第十六話 新しい仲間
仲間が増えます!
ゴーレムの依頼を受けてから一週間経っていた。
「これだけあれば、充分お金に困らないだろう!!」
「はい、全部で38個あります」
1個で3000ゼニ。それが38個も手に入れたゼロ達は今、メイガス王国に帰ってきた所だ。
ゼロとフォネスは、野球ボールと同じぐらいの赤い球を半分ずつ、動物の皮を使って袋の形にした持ち袋に入れて、持っていた。
「まず、これをギルドで渡してから服屋だな」
「はい。もう服はボロボロになってしまいました」
「ああ。俺のは魔素があれば大丈夫だが、フォネスのは買わないと駄目だしな」
話をしつつ、ギルドに向かって歩く二人。
「……え!? 一週間で38個ですか!?」
「ああ。これでいいだろ?」
ゼロとフォネスが持っていたゴーレムの核が入った袋を受付嬢のリディアに渡した。
「本当に、一週間で……」
本当にゴーレムの核が38個もあり、リディアは驚愕していた。
理由は、ここからゴーレムがいる場所では、片道三日はかかるのだ。
つまり、一週間で帰ってきたゼロ達は、六日間は旅路と考えると、一日で38個を集めたということになる。
「え、ええと、38個で欠けた物は無いので、114000ゼニになります」
「ふむ、計算は間違ってないし、いいぞ」
依頼品を渡して、お金を手に入れた。これくらいあれば、服や武器は手に入るだろう。
と、そこにリディアからどうやって沢山、ゴーレムの核を手に入れたのか、聞いてきた。
ゼロはどうせ、誰にも真似出来ないだろうし、説明してやった。
ただ、ゴーレムの核を素手で抜き取っただけと言った。
「ええっ!? そ、そんなことが人間に出来るんですか!?」
「さぁ? 俺は指を強化して、戦わずに球を抜き取っただけだから時間はかからなかったな」
「ふぇ、ゼロ様は凄いんですね……」
攻撃はされなかったの? と聞かれ、攻撃はされたが、鈍いから避けるのは簡単だったと答えた。
もちろん、ただの新人冒険者が同じことをしようとしても、殺されるだけだ。
モンスターにも、人間が決めたランクがあるようで、ゴーレムはDランクだった。
ただのゴーストなら、Fランクで、変移種であるゼロには当て嵌まらないだろう。ファントムはEランクである。
ちなみに、フォネスの九尾族は、Cランクだった。
名付けられたフォネスはCランクではなく、Bランクになっている可能性が高いのだ。
(なぁ、俺らが見れるステータスにランクが無かったよな?)
『……それは、人間が決めただけだから……』
(なるほど、このランクは実際に強さを見て決めたのだから、個別に当て嵌まるわけないか)
『……お兄ぃはファントムでも、フォネスより強い』
(だから、俺はBランクを越えていると?)
『……うん』
ステータスにランクを付けるのは無理らしい。
ゼロはランクを知らなくても別に困らないからいいやと、考えを切り換えた。
服屋で服を買ってから、次の武器屋でゼロはどんな武器にするか考えないと駄目だからだ。
ゼロは今まで使ったのは剣とハンマーだけ。
とりあえず、使い慣れている剣でいいかな? と考えるゼロ。
服屋に向かったが、すぐにフォネスの服は決まったのだった。
フォネスはあんまり服にこだわらないし、前から着慣れている浴衣のようで、裾が短い服を買った。裾が短い方が動きやすいと。
「ほぉ、似合っていて可愛いじゃないか」
「ふぇっ!? あわわわわわ……」
などの会話もあったが、レイの『……女たらし……』と、ツッコミがまた出た。
褒めただけで女たらしと言われるのか!? と悩むゼロだったが、服はもう買ったので、長く悩む暇もなく、次に武器屋に向かった。
(うーん、武器は特に変わったものはないな……)
『……うん、効果がない武器ばかり……』
(まぁ、仕方がないさ。そうそういい物に出会えるわけないしな)
武器屋に行ったのはいいが、これは!? と思う武器はなかった。
仕方がなく、普通の鉄で作られた剣と大剣を買った。
まぁ、ないよりはマシだろう。
「服も武器も買ったし、あと一つだけだな」
「ええと、防具屋ですか?」
「ああ、それもあったな。でも、それじゃなくて仲間のことさ」
