第七十六話 王者能力
緋色を含む物を上位に置く王者能力、『緋閻王』を前にして、ゼロは戦意を消さずに挑む。
今のゼロは挑戦者だ。
「王者能力を破れるか、試してやる!! ”炎嵐爆刃”!!」
次は複合魔法で試みて見るが…………
「ヌルイわ!!」
”緋王剣”での一降りで掻き消されてしまったのだ。
当たったら爆発と周りに風の刃が吹き荒れるはずだったが、圧倒的な力で文字通りに掻き消されてしまっていた。
(くっ、魔法の効果が発動しないほどか……)
『……通常スキルでは相手にならない……』
ゼロが持っている『魔導者』はまだ光、雷魔法がないから、通常スキルの力しか出せない。
全部揃っていて、希少スキルになっていれば、今みたいに簡単に消されることはないはず。
魔法が駄目なら、次は特殊固有スキル『魂吸者』で相対する。
「”魔力喰い(ハウルドレイン)”!!」
”緋王剣”は周りにあった物質で造られているが、『緋閻王』の魔力で構成されているから”魔力喰い(ハウルドレイン)”で吸い取れると読んだ。
エキドナはゼロがこれから何をしてくるのかわかったようで、薄く笑いながら”緋王剣”を差し出すように動かしてなかった。
余裕なのか、ゼロの手が剣に届くまでは何もしてこなかった。
普通なら舐められていると激昂するが、ゼロはそんなことは気にしない。
勝てるならそんな油断はありがたいぐらいなのだからだ。
そう思うのは、実力では確実にエキドナの方が上だとゼロが認めていたからでもあるのだ。
”緋王剣”に手が触れ、”魔力喰い(ハウルドレイン)”が発動…………………………しなかった。
「何だと……」
「王者能力を破れるのは、王者能力だけだ」
「ちっ!!」
技が発動しないとわかり、すぐに離れようとしたが、腹に蹴りが入っていた。
痛みはないが、壁まで吹き飛ばされていた。
(厄介な……、やはり緋色がない所を狙うしかないか……?)
『……頑張って……』
(ああ)
ゼロは王者能力を破る方針で技を繰り出したが、歯が立たないとわかったので、もう一つの方針に切り替えた。
緋色がない箇所、つまり顔、首辺りを狙って攻撃すればいいと考える。
「ははっ、ようやく理解してくれたか? 王者能力は王者能力にしか破れないと…………」
シュッと吸血鬼特有の翼を一度羽ばたいただけでゼロの剣が折れた。
エキドナは剣を狙ったわけではなく、ゼロがとっさに剣で防御をしたから折れてしまったのだ。
早過ぎて避けるか受け流すことも出来ずに剣で受けるしかなかったのだ。
(まだスピードが上がんのか!?)
『っ! 後ろ!!』
レイが珍しく叫ぶような声を出していた。
まだ目の前にエキドナがいるのだが、レイの先読みによって危険を感じてゼロもレイの言う通りに後ろに下がらず、前に飛び出す。
シュパッ!
いつの間にか、エキドナは前から後ろに回り込み、剣を横薙ぎしていた。
「あれ、よく反応したね?」
エキドナは反応してくるとは思わなかったようで、少し驚いていた。
レイの計算による先読み、危機察知がなかったら身体が半分にされていただろう。
半分にされただけなら、死なないが、回復する時間が致命的になる可能性があるから重傷を負うわけにはいかないのだ。
一瞬でも隙を見せたらエキドナは見逃さないだろう。
また火花が散り、ゼロは折れた剣をすぐに修復し、受け流したり、また剣が折れたら修復する。
その繰り返しで、防戦一方だった。
レイのおかげで致命的になることはないが、エキドナの動きが早過ぎて、反撃が難しい状況だった。
だが、ゼロはそのままで終わるつもりはなく、
「”爆炎”!」
剣で押されていて、レイは一杯一杯だが、ゼロはなんとか魔法を使う思考は出来ていた。
そのままエキドナに発動しても、さっきみたいに防がれるだけだから、足元に発動したのだ。
「むっ?」
足元に爆発を起こしたため、ゼロも少々はダメージを受けたが、砂煙を起こしてエキドナから距離を取ることが出来た。
そのまま、隠れる……………………ことはせずに、エキドナに突っ込んだ。
「姿を隠すつも………うぉっ!?」
「逃げも隠れはしないさ!!」
ゼロがすぐに飛び出してくるとは思わなかったため、エキドナは驚いた顔をしつつ、剣を受け止めていた。
「はぁっ!!」
力押し…………ではなく、剣の形を変えてエキドナの首に向かって刃先が煌めく。
隙をついた瞬間に、形を変えたため、エキドナは反応が遅れて、首に刺さったのだが…………
「何故止まる……」
ゼロはわけがわからなかった。
間違いなく、エキドナの首に刺さったのだが、たった首の皮一枚だけで刃先がそこで止まってしまったのだ。
「危なっ! まさか我に傷をつけるとは思わな」
すぐにエキドナがゼロから離れる。
これだけで傷が出来たとエキドナと言うが、ゼロはそれを傷と言うには納得出来なかった。
「おいおい、緋色がないと駄目じゃなかったのかよ?」
「忘れておるのか? 血だ、血も緋色だろうが」
「……血までも『緋閻王』の効果が発現されるのか?」
「ふふっ、貴方なら気付いていると思っていたのだが、知らなかったのか?」
「ふざけんな、始めから王者能力を持たない俺が勝てる確率はないと言っているのと変わらないじゃないか!!」
血、それも緋色の部類に入るなら、エキドナに傷をつけるのは不可能。いや、皮一枚なら通るが、致命傷から、かな〜〜〜り遠い。
不死身に近いエキドナに勝つには、エキドナと同じ王者能力を発現する必要があるのだ。
だが、今のゼロには王者能力はない。
(こういうのを絶体絶命と言うんだな……)
『……一つ、思い付いた……』
(あるのか? あれを倒せる策が?)
