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生命装兵器つるはし・セイクレイン 作者:dog
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災難

 ミチユキという若造の男の人生はそれはもうないままに、面白くない結末を迎えることになった。

 駅のホームで電車をボーっと待っていて、列車が来ますのアナウンス。

 その声を聞いてからすぐ、慌てた様子で走ってくる主婦か……まぁとにかくおばさまがいた。このおばさまの大荷物、両手にはち切れんばかりの紙袋。
 それが黄色い線の内側で律儀に待っていたミチユキの後ろに立つ。携帯を紙袋があろうとおかまいなしに強引に手で持って、友達と通話。

 そしてまたすぐに現れたのは、眼鏡をかけた痩せ細いサラリーマン。この男もまた慌てていた。そんなに慌てなくても、車両自体はまだ来ていないと忠告してあげたいくらいに急いでいた。アナウンスは人を急かす、気持ちはわからないでもない。

 ――役者はそろった。

 まず痩せたサラリーマンがふらついてしまう。ゴミか何かを踏んずけたのだろう。前のめりに、おっとっと。悪気ナシ。

 そして次におばさま。サラリーマンがふらついて、おばさまを不意に押してしまった。サラリーマンも姿勢を安定させるために、転びかける中必死の考えで、おばさまに体重を支えてもらおうとでも思ったのだろう。

 おばさまにとって完全に不意打ち。おばさまは無理やり持っていた携帯を落としてしまい、さらにミチユキの身体までよろめいてしまう。
 おばさまの身体は、それはそれはふくよかでいらして、さらにパンパンに膨らんだ紙袋の重量が追加されていると。
 そんなおばさまの、もうタックルと言っても差し支えないほどのぶつかりっぷり。悪気ナシ。

 黄色い線の内側で待っていた、ボケっとしながら待っていたミチユキは、間もなく電車が参ります、のアナウンスを聴いていた。
 そんな身体のどこにも力を入れていない状態のミチユキは、サラリーマンとおばさまの不意のコンビプレーによって線路に落っこちることになった。

 ミチユキは線路に落っこちて、状況を確認しようとするも、テンパっていた。横を見れば電車。鉄道オタクならこのアングルはかなり素晴らしいんじゃないかと思うほどに、近い。
 運転手の顔がみえる。驚いている。当たり前だろう。人が線路にいるんだから。
 頑張って停車してくれようとしているのも、表情でよくわかる。助けようとしている強い意思。素晴らしき。
 そう思ったのは一瞬で、迫ってくる鉄の塊に全てを持っていかれた。圧倒的な恐怖だけを残して。

 ミチユキの人生のラスト。電車にひき肉にされて終わり。

 痛みは無かった。そういうふうに思っているほど、暇な時間はない。一瞬だから。
 消えていく意識とかそんな分類の死ではなく、本当に一瞬で意識は消し飛んだ。

 死。死。死。
 辛く悲しい、恐れの多い世の中で生きてきたミチユキにとって、死ぬ瞬間が一番の恐怖だった。
 今まさに死の手前にいたからこそ、そう感じる。あれ以上の恐怖はないなと思える。

「アレ? うぅ……?」

 思考ができた。途切れて、もう永遠に戻らないであろう考える力が、確かにわかる。ある。確信をもって、ないなんてありえない。
 身体も、寝そべっている。湿った土の上に、身体がある。ひき肉に加工されたはずの身体が確かにある。五体すべて揃っている。手足にしっかりと感覚がある。
 動かせる。
 なんなら服だって着ている。真っ白い高校指定の制服夏バージョン。

「死……あ?」

 ミチユキは天国とか地獄とか信じてはいなかった。死んだらなにもなくなる。それだけだと思っていたから。
 自分そのものがある。それが不思議でならない。見知らぬ場所で、寝そべっている。
 ミチユキは起き上がって、周囲を見る。
 上は夕暮れの空。地面は一面、土くれの大地。所々に木の亡骸。炎があちこちで燃えている。どうにも天国ではなさそう。お花畑のイメージには真逆。もしお花畑があったとしたなら、それが全て焼き払われた後のような風景だ。

