。異世界転移でテンションが高いのかもしれない。

 どうせ部屋の外に出たとしても、迷子になって連れ戻されるか。運よく外に出ても、結局は連れ戻される。逃げる術などない。そもそも逃げるつもりも毛頭ない。
 リマリに言われた通りに、ミチユキはのんびりと気持ちの整理と物思いにふけることにした。

 時計の示す時刻は、午後の7時。外はカーテンで遮られているが、暗いのはわかる。知る内はランプ等で光は補っている。電化製品よりぼんやりとした光も悪くないと、ミチユキはなんとなく思ってしまう。
 レザ・ドゥースに来る異世界人は少なくないらしい。
 だとしたら時計やランプといった物は、今までにレザ・ドゥース世界にやってきた人々が伝えた技術なのだろうか?
 ロマンチストというか、これはレザ・ドゥースという世界を馬鹿にしているようなことかもしれない。だが、何となくそうなんじゃ、とミチユキは思ってしまった。
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