第三十五話 執事
はい、どうぞ。
ここの拠点は、転移陣を通ればすぐに入れるが、それは許可された者だけなのだ。
迷宮はまだ魔物がいなくて、罠もまだなのでただの迷路だが、造ったばかりで攻略されるのはありえない。
攻略するなら、もっと時間がかかるし、迷路は簡単に攻略されるものではないのだ。
だが、許可されてない人物が目の前にいるのだ。
よく観察してみると、老人は執事の服を着ていたのがわかる。
その老人から話しかけてきた。
「ホホッ、警戒は御勘弁でお願い致しますよ。戦いに来たのではありませんから」
執事の老人は、手を上げて何もしないと言う表現をしてきた。
だが、配下達はさらに警戒を高めていた。
「ここはゼロ様の拠点ですよ? そんなわかりやすい侵入者であり、不届きな者に警戒をしないというのはありえません!」
マリアが答える。執事の老人もそう言われることを予想していたのか、楽観な仕草をしていた。
「ホホッ、そうですね。話だけはしても?」
実力者である四人の前で、構えもせずに話をしてくる老人。
それにゼロは呆れたのか、小さくため息を吐いていた。
「もういい。三人共、警戒を解いて下がれ」
「なっ!?」
「危険ですよ!!」
「危ないよ〜?」
そんなわかりやすい侵入者の前に、警戒を解いてゼロの後ろに下がると言うことは、危険なのだ。
だから、三人共、簡単に承認出来なかったのだ。
「いいから、下がれ。コイツは敵意がない。敵意があるなら、とっくに三人の誰かがやられていた可能性が高い」
嫌な気配を感じるまでは気付けなかったのだ。もし、敵なら三人の後ろに隠れていた老人は三人の誰かを殺せたと断言できる。
それほどの実力が目の前の老人にあると判断できた。
「…………はい、わかりました」
「今回、気付かなかったことを気にするな。次からは強くなって気付けばいいだけだ」
「あ、ありがとうございます! 次からは気をつけます!」
ゼロ様からの励ましが嬉しかったのか、フォネスがお礼を返し、二人も一緒に頷き、ゼロの後ろに下がった。
「で、何か話があるんだろ?」
「ホホッ、配下と仲が良くて微笑ましくなりますな!」
「…………」
「ホホッ、話でしたね! その前に勝手に侵入したことを謝罪したい思います」
「ああ、謝るのはいいからどうやって侵入した? 影から出て来たが、それだけじゃないだろ?」
「それは、影の中に侵入したと言うより、寄生していたと言えばわかりやすいでしょうか?」
「寄生ね……」
それなら転移陣で入ってこれたのも、納得できる。
先程のクリスタルで登録したのは、個別の魔力だけだ。
普通に影に侵入しただけなら登録された魔力を持つ者だけ転移され、侵入者は弾かれるだけなのだ。
だが、寄生ならその人の魔力に似せることが出来、登録された魔力と同じになり、侵入出来るのだ。
珍しいスキルを持っていそうだな、とステータスを見ようと思ったら…………
「ホホッ、忘れていました! 自己紹介をしなければ、執事としては失格ですからね!」
「……そこは執事とは関係ないじゃないのか?」
ステータスを見るのを中断されたゼロだったが、次の言葉でそんな考えは消えたのだった。
「ホホッ、私はミディ・クラシス・ローズマリー様のしがない執事であり、ロドムと申します」
ゼロは時が止まったような感覚を感じた。
目の前の老人の名前より、重要な言葉を聞いたからだ。
ミディと言う言葉に記憶があるのだ。確か、マリアの説明では、最強と言われている魔王ミディと。
たまたま同じ名前だけでは? と頭によぎったが、それは、目の前の老人によって否定された。
「あ、我がの主は魔王をやっています」
あっさりと教えてくれたため、驚きより清々しいなと感じたのだった。
「お前は、あっさりと答えるなぁ……」
「ホホッ、これは知った方がよろしいと思いましてな!」
変な笑い方をする老人だなと思うゼロだった。
「「「…………」」」
配下は驚きすぎてポカーンと口を開いていた。
その反応は仕方がないと思う。何しろ、最強の魔王であるミディの配下がここにいるのだからだ。
「名前はわかったが、何の用でここまで来たんだ?」
「ホホッ、本来は別件でここまで来ていたのです」
「別件だと?」
「はい。偽物の魔王を殺害せよ、という命令を受けて来たのです」
殺害と聞いて、配下達はまた警戒を高める。だが、ゼロは納得したような顔だった。
「ふーん、魔王ラディアを殺害しに来たということで間違ってないな?」
「おやっ! 気付かれていましたか?」
「ああ、魔王にしては弱すぎたからな。 そして、魔王を殺した俺と話をしたくなったってところか?」
「ホホッ、そこまでお見抜きになっておりますとは!」