「どうなって……意味不明もここまでくると気分いいな……」

 周囲を見回しても、人はいないようだった。いるとも思っていなかったが。
 まずここがどこなのかの把握が先決。どこかしらに何かあるはずとミチユキは考えるようにする。

「どうせ、なるようにしかならないんだから……ったく」

 着なれた制服姿ということが、ミチユキには何気ない心の支えになっている。慣れた服装で動きやすいことは、この場において重要だ。
 ミチユキはそんなふうにポジティブに考えて己を鼓舞する。この奇妙な状況では些細なことでネガティブに陥りそうだからだ。

 カサカサ……カサカサ……

 やたらと不快な音がそこら中から聞こえてくる。何もないこの場所でそんな音がする。
 この不快さマックスな音は、キッチンに潜む黒光りの彼らとかの専売特許な音。ここで聞こえてくるのは不自然。
 不気味になって、怖いなぁと思いつつもミチユキは周りを見回す。先ほどと何も違わない、剥き出しの大地。緑が枯れ果てた、ある意味で自然なままの大地。
 そんな場所で音がする。ミチユキの他に誰もいないはずなのに、なぜか音が聞こえてくる。四方には何もない。人どころか虫もいない。
 そしてミチユキは見落としに気が付く。四方は見た。前、後ろ、右、左。

 ケタケタッ……ンケタッ……

 気味の悪いホラー映画の、人形が喋り出すシーンとかでよく聞くそんな音。先ほどの音とは別方向で気味の悪さがある。
 ミチユキが見落としていたのは……上。上空、空。茜色の空。見落としていたというか、見上げていなかった。
 見上げていればすぐだったのに、ミチユキは全く持って気が付くことはなく、ただただ降ってくる恐怖に身をすくませるほかなかった。

 ガッシャーン……ケタッカタッ……

 落ちてきたのは大きな骸骨。大きさが人間のそれではない。まさしく巨人の骨、軽く3メートルはある骸骨。
 ミチユキがこんな時に思い出すことは、恐怖の中で思いだしたのは、小さい頃に絵本で見た妖怪のひとつ。
 がしゃどくろ。
 イメージぴったり。まさしくそれだ。大きな骸骨の化け物。そんな風に思っていたのは数秒。そして瞬く間に単純な恐怖がミチユキを支配する。

「よせ……マジかよ夢だろ畜生!」

 剥き出しの頭蓋骨が笑うなんて初めて見る。(頭蓋骨に表情筋などありはしないから、ミチユキがそう思っているにすぎないが)普通の高校生やってるなら当たり前に怖い
 ホラーとかオカルトな方面は好きではあるが、いざ目の前でやられるのは怖さしかない。

 ――ああいうのは創作物だからこそ。
 そういう類の意見には全面的に賛同できる今。まさに体感して共感できる。全力を持って、そういう類の作品の登場人物には同情できる。

 体育の授業でも滅多にしない、全力疾走。あの化け物から逃げるなら、ミチユキは何だってこなすだろう。走るなという命令以外、何だって聴いてやれる自信はある。死にたくない。死ぬよかマシなことのほうが大半。

 ガンッ……ガキッガンッ……ンガギギッ……ガンッ

 手足をムカデのように使って、地面を這うように動く骸骨の巨人。そのスピードはお世辞にも早いとはいいがたい。ミチユキをようやく追跡できているくらいだ。
 しかし、追跡はできている。追うことができている。追われている。
 ミチユキにとって芳しくないこの状況。あの骸骨にも体力的な、スタミナがあるとしたら持久力勝負になる。
 あの骸骨のスタミナが無限大で、ターゲットに追いつくまで止まらないとしたら。道行はすでにチェックメイト。スタミナ勝負で時間稼ぎしかできない。
 隠れようにも隠れる場所などどこにもなく、走るほか選択肢はない。
 嫌なことばかりを考えてしまう。先ほどのポジティブさは、骸骨に踏み潰されてしまった。もうどうしても、最悪を想定してしまう。考えて、想像してしまう。

 この骸骨の化け物の意図はさっぱり不明だが、逃げるという選択をした。
 殺されてしまうと、本能がミチユキを動かした。
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