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生命装兵器つるはし・セイクレイン 作者:dog
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ガギンッ……ンンガッグガギ……ガンガンガンッ

「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」

 全力疾走なんてずっとは不可能。恐怖のあまりペース配分などできない。そもそもペースをどのように配分すれば、奴から逃げられるのかもわからない。
 ミチユキは後ろを振り向いて、骸骨の化け物の位置を把握する。一定の距離を保っていたらしいが、ミチユキのペースダウンで明らかに差が縮まっている。
 この差が縮まるのも、あの骸骨化け物に追いつかれるのも時間の問題。
 それでも、あの骸骨に捕まってはならないと本能がささやく。ミチユキの勘がそう告げてくる。
 あの骸骨からは、死のオーラしか感じられなかったから。普段はオカルトめいた話は、テレビで放送しているのを冗談半分に笑って流すが、今は違う。
 もし捕まったなら、確実に生きては返してくれないだろう。そういうことが分かった。

「冗談やってんじゃ……ない! 意味わからんまま、また死ぬみたいなこと……」

 短時間で二度の死の経験など、したくないのが当たり前。ミチユキは体力を振り絞って走る。骸骨との距離を少しでも稼ぎ、何らかの打開可能な何かを探す。
 こんな何もないところでは、身を隠すことすらも困難極める。だから何かを探すのだ。必死こいて、精一杯に。無駄と察しながらも諦め悪く。

「ゼェ……ゼェ……あっ」

 息も切れ切れ、吐く息が血の味になっているこの状況で、ミチユキは何かが落っこちているのを発見する。
 それをとにかくさっと拾い、またすぐに走る。

「……ツルハシ?」

 なんでこんなところにツルハシがあるのか、見当もつかない。
 しかしこのツルハシ、ミチユキには何か凄いオーラというか、スピリチュアルめいたものを確かに感じさせた。

「もしかして……やれっていうのか?」

 ミチユキは何故、ツルハシなんぞに話しかけたのか、傍から見れば頭でも打った人にしか見えない。
 しかしミチユキには確かにわかる。手に取ってはっきりわかった。
 このツルハシには意思のようなものがあると。
 そのツルハシの意思が、ミチユキに立ち向かえとそそのかす。ツルハシ一本持って、骸骨の巨人に挑みかかれと。

「……冗談じゃないような……マジにできることなのか……?」

 ツルハシの意思を信じる。前代未聞もいいところ。元の世界なら病院直行な思考。ミチユキだって、我ながらどうしてしまったんだと、内心狼狽えている。
 迫る骸骨の化け物。頭部をミチユキに向けて、歯をカチッカチッと鳴らしながら。

「全力を込めて、骸骨の頭を砕き割る……このツルハシはそう教えてくれたけど……駄目だ、信じるしか」

 あの骸骨に追いかけまわされて、最後はミチユキの想像通りの展開。一度味わった死の恐怖、二度は御免被りたい。ミチユキは心からそう願っている。

 ガンッザジュ……ダンッガンガンッ……ンンガガッ

 骸骨の化け物が迫ってくる。
 ミチユキは剣道を思い出し、上段の構えで迎え撃つ姿勢。
 恐いとか、逃げ出したいといかそういう感情を押し殺して、ツルハシを持つ。
 そしてすぐに、ミチユキの目前まで骸骨はやってきた。眼球どころか肉一つ着いていない骨の顔。それが笑っている。歯をカチカチと鳴らしながら、笑ってる。
 ミチユキは何となく察する、骸骨の思考。脳みそが物理的にすっからかんのくせに、この骸骨の化け物は舐め腐っている。ミチユキという人間を小馬鹿にしている。

 逃げるのをやめた、臆病者。生きる意志のない、弱者の中の弱者。

 実際、そんなことは骸骨は喋ってなどいない。そもそも喋れるかどうかも分からないが、とにかく誰も発しちゃいない。
 だけどミチユキにはそう言われているような気がしてならなかった。
 その煽りに対して、ミチユキは怒り。
 恐怖を弾き飛ばす、強い感情。
 何故にちょっとデカいだけのスカスカ骸骨に侮辱されねばならぬのか。そこのところが腹が立つ。

 カタカタッ……ケタケタッ……ケタケタケタケタッケタケタケタッ

 骸はミチユキに迫る。勢いよく。スピード速く。
 自身の射程圏まで入れる。確実な一撃が決まる最高の位置を見極めて、そこでツルハシをぶっ刺してやる。
 それがミチユキのプラン。