「仲間ですか?」
そう、仲間だ。強い者を仲間にしたい。だが、他の冒険者だと俺達の正体がばれてしまったら後が大変になってしまう。
なら、ばれても黙ってくれる者といえば……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ゼロ達は、奴隷商店の前にいた。
そう、奴隷だ!! 奴隷なら、主の秘密を話さないように契約も出来る。そして、もしかしたらフォネスのように、掘り出し物がいるかもしれないのだ。
「行くぞ」
「はい、わかりました」
元奴隷であるフォネスが奴隷と聞いて嫌な気持ちになるかと思ったが、気にしてないようだ。
いや、奴隷になったからゼロに会えたから奴隷になったことを感謝をしているかもしれない。
それらはフォネスが言ったことでもないからわからないが、ゼロも気にしないことにした。
「いらっしゃいませ、お客様。どんな奴隷をお求めですか?」
「とりあえず、若い奴のを見せてもらいたい」
「わかりました」
部屋で待って奴隷を連れて来てもらうではなく、自分から奴隷がいる場所まで連れていかれるようだ。
檻が並ぶ刑務所のような場所だった。
ゼロは一人一人とステータスを見ていく。
普通ならステータスは見られないから、見た目や奴隷商の人の話を聞いて判断するしかない。
ゼロはステータスを見れるのだから、使えるものは使う。
「……ん?」
ゼロの足が止まった。檻の中にいる、こっちをじーと見てくる少女に面白いものが見えたからだ。
(ほう、まさかの掘り出し物だ)
『……らっきぃだ……』
面白い物とは、目の前の少女のステータスには……
稀少スキル『暗殺者』
があったのだ。
と、そこで奴隷商の人が話し掛けてきた。
「あ、あの……この少女を?」
「え、顔に火傷跡がある少女を?」
顔に火傷跡だと?
ゼロの目には、目の前の少女は、何も傷一つもないように見える。
その少女は、140センチぐらいで、黒髪に黒目で可愛い部類に入ると思う。
それが、フォネスには顔に火傷跡があるように見えているようだ。隣にいる奴隷商も同じように見えるだろう。
だが、何故? と考えていたら、レイから答えが出た。
『……お兄ぃ、スキルをよく見て……』
(スキル? …………あ、偽装があるな)
つまり、目の前の少女は、偽装を使っているのだ。
では、奴隷になっても勝手にスキルを使えるのか……?
『……偽装したまま、奴隷になったとか?』
(あー、なるほど。それならありえるかもな。奴隷首輪を掛けられると、スキルを使えないなら、解除も出来ないか)
そう推測した。他に情報がないからわからないが、ゼロはもう決めていた。
「よし、面白い。その少女を買おう」
「え、お客様? その子でいいのですか? 二ヶ月前から売れてないですし、顔に火傷があり、不人気ですが……いいのですか?」
「くどい。面白いから買うと決めたのだ! いくらだ?」
「は、はい!! 他より安くなっており、3万ゼニです」
前もって、奴隷の金額は聞いていて、確かに3万ゼニは凄く安いと思う。おそらく、買い取り手がなかなかいなかったから困っていただろう。
俺が大丈夫だ、買うと言うと、奴隷商は「わかりました!」返事して、檻の鍵を取りに行った。
「ゼロ様……? あの少女に何が?」
「ふふっ、買った後に教えてやるよ」
「はぁ」
フォネスは何故、脆弱そうな少女を買うのかわからないようだ。火傷跡があるだけではなく、身体が細く、ガリガリに見えるのかもしれない。
少女はまだじー、とゼロを見ていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
奴隷を買ったゼロはすぐに街の外に出ていた。街からある程度、離れた場所で他の人はいないか確認した後に……
「よし、偽装を解除しろ」
そう命令した。奴隷は主人の命令には逆らえない。フォネスは意味がわからなかったが、すぐにわかることになった。
「どうして、わかったの?」
奴隷の少女は解除した。ゼロから見ても変わってないが、フォネスの反応を見ればわかる。
ちらっと見たら、やはり、驚愕していた。