『……うん、成功するかわからないけど……』
レイから策を聞き、実行することにした。
王者能力『緋閻王』を一概にしか知らないのでは、成功するかわからないが、何もしないよりはマシだろうと考え、剣を構える。
「むっ、まだやるの? 貴方に勝ち目がないとわかったんじゃないの?」
「あいにく、俺は諦め悪いからな」
また浮いているエキドナに近付いて、剣を振り回すゼロ。
今度は避ける気はないのか、立ち尽くすエキドナ。
気が済むまでやらせてやるか? と考えてみるが、剣に何かが付いていることに気付いた。
「……血?」
そう、赤い液体が剣に付いていたから、血だとわかったのだが、何故血を付けるのか?
「緋色が上位に入るだろ。 なら、俺の血はどうだ? 俺の血も緋色だからこの攻撃も上位に入るんじゃないか?」
「っ!?」
余裕だったエキドナの顔に、慌てるような表情が混じってきた。
レイが提案したことで、同じ緋色なら攻撃が通るではないか、と考えたのだ。
好きにやらせると考えていたため、大きな隙が出来たままでエキドナは血が付いた剣を喉に受けてしまった…………
「くくっ、残念だったな」
「これでも駄目なのか……」
また皮一枚で止まっていた。
慌てていた表情はわざとであり、血が付いた刃先は喉に当たっているのだが、通ってなかった。
では、何故ゼロの血は緋色なのに上位になっていなかったのかは…………
「我が初めに言ったと思うが? 『緋色を統べる』と。我が選別しているのだから、敵が使う緋色を上位にしないのも我の思い通りなのだ」
つまり、全ての緋色が上位というわけではなく、エキドナ自身が、指定した緋色だけが上位になるということだ。
だから、ゼロの血を使っても攻撃は通らなかったのだ…………
「くくっ、隙だらけだ!!」
「速い!?」
剣速が今までの比ではなく、レイの先読み、危機察知があっても反応が遅れてしまい、左胸から右の脇腹までかけて切り裂かれてしまった。
これは間違いなく、致命傷だった。
しかも、切り裂いた時、剣の緋色部分が付着され、ゼロの回復を邪魔していた。
これでは回復出来ず、魔素を垂れ流し続けてしまう。
そうなるとゼロに魔素が無くなって消えてしまう。
ゆっくりと浮いていたエキドナの場所から落ちてゆくゼロ。
(…………)
ゼロは何も考えてなかった。
まるで、死を受け入れているような雰囲気だった。
だが、それは違っていた。ただ、あることを待っていただけなのだ。
それは…………
『……解析、統合完了した……』
まだ落ちているゼロの頭にレイの言葉が響く。
「もう終わりなのか? 楽しかったんだが、物足りないな……」
落ちていくゼロを見なくても、結果はわかっているから意識は外に向いていた。
まだゼロの配下達と1000人の部下が相手している敵がいるのだから……………………
ズキッ……
「は?」
急に痛みを感じ、感じた箇所を見ると…………
「な、なんで、右手がない!?」
そう、右手の肘から先が消えていたのだ。
誰がやったのか気付かなかったエキドナだが、ここにいるのはエキドナとあと一人だけ。
ならば、攻撃したと思える者がいる場所に振り向いて見ると…………
「貴方が……?」
見た先には、無傷のゼロが立っていた。
ゼロには、久しぶりの世界の声が聞こえていた。
《希少スキル『知識者』が王者能力『零式王〈レイディウス〉』に進化致しました》