第六十三話 悲霊女(バンシー)
はい、どうぞ。
声を掛けられたゼロは予定通りに鑑定を使い、調べてみたら…………
(種族が悲霊女…………、俺と同じ霊系の魔人か)
『……幻覚のスキル、あった……』
(なら、砂漠の幻覚はあの女性で間違いないな)
目の前の女性が砂漠に幻覚を掛けていたのはわかった。
だが、何故、俺のことを魔物に転生した者だとわかったんだ?
「警戒を解いて頂けますか? 私は話をしたいだけで、貴方達を害するつもりはありませんわ」
「…………いいだろう」
ゼロは聞きたいことがあるから、警戒を解いて女性の前に座る。
その様子を見た配下達もゼロの隣に座る。
だが、警戒は解かずにいつでもゼロを守れるようにしている。
「俺は警戒を解くが、念のためにこいつらは警戒させてもらおう。構わないな?」
「構いません。私は貴方達と戦うつもりはありません。では、何処から話をしましょうか?」
「まず、俺が質問をするから答えてもらおう。何故、俺のことを魔物に転生した者だとわかった?」
「わかりませんか? お互いが惹かれ合っていることに……」
惹かれているだと? どういうことだとレイと一緒に思考していたら、一つだけの可能性を思い付いたのだ。
「まさか、お前も魔物に転生した者か? そして、転生した者が惹かれ合ったと言いたいのか?」
「あら、すぐに正解するとは思いませんでしたわ。そうです、私も元日本人で悲霊女に転生しました」
「そうか……、次の質問だ。何故、転生者は惹かれ合うのかわかるのか?」
次の質問には、首を横に振っていた。
つまり、目の前の女性にもわからないようだ。
「まぁいい、次だ。お前はここで隠れるのは何故だ?」
「…………追い出されたからです。魔物にも、人間にも…………」
悲しそうな顔をする女性。
追い出されただと?
詳しく聞いてみたら、目の前の女性は悲霊女には、ありえないはずの、『病弱』を持って生まれていた。
理由は断言出来ないけど、前世の時も病弱で生まれ、病弱のせいで死んだからだと睨んでいるそうだ。
そんな『病弱』を持って生まれた女性は、同じ悲霊女達には弱くて足手まといと村から追い出され、人間からは姿が人間に見えても、透けているだけで魔物と見破られてしまう。
『病弱』のスキルを持ちながらも、受け入れてくれる村、町を探し回ったが、悲霊女を受け入れてくれる所はなかったのだ。
『病弱』というスキルは、自分自身の体力、力、スタミナなどが十分の一まで落ちてしまう。
短い時間なら戦えないことはないが、そんなデメリットのようなスキルを持って悲霊女と言う魔物として生まれたせいで、一人ぼっちなのだ。
今はもう受け入れてくれる場所を探すのは諦めていた。
自分の希少スキル『自然幻想』でここを作り出して、30年も隠れ続けていたのだった…………
「一人だと? あの妖精は?」
「キリナのことですね。あれも私の『自然幻想』で造ったエア友ですよ……」
「え、エア友?」
「ええ、さすがにここで一人ぼっちなのは淋しいので造ってみたのですが…………、虚しいだけでした…………」
自分で言ってだが、心に傷が付いたようで、ドーンと暗くなり、落ち込む女性。
まさに、悲霊女にピッタリな姿だった。
(まさか、エア友を作る人が実際にいるとはな……)
『……面白い人……』
なんか、可哀相だと思い、話を変えた。
「なるほどな。では、俺達に会おうと思ったのは何故だ?」
「……………………はっ!? す、すいません。ええと、珍しい客だなぁと思いましたので……」
「珍しい客?」
「はい。様々な種族の仲間がいますし、しかも人間もいたから話をしてみたくて……」
キリナを通して様子を見ることが出来るらしい。
そして、女性も『鑑定』を持っているので、種族だけはわかったようだ。実力はゼロ達の方が上だったため、わかったのは名前と種族だけだったが…………