「まぁいい、こっちも聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「ホホッ、答えられることなら」
なんだか、掴めない老人だと感じた。だが、知りたいことが聞けるチャンスなので、直球に聞くことにした。
「そうか、魔王になるための条件は?」
そこでロドムはピクッと小さな反応をしていた。
「ホホッ? まさか、魔王になる予定でも?」
「あ? 魔王になっては駄目と言うのか?」
「いえいえ、それは問題ないですが……、こっちが少し困るというか……」
「困る?」
ゼロが魔王になると困ることがあると言いたいようだ。
「実は、勧誘の話をしにきたのですが……」
「勧誘だと?」
「そうです。魔王ミディ様の配下に入って欲しいと思いましたが…………」
「断る」
ゼロはきっぱりと断っていた。魔王になる方法を聞いてきたには、ロドムは断られるのを予測していたが、肩を落としていた。
「ホホッ……、やっぱり断られてしまいましたね」
「で、魔王になる方法を教えてくれるのか?」
「ホホッ、それはすいませんが、自分で見つけなければならないので教えられません」
「そうか。まぁいい、駄目元で聞いたから問題ない。だが、お前達はこれからどうするつもりだ?」
お前達と言うのは、魔王ミディも含めて言っているのだ。
勧誘を断ったのだ。襲って来る可能性もあるならば、ロドムはここで消さなければならないのだ。
おそらくだが、ロドムの実力は配下達より強い。あのロドムより強い魔王である魔王ミディに来られたら、ゼロでも勝てないだろう。
「ホホッ、何もしませんよ」
「ほう?」
「ミディ様は、『勧誘が駄目でも手を出すな。魔王と自称しない限りはな……』とおっしゃっておりましたので」
「……つまり、偽物の魔王は許さないと言うことか?」
「ホホッ、称号に魔王がない限り、魔王と名乗ってはならないです。ミディ様は、魔王の格が下がることを望まないのです」
どうやら、すぐに魔王ミディと戦うことはないようだ。
心の中でわずかだけホッとしていたゼロだったのだ。
レイにはバレバレだったけどね…………
「そういうことなら、こっちも手を出さないで置こう」
「ホホッ、それはありがたいですな」
「はぁ、相手にするの疲れる奴だな。お前は…………、悪魔族はそんなものばかりなのか?」
「ホホッ……、ホ?」
笑い続いていたロドムだったが、ゼロの言葉で呆気にとられたような表情になっていた。
「その顔は間違いないらしいな」
「どうしてわかったのですか? 人間の身体で出て来たのですが、何か不備があったか教えて頂けますか?」
「ただの勘だ」
「勘って……」
実際はステータスを見たからわかったが、そんな情報を教える義務はないのだ。
だから、適当に勘だと言ってやった。
納得してないようなロドムだったが、ゼロが続きを話さないから諦めたようだ。
「ホホッ、面白い方ですな! それでは、私は帰ります。転移陣で送ってもらえますか?」
「転移も出来ないのか?」
「ホホッ、お恥ずかしながらも、その通りですよ!」
「そこは威張るとこじゃねぇだろ……」
やはり、疲れると思いつつ、転移陣の上でロドムの肩に触れて地上に送ってやった。
ようやく、ロドムが拠点から消えて配下達はホッと安堵を吐いていた。
それは仕方がないと思う。
自分達より強い敵がいて、戦うことになったら主のゼロが危険に合うかもしれないことに危惧を抱いていたかもしれない。
「大丈夫か? 休みが必要なら話の続きは明日でも構わないぞ?」
「あ、いえ! 大丈夫です!」
「はい。動いてもないので疲れることはないです!」
「今日は、まだ働けるよ〜」
休みは無くても大丈夫だと言う三人。
確かに戦ってないが、精神的には疲れがあるだろうと思い、ゼロは無理矢理休ませた。
続きは明日と言い残して、ゼロはレイと会話を始めた。
(やっぱり、魔王は凄いかもな)
『……うん、でも大丈夫』
(ああ、俺達はまだ強くなってやる)
『……魔王に、なるのはまだ先になりそうだね……』
(条件はあるが、無理じゃない。もし、無理だったらあの老人がさっき、言っただろうな)
暗に、ゼロに魔王になれる資格があると言っているようなものだったのだ。
もし資格がなかったらさっき、老人が無理だと言って、さらに勧誘してきたはずなのだから。
ゼロは魔王になれるとわかっただけでも収穫だった。だが、実力はまだまだ足りないだろう。
さっき、ロドムのステータスを見たのだが、見れたのは名前と種族だけで、称号とスキルが見れなかった。
実力の差か、ステータスを隠すスキルを持っているのどちらかだろう。
どちらでも、ゼロはさらに強くならなければならないことには代わりはないのだろう…………
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