「俺は他人のステータスが見れるからね。さらに、何故か俺だけは本来の姿が見えていたのさ」
「っ! ステータスを……? 本来の姿は、貴方みたいに強い者にしか見えないようにしたの」
やはり、ステータスを見れるスキルは珍しいみたいだな。
ゼロはそこに安心した。もし、ステータスを見れる人がいたら、自分の種族がばれてしまうのだからだ。
「ほぅ、条件によって見破れる奴が出るのか? お前のスキルは」
「私が設定した条件とは、稀少スキルを持ち、私より強いこと」
「なるほど。フォネスじゃ、見破れないわけだ」
フォネスは強いが、稀少スキルは持ってない。だから、偽装に騙されていたのだ。
「次の質問だ。何故、そんなことを?」
「私は自分より強い人で、主と認めた人にしか従わない。だから、奴隷になる前に偽装を掛けた」
「ふむ……」
(やっぱり、面白い掘り出し物がいたな)
『……だね。そういえば、どうしてお兄ぃを見ていたのかな?』
レイが疑問を浮かべていた時、少女から声を掛けられた。
「あの、すいませんが質問をよろしいでしょうか?」
「許す。何だ?」
話があると思ったら、予測していないことを言われた。
「失礼ですが……、貴方は人間なのですか?」
ゼロは顔に出さなかったが、心の中では、驚愕でいっぱいだった。
まさか、そんな言葉が出るとは思わなかった。
フォネスは今まで黙っていたが、僅かに目が開いていたのが見えた。
「ほぅ、何故そう思った?」
「いえ……、勘でしかないですが、今まで会った人間とは違うような感じをしたので」
おそらく、じーとゼロを見ていたのはそういうことらしい。
「はっ、はははっ!! 面白い奴だな!! あははははは!!」
「ぜ、ゼロ様……?」
急に笑い出して、フォネスは心配していた。
無論、ヤケで笑ったわけでもない。ただ、面白い相手に出会えたことに感謝しつつ、笑っていた。
「よし、俺達の正体を教えよう。フォネス!」
「はい」
フォネスは変化を解除し、尻尾を3本に戻した。 ゼロも身体を薄くし、何者かわかりやすく見せた。
「……え?」
「ふふっ、驚いたかい?」
「ま、まさか! 貴方達は魔人なの!?」
おっ、驚く顔が見れたなと思うゼロだった。
「いや、まだ魔人ではなく、魔物だ。多分な」
「魔物……」
ゼロとレイは魔物と魔人の境界線がわからない。一度だけでも魔人に会えばわかるかもしれないが……
「なるほど……、疑問が解消出来ました」
「ほぅ、俺達が魔物でも気にしないのか?」
「ええ、たった今、貴方を主と認めるのに相応しいと感じました!」
やはり、面白い人間だと思った。何故、そこで主として認めるのかわからないが、面白いから気にしないことにした。
「いいのか? 俺はいずれ、魔王を目指して人間を滅ぼすかもしれないぞ?」
「構いません。私は名も無き、殺しの道具です。生まれてから、殺しのために生かされています。
貴方……いえ、ゼロ様の導く道を行きましょう」
目の前の少女は、『影』の家系だった。貴族に言われる通りに殺しをしてきた。だが、こいつどいつの貴族は、力も無く、命令しかしない。
力のある私が、力無きの者に従わなければならないのかと、疑問に気づき、『影』から逃げ出して自分から奴隷となったのだ。
少女は勘と運命を信じている。
奴隷になれば、素晴らしい主に出会うと…………
「私はゼロ様のような素晴らしい主に出会えたことを感謝しています。どうか、私を配下に入れて頂けませんか?」
「よし、配下に入るのを認めよう。お前に、名前は無かったな?」
ステータスを見たが、名称には何も書かれてなかった。
それを認めるように頷く少女。
「では、名前を与えよう。お前の名は……」
ゼロは上に立つ者としての振る舞いをしながら言葉を放つ。
「『マリア』だ」
目の前の暗殺者に、聖母だった名を与えた。聖母ごとくに、死でゼロの役に立つために。
跪ずく、マリアにゼロの力が流れてゆく…………
あれ、ゼロの配下と言うより……、狂信者が増えているみたいに感じるのは気のせい?
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