 余裕そうな骸。目の前に食事があり、待てという指示を解除された犬のようにがっついてくるだろう。きっと。

 余裕は油断。
 ミチユキは射程に入ったと認識したと同時にツルハシを振り上げる。

「……粉微塵にィ、なァァァれッ」

 ツルハシの先端部。金属の部分が金色に輝く。
 ミチユキは振り下ろすのに夢中で気が付かなかった。

 ガギンッ……

 ミチユキの振り下ろしたツルハシは、骸骨の眉間に直撃。人間なら即死レベルで突き刺さっている。
 突き刺した穴から、ヒビが広がっていく。薄い氷を踏んずけたように、ヒビが入って伝播していく。

「……くたばった?」

 ツルハシを振り下ろしてから、眉間にクリーンヒットさせてから、骸骨の化け物はピクリとも動かなくなった。全身にヒビが伝播しきっても、動かない。

「いい……のか?」

 ミチユキが刺さったツルハシを引っこ抜くと、骸骨の化け物はガラスが割れるように崩れていった。どこか幻想的な、儚げな崩壊。たとえそれが自分を襲った骸骨の化け物だとしても、そう感じずにはいられなかった。

「生き……延びた……ははっ……やった」

 正直、半分はギャンブル。射程圏内かどうかの判断など、勘でしかなかった。なんとなく、ここだッ……と思ったから振り上げただけ。その後は感情に任せた。

 ツルハシを持つ右手がだるい。右手だけではない。左手も、そこら中がやけに疲れた。
 不自然な疲労感にミチユキが襲われて、そのまま気絶してしまった。

 ミチユキが気絶してから数分が経過して、ミチユキ待望の人間が姿を現した。残念ながら、ミチユキが人間と会話するのは起きてから。
 やたらとアンティークな見た目の車に乗ってやってきたのは、二人の女性。ミチユキとそう年齢は変わらないくらいの。

「この男だね……光の柱から降りてきたのは」

「距離的にも間違いない。手に持ってるのは≪生命装≫であると推測する。リマリ、すぐに本部に連れ帰るべきかと」

「その通り。ビリヴ、一緒に運ぶよ。さっさと車に乗せて」

 二人はミチユキの身体を後部座席に投げ込み、三つ編み黒髪のビリヴという女性が助手席。リマリという、短いツーサイドアップな空色髪の女性が運転席に座る。

「じゃ、すっ飛ばしていくか」

 土煙を巻き上げて、タイヤが高速回転。古臭い見た目の車は、まるでレーシングカーのように走っていった。


 シロクサ・ミチユキ。
 その名を彼の所持品である財布から調べたのは、ビリヴだった。
 場所は先ほどの場所から離れた場所にある、防衛施設とされている場所。その一角にあるリマリ達専用の宿舎。
 ミチユキはベッドに寝かされている。寝ている間にリマリとビリヴには確認することが山ほどあったのだ。決して泥棒などではない、と心に誓いながら。
 二人はミチユキの持ち物を調べた後、ミチユキのベッドの近くにあるテーブルに置いておいた。

 時刻は6時半。すでに日は落ちきった。

「う……ん」

 ミチユキの目覚め。夢を見ることもできないほどにぐったりと眠っていたミチユキは、身体を起こして周囲を確認し始める。
 二人にとっては予想よりも速い目覚めだった。もう少しぐっすりと、もう5時間ほどは眠るものだとばかり思っていた。

「……アンタらは? ここはどこ?」

 至極まともな発言。その発言こそが、ミチユキという人間の思考回路が正常であるという証拠。ほんのりと安心する一手。
 ミチユキの疑問に答えたのは、リマリだ。

「私はリマリ・ストログル。こっちの娘はビリヴ・フェザン。ここは私達が使ってる宿舎の一室。疲れが取れるまで、ゆっくりとしてくれて構わないから」

「……疲れって、そんなことより俺は……」

 ミチユキの考えは、二人の娘には簡単に理解できる。落ち着いているように取り繕っているようだが、内心ではかなり焦っているというか、テンパっている。

「ビリヴ、とりあえず起きたことをファルケナーさんに伝えに行ってくれる? 説明は私がするから」
「それなら……」
「いいから。はやく行って来て」

 リマリが急かすように言うため、ビリヴは渋々了承する。
 ビリヴが部屋を出ると、リマリは近くにあるイスを引き寄せて、ミチユキのベッドの近くに座った。

「さてと、異世界人はシロクサ・ミチユキくん。あなたの住む世界とは異なる世界、レザ・ドゥースへようこそ」
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