「なるほど。俺の目的は魔王か魔王の部下を捜して、あることを知りたいんだが、お前は誰かの下についてないみたいだな」
「そうでしたか。私では知りえないことでしょうか? これでも60年以上は生きていますのですが、聞かせてもらっても?」
「ふむ……」
ここで魔王に関することを聞いてもおそらくはわからないと答えるだろう。
何せ、30年以上もここに引きこもっていたのだから…………
「そうか、知りたいことを聞く前に、一つ、いいか?」
ゼロとレイは目の前の女性は面白いと感じている。
しかも、自分と同じ転生者であり、あの幻覚も素晴らしいと思っているのだから…………
「俺の配下にならないか?」
「……………………えっ?」
ゼロが悲霊女を配下にならないか、勧誘をすると…………、驚いたような顔を見せたのだった。
「え、えっ?」
女性はまだ理解が追い付かないようで、キョドっていた。
「わ、私は戦闘では役に立たないのよ? 『病弱』のせいで体力がないし…………、なんで……?」
「あ? 俺が気に入ったから配下にしたい。それじゃ、不満か?」
「き、気に入ったって!? わ、私なんかが……」
悲霊女は顔を赤くして俯いている。
ゼロはそこで赤くなって俯く理由がわからず、横で待機していた配下達を見ると…………
「………………」
「……はぁ……」
「…………?」
フォネスは少し不機嫌になり、マリアは呆れを含むため息を吐き、シルはよくわかってなかった。
(何故、その反応を見せるんだ?)
『……わかんないのかなぁ……?』
(レイまで!?)
『……この言葉が……ピッタリだよね……、…………鈍感……』
(また!?)
またレイに鈍感に言われてしまうゼロ。
軽くショックを受けていたゼロに声が掛けられた。
「あ、あの! わ、私で良ければ! 配下にさせて下さい!!」
悲霊女は土下座をしてきた。
そんなことをしなくても……、こっちが誘ったんだから…………
「そ、そうか。お前の名前は?」
「ええと……、前世のでしょうか?」
「いや、今の名前だが……、もしかして、無いのか?」
「はい……、付けてもらえる相手がいませんでしたから……」
また悲霊女は落ち込み、指を畳にクルクルと描いていた。
確かに、名前は相手がいなかったら付けられないのだった。
ゼロは悪いことをしたな……と頬を掻いてしまう。
「そうだったな……、スマン」
「いえ、いいですよ……どうせ、私なんかが……」
「こら、また暗くなるんじゃない! 俺が名前を付けてやるがいいな?」
「…………え? 今、何と……?」
「だから、俺が名前を付けてやると言ったんだ」
「な、名前を頂いていいんでしょうか……? 名前を付けると、付けた方の力が弱くなると聞いたのですが……」
「力と言うより、魔素が減るが正しいな。俺ならそんな心配はしなくてもいいし、配下達にも全員付けているしな」
「全員にですか!?」
ゼロは直ぐさまに、名前を付けることに。
「お前は『ソナタ』だ。その名を持って、俺の元で励め!」
名前を付けると、いつも通りに魔素を分け与えられ、ソナタの姿は変わらないが、新しいスキルと魔素量が増えたのがわかる。
「これは……、これが名付けなのですね……」
ソナタの『病弱』はそのまま残っているが、スキルで幻覚を作るための魔力が増えたのが感じられた。
初めての感覚に……、仲間が出来たことに感動を覚え、涙が流れ出ていた。
「わ、私を仲間に、して下さって……、ありがとう、ございます……」
またペコッと土下座をするソナタ。
やはり、こんないい場所でも、一人と言うのは淋しかったかもしれない。
配下にだが、仲間に誘ってくれたことは、泣く程に嬉しいことだったのだ。
妖精の主の正体は悲霊女に転生した者であり、30年以上隠れ住んでいたが、それに終止を打ち、『ソナタ』の名でゼロの配下になったのだった…………
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